固定種野菜セットを“とり”に、青森の森山さんの畑に行ってきたよ

9月のある日、ポケマル編集部。

ちょっと野菜セット“とり”に行って来るけど一緒に来て?

いいですよ。どこに?

青森

おっしゃ、行ったる。(でもなんでわざわざ取りに行くんだろう?)


編集中川の指示によると、今回“とり”に行くことになった商品はこちら。青森県青森市の森山知也さんの『固定種の野菜セット』です。

ポケマル豆知識:固定種ってなあに?

先祖代々同じ外見や味を受け継いできた品種を指します。昔ながらの個性的な味を楽しめる一方で、病気に弱い、育成が不安定、形が不揃いなどの理由で、大量生産や大量流通に不向きなお野菜なのです。

詳しくはこちら:消えかける「固定種」。その命を未来へつなぐ農家さんのお話。


ポケマルがオープンした2年前からずっと人気で、リピーターさんもついているロングセラー商品。

「色鮮やかでめずらしいお野菜たちと森山さんの誠実で丁寧な対応がその理由かな?」と分析してはいるものの、ポケマルも実は詳しいことはわからない……。

そんなわけで、実際に畑まで“とり”に行って、人気の秘密を探ってくることになったのです。


いざ、向かうは青森! ポケマル固定種農家の奮闘筆頭、森山知也さんの畑です。

 

目次

 
     ここに目次が表示されます。    


眠い! 寒い! 美しい! 9月早朝の青森県

——テレテッテッテッテッテッテテッテンテ♪(※iPhoneアラーム「オープニング」の音)


街が寝静まる午前3時。青森県弘前市内の宿の一室で、スマホのアラーム音が沈黙を破ります。

やだぁ、外も真っ暗なのに布団から出たくないよう……

うーむ、起きた方がいいんだろうけど、眠いっすね。つらい……

だめ、はやく起きて。で準備して。


無慈悲な目覚ましと担当編集に布団を引っぺがされ、外へ出てみると、うーん寒いっ!

気温にして11℃。9月下旬の青森を侮ってはいけません。薄手のダウンを着込みます。本日は編集中川とエンジニア丸山、筆者おおしろの計3人での出発です。


弘前市から森山さんの畑がある青森市までは車で1時間ほど。真っ暗な山道をひた走り、白みゆく東の空を眺めつつ、畑に到着したのは午前4時45分

すばらしい朝焼け


おはようございます!

元気よく出迎えてくれた、森山さん。寝ぼけ眼を擦りながら、「ウヒィ、東北寒いよぅ…」などと弱音を吐く筆者とは大違いです。


森山さんの畑は青森市内に2カ所あり、今回訪れた畑は、守られるように四方を木々に囲まれています。畑の中には小川が流れ込んでおり、心地よいせせらぎの音が響き渡ります。

朱色と薄水色が混じり合う早朝の空に向かって畑から朝霧が立ち上り……


ああ、こんなに美しい風景を見られるなんて、早起きしてよかったなあ……

さっきまで眠気と寒さで一杯だった脳みそが洗われていくようです。(またの名を”高速手のひら返し”とも言う)


さて、野菜セットはどこですかね?

ん? まだできてないよ

え? じゃあなんでこんな朝早く取りに来た……oh……まさか収穫からやれと……

やだなあ。ちゃんと「採りに行く」って伝えたでしょ。服装も「動きやすい服装」って指定したし

はい。おっしゃるとおりです


固定種お野菜の宝庫、森山さんの畑を駆け回る!

午前5時、とうとう作業開始の時刻となりました。長靴と手袋を携え朝露に濡れる畑へ出陣です。さあ、野菜セットの裏側をのぞいていきましょう!


①毛豆〜津軽地方の秘められし美味を採る〜

まずは毛豆の収穫からやってみましょう。

よーし、収穫ですね! って、け…まめ? って一体何ですか?

ポケマル豆知識:毛豆ってなに?

ずばり毛豆とは青森県の津軽地方で代々受け継がれてきた在来種の枝豆。9月中旬〜10月上旬頃に収穫期を迎え、名前の通り茎や葉は茶褐色の剛毛に覆われています。そして味わいもピカイチ! 毛まみれの雄々しい見た目とは反し、プリッと甘さ満点のお豆です。


つまり、津軽地元民のみが知るうまいもんということです。(※残念なことに記事公開時には今年の販売は終了……来年9月の販売を楽しみに待っていてください)


莢を枝から外して出荷すればすぐに調理でき便利なのですが、食べる直前まで旨味を逃がしたくないので、僕は枝付きでの出荷にこだわっています。


というわけでまずは、その場で要らない葉を取っていきます。

毛豆の葉をむしる


早朝の畑の真ん中で、ひたむきにボキボキと葉が付いた枝を折っていくこと30分。本日分の毛豆を収穫し終えたら、お次は毛豆の選別作業です。

貧弱な莢や虫食いの跡がある莢は取り除いてください。美味しそうなものだけ残すようにお願いします


うむむ、美味しそうな莢かぁ(と呟きつつ、愛して止まないビールと枝豆の絵が脳裏をよぎる)

これはおいしそう。これは…ちょっと微妙かな

黒いトレーの奥側がお客さん行きの毛豆、手前側がはじかれた毛豆


いや、このくらいの傷なら俺はええんやで……

ほんとそれですよね。このくらいなら許容ですよね。しかし問屋が卸さない…

OKの莢とダメな莢、境目はどこなんだ……

ぐぬぬ、なかなかつらい作業だなあ


断腸の思いで選別しながら、思い浮かぶのは豆を口に運ぶ瞬間です。

茹で上がった莢の中からふくふく中身が詰まったものを探すあの時間。それがいつしか、お客さん——つまり食べ手の満足そうな表情に変わり……

この感情、もしかすると生産者さんの気持ち!?


私たちが生産者さんの顔を思い浮かべながらいただくように、生産者さんが私たちのことを考えて作業しているのだとしたら、これはまさに相思相愛

なんてことを考えつつ選別すること30分。どうにか毛豆の作業は完了です!


②ネギ〜一進一退、ネギ虫との戦い〜

お次はネギ畑へ。


ネギの収穫作業で注意する点は、ネギアザミウマネギコガ通称「ネギ虫」たちによる虫食いです。

ネギ虫は葉の表層を舐めたり、汁を吸いながら葉の内側にも入り込みます。虫食い箇所は皮を剥いて取り除き、中まで入ってしまっているものははじきます。

あれ、結構いるぞ…というより、ほぼどのネギにも痕跡がある!

※ネギ虫の食害は一時的なもので、2018年11月は激減しているとのことです。


化学肥料や化学農薬に頼ることなく育った森山さんのネギは、虫たちにとっても甘くて美味しいのでしょう。

収穫したネギは全てを目視で確認し、選別していきます。なかなか骨の折れる作業ですが、これも野菜セットのため!


③秘訣は夫婦のコンビネーションにあり!

まだまだ作業は続きます!

ころころかわいい伝統種のパプリカや黒キャベツ、ビーツの収穫、さらにはプチトマトを選別したり、なすや大根を水洗いしたり……。

一見トマトのようにみえる固定種のパプリカ


コロコロかわいい! かご一杯に収穫します


にんじん……?いいえ、固定種の大根です。ひとつずつ丁寧に水洗いを


パプリカをふきふき。雑談も楽しい!


たっぷりの固定種ミニトマトをひとつひとつもぎます。もちろんヘタごとに


力みなぎる固定種の黒キャベツ、こんな風に生育しているのです!


そんな中、常に作業所に飛び交う会話が。

●●さんのセットにネギ入れた?

入れてる、OK! △△さんは今回リクエストってあったっけ?

今回は……特にないみたい。大丈夫!


森山さんと奥さんのコンビネーション技は圧巻でした。

その飛び交う会話の質は、多忙を極める商業施設のバックヤードさながら


普段は森山さんが収穫作業をし、奥さんが虫の確認や選別作業を行っているのだそう。

毎朝当日の発送数を確認し、野菜セットの内訳や各野菜の収穫量を確認しています。その日の畑の状況やお客さんの好みに合わせて、箱ごとに内容を変えることもよくあるのだそうです。


作業中に飛び交う会話に、野菜セットの”現場”を体感した筆者でした。


梱包開始!

午前10時、東京のポケマルオフィスでは始業時刻です。……が、こちら現場では既に作業開始から5時間が経過しています。


収穫、選別、水洗いを完了させ、小分けに梱包したお野菜を段ボールに詰めていきます。

8品目をパズルのように箱の中に収めます。うまくやらないとふたが閉まらない……!


ここでひとつ気になるポイント!

もしかしたら、多くの農家さんも気になっているかもしれません。「森山さんのおしゃれな商品写真はどうやって撮ってるの?」の謎が解明されました。


なんと……あのおしゃれ写真は、軽トラの荷台に並べたりんご箱の上でiPhoneで撮影しているのでした。


あの古民家の年季の入った床板のような背景は、古くなったりんごの木箱にペンキを塗ってリメイクしたものだったのですね。

う〜ん、意外なところにポイントがありましたよ! 気になっていた農家の皆さんは、ぜひご参考にしてみては。


入れ忘れがないか最終確認して……。よし、これで出来上がりです!

野菜を詰めたらお手紙タイム。今回は特別にポケマル編集部がチェキで撮影した写真を入れさせていただきました!


森山さんは段ボールのふたもキチっとピタッと丁寧に。


そしてついに送り状を貼ります!


やったーっ!「固定種の野菜セット」完成!

作業開始から約6時間後、ついに固定種の野菜セットが完成しました。すでに夕方のような疲労度ですが、時間はまだ午前11時。いや〜、1日が長い! 達成感と満足感でいっぱいです。


作業後、「鍋しましょう!」との一声でお楽しみの農家飯タイム! 食べることならポケマル編集部の十八番です!

お客さんのところに行けなかったお野菜たちを洗います


選別で外されたお野菜をふんだんに使います。

加熱向きのトマトをたっぷり敷きつめた上に、ビーツ、黒キャベツ、パプリカ、大根、紫キャベツ、玉ねぎ、長ネギなどなど、作業小屋にある傷もののお野菜たちをこれでもかと詰めこみました。

ザクザク切って鍋の中に並べていきます。


 太陽いっぱいの森山さんの畑で育った作物たちのパワーがぎゅっと詰まった、気いっぱい太陽鍋です。

味付けは椎茸のお出汁と塩だけで十分なほど、お野菜の味が濃厚!


選別で外した毛豆も茹でていただきました。

とれたての毛豆のうまさに度肝を抜かれる。んめなぁ〜!


やってわかった「野菜セット安すぎないか」問題

森山さんのところに野菜セットを採りに行った後、畑の余韻に浸りながらも、筆者の頭の中には1つの疑問が浮かんでいました。

それは、「野菜セットってどれだけのコストがかかっているんだろう?」という問題。つまり、生々しいけれど大切なお金のはなしです。

※あくまで筆者おおしろ個人の自問自答です。


今回作った野菜セットは約8品目入った「固定種の野菜セット・レギュラー」。ひと箱2,160円(※2018年9月当時)で販売しているわけですよね。

育てる時間、収穫して丁寧にトリミング、そして梱包する手間。それを鑑みてのこの値段……おい待ってくれ。野菜セット、安すぎやしないかい?


送料に関しても同様。例えば関東で購入したとすれば、送料は756円(2018年10月現在)。つまり、この野菜セットは合計2,916円で入手できるというわけです。


一方、今回のように実際に“採り”に来たと考えてみるよ。交通費と1人分の労働時間を全てお金に換算すると……ざっとこんな感じですかね。……えっ、なにごと?


「森山さんの固定種のお野菜食べたいな〜」と思い立ち、東京を出発し、収穫し、それを持ち帰る。時間にして約13時間。まずは作業だけでおよそ1万円分の人件費が発生します。

そこに交通費(新幹線利用)を合計すると、44,606円*(+穏やかな筋肉痛と耐えがたい眠気)※2018年9月当時
が生じる計算になったのです。


つまり、森山さんちの唯一無二のお野菜を、家から一歩も出ることなく、明け方に布団から這い出なくても、家に届けてもらって食べられるワケなのか。でも畑に行く前は、こんな当たり前のことにも気づかなかったのだナァ

とは言ってもスーパーで食べ物を買うときに、どうしても目が行っちゃうのは価格なのよね。でも食べ物にはそれだけじゃない、価格だけじゃ表現しきれないバックグラウンドが秘められているのよ。でも、でもそれをどうやって伝えれば……?


だからこそ筆者は、「固定種の野菜セットは安い、安すぎるよ!」と主張したいのです。


野菜セットを作ってみること。それは、ただ収穫するだけではなく、育てて、詰めて、お客さんに届ける——生業としての農業を全身で味わえるイベントなのです。

畑に行く以前には知り得なかった「農家の世界」をちょっぴり垣間見てしまいました。

広大で美しい畑で育ったお野菜には、力がみなぎっている!


雨にも負けず風にも負けない、農家さんの情熱、いや人生が詰まったお野菜と出会える機会なんて、そうそうありません。

森山さん、本当にありがとうございました。そしてごちそうさまでした!

かわいらしい奥さんと森山さんをパチリ


*もちろん筆者が作った野菜セットは、後日ポケマルスタッフが美味しくいただきました。


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Writer

大城実結/MIYU Oshiro

フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。


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