消えかける「固定種」。その命を未来へつなぐ農家さんのお話。

「タネを制する者は、世界を制す」

・・・なんて言葉、どこかで耳にしたことはありませんか?

食べ物の根源である「タネ」を誰かに独占されると、人類はその誰かによって支配されてしまう。そんな意味です。

・・・いきなり何の話?と思われるかもしれません。でも、とっても重要な話。

私たちが普段口にしている食べ物は、元を辿ると「タネ」に行き着きます。小さなタネが大地にまかれ、芽を出し、土や水、太陽の恵みを受け取って、食べられるまでに成長する。少し大げさに言うと、タネがなくなってしまったら、私たちは食べることができないのです。

今回は、そんな大事な「タネ」について考えます。
テーマはズバリ、野菜の「固定種」「F1」


目次

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固定種ってどんな種?

そもそも、「固定種」と「F1」とは何者なのでしょうか?

◎固定種とは?

先祖代々同じ形質(外見や味などの特徴のこと)が受け継がれてきた品種のこと。同じ固定種どうしをかけ合わせると、次世代でも親と同じ形質になるので、農家は自分で種を採って翌年も同じ作物を育てることができる。

固定種の中でも、同一地域で伝統的に栽培されてきたものは「在来種」、家族単位で代々受け継がれてきたものは「エアルーム品種」と呼ばれ、それぞれの土地の栽培環境や栽培者の好みにより個性的で多様な特長を持つ。

昔ながらの味・濃い味・個性的な味を楽しめるが、病気に弱い・生育が不安定・形が不揃い等の理由で大量生産・大量流通に向かない。

◎F1(別称:一代雑種、一代交配、交配種)とは?

異なる優良な形質をもつ固定種(純系)どうしのかけ合わせで得られた雑種のこと。同じ種類のF1品種どうしをかけ合わせても、次世代では親と異なる形質の個体が多く生まれるため、農家は毎年種を買わなければ同じ作物を育てることができない。

病気に強い・収量が多い・収穫時期や形の揃いが良い等、一定の品質と栽培・流通適正を両立した品種を作出できるため、食料の安定生産・供給に欠かせない技術となっている。

《参考URL》
農林水産省HP 特集1 食の未来を拓く 品種開発(4)(アクセス日 2017年8月1日)

こう見ていくと、固定種の野菜を安定供給するのはとても大変そうですね。それが理由で、きっと固定種野菜を育てる農家さんも減り、市場に出回る量も限られているんでしょうね・・・。

固定種の野菜だけを育てている農家・森山さんに聞く

今回は「固定種」の野菜を栽培している青森市の森山知也さんにお話を伺いました。

森山さんによると、やはりスーパーで売っている野菜の多くが「F1」のタネからできた野菜だそうです。それはなぜなんでしょう?

例えば「ネギ」について森山さんにお聞きしたところ・・・?

F1のネギは形がきれいで硬いものが多いんですが、うちで育てている固定種のネギはとても柔らかいんです。

柔らかい固定種の野菜は輸送中に傷を受けやすいので、どうしても一般流通にのりづらい事情があるんだとか。ネギに限らず、固定種の野菜はスーパーでは少数派です。

ー固定種で育てている農家さんは、どれくらいいるんでしょうか?

僕の知る限り、東北地方で「固定種だけ」を育てているのは数人ですかね。F1をメインに、一部で固定種を扱っている人ならもう少しいると思いますが。いずれにしても、相当少ないですよね。

ーずばり、固定種のお野菜っておいしいですか?

少なくとも僕は、もうスーパーで売られている野菜をおいしいとは思えなくなりました。でも、もちろん現代的な味が好みの人もいますし、味覚はそれぞれ個人的な感覚なので、すべての人に「おいしいですよ」とは言えません。食べて何かを感じてもらえれば。そう思っています。


生きるための食べ物を、人任せにしたくない

市場の大半がF1で占められる中、森山さんはなぜそこまでして固定種にこだわるのでしょうか・・・?

森山さんは2年ほど前にUターンし、農業を始めました。自身いわく、「まだ新米農家」です。中学卒業後、上京し約20年間東京で生活。「青森に戻るつもりはなかった」そうです。それが・・・。

ー農業を始めたきっかけは?

以前住んでいた小笠原諸島・父島で偶然手にした一冊の本が始まりでした。自然農法の元祖といわれる福岡正信さんの著書「わら一本の革命(※)」です。衝撃を受けました。

(※編集部注:自然農法の思想と実践を易しく説いたロングセラー本)

ーそれからいきなり決断されたんですか?

2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故も、自分の考えを根底から変えました。電気を「人任せ」にして生きてきたことを痛感したとき、生きるために必要な食べ物の育て方も知らず、農家に任せっきりだったことに気がついたんです。

ー「固定種」へのこだわりは、どこから湧き出てきたんですか?

タネは食、つまり命の根源です。育った作物のタネをとって、それをまた植える。ずっとつないできた命のリレーを、知らない誰かに任せていいのか、いや任せてはいけない。そう思ったんです。


〝調子のいい〟野菜が10品目以上のセットに⁉︎

そんな森山さんは現在、固定種の野菜セット(7品目以上)を販売中です。どんな野菜を食べたいか、リクエストにも応えてくれるそうですよ!

ー今だったら、何がオススメですか?

最近ですと、イタリアの「クォーレ・ディ・ブエ」と呼ばれるトマトが採れ始めりました。種まきから約3カ月半、今年初めてまいた1段目なのに(※)「こんなにおいしいとは!」と驚きました。

(※編集部注:トマトは1段目では一般に味がのらないと言われている)



ー食べたい野菜をリクエストしてもいいんですよね?

はい、どんどんリクエストしてください!「トマトだけほしい」という人が10人いたら困っちゃいますけど(笑) 熟すと茶色くなる人気の〝チョコレートピーマン〟や紫ニンジン、ズッキーニ、あとは黒キャベツなど葉物類もたくさん揃えてますし、そのとき調子のいい野菜を、場合によっては10種以上お届けすることもできます。


ーオススメの食べ方も知りたいです〜!

実は固定種の野菜って、「こうしたらおいしい!」という鉄板メニューを探すのが結構難しくて(笑)僕もまだまだ勉強中です。でも、それが固定種ならではの奥深さでもあります。


ー裏返せば、料理の仕方次第で味ががらっと変わることも?

はい(笑) 例えば、ドイツのトマト。正直、生で食べてもそんなにおいしくなかったんですが、あるとき焼いてみたらすごーくおいしくなったことがありました。自分が試して気に入った食べ方はホームページで簡単に紹介してるので、よかったらご覧ください!



森山さんは、いわば私たちの命の根源ともいえるタネを必死に守り、育ててくれています。「人任せにできない」と語る森山さんに、心を打たれました・・・。そんな森山さんの「決意」の味、ぜひ一度お試しください!まだ体感したのことのない野菜の味に、出会えるかもしれませんよ。

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■ライタープロフィール

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。

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