イカの活締め動画を「かわいそう」と思ったあなたへ〜毎日数千匹の魚を締めている漁師からのメッセージ〜

「生き物を食べるのはかわいそう?」


そんなことを考えさせられるような出来事が、インターネット上で話題を集めています。5月のある日、男子高校生が釣ったイカを締める様子を撮影した動画をTwitter上に投稿しました。

すると、一部の人から「動物虐待だ」「かわいそう」「拷問みたい」と批判が殺到し、炎上したんです。一方で、それに対して「人間が生きるうえで避けられないこと」「新鮮な状態を保つために必要な行為」などと高校生の投稿を擁護する声も飛び交っています。


かわいそう派 vs 食べるために必要派


日本を二分したこの論争、毎日魚の命と向き合っている漁師さんたちの目にはどう映ったのでしょうか。

ポケットマルシェの漁師さんに尋ねてみました。


目次

ここに目次が表示されます。

かわいそうと思うなら食べなくていい派の意見

毎日毎日、お魚をとっている漁師さん。予想通り、とても厳しい言葉をいただきました。


順毛弘英さん(石川県七尾市)

じわじわ苦しめて殺して食べるより、一瞬で締めた方が苦しみは少なくて虐待にはならないと思いますよ。薬などで安楽死させる方法があるのかは知りませんが、そういった方法で死んだ魚やイカを食べたいと思いますか?食べずに廃棄するほうが、酷いことだと思います。


山崎一馬さん(兵庫県淡路市)

こういう低レベルな意見は、ほっといたらいいと思いますけどね。食物連鎖の中の1つで、食はすべて、他の生命を頂いて我々は生きている。例えば、回転寿司のネタは締めてるものがほとんどですよ。それがかわいそうと思うなら、食べなくていいではないですか。



かわいそうと思うひとの気持ちもわかる派の意見

厳しい意見が並ぶ中、かわいそう派の心に寄り添うこんな言葉もいただきました。


伊藤徳洋さん(秋田県潟上市)

一部の人が言ったんだと思いますが、何もわからない人が見たら・・・締める事は少し痛々しく見えちゃうかもしれないですね。でも美味しく食べられる方法を知っているってのは凄いことなんで、この高校生はカッコいいと僕は思います!



かわいそうかどうかを超えた問題提起。この騒動の本質とは?

さらに、今回はポケットマルシェ漁師のご意見番の1人・山本太志さん(秋田県八峰町)にもお話をお聞きしました!
山本さんはサメやガサエビなど、人間の都合で一般流通していない魚介類をはじめとする、インパクト大の商品を数多く出品する人気漁師さんの1人です。


ー「かわいそう」「虐待だ」という意見を聞いてどう思いました?


「怒り」よりも、「知らないんだな」というのが率直な感想です。

私たちは、毎日、何千匹にも上る数の魚を殺しその命に感謝しながら漁業をしています。毎日毎日、血を流してすーっと死んでいく魚を俺たちは見てる。殺しまくってる人間からすると、貴重な命をお金にかえるなら、高く買ってほしいし、おいしく食べてほしい。「締め」は命の価値を高め、おいしく食べるために必要な行為なんです。


ー命に向き合っているからこそ、「締める」んですね。


そもそも、人間は他の生き物の命を奪って、それを食べないと生命を維持できない動物です。たくさんの命に生かされているんです。まずはその前提に立たないと、本質が見えてきません

ー本質を考えるとは?


例えば、100円のハンバーガーの中に、いくつの食材が使われていて、いくつの命が失われているか。たかが100円かもしれませんが、それを想像したことはありますか?また、健康のために「1日30品目の食材」を口にすることが望ましいとされていますが、仮に70年生きるとして、私たちは生涯、何万、何億の命を犠牲にしているのでしょうか

ーなるほど・・・。


あなたの体が何万、何億の命の犠牲によって成り立っていることをまずは知り、そのうえで感謝してほしいです。スーパーに行って、お金で単に「食材」を買っているのではなく、「命」を買っている。そういう意識をもってもらいたいですね。

一方で、私たち漁業者も、もっと頑張らないととも思います。生産者の思いが、もっと消費者に伝わるように努力する必要があります。


ー食べる人に「命」を伝えるために、何か策はあるのでしょうか?

7月に出品予定のアワビやカキ、サザエは、すべて生きた状態で発送します。みなさんの手元に届くときにも、まだ生きています。それを見て「新鮮だ」と思うか、「かわいそう」と感じるか。実際に命の価値を目で見て、感じて、味わってみてほしい。お子さんならきっと「かわいそう」と言うはずですが、そこはしっかり教育してもらいたいですね。

ー山本さんは、「漁師町ステイ」で漁体験も受け入れています。

何よりも、実際に漁の現場を見て、体験することで大きく意識が変わるはずです。日本国民全員がうちに来て、泊まってほしい。あなたのお腹の中に入っていく魚が、どういう風に獲られているのか。ぜひ、見に来てください♪

ポケマルも、命に感謝する体験を少しでも提供できれば嬉しいです。

実際に漁の現場に出向くことは難しいという人が多いかもしれませんが、ご飯をいただくときに、お魚をさばくときに、日常の中で「命の価値」に思いを巡らす方が少しでも増えたら嬉しいです。


今回コメントをくださった漁師の皆さんの出品を一挙ご紹介

現在、山本さんが出品している商品の中には、鮮度が下がりやすいために美味しいのに通常の流通にのせると安く買い叩かれてしまうニギスとカナガシラが入った鮮魚セットや、ガサエビなどがあります。山本さんによると「一般には全然知られていないけど…新鮮な状態で食べると最高!刺身で食べられる状態で出荷しているのはウチくらいだと思う!」とのこと。

石川県の順毛さんから。一匹一匹を神経締めをした季節のお魚セットです。

兵庫県淡路市の山崎さんから。旬のサワラと「活け越し」のお魚セット。
「活け越し」はちょっと変わった鮮度維持方法です。詳しくはぜひ商品情報をぜひご覧ください!

秋田県潟上市の伊藤さんからは、ちょうど旬が始まった岩牡蠣と、珍味・棒アナゴ!

(取材・文=近藤快)


これまでの生産者インタビュー記事はこちらからご覧いただけます


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