秋田の漁師に聞いた本当に旨いハタハタに出会うためのハタハタ知識

こんにちは。秋田県湯沢市出身インターンの金澤です。秋になり冬も近づいてきましたが、気温が下がると故郷である秋田に帰りたくなるものです。

ああ、秋田なばもうさびんだべが、親も心配してらべが、はえぐ秋田さ帰りで〜(訳:秋田はもう寒いのだろうか、親も心配してないかな、早く秋田に帰りたいな〜)

と、心の中では秋田弁ダダ漏れになっていた10月のとある日、いつものようにポケマルを眺めていると、とある出品に目が釘付けになりました。


もうハタハタ? ちょっと早すぎなんじゃ? ん?深海限定? なんだそれ??


ハタハタといえば秋田県の県魚にもなっている秋田の名産物、何を隠そう筆者も秋田県出身であり、ハタハタをこよなく愛する内の1人です。

筆者の経験上、ハタハタは12月〜1月の真冬に食べる魚というイメージがあります。たいして寒くもなっていない(注:秋田県民の温度感覚)10月にハタハタを獲って、本当に美味しいのでしょうか!?

そして、タイトルには「深海限定」の文字が……こんな風に書いて売っているハタハタ、地元秋田県でも見たことがありません。


しかし、ポケマル社内でこの事態に驚いているのは、どうやら筆者だけの様子。周囲の同僚に聞いてみたところ、そもそもハタハタを食べた経験がほとんどないという人も……。

深海ハタハタ以前に『ハタハタ、そこまで認知されていない問題』が浮上してきました。


こいなばなんとかさねばね!!(これはなんとかしなくては)


強く拳を握りしめてそう決意した私は、この深海ハタハタの出品者である漁師の山本太志さんに助けを求めました。

山本さん、深海ハタハタが気になってしょうがねくて、ぶじょほだんしどもおしえてけねべが(訳:山本さん、深海ハタハタが気になってしょうがないので、突然スミマセンが教えてください〜)

なんもいっすよ(訳:問題ないですよ)

Producer

 

山本太志|秋田県山本郡八峰町   

秋田の最北端で底曳漁業を営んでいる「玄辰但馬丸」です。船長山本太志は3代目、主にハタハタ・真鱈・ノドクロ・エビ・イカ類を獲っています。四季折々の魚を通して、秋田八森の漁師の喜びや苦悩をを知ってほしい。そして、次世代に残せる漁業づくりに協力してほしいと願い活動しています。

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目次

 
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「冬のハタハタを美味しいと思ったことはありません」

秋田県山本郡八峰町の漁師の家に生まれ、小さい頃から秋田の美味い魚を食べ続けてきた山本さん。その口から飛び出たのは、全秋田県民衝撃の問題発言でした。


ハタハタって冬の魚だと思うんですが……

八森に住んで42年、漁師になって14年ですが、私は冬のハタハタを特別美味しいと思ったことがありません。正直に言って、美味しくない魚が名物として謳われているのは、本当に残念です

冬のハタハタは美味しくない……秋田名物なのに……

ハタハタは秋田県内消費が95パーセントと言われ、秋田内陸地域(大館、鹿角、角館、湯沢地域)では、正月のお節料理で寿司を漬けるのが各家庭の慣例となっています。この時期、浜に多くの人々が訪れて我先にハタハタを買い求めようと狂乱する姿は圧巻ですよ。

しかし、秋田の冬、11月後半から12月のハタハタ漁は、産卵のために水深1メートル以下のところまで遡上してきたハタハタを定置網で獲るものです。この漁で獲れるハタハタはエネルギーを使い切ってしまっているので、身に脂がなく、ブリコ(卵)はゴムボール状に膨れて固くなっています


なるほど、だから僕には「ハタハタ=冬」というイメージがあったんですね。すると、僕たち秋田県民が幼い頃から食べてきたのは、産卵期の脂が落ちきったハタハタなんですね……。実を言うと、僕もあの固い食感のブリコは苦手でした…。

そう、だからこそ、「深海限定ハタハタ」を出品したのです。私が幼かった頃、父が秋口に獲ってきたハタハタはこの上なく美味しかった。そしてそれは漁師になった今でも変わりません。深海ハタハタこそ「秋田名物」と謳うべきものにしたい!


そこです!!気になっていたのは!「深海限定」ってどういう意味なんですか!?

ハタハタは水深1000メートル以下の日本海を周遊している深海魚ですが、9~10月になると、秋田沖約500メートルのところまで上がってきます。いわば産卵準備期間ですね。産卵のための栄養をたっぷり蓄えている状態です。

11月になると水深約200~500メートルまで群れで遡上します。この時期になると身の脂が徐々にブリコ(卵)にいってしまい始めます。

そして12月、大陸棚を離れたハタハタが一気に沿岸に突っ込んできます。非常に大型になり、ブリコがパンパンに膨れていますが、正直脂は落ち切っています。


脂ののった産卵期前のハタハタは深海でしか獲れないから「深海限定」なんですね。知らなかった……。

深海500メートルというのは、底引き網漁でしか獲ることができない深さです。漁獲の絶対量が足りないので、市場に出回ることもありません。これが深海ハタハタです。

深海でくらすハタハタには鱗がありません、下処理も楽ちんです


「身がいちばん旨いのは秋口のオスです」

もちろんハタハタは秋田県以外でも獲られています。なんでも兵庫や鳥取で獲れるハタハタは脂がのっていて美味しいんだとか。


……くやしい!!


秋田のハタハタが「他県からも愛される」ために、山本さん、その魅力をもっと教えてください!

秋田の深海ハタハタ、まさに幻のハタハタですね。他県で獲れるハタハタはどうですか?

鳥取、島根、兵庫産のハタハタは非常に美味だと思っています。理由は簡単です。深海で獲れているからです。大学時代、冷たい海水に耐えるよう身に脂を乗せた鳥取産のハタハタが思った以上に美味だったのをよく覚えています。


ぐぬぬ、秋田県のハタハタの他県に負けない魅力ってあるのでしょうか?

決定的に違うのはやはり抱卵しているかどうか、というところでしょう。抱卵したハタハタは9〜12月の日本海北部でしか獲れませんから。11月に男鹿で獲れるようになるころにはハタハタがまとまって移動するため、網に大量に入るようになります。この頃のハタハタは卵も大きすぎず、かといって身の脂も抜けきっていないためオススメです。


ズバリ山本さんが思う最もおいしいハタハタとは

身が一番旨いのは秋口のオスですね


山本さんおすすめの食べ方を教えてください!

おすすめは塩焼きか鍋ですが、刺身でもいけます。深海域にいる11月までのハタハタは身に脂がとてものっていて、焼くとグリルから脂がボタボタ滴り落ちますよ。脂がありすぎるので、獲ってから約4時間以内でなければ刺身で食べることができないくらいです。どうしても食べたい方は10~11月に秋田にいらしてください。


ハタハタは鮮度が落ちやすい魚だと思うのですが、山本さんが深海ハタハタを出品された際に工夫した点などはありますか?

ありません。最高の鮮度でしか送りませんので工夫する必要がないです。本当にうまい魚です。そのままの味を堪能して欲しいですね。


身に脂がのっていて美味しい上に卵があるのは秋田のハタハタだけ。そして、それこそが今回紹介している「深海限定ハタハタ」。つまり、秋田のハタハタが1番旨いってことですね!

あっさりしたハタハタも充分美味しいというのに、脂がボタボタって…ぜひ食べてみたい!!

私もこんな色鮮やかなブリコは見た事ありません


命をいただくということ

いやあ深海限定ハタハタ、めちゃくちゃ食べたくなりました。明日にでも食べたいと思い山本さんのコミュニティを見ていると……


どうやら漁獲量が安定しない様子。いつ届くのかもわからないようです。たしか大人気のガサエビも同じようにいつ届くかわからなかったような。

※ハタハタがなかなか獲れなかったのは、10月上旬時点の状況です。11月9日、やっと順調に獲れるようになったそうです!!

山本さん、例えば今深海ハタハタを注文したらいつ頃届きますか!?  11月上旬くらいとか下旬くらいとか、ざっくりとでいいのですが……

わかりません。ハタハタが上がって来るまで待つしかないです。


ハタハタ、なんで来ないんですか?

確かなことはわかりませんが、おそらく海水温の異常のせいではと推測しています。ここ数年で日本海はどんどんおかしくなっています。


日本海が、おかしく?

今年で言うと、2月から異変は感じていました。例年に比べ5度以上海水温が低下する日々が5月まで続きました。魚の体感は人間の1℃に対して30℃といわれています。 要は、人間で言うと家の周りが150℃低くなってしまったことになります。


ええーーー! そんなとこには住めないですよ。異変を感じているのは山本さんだけですか?

この半年、思うような漁をした漁師は一人もなかったのではと思います。私も祖父から続く秘伝の書や自分の経験から漁場の選定をするのですが、ここ5年、まともに当たったことがありません。


この秋は、春の異常低温と反対に、海水の異常高温のためハタハタが遡上してこれない、ということなんすね。それは困りましたね。

自然の中で生きている生物ですから、人間の都合の良い時に最高の状態で手に入れることができないのはあたりまえです。バックや時計のような無機物ならまだしも、天候に左右され、その日いるかいないか分からない魚がいつ獲れるのかをお約束することなど、不可能ですよ


言われてみれば……確かにそうですね。お客さんにも理解していただかないと……。

ポケマルには立ち上げから参加していますが、現在に至るまでリピートして下さる方々は本当に私の苦悩や魚の価値を理解して下さっていますよ。本当に有難いと思っています。


ですが、日本全体で見ると、それに気づく機会のない消費者が圧倒的多数です。

人間もそうであるように、魚にも2つとして同じ物はありません。それぞれに命があり、それぞれに個性があり、それぞれに価値があります。その魚たちの命を、何千・何万と毎日絶っているのが、私たち漁師です。

偉そうに言いたくないですが、その命は、食べる人、つまり消費者が本来背負わなくてはいけない命のはずです。ですが残念ながら現在、それを理解している方は少ないと思います。


生き物の命を絶たなければ、私たち消費者は食べられない。しかし、今の社会はそれを生産者さんに任せてしまっています。

そうです。海の資源管理問題にしてもそうです。さも魚を獲りすぎる漁師たちが悪者であるかのように扱われますが、なぜ「獲りすぎ」になってしまったのかを辿れば、「欲しい人が多いから」に行き着きます。うまい・日持ちする・手がかからない・週末のイベントで使いたい……様々な理由です。

需要が大きいほど魚は高くなりますし、当然、自分の生業が潤うのならば、漁師たちは海に出ます。その結果が、乱獲につながります。しかし、その原因の一端には消費者もいます。現場の漁師だけが批判され、制限されるのはお門違いです。


ハタハタの漁獲量は年々減少していると聞きます。海や天候の変化など、そこには様々な原因があるかと思います。しかし山本さんがおっしゃる通り、そこには人間の都合が大きく影響していると思います。

消費者は生産者が、生産者は消費者がいないと成り立ちません。

多くの食材はスーパーなどで販売されていますが、その全てはスーパーで生まれたのではなく、生産者が届けてくれた「命」です。

食材を購入する際に、その食材の「命の価値」を考える事ができれば、生産者さんが届けてくださる商品の重さはずっと増すと思います。

広大な海・命に感謝


最後に、ポケマルのお客さんたちにメッセージをください!

ポケットマルシェができた当初からずっと参加させていただいて、消費者の皆さんと直にふれあい、互いのニーズに応えることができて本当に幸せです。皆さん、私の都合に合わせていつまでも待って頂いていることに申し訳ない気持ちもありますが、でもだからこそ、獲れた時には常に比類なき鮮度のまま送りたいと考えています。

俺が食ってうまいものはうまい。これからもこれまで日の目を見なかった極上のお魚を最高の鮮度でお届けできたらと思っています。


今回「深海限定」というワードが気になり山本さんにお話を伺いましたが、その出品の陰には山本さんの熱い想いがありました。

こんなにも全面的に深海ハタハタの魅力を伝え、推してしまった後に言うのも何ですが、最高鮮度のものが届くまで山本さんと海とハタハタに感謝しながら、調理の支度をして待ちましょう!!


我慢できずに「しょっつる」を買ってしまったマルドゥックさん


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◎同じく秋田の伊藤徳洋さんからも、ハタハタ出品中!

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文=金澤善空

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