「泉州水なす」を絞るとどうなるのか?買って観察してたしなんでみた。

とある夏の日のとある酒場で、大阪出身の友人が熱弁していました。

「大阪の夏の味ってゆーたら水なすやで。水なす抜きに夏を語れへん」

どうやら"水なす"という食材は、沖縄生まれ東京育ちの筆者が知っている「なす」とは違うようです。具体的に何がどう違うのか矢継ぎ早に詰問したところ、友人は堂々と言い放ちました。

「水なすちゅうくらいやから、水ちゃう? 知らんけど」

〜これは大阪出身の友人の「水なすの中には水がいっぱい」という言説を検証すべく立ち上がった筆者おおしろによる「水なすミステリーレポート」である〜

※なお、文中に使用している関西弁はこちらのサイトを利用して標準語から翻訳したものです→ことば変換もんじろう

目次

ここに目次が表示されます。

いらっしゃい、泉州水なすお嬢様

「ど、どうぞ……よくいらっしゃいましたね」

この日、遠路はるばる関東の筆者宅へやってきたのは、大阪府・川崎貴彦さんの「泉州水なす」ご一行。

小包を開けた途端、敬語でお声がけをせずにはいられないほどの気品が溢れ出しました。なんてったって、一つひとつ個包装されているのですから。

筆者がいつもスーパーで購入している一般的なナスは、3〜5個入りでおおよそ198円。しかしこちらのお嬢様たちは、たった1個でその価格を凌駕してしまうほどのセレブです。

個包装のそれぞれに付けられているタグにも、水なすのお嬢様たる風格が現れています。

【泉州水なすの保存方法】

高品質の鮮度保持袋を使用しています。冷蔵保存ではなく、直射日光に当たらない涼しい場所で保存していただくとより鮮度が保てます。

そういえば、食品の保存に詳しいポケマル編集部員Nからは「ナスはお嬢さまだから丁重に扱うのよ。乾燥を嫌うから、ラップで包んであげるなどしてね」と口酸っぱく注意されていましたが、タグの記載によると、どうやらこちらのお嬢さまたちは、この「高品質の鮮度保持袋」にいれたまま、冷蔵庫に入れずに保管するのが間違いないようです。


さて、取り出してみましょう。

実際に手に取ってみると、一つひとつがかなりずっしり重い。ナスらしからぬ重量感です。おっと、お嬢様に重いなんて失礼……?

「いいえ、最高級の褒め言葉ですわよ」

あっ、この声は泉州水なすお嬢様! 喜んで下さって何よりでございます、はい。

ではちょいと失礼して……ご開帳といきましょうか。

「か…鏡ですわ!」

まるで1200番のやすりで磨き切った御影石のように、ツルピカです。こんなに美しいナスをみたのは、恥ずかしながらわたくし初めて。食べる前から恐れ入りました、泉州水なすお嬢様。

泉州はどこでっか?

ところで、水なすといえば枕詞のようについてまわる「泉州」ですが……「泉州」っていったいどこ?

googleマップを立ち上げ「泉州」を検索しましたが、ヒットしたのは中国南部の都市。大阪という単語を加えても、ぼんやりとした検索結果しか表示されません。こういう時は公的機関のホームページを頼ります。

〜泉州地域とは〜

泉州地域は、大和川以南の大阪湾岸部、9市4町からなるエリア。温暖で降水量が少ない上に大河がないため、弥生時代からため池を利用して発展してきました。農作物も歴史的特産物が多く、泉州ブランドとして生産されています。

参考:大阪府ホームページ農林水産省ホームページ

泉州は古代より農業が盛んなエリアで、「泉州水なす」をはじめとする多くの伝統野菜が今日に残されているそうです。なるほど、大阪出身の友人が誇らしげに語る理由も納得しました。

とある文献にはこんな記述がありました。

この地域の人にとってナスといえば水ナスを示し、府内で広く栽培されている千両ナスを「木ナス」といって区別している

※引用文献:「野菜園芸大百科第2版6 ナス」, 社団法人農山漁村文化協会, 2004年

しかし、これについて生産者の川崎さんに質問してみたところ、「一般的ななすを"木なす"とは呼ばない」「"千両なす"もしくは"なす"と呼んでいる」という答えが反ってきました。

危うく日常会話で「木なす」を使い始めるところでした。セーフ。

さっそく観察してみまひょ

泉州水なすをもっとよく観察してみます。

並べてみれば艶々と輝き、内側からパワーがあふれんばかり。

ひとつ手にとれば、水晶玉のようです。そして筆者は写真を現像しながら驚きました。お分かりでしょうか?

「私の部屋が……泉州水なすに映り込んでる…だと!?」

泉州水なすの表面に反射しているのは、筆者の仕事部屋。まさか作物に映り込んでしまうなんて……なすってこんなに美しい食材なのですね。

市販のナスと比べてみよ

普段スーパーなどで目にする一般的なナスと、関西が誇る伝統野菜「泉州水なす」とはどう異なるのでしょうか。比べてみましょう。

※大切なご注意:今回使用した「一般的なナス」は、たまたま筆者の家の近所のスーパーで販売されていたものです。野菜の品質は栽培方法や収穫時期、保管方法、経過日数等によって変わります。適切に管理し鮮度の良い野菜を提供しているお店はたくさんありますし、収穫始めか収穫終わりかなどの野菜の生育ステージの差で見た目に違いが現れることもあります。

外見

まずは見た目から。

左が泉州水なす、右がスーパーのナスです。見慣れたナスと比べて、泉州なすは丸々としたしずく型

実際に並べてみると、光の反射の仕方も違うことがわかります。

泉州水なす(奥)の輝きが新入社員の瞳だとしたら、スーパーで購入したナス(手前)は定年間近のベテラン社員の瞳のようないぶし銀の光り方をしていますね。

ヘタの切り口にも注目です。スーパーのナス(左)は茶色くなっていますが、泉州水なすは切りたてのように青々としています。

これらの外見上の違いには、ナスの品種、収穫時期、保存方法、収穫から手元に届くまでの日数などの複数の要因が仮説として考えられます。

しかし、栽培方法や収穫時期については、スーパーで買ったものがどのようなものかわからないので何ともいえません。

輸送日数については、スーパーのナスは圧倒的に不利です。生産者→市場→スーパーと経由して筆者の手元に届いた一般的なナスと、川崎さん直送の泉州水なすとでは、収穫されてから手元に届くまでの日数に大きな差があるのは仕方のないことです。

もしかしたら、保存方法の違いも状態に関係しているかもしれません。数個をまとめて袋詰めされていたスーパーのナスに対し、川崎さんの泉州水なすはひとつで一袋。言うなれば、ファーストクラスで我が家に届いたというところでしょうか。

重さ

次に重さを比較してみましょう。まずはスーパーのナスから。

85グラムでした。対する泉州水なすは……?

226g! ヘビー級じゃないですか!

やはり初めて持ち上げた時に「重い…」と思ったあの感覚は間違いではなかったようです。

ほな、絞ったろ

それでは本レポートのメイン企画、泉州水なすの水分量測定です。

いくつかの方法を検討した結果、測定後も美味しく食べられるように、それぞれをぶつ切りし、100g分ずつ取り分け、ハンドジューサーを使って絞ってみることにしました。

上:泉州水なす、下:スーパーのナス

まずは泉州水なすから。100g分をジューサーに入れて、

入りきらず溢れ出してしまいましたが、問答無用で……

プッシュ!全身全霊の力を込めて圧をかけます。

まだいける……私の腕力はこんなもんじゃない……あれ? 隙間に浮かんできたのは…?

水分です! 泉州水なすの水が確かに絞れています!

プレスし身を混ぜる工程を3回繰り返し、ぺちゃんこになった泉州水なすがこちら。

それでは泉州水なすの水を測ってみましょう。果たしてどれだけの水分が絞れたのか……。緊張の一瞬です。

とくとく注がれる泉州水なすの水分。いい調子です。

おっと、そろそろ少なくなってきたか? がんばれ、まだ…まだいけるぞ!

一滴残さず注いだ結果がこちら。

100gの泉州水なすから絞れたのは、おおよそ40mL。しかしまだスーパーのナスを絞ってないため、この数値が多いのか少ないのか判断できません。

お次はスーパーのナス。先ほどと同様、たっぷりと100g詰め込み……

気合をいれてプッシュ! これでもかと圧をかけていきます。

先ほどと同様、プレス→身をほぐす工程を3セット繰り返しましたが、泉州水なすのときのように縁から水分が滲み出ることは一切ありませんでした。

そして、注いでいくのですが……あれ、ぜんぜん水分が、ない! シャッターチャンスがあまりにも短すぎました。

結果がこちら。

泉州水なすの水分が40mLに対し、スーパーのナスは8mLほど。泉州水なすの水分が「じょろろろ」と注げることは、凄まじいことだったのですね……。

今回の実験は家庭にある機材を用いているため、数値の厳密さは満足とは言えませんが、確かに泉州水なすの水分含有量は長けているという研究論文が発表されているようでした。

参考:(※研究論文)調理を考慮したナスの品種特性評価|農研機構 野菜茶業研究所研究報告 第13号(2014年)には「多汁性の指標として果汁指数(JI)を比較した結果、‘泉州水茄子’は他品種と比べて著しくJIが高く、多汁であった」とある。

ということで「泉州水なすはスーパーで普通に売ってたなすよりも水分をたくさん含んでいる」ということが判明しました。

ほんなら、食べ比べしよな

「やっぱし水なすは刺しやで、おつくりや」

という友人の言葉を思い出し、生で食べ比べしてみます。もちろんスーパーのナスも生です。

まずは両者を輪切りに。スーパーのナスは繊維が均一に詰まっており、ごくごく一般的な姿形をしていました。

一方、泉州水なすは……

少し力を込めて握ってみると、キラキラと水分が染み出してきます。この姿……既視感があります。これは中学生のとき理科で習った「維管束の図」に似ている…!

西(下写真左)に泉州水なす、東(下写真右)にスーパーのナス、いざ土俵入りです。

それでは両者、見合って見合って〜のこった〜! のこったのこった…

「もぐもぐもぐ…(あっ、これは!)」

泉州水なす

シャキッとしており、噛むほどに水分が染み出してくる。さらにその水分が甘く香り高い。口に残った身もホロホロと崩れていき、あっさりとした食感

スーパーのナス

一瞬「イケる!」と思うが、すぐやってくるピリピリとした痺れ(アク?)に「生では食べられない」と断念させられる。一般的なナスはしっかり加熱をし、とろとろに煮込むことで一番おいしい状態になるのだと再確認。

「勝負あり、西の泉州水なす〜」

生での食味比較は、圧倒的に泉州水なすに軍配が上がりました。

【考察】泉州水なすとスーパーのナス、生食での味の違いの理由は何だろう?

研究論文によると、泉州水なすは他のナスに比べて糖含量が多いだけでなく、ブドウ糖よりも果糖の割合が高いことが書かれていました。水なすを食べたときに果物のように甘いと感じたのは、このためかもしれません。

また、泉州水なすには渋みの元とされる「クロロゲン酸」というポリフェノールが他のナスよりも少ないとも書かれていました。クロロゲン酸は切り口の褐変にも関与すると考えられているので、スーパーのナスのヘタの切り口が茶色かったことには、クロロゲン酸の影響があるのかもしれません。

参考:(※研究論文)調理を考慮したナスの品種特性評価|農研機構 野菜茶業研究所研究報告 第13号(2014年)


食べ比べを終え、泉州水なすの甘さを確認した筆者は半信半疑で先ほど絞った泉州水なす汁を一口飲んでみました。見た目は渋めの紅茶のようですが……

「甘っ!!」

これが渋みも一切なく甘い。見た目に騙されてはいけません。飲めます。さすがお嬢様の本領発揮だと痛感させられたのでした。 

※実験に使ったなす果汁・なす果肉は筆者の夕飯として最後まで美味しくいただきました。

泉州水なすは大阪のソウルフードなんやね

実験後、今回購入した泉州水なすを、浅漬けにしたり、ポン酢をつけたりしましたが、一番の贅沢な食べ方はオリーブオイルをちょっとだけ垂らしてお塩をつけていただく食べ方。1日1個のペースでパクパク食べ進めてしまいました。こりゃあ贅沢だ。


最後になりましたが、今回購入した泉州水なすの生産者である川崎貴彦さんは、安政7年(1860年)より続く農園の6代目園主なのだそうです。

さらに、川崎さんの泉州水なすは、2019年に開催された【G20大阪サミット2019】夕食会のメニューに使用されたというほどの逸品!

関東では滅多に出会うことのできない貴重な食材を、こうして自宅にお招きし、思う存分嗜むことができるなんて、いい時代だなあ……と改めて噛み締めたのであります。

川崎さん、ごちそうさまでした!

今度、大阪出身の友人と飲みに行ったら教えてあげようと思います。

「泉州水なす絞ったら、むっちゃ水出たで」と。

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文・写真=大城実結、編集=中川葵

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