「稲刈りは筋トレなんだ!」山梨に実在したカロリー循環型の持続可能な援農の物語

- 前回のあらすじ -

カロリーを気にしながらご飯を食べて、デスクワークに明け暮れて、ネット通販で買った健康器具で筋トレしてさ……何なのコレ

私たち結局、お金を払ってカロリー摂取して、お金を払ってカロリー消費してるんですよ

渋谷のオフィスで筋トレに励む自分たちの矛盾に気付いたポケマル編集部員たちは、2019年10月15日、山梨県北杜市の農家:オーガニックファームチュトワ さんを訪ねました。

この日は稲刈り最終日。作業のお手伝いをしつつ、女性ふたりで山奥に移住して自然と共に農業を営むおふたりのお話を聞いた編集部員たちの表情は、みるみるうちに生気を取り戻していきました。

新米おにぎりランチをいただき、和気藹々と午後の作業を始めた編集部員たちが見たものとは……?

\この記事は2本立てです/

  1. 山奥で女性農家さんと運動がてらの稲刈りしてきた報告書
  2. 「稲刈りは筋トレなんだ!」山梨に実在したカロリー循環型の持続可能な援農の物語 (この記事です)

目次

     ここに目次が表示されます。    

鶏たちも出動。全力で稲刈りだ

この鶏は……?

さあ、午後の作業の開始です。お腹いっぱい昼ご飯をいただいた一同でしたが……

むにゃむにゃ、なんだかお腹いっぱい食べたから眠くなってきちゃったナァ

ふぁ〜あ、まだあまり働いてませんけどネ。そういえば大城さんおにぎり何個食べました?

3つ食べたっけなあ。てへへ、結構食べちゃった。太っちゃうなぁ〜

(この子たち、やっぱり緩みきっている)……ほら見て高井さんが何かしているよ

ひょいひょいと鶏を抱える高井さん

庭にいるニワトリをひょいひょいと抱えてケージに入れている……

う、嘘でしょ? もしかして……〆…

やだなぁ、絞めませんよ。この子たちには、田んぼの虫たちを食べてもらうんです。ほら、いっといで〜!

放たれるなり、ぴょこぴょこ元気に跳ねる鶏たち

自然栽培にこだわるふたりの田んぼには、鶏たちも大きな労働力となります。が、ときどき邪魔をしちゃうことも。

あっ、そこは収穫中だから食べちゃダメ!

ポイッと捨てられる鶏、いとらうたし

見てごらん。ニワトリたちもあんなにキビキビ働いているじゃないか。それに比べて、都会でぬるま湯に浸かっている君たちったら……

そんなことッ! 言わせませんよ!!

私たちもやる気満々です!


米は喜び人間は沈む。宿敵「大泉」で大苦戦!

ぬかるみの上を軽快に歩く鶏

にしても、チュトワの田んぼで頭を悩ませるのがこの大泉地区の湧き水。八ヶ岳が水源の、お米たちをスクスク育てる大切な自然の恵みではあるのですが……

\人間は、ズブズブ沈む!!/

しかも一度沈んでしまうと、なかなか抜け出せないのも苦しいところ。

片足を引き抜こうとウンウン粘るも

ああ、ダメだ……手で引き上げよう

一歩踏み出すことがこれだけ大変だなんて

何度ヒラメ筋がつりかけ、何度転んだことでしょう。

なんだこれ、「大泉」にいるだけでインナーマッスルをバキバキに使うぞ? この環境下でサクサク作業ができる2人はプロだ。師匠とお呼びしよう

*筆者は後日、ひどい筋肉痛に身もだえていました

(「大泉」はぬかるみのことじゃなくて地名なんだけどね……まあいいか)足場が不安定だからこそ、バランスを取ろうと体幹が勝手に躍動するんだ。そのお陰で田んぼでは運動量も増すのだよ

となると、師匠たちのお腹はバッキバキに割れているのかな……? 見てみたい…

にしても、師匠ふたりはキビキビとすごいな。うん? 大城くんが何か呟いている

農作業……インナーマッスル……トレーニング……ハッ!!

ぬかるみの無い場所は機械で刈る

水分の多い場所では、刈った稲穂に泥が付かないように、稲束が地面に倒れる前にキャッチしてね。稲穂が水分を感知すると、発芽しようとしてしまい、商品価値が落ちちゃうんです

ぬかるんでいる場所では機械からポンッと投げ出される稲の束をキャッチ!

腰を入れてキャッチしなきゃ。これはマシン操縦士とキャッチャーの阿吽の呼吸が試されるんだな。常に中腰で稲わらを大量に抱きかかえるとなると、大臀筋に効くぞこれ。この技は空中稲わらキャッチと命名しよう!

大城くん、さっきからブツブツ言ってるけど大丈夫? ちょっと休む?

……私わかったぜ、編集! チュトワでの稲刈りこそが最強のトレーニングだってことをよォッ! だから私は、稲刈りの一挙一動で、レベルアップを図るッ!!


わかった稲刈りは筋トレなんだ!

空中稲わらキャッチの待機姿勢(左)

おっしゃ、もたもたしてらんない! どんどん稲刈って筋肉を磨き抜くぞ、ウオーッ!!!


それでは、おおしろが編み出した稲刈りトレーニング技の数々をご覧いただきましょう。

 ①「手刈りングスクワット」で大臀筋と大腿四頭筋が唸る 

田んぼ全体を全て機械で収穫できれば良いのですが、見渡せば大泉のぬかるみはアッチにもコッチにも。

水が多すぎる場所には機械を入れられないので、手作業で収穫していきます

あんなに嫌だった「大泉」が、今では自重トレーニングの最高の供に感じる。効いてる、効いてるよぉ!

普段のトレーニング+「大泉」は、超効果的なエクササイズなんだね。このトレーニングは「手刈りングスクワット」と命名しよう

手刈りングスクワット!! 良い名前だ


 ②「レタス植えレッグランジ」で稲わらを拾おう 

休憩中、援農ついでに運動を実践しに来た私たちのために、師匠高井さんが”農トレ技”を伝授してくれることに。

私、腰痛持ちだから作業しながら予防策も考えてみたことがあるんです。背中とお尻のストレッチ

同じく腰痛持ちの大城です。それはぜひお聞きしたい!

レタスの植え付け作業でよくやってるやつなんですけど、これはかなり良いですよ。

まず足を前後に開いて、背中を真っ直ぐ前へ倒れ込む。ピンと背筋を伸ばしてね。そうすると腿の裏とお尻が伸びるでしょ

お、おお〜。こわばった臀部の筋肉がゆっくり伸びていきます

高井さん(左)を見よ! 腰の角度が90°だ

腰痛の原因はさまざまですが、周囲の筋肉のこわばりが要因となることも。背筋やハムストリングス、大臀筋を丁寧に伸ばしてあげることが大切ですよね

腰痛の話になると大城さんは饒舌になりますね

命名「レタス植えレッグランジ

稲わら拾うときにも応用できる技です


 ③「除草チェストプレス」 で胸筋のびのびストレッチ&筋トレ 

あとおすすめは除草機を用いたトレーニング。夏に田んぼの雑草とりで使う技です

ほう、マシーンを使うタイプのトレーニングですね

ジムみたいで楽しそうですね

使用するのは手で押して除草するタイプの機械。まずは体幹を安定させて、マシンをグーッと押します

そして引くときは胸を開くように、ぎゅ〜っと

肩周りもほぐれて、とっても気持ちいいんだよねコレ!

こうかな?

気持ちいいかもです、これ!

はしゃぎはじめる2人

命名「除草チェストプレス

除草しながら大胸筋もムキムキに! なんてエコな筋トレなんだ……感動…

お聞きすれば、出るわ出るわ農作業ワザの数々。体が資本だからこそ、常に筋トレ&ストレッチ的な考え方を持ちながら、作業にあたっているのですね。


ウルトラC「チュトワ」ここに極まれり

高井さん(左)と村瀬さん(右)のコンビネーション

気付けば午後の作業開始から早3時間。太陽はどんどん西に傾き、少し肌寒くなってきました。稲刈り作業も佳境に入りました。

それじゃあいくよ!

あいよっ!

威勢の良いかけ声とともにエンジン音が唸ります。

なになに!?

あれは、空中稲わらキャッチ……だけではない!?

沈みゆく両脚、稲刈機からどんどん宙に投げ出される稲わら、泥を付けてはいけない稲穂。

最高難度の条件が揃った田んぼで稲作をしてきた2人のコンビネーション技が炸裂しています。

高井師匠、一体どうやってあの「大泉」の上をスイスイと……?

まず刈りきった稲を踏むように歩幅を整えるんだ。稲の上であれば、他の箇所に比べてある程度は足場がしっかりしているからね。基本的に歩き方はすり足で、その場で立ち止まらないように動き続ける。止まると沈んでしまうんだ。そして目線は空中に浮かぶ稲わらへ。決して足元を見てはいけないよ、稲わらを落としてしまうからね

やってみます。え、ええ……!? 全然できないぞ

画像の通り、大城の視線は足元だ

やはり素人が1日で習得できるような技ではないのですね

そうだね。あれは難易度Cの「空中稲わらキャッチ」と難易度Cの「大泉すり足」の組み合わせのウルトラC級の技だからね

命名はどうしましょう

チュトワ

なるほど。体操の技「シライ」みたいですね


私もカロリー生態系の一部なんだ!

雲の向こうには南アルプスの山々が隠れている

陽は山の向こうに沈み、どんどん気温が下がってきました。もうそろそろ、我々の体力も……限界……

これで、ラストの稲わら! 刈ります

うおおおお!

そしてとうとう念願の

\令和元年の稲刈り、終了〜〜!/

感極まる大城と日野原(写真中央)

ウオォ、なんだか感無量っす。部活の夏の大会優勝みたいだ

いい汗をかきました。そしてやるだけやりました!

だろう? やはり今の君たちに必要なのは、チュトワだったんだよ

体を動かし、泥に埋もれ、分かったことがあります。農作業は生活をかけた競技の一種なのですね

「全身全霊で体を動かし、すくすく育ったお米をお茶碗に届ける」という勝利条件に向けて、チュトワのおふたりは日々技を磨き、体力を培って、田んぼというフィールドに立っているのですね

スッ(スマートウォッチを袖から出す音)

あれっ、へ、編集! 見てください!

朝の時点での消費エネルギーは887kcal、対して今は1712kcal。つまり君はチュトワで825kcal消費したということだね

普段感じていたカロリー消費の虚しさがありません。なぜ?

それはだね、今日の君はカロリーエコシステムの一部になっていたからだよ

かろりぃえこしすてむ?

君たちは今日の昼に、この田んぼで育ったお米から作られた塩にぎりをいただいたね。3つ食べるとだいたい504kcal* だ

*ごはん100gを168kcal、おにぎり1個を100gとして計算した場合

ハッ……まさか! あのおにぎりから体内で生み出されたエネルギーが筋肉を動かし収穫作業へ還元されて、新たなエネルギーつまりお米の生産力になった、ということですか?

そうだね。昨日までの君たちはお米から得たカロリーを無為に消費していた……つまりカロリーエコシステムの循環が途切れ、お米のカロリーは空中へ拡散していたわけだ

カロリーを作物から得て、作物を育てることでカロリーを田畑にお返しする……田畑と人間との間でカロリーが循環する生態系……これこそが持続可能「カロリーエコシステム」なのか! エネルギー保存の法則みたいだ


*   *   *


不思議な縁に導かれるように、チュトワのお二人は八ヶ岳山麓にあるこの農地と出会い、日々の農作業をこなしながら、お野菜やお米を作り続けています。

種を植え、育て、それを収穫する。自然のサイクルをそっとサポートするように、私たちは食べて、働いて、寝ている。生きるために食べる、食べるために育てるという本当に当たり前のことにさえ気付けていなかった自分を知りました。

みなさん、無為にカロリーを健康器具で消費している場合じゃありません。チュトワでは「運動がてらの援農」を募集しています。カロリーエコシステムの一部となる時が、やってきたのです……!

※この記事で紹介している筋トレ技はポケマル編集部が援農をする過程で発見・命名したものです。実在のチュトワさんでは筋トレ指南は行っていませんのでご注意ください。

※チュトワでの援農をしてみたい方は、オーガニックファームチュトワ公式ホームページからお問い合わせください▶オーガニックファームチュトワのホームページはこちら

※そしてそして、記事中では紹介できませんでしたが、援農プロのまさこさん(下写真右端)! 編集部一行を優しく迎えてくださりありがとうございました!

最後にそれぞれ好きな農作業技を再現


オーガニックファームチュトワさんの出品はこちら

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文・イラスト=大城実結、編集・写真=中川葵

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