刺し網漁ってどんな漁?下田の伊勢海老漁師に教えてもらったよ

ああ……あの子たちはどんな所で育って、どんな風に海を泳いで、どんな風に水揚げされたのかしら

まるで恋煩い。とある生き物について空想が止まらない日々が続きます。

出会いはあの日、まだ分厚いコートを手放せない冬の日でした。いつものように出勤したら、見慣れぬ箱が届いていて……

\ビィィィィィィィ!!!/


そう、伊勢海老です。エビたちがオフィスで暴れ狂う事件から3ヶ月、インターンの日野原の心の中にはいつの間にか伊勢海老が棲みついてしまっていたのです♡

中川センパイ、私もっとイセエビのこと知りたいんです!!

いいよ〜

と、いうことで。今回は伊勢海老の漁師さんに密着取材しました。

\この記事は3本立てです/

  1. 刺し網漁ってどんな漁?(この記事)
  2. 伊勢海老のオスとメスはここが違う! 
  3. ただいま鋭意制作中!
 

目次

 
     ここに目次が表示されます。    

\今回の取材班は私たちです/

  • 中川 ポケマルマガジンの編集長。職権(食権?)を乱用して、食べたい食材を買いまくっている
  • 大城 全国韋駄天ライター。取材のため自転車とともに全国各地を飛び回っている
  • 日野原 ポケマル学生インターン。今回が初めての取材で緊張気味


静岡県下田市の藤井ファミリーに会いに。

今回訪れたのは静岡県伊豆半島下田に住む藤井美帆さんのご自宅。

Producer

藤井美帆|静岡県下田市

   

伊豆下田で漁師をしている藤井と申します。父と弟が中心となって、家族みんなで漁を営んでおります。新鮮な伊豆の海の幸を、多くの皆さんに知ってもらいたくポケマルに参加しました。どうぞよろしくお願いいたします!

   
 

ポケマル愛好家のみなさまは、藤井さん=伊勢海老というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、伊豆半島では伊勢海老以外にも季節ごとに様々な魚介類が水揚げされます。

藤井さんのプロフィールページによると、

夏には潜水漁でサザエやアワビを、秋から春にかけては刺し網漁でイセエビや魚を、冬はつきん棒漁でナマコやサザエ、春先には天然のワカメやヒジキの刈り取りを行っています。

……とのことですが、漁の用語はさっぱり。そもそも「刺し網」って何なんでしょう。網で刺す? 一体どんなものなのか想像もつきません。


藤井さん、刺し網とはなんですか?


朝に都内を出発し、休憩しつつ車でおよそ5時間。編集部が到着した頃には、藤井さんご一家は既に作業の真っ最中でした。

藤井家は美帆さんの他に、父母、兄、兄妻子、弟、弟妻子を合わせた10人家族。中心となって漁に出るのはお父さんと弟さんですが、漁業の他に下田での宿泊施設の経営なども行っていて、漁で獲れた魚介類を、宿泊施設でのお食事として提供しているそうです。

家族一丸の「家業」として、漁を行っているのですね。


取材班が到着してすぐ、弟の大喜さんにお話をお伺いできました。まずは、今回のメインイベントである伊勢海老漁について聞いてみましょう!

美帆さんの弟の大喜さん


あの~さっそくなんですが、イセエビの刺し網漁って……なんですか?

えっと刺し網漁っていうのは、この網を使って獲る漁の方法です!

これが「刺し網」!


刺し網を魚の通り道に仕掛けると、海底を泳いでいる海老のトゲや魚の頭が引っかかるんです。もちろん網目をすり抜けてしまう魚もいるけれど、その魚を追いかけている別の魚が引っかかったりもしますよ

これが刺し網のイメージ図( 作:日野原)


網目に魚が刺さるから『刺し網』という説明をインターネットで見ましたが、刺さらなくても引っかかればいいんですね

漁をするたび、網は獲物によって引き裂かれ穴が開く。「この大きさはサメかな……」


見たところほとんど赤い網ですけど、何か理由があるのでしょうか?

赤い色は海の中では見えにくくなるんです。しかも赤は目が良いイセエビでも唯一見えにくい色と言われているんですよ~

(あ!そういえば光の波長がなんとかって物理で習った気がする…)


網をよ~くみてみます。

おお〜持ってみるとかなりずっしりしていいますね

網の下側にあるロープは海底に沈むよう重く作ってあるので、海の中でも垂直に網を仕掛けることができるんですよ


ということは、上の方が浮きになるんですね!

網の上部には軽いロープが使われている


網はナイロン製と綿製の2種類あります。いちどの漁に合わせて3つ(約33m×3=99m)の網を設置できるんだけど、最低1つは綿製を使用しなければいけないというルールがあるんです

こちらが綿の網


素材の違いに意味はあるのですか?

獲物のかかりやすさが違います。綿の網よりもナイロンの網のほうが、糸がほつれやすいんです。ほら……


だから、ナイロンのほうが獲物は引っ掛かりやすいんですよ


大喜さんにお話をうかがっていると、藤井家の大黒柱・多喜男さん(大喜さん美帆さんのお父さま)が海から帰って来ました。

こちらが父・多喜男さん


よ~し、じゃあ俺はこれから破れた網の補修をしようかな

あの破れたところ、お父さんが直すんですか!?


網のお手入れができなきゃ伊勢海老漁師は務まんねえ!


これが網を治すための網針(あんばり)セットです

なんと、手作業……!?

魚が暴れたりすると網がほつれてしまうんだよ。ほら、ここ大きな穴みたいになっているでしょう? これをこうして、ここを結んで……


これだけ細かい網の修繕って大変じゃないですか?

もちろん大変だよ。でも網の修繕をしないと、海に出ることができない。だから、修繕作業も大事な工程の1つなんだよね

繊細かつスピーディーな手作業に目が追いつかない!


あっという間に綺麗な網目が仕上がりました。破れた網の目を瞬く間に補修してしまう。その手つきはまさに職人!

網目をきっちりと正方形に仕上げるのがプロの仕事


網の仕立て方は誰から教わったのですか?

仕立て方は、先輩漁師の手元を見て覚えたんだ。網や重りによって獲れ高に違いが出てくるから、少しずつ経験を積みながら自分なりにオリジナルの網を仕立てるんだよ

ちなみに多喜男さんが考える最強の網ってどう作るんですか?

それは企業秘密〜!


網の仕立て方とおもりの重さが刺し網漁のキモ。網の一つひとつに漁師それぞれの豊富な知識と経験が詰まっているんですね。


刺し網を海に仕掛けに行くぞ!


網の準備ができたら、いよいよ海へと出発します。出港は15時半。

「ブンッボォ〜〜〜」というエンジン音。お父さんが舵を取る


今日は5、3、6だな

そうだね、今日は5、3、6だ

5、3、6? なにかのフォーメーションですか?

あぁ、今の数字は網の端から浮きまでの間のロープの長さのことです。網は3カ所に仕掛けるから、その場所の水深に合わせてそれぞれの網のロープを5ヒロ、3ヒロ、6ヒロに調整してあるんです。

「ヒロ」というのは俺たちが使う長さの単位で、大人が両手を広げたときの右手の先から左手の先までの長さを1単位として数えるんです。ちなみに父の1ヒロは1.8メートルです


3つの網を仕掛ける位置は、どうやって決めているんですか?

基本的には、天候と水の濁り具合でどこに網を設置するのかをきめているんだよ。濁っている方がエビが獲れやすいからね

(あ! そういえばさっきお父さんのスマホをのぞき見したとき、お天気情報をチェックしていたものね)

スマホで最新の天気図をチェック

釣りの際には黒潮の流れもチェックするのだそう


漁師さんたちは「海がすべて教えてくれる」なんて言うのかなと、勝手な妄想をしていましたが、今や海の上でも情報戦が繰り広げられる時代なんですね。


そんな話をしている間に、船が予定位置に到着しました。

「いくぞ!」という力強い掛け声と共に網の投げ入れがスタート。

網設置ポイントに到着。網を海に投げ入れる大喜さん


1度にドバァっと投げ入れるのかなと思っていましたが、ゆっくりと船を進ませながら、少しつづ丁寧にテンポ良く網を設置していきます。

舵を握るお父さんと、網を投げ入れる大喜さんの息はぴったりです。


一方、そんな2人の華麗な手さばきを横でみていた取材班の頭の中には、次から次へと疑問が浮かびます。

(あの浮き軽そうだけど、波で流されてしまわないのだろうか……)

(本当にこれで伊勢海老が獲れるのだろうか……)

最後に浮きを投げ入れて設置完了!


と、そんなことを考えながら、この日は海を後にしました。きっとすべての謎は明日網を引き上げたときに明らかになるはず。

船に乗っていただけなのに、ひと仕事終えたかのような爽やかな顔をしている取材班


さあ、漁の本番は明日の朝。わくわくしながら一時解散です。


……が! 

実は、明日は大学の健康診断がありまして……私、今日で帰らないといけないんです。なので、イセエビを……見届けることが……できません……


こうして日野原は後ろ髪を引かれる思いで現場を後にしました。

みなさん、後のことは任せました!


次回予告

さ〜て、翌朝の伊勢海老漁は?

ギャーーーッ、波しぶきが! と思ったら横波も! こっわーい!!

しっかり掴まって、振り落とされんように! カメラも気をつけて!

大丈夫です。これ防塵防滴なので

あーっ、これは!!


今日とは一変、大しけの海が小さな漁船に牙を剥く……。

取材班は誰も欠けることなく陸へ戻れるのか? そして、伊勢海老はかかっているのか!?

続く!

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藤井さんの出品はこちら

今季の伊勢海老漁期は5月14日で終了予定……! 気になる方はお急ぎください~。

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文=日野原有紗、編集=大城実結・中川葵、写真=中川葵

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