涙をこらえ現場を後にする日野原から思いを託された取材班・大城が、早朝の白波が立つ海に挑む。そこで待ち受けていた恐るべき生物は……。
<前回のあらすじ>ポケマル取材班は下田で伊勢海老漁を家業として営む藤井さん一家を訪ね、「刺し網漁」について教えてもらう。はじめての取材記事執筆担当の学生インターン日野原は作業風景や漁船に興味津々だったが、残酷にも刺し網漁のメインイベント:網を回収する作業は翌日の平日に行われる。学生の本分を果たすべく日野原は泣く泣く現場を離脱した。 |
荒れ狂う海! 決死の網回収作業
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現在午前5時、おはようございます。大城です。昨日と同じ港に再集合しました。
昨日の晴天とはうって変わって、翌日の明け方は曇り時々雨。さらに沖からは風速7mを越える風が吹きつけ、白波が荒くれ立っていました。
向かい風に体当たりするように沖へ進むこと5分、最初にして本日一の難所へ到着しました。
内海と外海の境界となるこのスポット、容赦ない強風と荒波が待ち構えていました。ジェットコースターのように急上昇急降下を繰り返す船……!
「危ない危ない、振り落とされるな」――全身に力が入ります。
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大揺れのあまりにシャッターを切るのも決死!
と後ほど大喜さんが教えてくれたほどです。(本当にお世話になりました!!)
さあ、雨にも負けず風にも負けず、設置網の回収が始まりました。
洋上に漂う"浮き"を船上に引き上げ、巻き上げ機を使って網を引っ張り上げていきます。
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しばらく引き上げていると、とうとう網が姿を現しました。さあ緊張の一瞬です。
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と、嬉しい悲鳴をあげた大喜さんが両手に抱えていたのは……
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白黒のラインが入ったお魚――イシダイがかかっていました。
しかも全長50センチほどの立派なサイズ! 曰く、こんなに立派なイシダイがかかることは滅多にないのだとか。
高級魚として有名なイシダイは煮付けはもちろん、刺身でいただくと絶品です。道理でニッコニコの笑顔なわけです。
次に大声を出したのは取材班。
網にかかっていたのは獰猛そうな姿のお魚……サメです。
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「ぎゃあ、引っかかっちまったよ〜」と言わんばかりのサメ
大暴れしたのか全身に網が絡みついています。
陸に上がってもなお元気に暴れ続けるサメを、慣れた手つきで淡々と網から外す大喜さん、なんて頼もしいのでしょう。
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暴れるサメを手際良く網から外すと…
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尾ヒレ付近を掴んでおもむろに立ち上がり
\海へお還り!/(ブンッ)
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かくしてサメは海へ帰されました
さてさて、大本命の伊勢海老はというと……
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「じゃーん!」
全ての網にしっかり引っかかっていました! 「今日はまあまあかな?」という大喜さん。大漁時には、網の隙間がないほど次から次へと獲れるのだそうです。
そのまま波と格闘すること30分。3カ所全ての網を引き上げ、船は無事港へ帰ってきました。
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本日の収穫はこちら
帰港した頃には雨天ながらもすっかり明るくなっていました。「伊勢海老は真水に濡れるとすぐに死んでしまうからね」と、急いでビニールシートを上からかぶせてあげます。鮮度は命!
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その後、大喜さんの姉の美帆さんに書いて頂いた図。ふむ、海中はこんな様子なんですね〜
ほほう、なるほど。ということは、仕掛け場所の環境も全て頭に入れた上で網を設置しているということですね? つまり、脳内に海底地図があるということ……すごい!
網から獲物を外すヨ!
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午前6時。
次は網にかかった獲物を一つひとつ丁寧に取り外す作業です。一見地味に見えますが、これはとても大切な工程なのだそう! この作業は取材班も体験させていただけました。
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雨天時には屋根のあるスペースで作業を行う
網の奥からは「ビィィィィ!」という鳴き声が。伊勢海老が威嚇するときに出す音です。
彼らの声を頼りにごそごそと網をまさぐり……
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ここからは美帆さん(左)も登場!
伊勢海老がとうとうその姿を現しました!……にしても、完全にこんがらがってません?
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伊勢海老…だよね? 迷宮入りしてない?(素人の感想)
”網から取り外す”と簡単に言えども、相手は生きている上に、この絡まりよう。相当大変なんじゃないですか……?
下半身は身体の中心から尾に向かって網を外し、上半身は頭部に向かって外していくとスムーズに取り外せるのだとか。
まずは尾から。かぎ針のような道具で体の中心から尾の先の方へ向けて網を取り外していきます
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ひっくり返して次は上半身。中心から頭部に向かって網を外していきます。
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丁寧かつ大胆に網を外していくこと数秒……
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立派な伊勢海老! 活きも抜群だ!(写真は美帆さんのお母様)
と、藤井家の皆様はいとも容易そうに取り外していたので、どんどん取り外していくぞと威勢良く取りかった編集部ですが、想像以上の難しさにタジタジ……。これはプロの手仕事だということが明らかになりました。
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美帆さんと大喜さんに見守られつつ、責任を感じながら伊勢海老を外す筆者……緊張!
そして作業開始より1時間弱。この日の全ての獲物を外し終えました!
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伊勢海老のほかにも思いがけず網に引っかかっていた魚介類の数々
伊勢海老のオスとメスに違いはあるの?
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突然ですが、ここでクエスチョンです。
もちろん知らない取材班。活きの良い伊勢海老たちを見本に、両者の見分け方を教えてもらっちゃいました。
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左がメス、右がオス
ー 伊勢海老のメスの見分け方 ー
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一番後ろの足の先端部に注目してほしい。Vサインのような爪がついているのだ
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矢印の先にある小さな丸い凸がメスの生殖器
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ふわふわの毛で卵を抱きとめてあげる
ー 伊勢海老のオスの見分け方 ー
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オスの尾の裏にはメスのような毛はなく、つるっとしているのが特徴
伊勢海老の産卵期は5月下旬から9月上旬にかけて。しかしながらその時期は禁漁となっているケースが多く、下田も例外ではありません。
つまり卵持ちと出合うのは限りなく難しいということですね。
「毎日、じっくり、丁寧に紡ぐ」
――伊勢海老漁が教えてくれたこと
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ふぅ、全ての獲物も取り終えたし一段落……のワケありませんでした。
次の漁は既に始まっているのです!
午前6時40分。網をたたみ、
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落ち葉掃きならぬ”落ち海藻”掃きをし、
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使用した網を丁寧にポールへかけていきます。
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みなさん何気なく行っていますが、よく見てみればかけ方にも一工夫。絡まることがないよう、規則性のあるたたみ方で干されていました。そんな細かい一挙一動からも、仕事に対する真摯な姿勢を感じました。
それから、網に絡みついた海藻などのゴミとり。
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漁協がひらくのは8時からとのこと。あと1時間ほどあります。
そう言って多喜男さんは網の前に腰掛けます。手元には見慣れた網針セット。
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いつもの網針セットを傍らに、テキパキと破れた網を補修する多喜男さん
なるほど、そういうことか……。そう、昨日の日中も拝見した、破れた網の修復作業がはじまるのです。
まるでゲームのエンディングを見終えてメニュー画面に戻ってきたかのような、果てしない感覚に陥りました。
海との死闘を経てボロボロに破れてしまった網を手作業で直す――言葉で言うのは簡単ですが、それが毎日絶え間なく続くのです。それがどれだけのことなのか、想像を絶します。
伊勢海老漁と聞けば、海から網をザバーッと揚げる豪快なシーンばかりを想像していました。
しかし派手な瞬間はほんの一時のこと。その華々しい一瞬の水揚げは、膨大な丁寧で細かい手仕事が作り上げているのですね。
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網を編むように、”じっくり丁寧に紡ぐ”、藤井さん一家の伊勢海老漁。その姿を見ていたら、なんだか背中を押されたような気がしたのです。
派手なモノ・コトに注目が集まりがちなこの世の中。けれど、その光の部分を支えているのは、熱を持った無数の目立たない仕事たちなのですよね。藤井さん、ありがとうございました!
藤井さんの出品はこちら!
伊勢海老漁は9月から5月中旬まで。在庫があるとき、ある分だけの販売です。
伊勢海老以外の下田の海の幸も、よろしくおねがいします!
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フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。twitter:@moshiroa1 Web: https://miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro
編集・写真:中川葵