伊勢海老のオスとメスはここが違う! 下田のイセエビ漁師に教えてもらったよ

<前回のあらすじ>

ポケマル取材班は下田で伊勢海老漁を家業として営む藤井さん一家を訪ね、「刺し網漁」について教えてもらう。はじめての取材記事執筆担当の学生インターン日野原は作業風景や漁船に興味津々だったが、残酷にも刺し網漁のメインイベント:網を回収する作業は翌日の平日に行われる。学生の本分を果たすべく日野原は泣く泣く現場を離脱した。

伊勢海老を……エビたちを、よろしくお願いしますっ!

前半の記事はこちら:刺し網漁ってどんな漁?下田の伊勢海老漁師に教えてもらったよ

思いを託された取材班は翌朝、海に挑む。だが、そこで待ち受けていたのは……。日野原の思いを引き継ぎ、後半は全国韋駄天ライター大城がお送りします。

\この記事は3本立てです/

  1. 刺し網漁ってどんな漁?
  2. 伊勢海老のオスとメスはここが違う! (この記事)
  3. ただいま鋭意制作中!
 

目次

 
     ここに目次が表示されます。    

荒れ狂う海! 決死の網回収作業


現在午前5時、おはようございます。同じ港に再集合しました。

昨日の晴天とはうって変わって、翌日の明け方は曇り時々雨。さらに沖からは風速7mを越える風が吹きつけ、白波が荒くれ立っていました。

それじゃあ行こうか。海に落とされないように気をつけて


向かい風に体当たりするように沖へ進むこと5分、最初にして本日一の難所へ到着しました。

内海と外海の境界となるこのスポット、容赦ない強風と荒波が待ち構えていました。ジェットコースターのように急上昇急降下を繰り返す船……!

 「危ない危ない、振り落とされるな」――全身に力が入ります。

大揺れのあまりにシャッターを切るのも決死!


いや〜、今日は僕の目から見ても結構やばい日。みなさんを乗せていくのは、正直結構不安でした

と後ほど大喜さんが教えてくれたほどです。(本当にお世話になりました!!)


さあ、雨にも負けず風にも負けず、設置網の回収が始まりました。

洋上に漂う"浮き"を船上に引き上げ、巻き上げ機を使って網を引っ張り上げていきます。


しばらく引き上げていると、とうとう網が姿を現しました。さあ緊張の一瞬です。


あーっ!

と、嬉しい悲鳴をあげた大喜さんが両手に抱えていたのは……


白黒のラインが入ったお魚――イシダイがかかっていました。

しかも全長50センチほどの立派なサイズ! 曰く、こんなに立派なイシダイがかかることは滅多にないのだとか。

高級魚として有名なイシダイは煮付けはもちろん、刺身でいただくと絶品です。道理でニッコニコの笑顔なわけです。


あーっ!

次に大声を出したのは取材班。

網にかかっていたのは獰猛そうな姿のお魚……サメです。

「ぎゃあ、引っかかっちまったよ〜」と言わんばかりのサメ


大暴れしたのか全身に網が絡みついています。

陸に上がってもなお元気に暴れ続けるサメを、慣れた手つきで淡々と網から外す大喜さん、なんて頼もしいのでしょう。

暴れるサメを手際良く網から外すと…

尾ヒレ付近を掴んでおもむろに立ち上がり

\海へお還り!/(ブンッ)

かくしてサメは海へ帰されました


さてさて、大本命の伊勢海老はというと……

「じゃーん!」


全ての網にしっかり引っかかっていました!

「今日はまあまあかな?」という大喜さん。大漁時には、網の隙間がないほど次から次へと獲れるのだそうです。

そのまま波と格闘すること30分。3カ所全ての網を引き上げ、船は無事港へ帰ってきました。

本日の収穫はこちら


帰港した頃には雨天ながらもすっかり明るくなっていました。

「伊勢海老は真水に濡れるとすぐに死んでしまうからね」と、急いでビニールシートを上からかぶせてあげます。鮮度は命!


あれだけ波が荒くれだっていたのに、何で網は流されずにちゃんと設置場所に留まっていたんですか?

おもりが入っているロープが、「根」と呼ばれる大きな岩に引っかかるので固定されるのです。「根」には海藻が生えていることも多いのですが、海藻をかき分けてロープを「根」まで到達させることで、カーテンのように網を海中に張り巡らせています。

その後、大喜さんの姉の美帆さんに書いて頂いた図。ふむ、海中はこんな様子なんですね〜


ほほう、なるほど。ということは、仕掛け場所の環境も全て頭に入れた上で網を設置しているということですね

つまり、脳内に海底地図があるということ……すごい!


網から獲物を外すヨ!


午前6時。

次は網にかかった獲物を一つひとつ丁寧に取り外す作業です。一見地味に見えますが、これはとても大切な工程なのだそう!

この作業は取材班も体験させていただけました。

雨天時には屋根のあるスペースで作業を行う


網の奥からは「ビィィィィ!」という鳴き声が。伊勢海老が威嚇するときに出す音です。

彼らの声を頼りにごそごそと網をまさぐり……

ここからは美帆さん(左)も登場!


伊勢海老がとうとうその姿を現しました!……にしても、完全にこんがらがってません?

伊勢海老…だよね? 迷宮入りしてない?(素人の感想)


 ”網から取り外す”と簡単に言えども、相手は生きている上に、この絡まりよう。相当大変なんじゃないですか……?

いやいや、意外と簡単に取り外せるんですよ。伊勢海老というのは身体の前後で異なる向きのトゲがついています。

下半身は身体の中心から尾に向かって網を外し、上半身は頭部に向かって外していくとスムーズに取り外せるのだとか。


まずは尾から。かぎ針のような道具で体の中心から尾の先の方へ向けて網を取り外していきます


ひっくり返して次は上半身。中心から頭部に向かって網を外していきます。

丁寧かつ大胆に網を外していくこと数秒……


じゃーん、完了です!

立派な伊勢海老! 活きも抜群だ!(写真は美帆さんのお母様)


と、藤井家の皆様はいとも容易そうに取り外していたので、「どんどん取り外していくぞ」と威勢良く取りかった編集部ですが、想像以上の難しさにタジタジ……。これはプロの手仕事だということが明らかになりました。

あの、絶対に傷を付けちゃいけない場所ってありますか?

ありますよ〜。触覚2本とも根元から折れた場合は買い取ってもらえません。あと取れてしまった場合も売り物にならないので注意です。3本以上取れてしまうと……。伊勢海老って結構脆い作りなので、関節の逆方向に押すと簡単に足が取れてしまうんです。

うわわわ、なんて責任重大なんだ!

美帆さんと大喜さんに見守られつつ、責任を感じながら伊勢海老を外す筆者……緊張!


そして作業開始より1時間弱。この日の全ての獲物を外し終えました!

伊勢海老のほかにも思いがけず網に引っかかっていた魚介類の数々


伊勢海老のオスとメスに違いはあるの?


突然ですが、ここでクエスチョンです。

伊勢海老のオスとメスの見分け方って知ってますか?


もちろん知らない取材班。活きの良い伊勢海老たちを見本に、両者の見分け方を教えてもらっちゃいました。

左がメス、右がオス


・メス

メスには一番後ろの足に二股の爪がついています。これは卵をキャッチしてあげるためのものです

一番後ろの足の先端部に注目してほしい。Vサインのような爪がついているのだ


あとは3番目の足の付け根のぷにっとした突起物がメスの生殖器です

矢印の先にある小さな丸い凸がメスの生殖器


あとは尾のひれの内側に毛が生えているでしょ。メスはここで卵をホールドするんです

ふわふわの毛で卵を抱きとめてあげる


・オス

一方オスの尾っぽはつるっとしていますね。あと一番後ろの足の付け根にオスの生殖器があります

オスの尾の裏にはメスのような毛はなく、つるっとしているのが特徴


オスとメスで味の違いってあるんですか?

個体での味の違いありませんが、産卵期には水揚げされたメスで卵を持っているものもいます。もし子持ちのメスが当たった場合はラッキーですね


伊勢海老の産卵期は5月下旬から9月上旬にかけて。しかしながらその時期は禁漁となっているケースが多く、下田も例外ではありません。

つまり卵持ちと出合うのは限りなく難しいということですね。


ちなみに伊勢海老がいちばん美味しいのはいつですか?

いちばんは12月から1月ですね。春は脱皮の季節で成長にエネルギーを使ってしまうから、味は正直微妙なんだよね


「毎日、じっくり、丁寧に紡ぐ」
――伊勢海老漁が教えてくれたこと


ふぅ、全ての獲物も取り終えたし一段落……のワケありませんでした。

次の漁は既に始まっているのです!


午前6時40分。網をたたみ、


落ち葉掃きならぬ”落ち海藻”掃きをし、


使用した網を丁寧にポールへかけていきます。


みなさん何気なく行っていますが、よく見てみればかけ方にも一工夫。絡まることがないよう、規則性のあるたたみ方で干されていました。そんな細かい一挙一動からも、仕事に対する真摯な姿勢を感じました。

それから、網に絡みついた海藻などのゴミとり。


漁協がひらくのは8時からとのこと。あと1時間ほどあります。

さてと……


そう言って多喜男さんは網の前に腰掛けます。手元には見慣れた網針セット。

いつもの網針セットを傍らに、テキパキと破れた網を補修する多喜男さん


なるほど、そういうことか……。そう、昨日の日中も拝見した、破れた網の修復作業がはじまるのです。

まるでゲームのエンディングを見終えてメニュー画面に戻ってきたかのような、果てしない感覚に陥りました。

海との死闘を経てボロボロに破れてしまった網を手作業で直す――言葉で言うのは簡単ですが、それが毎日絶え間なく続くのです。それがどれだけのことなのか、想像を絶します。


放っておいたらどんどん網がボロボロになる。手を止めたらいつの間にか補修が追っつかなっちゃうんだよね。だからご飯前やご飯後、時には家族で夜なべして。時間を見つけてマメに補修しなきゃ

網が破れたままだと?

破れたままだとそりゃあ獲物は逃げちまうし、なによりかっこ悪いだろ? 他の漁師に笑われちゃうよ。破れもない、ピシッと目が揃っている網ってのが大切。これが出来ねえヤツに漁はできないよ


伊勢海老漁と聞けば、海から網をザバーッと揚げる豪快なシーンばかりを想像していました。

しかし派手な瞬間はほんの一時のこと。

その華々しい一瞬の水揚げは、膨大な丁寧で細かい手仕事が作り上げているのですね。


網を編むように、”じっくり丁寧に紡ぐ”、藤井さん一家の伊勢海老漁。

その姿を見ていたら、なんだか背中を押されたような気がしたのです。

派手なモノ・コトに注目が集まりがちなこの世の中。けれど、その光の部分を支えているのは、熱を持った無数の目立たない仕事たちなのです。

藤井さん、ありがとうございました!


藤井さんの出品はこちら!

伊勢海老漁は5月14日で漁期終了のため、在庫終了次第販売終了となります。次の漁期の始まりは9月とのこと。

夏の間は、潜水漁でとれるサザエやナマコなどなどをお楽しみいただける予定〜!

藤井美帆さんの出品をもっとみる

Writer

大城実結/MIYU Oshiro

フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。twitter:@moshiroa1 Web: https://miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro

編集・写真:中川葵

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