「普段は僕以外、立ち入れないようにしている畑を特別にお見せしますよ。自然の恵みがたっぷりつまった”美しい畑”。料理に例えるなら、サラダの最高峰と言われる”ミシェル・ブラスのガルグイユ*”です」
そう話すのは、神奈川県小田原市のレモン農家、菅原亜郎さん。
農薬、化学肥料、除草剤、防腐剤、動物性堆肥を一切使わず、放射能検査もクリアした、「安心して皮まで食べられる0.1%のレモン」を育てていらっしゃいます。
昨シーズンにはポケマルで大反響をいただいた、このとっても希少な自然栽培レモン。本格的な収穫期を控えた11月末、その生産現場を訪ねてきました!
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オーシャンレモン 菅原亜郎|神奈川県小田原市
神奈川県小田原の海の見える農園で、太陽と潮風をいっぱいに浴びて育ったレモンを育てています。私たちは農薬、化学肥料、キャリーオーバーが心配な動物性堆肥、除草剤、防腐剤を一切使わずに、誰もが安心して皮まで食べられるレモンを育てています。
自然栽培は”ほったらかし”ではない
東京駅からJR東海道線に乗車し、車窓の向こう側に広がる海を眺めながら走ること約1時間半。神奈川県小田原市にある早川駅で、菅原さんが出迎えてくれました。そこから車に乗り込み10分弱、狭い路地を何度も曲がりながら急坂を駆け上がっていきます。
「ここからが僕の畑です」
菅原さんにうながされ足を踏み入れたその場所は、なんだか周囲の畑と様子が違います……。
除草剤を使用している隣人の畑(左側)と菅原さんの畑(右側)との境界に立つと、地面に生えている草の量が明らかに違うことがよくわかりました。
凹凸のある柔らかい地面の上を、草木が不均一に生い茂っていて、一見すると”手入れの行き届いていない荒々しい畑”。でもこの畑から、あの希少なレモンが生まれているんです。
ーー”変わった畑”に見えますが?
土がとても柔らかくて、いろんな種類の草が生えています。農薬や化学肥料など外からは一切のものを持ち込まず、まさに自然そのままの状態です。ヘビもモグラもイノシシもいますよ(笑)それほど、多様な生態系といえます。
慣行農法(農薬・化学肥料を使用する一般的な栽培方法)をしている人にとっては”汚い畑”に見えるかもしれません。でも、僕に言わせれば”美しい畑”そのものです。
取材当日も大きなクモやカマキリなどの昆虫の姿が。
ーーもともとは、どんな場所だったんですか?
ここは以前、耕作放棄地でした。農薬を使わずに病気が発生しにくくなるような生態系を整えるのに5年以上かかりました。肥料は敷地内にある雑草を発酵させた緑肥と腐葉土を使っています。
2.5反の広さに、100本ほどのレモンの木が植わっています。
当初はどこにレモンの木があるのかわからないほどに草木が繁茂していたといいます。
ーー自然の状態を維持するのは大変そうです……。
特に草刈りは想像を絶する厳しい作業です。まず毎年4月に、どんな草木が生えてくるか様子を見ます。5月を過ぎると、それがあっという間に僕の背丈くらいまで伸びるんです。
でもここで重要なのは、”決して手当たり次第に刈るわけではない”ということです。
雑草の草丈について説明する菅原さん。一気に背丈くらいまで伸びる脅威的なスピードに驚いたそうです。
ーーどういうことですか?
自然栽培は“ほったらかし”とよく言われますが、それは違います。
例えば保水力の高い草や、生き物の活動に必要な草は刈らずに残しておいた方が、僕のレモンの生育にはプラスになります。
だから、畑や草の写真を知り合いの農学者に見てもらい、アドバイスをもらいながら観察を続け、「これは刈る」「あれは刈らずに残しておく」などと判断しているんです。
この独自の“選択的草刈り”を10月頃までの約半年間続けて、11月に入ってようやく「やっと草刈りせずに済む」とひと安心できるんです(笑)
収穫量はわずか10%。経済的には持続不可能な自然栽培
「大きくないですか?」木の枝にぶら下がる鮮やかな黄色のレモンを眺めながら、菅原さんは僕らにこう語りかけました。確かに、「これはレモンなのか?」と思うほど大きい……。
普段目にするレモンと比べてふたまわりほど大きい、手のひらサイズのレモン。
ーー確かに、大きいですね!
レモンは「肥料喰い」と言われるほど、大量に化学肥料を与えないと育ちにくい果実です。でも、僕の場合は化学肥料も動物性堆肥も一切使わずに育てています。それでもここまで大きく成長していることには、よく驚かれますね。今年は例年以上にサイズが大きく、実つきもいいと思います。
ーーそれはなぜですか?
草刈りなど畑の環境を工夫している成果だと思います。昨年は1本の木に20個ほどだった実つきが、今年は30〜40個ほど生っています。少しずつ、収穫量が上がってきてるんです。それでも、化学肥料などを使う通常の農法と比べると、収穫量は10分の1ほどしかありません。
ーーたったの10分の1ですか……。
自然環境的には非常にサステナブルな農法ですが、経済的には持続不可能な農法だと思います。一度、心が折れそうになったことがあります。
この畑で生産できそうなすべてのレモンを市場価格に照らし合わせてみたら、20万円ほどにしかならなかったんです。ケタが1つ違うんじゃないかと思いましたよ(笑)
自然栽培の厳しい現実を語る。立ちはだかる壁は、予想以上に高かったのです。
ーー全部売れても20万円分とは、衝撃的です……。
僕は以前、数店舗のイタリアンレストランでオーナーシェフをしていました。今でも逗子市(神奈川県)に1店舗だけ営業しているお店があって、その売上げがあるからなんとか持ちこたえてますが、農業を始めた途端、貯金がどんどん減っていきましたよ。
はっきり言って、収穫量が少なすぎるんです。
未来の選択肢でありたいから、自然栽培レモンにこだわる
菅原さんによると、これほど栽培方法と安全性にこだわったレモンは、国内に0.1%ほどしかないといいます。
大変な手間がかかるのに収入は少ない。経済合理性でみれば「不採算」な自然栽培に、何故ここまでこだわっているのでしょうか?そこには、菅原さんの強い信念がありました。
以前の畑の持ち主が使っていたレモンを運ぶためのレールはフサフサの草に包み込まれていました。
ーーなぜそれでも、自然栽培にこだわりを?
“選択肢”でありたいんです。経済や効率優先でつくるものしか残らなかったら、取り返しのつかない社会になってしまうんじゃないか。
慣行農法を悪く言うつもりは全くありません。でも、僕は本当に必要とする人や自分の大切な人のために、「安心な食の未来」の選択肢を遺しておきたいんです。耕作放棄地が増えている今こそチャンスなんです。
逆境でも突き進むーー。自然栽培レモンへの情熱がひしひしと伝わってきました。
ーー中でも、レモンにこだわる理由は?
レモンは栄養価の高い非常にユニークな果実です。
特に皮の部分に含まれているポリフェノールやリモノイドなどの機能性成分には、糖尿病の予防や発がん抑制作用などが期待されています。他にも、精油成分による集中力・記憶力改善効果など、レモンに含まれる成分に関する研究報告は多数あります。
オーシャンレモンのホームページでは、レモンに関する様々な情報が紹介されています(画像:https://oceanlemon.jimdo.com/ )
ーーでも、皮は普通は食べないですよね……?
輸入レモンの皮には防腐剤が塗られ、国産レモンでも農薬が使われているものは多いです。農薬を使っていない場合でも、収穫量を確保するために化学肥料や動物性堆肥が使われているケースが大半です。
いくら探しても、皮の安全性に納得できるレモンを見つけることはできませんでした。それなら自分でつくろう。そう決意したんです。
ーー周囲に反対されたりはしなかったのでしょうか?
「続かないよ」「無謀だ」などとよく言われましたよ。東京で経営していたレストランも手放したわけですからね。
それでも、少しずつ収穫量も上がってきましたし、ポケマルでの販売を通して自信もつきました。思いが伝わり、驚きや感動の声をたくさんいただくことができたからです。「そうだよね!」と心の中で何度も叫びましたよ(笑)
購入したお客さんから続々と届く「ごちそうさま投稿」(ポケマルコミュニティより)
皮までまるごと味わって!「0.1%のレモン」いよいよ出品開始
ポケマルで11月はじめに限定数で出品された若々しい緑色の新レモンは、出品後1日で即完売となる反響ぶりでした。そして、11月後半からは光り輝く黄色のレモンの収穫がはじまっています。
気になる”おいしい食べ方”について、菅原さんがレストランで提供しているメニューも交えて紹介してくれましたよ!
ーーレストランでもこのレモンを使っているんですよね?
ランチ営業で提供している料理には、レモンの果汁も皮もたっぷり使ってますよ。生ガキに添えたり、手打ちの生パスタにレモンの皮を練りこんだり。デトックスウォーターも人気です。ここでしか味わえないようなメニューを揃えてます!
ーー家庭で試すなら、どうやって食べるのがオススメですか?
ぜひ皮まで丸ごと味わってほしいですね。いろんなレモンの楽しみ方を知ってもらいたいので、今回から調理方法を載せたチラシを同封することにしました。
レモネードやはちみつレモン、塩レモン。このあたり定番ですが驚くほど美味しいはずです。
Miya.aさんから菅原さんのコミュニティに投稿された写真。なんと豊富なバリエーション!
ーー皮はどう有効活用すればいいですかね?
皮は剥いてリキュールなどにつけてレモン酒に。すりおろしてサラダやパスタの香りづけに。
さらに、切り刻んだ皮と同量の砂糖に4日間ほど漬ければ、酵素シロップが出来上がります。それをお湯やサイダーで割って飲むと、びっくりするほど美味しいですよ。
頭上に広がる青い空、光り輝く太陽、眼下に広がる青い海、時折聞こえてくる鳥のさえずり。都心から電車でわずか1時半の場所に、こんなにもゆったりとした時間が流れる居心地のいい空間があったとは……。
その光景とは対照的に、自分の求める安全性のクオリティを巡る過酷な現実と対峙している菅原さん。爽やかな表情と淡々と放つ言葉には、どこか”覚悟”のようものが滲み出ているように見えました。
菅原さんのレモン畑から南を望めば太平洋のオーシャンビュー
菅原さん渾身の「フルオーガニックレモン」は、即完売必至の逸品です。ぜひ手にとってその大きさを肌で感じ、0.1%の味を舌で堪能し、菅原さんの苦労と情熱に思いを馳せてみてください!
*ミシェル・ブラスのガルグイユ:21世紀を代表するフレンチシェフと言われるミシェル・ブラス(Michel Bras)のスペシャリテで、素材ごとに最適な方法で調理された数十種類もの野菜やハーブを用いた一皿。北海道洞爺湖にある「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」のホームページには「色合い、香り、味わい、動きのある盛り付け、そして官能がエレガントに混じりあうと称される」と記載されている。
菅原さんのレモンの出品はこちら
※写真の左上に[在庫なし]と表示されている場合は21:00になると販売再開します。
※[販売終了]となっている場合は、もしかしたらこの他の出品が用意されているかもしれません。ぜひ菅原さんの出品一覧ページも覗いてみてくださいね。
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近藤快
化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。