クレソン農家とクレソン鍋で座談会。1kgペロリの美味鍋だったよ

農家と共にクレソン1kgを丸鶏出汁の鍋で食べ尽くしつつ、農家になった理由や栽培方法、農業経営などについて質問しました。色鮮やかなクレソン鍋はクレソンの美味しい食べ方としてオススメです。


ある日、「クレソン1kg」という男気溢れた商品が販売されているのを発見したポケマルスタッフ。


その出品者である栽培農家は「GPA(ゴウツ・パクチー・アソシエイション)」というクレソンのクの字も入っていない謎の会社だった。

一体このクレソンを作っているのはどんなヒトなのだろうか……? 気になる我々にある日一通の電話があった。


——もしもし。

すみません、ボクGPAの原田と申します

——お世話になっております。もしやあのクレソンの…?

はいそうです。実は今度東京へ行く用事がありまして、よければポケマルオフィスにお邪魔できないかな、と

——もちろんお待ちしております! 一緒にクレソンを頂きましょう


というわけでクレソン農家原田さんとクレソンを頂くことに。

しかし、1kgという計り知れない量におののくポケマルスタッフ。栽培農家を前にして食べ残すことなどあってはならない。思案の末、クレソンの食べ方はにすることに。

そうして急遽クレソン鍋座談会の開催が決まったのであった。

Producer

株式会社GPA 原田真宜|島根県江津市

神奈川県川崎市出身ですが、2016年7月に縁あって島根県江津(ごうつ)市にIターン移住しました。社名の由来は「G(ゴウツ)、P(パクチー)、A(アソシエーション)」です。農業があまり盛んでない同地においてパクチーをきっかけに地域活性に貢献していきたいという想いからこのように名付けました。


目次

ここに目次が表示されます。

クレソン農家の原田さんってどんなヒト?

鍋を囲んだポケマルスタッフと原田さん。本日原田さんと語らうポケマルメンバーは…。

登場人物
  • ヒゲのCOOホンマ:ポケマルの最強コミュ力を誇り「ヒゲは俺のアイデンティティ」と豪語する旅人
  • 鍋奉行ナカガワ:図々しさでは右に出るものがおらずポケマルの黒幕と揶揄されるが、性格は典型的O型
  • 素敵女子ハギワラ:ポケマルの新着を支えるライター、みなぎる明るさが私たちを照らす
  • ライターおおしろ:自転車と旅をこよなく愛し、どこでも寝られる体質を存分に活かし奔放に取材へ向かう。離島へひっそり渡航するのが生きがい。

テーブル上には丸鶏が鎮座する鍋と山盛りのクレソン1kgがどんと置かれている。


それではよろしくお願いします! 早速といったらなんですが、とりあえず鍋にクレソン第一陣を投入するので、煮えるまで原田さんのことについて教えてください。

はい、僕は現在、島根県江津市で農家をやっています。東京の大学のスポーツ科学系の学部を卒業した後、高級ホテルや旅館を専門に扱う宿泊予約サイトを運営している会社に入社しました。会社では主にクライアントとなるホテルや旅館さんに、提案営業を行っていました


一同:ほうほう。

:コトコト(中火)


しかし、青山ファーマーズマーケットでサラダ屋さんの手伝いしたを経験を通して、はじめて真面目に食と農業に向き合い、どんどんハマっていきました。それまでの某チェーン牛丼屋に連日お世話になるというほどの無頓着ぶりから一転しました


一同:なかなかの転機が訪れましたね。

:コトコト(依然中火)


食・農業への興味がますます高まった僕は、全国各地の農園や果樹園へ通いました。そこで一番衝撃を受けたのが、愛媛の柑橘農家さんでの出来事。本来は収穫されるはずのみかんがそこらじゅうに転がっているのです。話を聞くとこれ以上収穫しても採算が取れない、つまりは「稼げない」というのです。そこで僕は自分に何か出来ないか考えました


:ブシューッ

おっといけない(そう言いながら弱火にする)


落ちているみかんを拾って食べてみれば、東京では購入できないほど本当に美味しいものばかりでした。そこで僕はそのみかんを集めてジュースにし、自分の出勤前のひとときに職場近くのパン屋さんで売らせてもらうことにしたのです。そこで得た収益は、その柑橘農家さんに還元するという形でどうにか手助けできないかな…と。

けれどそれだけじゃ農業の本質は見えない実際に自分で農家をやってみなくては何も語れない! ということで農家になることを決意しました

鍋を前に語る原田さん


その後、原田さんは農家を志しながら同時に経営の勉強を始めたという。全ては「持続可能な農業(稼げる農業)」を実現するためだ。

そんな時に出会ったのが島根県の江津(ごうつ)という土地でした。

江津は地域おこしのためのプロジェクトも活発で、全国から”面白いことをしたい”という個性豊かなヒトが集まる地です。全国津々浦々で就農するための場所を探していましたが、ここまでぴったりくる土地はない! と直感的に思いましたね。さらには江津市主催のビジネスプランコンテスト*で、仲間と一緒に考案したプランが大賞を取ったことが江津で農家をやる決定打となりました

*編集部注:「Go-Con」という江津市主催の江津を盛り上げるためのビジネスプランのプレゼン大会。詳しくはこちらをご覧ください


みなさん、お話し中すみません! クレソン鍋が出来ました。食べましょう!

湯気の奥にはクタッとなったクレソンがたっぷり


一同:いただきま〜す……ウオォ

うまーい! クレソン独特の辛味がまろやかになってて食べやすい。クレソンがクレソンじゃないよ。

でもお出汁にはクレソンのスパイシー感がちゃんと出てるよね。美味しい。

食べやすいですね、どんどん頂けちゃう!


今回は何出汁なんですか?

今日は鶏出汁です。沖縄の大谷明正さんの福幸地鶏の丸鶏を昨晩から煮込んでおいたんです。豚や牛でも食べてみたいなあ。

そうですね、クレソンの辛味は消化促進に良いとされているのでぴったりかもしれませんね。だからこそクレソンはステーキやハンバーグなど、ガッツリしたものに添えられているんですよ

一同:なるほど、言われてみたらすごく納得!


水耕栽培ってナニ?

生活感あふれるポケマルオフィス。原田さんも「居心地が良すぎる…」とつぶやいていた(中川スマホ撮影)


あの、ここまできてこの質問は野暮かもしれないのですが、原田さんは現在江津市でGPA(ゴウツ・パクチー・アソシエイション)という会社を経営して農家をやられているじゃないですか。でも今ってパクチーの出品はありませんよね?(※取材当時11月上旬のことです)

はい、おっしゃる通りです。本来ならばパクチーをメインでやっていくつもりだったのですが、今年の夏にパクチーが病気にかかり全滅してしまって……


一同:おお…神よ……


そんな中、パクチーと一緒にクレソンも作ってほしいというリクエストがあり、それに応じて作り始めたのがキッカケでした。うちは水耕栽培で野菜を育てているので、幅広い種類の植物の育成が可能なのです

水耕栽培というと、栄養素などを溶かし込んだ水のみで植物を栽培する方法ですか?

はいそうです。僕たちの農園では江津の豊かな井戸水を使用しているため通年での栽培が可能です。それに加えて、関東にある大学との共同研究で水に溶かす肥料の最適な分量の研究も行っているので、その植物にとって必要な栄養素を必要な分だけ与えることができています

原田さんの農園の様子


栄養素もそうだけど、やっぱりベースとなる水が良質というのが良いよね。

そうですね。水耕栽培にとって水は必要不可欠ですので水源がそばにあることはとても有難いことでした。僕たちの畑はまだビニールハウス2棟程度ですが、将来は更なる規模拡大を画策しています


ムムッ! クレソンがなくなり始めているぞ! クレソンを足してください。

追いクレソンですね。ガンガンいきましょう。

モリモリと食されていくクレソンの山


わんこそばのように次々とクレソンを鍋に投入するも、美味しさのあまり食べるペースはさらにアップし、鍋の中でどんどんクレソンが煮えていく。

気付けばクレソンの山も半分以下になっていた。


”農業×旅行業” 原田さんの次なる夢

実は僕、もう一つ実現したいことがありまして。それが農業と旅行業を結びつけることなんです

なるほど、確かに旅行関係の仕事経験がありますもんね。

そうなんです、実は総合旅行取扱管理者という資格も持ってまして、これを活用しない手はないと思いまして。まだ色々企画段階ではあるのですが、地域を元気にするような旅のプランを考えています

具体的にはどんな旅になるの?

1つ目が、地域周遊型の農業×旅行ですね。例えば、最初に農家さんのもとで農業体験して、そこで採れた食材を近くのレストランで調理してもらう。さらにその晩は町のゲストハウスに宿泊するといったものです。

2つ目に、江津の面白いヒト巡りツアーを考えています。江津にはクラフトビールを作っている方や、古民家の廃材から家具を作っている職人さんなど、全国からユニークなヒトが集まっています。そんな面白い人々に会いに行こう、ファンになろう! という旅です


夢を語る原田さん。既存の農業という枠にとらわれず、他ジャンルと積極的に手を取り合おうというその姿勢は、鍋界の革命児”クレソン鍋”のように新たな発見を生み出すかもしれない……とライターおおしろは密かに思ったのであった。


ていうか、クレソン結構なくなってない?

気付けばあと一握りとなっていた


本当だ、喋ってたらあっという間だったね

クレソン……案外ラクラク完食できますね……!


まだまだ止まらぬGPAの歩み

クレソン鍋も終盤に差し掛かる。「それでもまだまだ課題も山積しているんです」と原田さんは続けた。


もっと多くの人に味わっていただきたいけれど、生産技術が未熟なため、安定生産できていないことが現在の課題です。あとは創意工夫で、水耕栽培を研究しています。農業用の資材を投入すればよいのですが、コストカットの観点から、自身で考えて必要な資材を手づくりして…言ってしまえばDIY農業をやってます

「まだまだ2棟で規模も小さいですが…」と話す原田さんの愛情をたっぷり受けるクレソンくん


おもしろーい! 今経営についてガッツリ勉強している方が、ビジネスプランを書いて大賞を取って、今は水耕栽培をしているんだけど、やっていることはDIY農業という。手作り感満載でとっても良いね

ふふふ。見てくれは悪いかもしれないですが、工夫を凝らせば凝らすほどコスト削減や生産性向上に繋がるので面白いですよ!


みなさん注目! これがラストのクレソン、これから鍋に投入しますよ!

一同:はーい

そうして投入されたラスト・クレソンたち

原田さんも大興奮(中川スマホ撮影)


絶対的な物量が、今完全になくなろうとしている様に、一抹の寂しさがテーブルを包む。


ときに原田さん。クレソンを栽培していて「かわいいな」って思うことあります?

ありますよ、もちろん

クレソンはどちらかというと息子と娘、どちらですか?

一同:???

う〜ん……息子ですかね。時々電気設備のトラブルで、水を流すポンプが停止しちゃうんですが、そんなときに試練にも耐え抜いて頑張れ! 気合だ!』という気分になっちゃいます

そんな原田さんの息子たちを美味しく完食しました


盛りだくさんに見えたクレソンの束も、気付けばあっという間になくなっていた。

噛みしめるたびに溢れ出す、クレソンの清涼感のある旨味と原田さんの熱い想い。原田さんの農業は、様々なヒトと物事を繋ぎ、地域とともに未来を見つめる生業だった。

原田さんは今日も農園で愛する息子=クレソンたちを丁寧に育て続けている。そんな江津からの贈り物を噛み締めてみてはいかがだろうか。

生産者を囲む鍋会、大団円!(中川スマホ撮影)


原田さん、ごちそうさまでした!


原田さんの出品はこちら

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◎今回の名脇役の福幸地鶏の丸鶏の生産者は大谷さん。

インタビュー記事はこちら:究極の焼鳥マニア、沖縄で地鶏を創る。琉球食鶏・大谷明正さんに会ってきた!

大谷明正さんの出品をもっとみる


Writer

大城実結/MIYU Oshiro

フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。twitter:@moshiroa1 Web: https://miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro

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