沖縄といえば、アグーと呼ばれる豚肉や高級銘柄として有名な石垣牛など、豚や牛のイメージが強い。そんな中、那覇市泉崎の焼き鳥屋で、こだわりの地鶏肉を焼き続ける”職人”がいる。
その焼き鳥屋の名は「白鳥(スワン)」。どうやらこの焼鳥屋で提供されている鶏肉は、店主自身が飼育している特別な鶏肉なのだとか…。
その謎を解明すべく、腹ペコ飲ん兵衛ライター・おおしろが大谷さんに突撃取材してきました!
Producer
琉球食鶏 大谷明正|沖縄県那覇市
那覇市旭橋の焼き鳥屋「白鳥」店主でありつつ、福幸地鶏の生産者でもある。沖縄では「スワン大谷」の名で親しまれている。自他ともに認める究極の”焼鳥マニア”。公式ブログはこちら:スワン大谷の伝説の焼き鳥屋への道 エピソード2
焼鳥フルコース!福幸地鶏をまるっと頂きます
ゆいレール「旭橋駅」より徒歩3分。那覇バスターミナルの裏にある焼き鳥屋「白鳥(スワン)」が今回の目的地だ。
日中はサンドウィッチの販売もしている
―ーガランガラン。店内に踏み込むと、驚きの光景が広がっていた。
まるで寿司屋のカウンターだ
全10席、カウンターのみ。味わい深い木材や外壁材を用いた内装は、懐石料理や寿司屋を彷彿とさせ、外観と180度異なる印象をうけた。
店内に光る提灯も飲ん兵衛お馴染みの”赤ちょうちん”ではなかった
威勢よく笑顔で現れたのは、スワン大谷こと大谷明正さん。割烹着に袖捲りが絵になる大谷さんは、白鳥の店主であり、沖縄発の地鶏ブランド「福幸地鶏」の生産者でもある。
ここ焼き鳥屋「白鳥」のメニューはなんと驚きのおまかせコース。着席した瞬間から客が「ストップ」と言うまで、次々に店主おすすめの焼き鳥が振る舞われる。
朝びきの福幸地鶏を鮮度そのまま一番美味しい食べ方で頂くことができる、今までになかった焼鳥の食べ方を提案している。
福幸地鶏をたらふく頂くには、黙って「おまかせ焼き」一択である
カウンターの向こう側で、大谷さんが串打ちを開始した。客の目の前で鮮やかな手さばきで鶏肉を串に刺し、すぐ横にある炭焼き台にのせていく。普通の焼き鳥屋では見られない光景だ。
焼き台と客席との間の空間には隔てるものはないが、煙はすべて焼き台に吸い込まれるため室内に充満することはない。寿司屋のような空間をつくるために大谷さんが選んだ自慢の焼き台だ。
沖縄伝統のクバの葉で火をおこす大谷さん
リアルタイムで調理されてゆく桜色の福幸地鶏は艷やかに光沢を放っていた。
――この「福幸地鶏」は大谷さんが育て上げたということですが、一体どんな地鶏なんですか?
大谷さんはカウンター越しに話しながらもテキパキと小皿を差し出す。
柔らかムネ肉に濃厚レバーペースト、贅沢な鶏 on 鶏だ
一口食べてその美味しさにとろけてしまいそうだった。あっさりしながらも柔らかいムネ肉に、臭みがゼロのレバーペーストが絡み合う。福幸地鶏、恐ろしい子……!
レアで頂く柔らかササミは、新鮮だからこそ可能となった絶品
まさに百聞は一見にしかず。頬張り目を瞑れば福幸地鶏が育ってきた環境と、力強い沖縄の太陽がまぶたにに浮かぶようだった。
しっかりと引き締まった身と程よい脂身、部位ごとに異なる香り高い鶏の味わいが、めくるめく快楽とともに胃に飛び込んでくる。
せせり、つくね、もも、手羽……王道の部位を頂き内臓へ突入する。
取材に同行した編集なかがわ撮影のメモ写真から。怒涛の鶏づくしだったことをおわかりいただけるだろうか
こちらは旨味がパンパンに詰まったジューシーな砂肝。まるでスナック菓子のように軽いサクサクとした歯ざわり。筆者の砂肝観がひっくり返った。
ぷつんとジューシーに弾ける砂肝
「嘘でしょ…」信じられないほどの美味に戦慄
この美味しさは言葉では表現できない、とライターあるまじき発言をしてしまう筆者。
前歯で丁寧に身を噛んだ瞬間、中からとろりとレバーの濃厚な旨味がとろけ出してきた。今まで食べてきたレバーをすべて忘れさせてしまうような絶対的美味と対面する。
――大谷さん、この美味しさは何事ですか……!?
ここまでの焼鳥マニア、一体どんな人生を歩んできたのだろう。その鶏肉の味わい深さに負けないくらいの味わい深い経歴があったに違いない……!
焼鳥野郎・スワン大谷、焼鳥道まっしぐらの半生
もともと焼鳥が好きで、頻繁に食べ歩きを行っていた”ただの焼鳥ファン”だった大谷さん、ある出来事をキッカケに現在の道を歩み始めたという。
当時、白鳥の衣装を着てしばし登場することから”スワン大谷”という名で人気ブロガーにまで成長していた大谷さん。焼き鳥屋台の開店にあたっても、オープンまでをブログでカウントダウンし、開店当初はブログのファンで大賑わいだったという。
引用: http://swanepisode1.ti-da.net/c109631.html
「ガタイの良いおじさんがピチッとした白鳥の衣装を着る…その衝撃的な姿には当時見るもの全員がザワツイた」と、カウンターの隣に座る常連さんが補足説明をしてくれた。
その後、焼鳥の全国大会「やきとリンピック」に出場した大谷さん。4年連続で出場するも、金メダルには手が届かず……。そこで目の当たりにしたのは、その地域が誇る地鶏の存在だった。
「地鶏」とは、「地鶏肉の日本農林規格*」で規定されている4つの条件をすべて満たしたものだけが表示できる鶏肉の規格である。明治時代までに日本に定着していた38種類の鶏(在来種)の血を50%以上受け継いでいることや、生育環境に関する基準が設けられている。
大谷さんは焼鳥に適した種を探して全国を奔走した結果、愛知県岡崎市で育成された「岡崎おうはん**」にたどり着き、その有精卵を沖縄に空輸することにより、初めての地鶏飼育にこぎつけた。
血統は沖縄由来ではないものの、その飼育環境にはこれ以上ないほどこだわったと語る。
朝びきの鶏を店舗の隣にある加工場で処理し、その日の晩に焼鳥として提供している
その福幸地鶏、現在は「白鳥」をはじめとする那覇市内の飲食店と、ホテルのレストラン数店舗で食べることができる。ちなみに一般のお客さんが直接購入できるのは、ポケマルだけなのだそう!
食べることで沖縄在来種を守る。焼鳥野郎の次なる一手
福幸地鶏で地鶏生産のノウハウを得た焼鳥道一直線の大谷さんは、さらに一歩先の未来を見つめている。正真正銘の沖縄オリジナル地鶏の開発だ。
そこで目をつけたのが、沖縄県の在来種「ウタイチャーン***」である。
――ウタイチャーンって、一体どんな鶏なんですか?
――絶滅……。昔のままでは生き残れなくなったと。
しかし、ウタイチャーンをそのまま食用鶏として飼育することはできないという。沖縄県の天然記念物に指定されているからだ。
そこで大谷さんは、ウタイチャーンを親に持つ地鶏の開発を目指している。
焼鳥好きから焼き鳥屋へ。そして地鶏の開発を通じて沖縄の新たな食文化を創出する。そんな焼鳥野郎の生き様がここにあった。
そして今日も、スワン大谷の躍進は止まらない。焼鳥串片手に、熱く語られる鶏への愛を一心に感じながらディープな那覇の夜は更けていった。
*参考:地鶏肉の日本農林規格(農林水産省ホームページより)
**岡崎おうはん:在来種の「横斑プリマスロック」を父に「ロードアイランドレッド」を母にもつ、純国産の卵肉兼用種。
***参考:ウタイチャーン(チャーン)について(琉球大学博物館ホームページ)
大谷さんの出品はこちら
◎大谷さんが串打ちして送ってくれる焼き鳥セット
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フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表。公式Webサイトhttps://miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro