商売下手オヤジが育てる極上の安楽島カキ。はちろべ水産・中村一家に会ってきた!

初めての養殖真珠を生んだ美しい海の広がる鳥羽市。その海岸線の真ん中あたりに位置する安楽島で、夏場は海女として活躍する中村彩さん。はちろべ水産を営むご一家は秋から冬のこの時季は牡蠣の出荷に大忙しです。2017年10月、秋晴れの安楽島を訪れました。

記事公開日:2017.11.20. 最終更新日:2018/11/23

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はちろべ水産 中村彩|三重県鳥羽市

はちろべ水産の中村です。10月から4月まで牡蠣の養殖をして、7月から9月まで海女漁でサザエやアワビ・ウニ等を採っています。牡蠣を剥くのは家族4人なので大量生産は出来ませんが、1つ1つ丁寧に剥くので厳選したものを送る事ができます

違いがわかれば、おいしさがわかる 牡蠣はココを見ろ!

作業台の上に積まれた牡蠣の山。はちろべ水産2代目中村楠良(くすよし)さんと、3代目の隆文さん・さん夫妻の三人で息つく間もなく牡蠣をむき身にしていきます。


貝を手に取ってから5秒ほどで、瞬く間にボールの中はおいしそうな牡蠣でいっぱいになりました。


牡蠣は前年の11月頃に種付をし、約1年かけて海の中で育っていきます。その仕上がりはその年その年の天候、海の状況によって決まります。


農家さんでもそうやないか。雨が降ればいいというものではなくて、やっぱり雨が欲しい時に雨があってこそ、作物が育つやんか。同じように牡蠣を育てるのは海まかせ。今年(取材当時)は昨年に比べたら出来がいい。夏場にはわかるんだわ。もっと大きくなっていくのはこれからやけど、貝の形も牡蠣の状態も悪うないで、これから楽しみやと思う。

とおっしゃるのは2代目の楠良さん。実際に牡蠣を開けていきながら、貝つきのものとむき身のものとで、おいしい牡蠣の見分け方を教えていただきました。


①むき身はプリ感と肌を見よ!

まずは一目瞭然のむき身から。身がプリッと丸く弾力があり、乳白色でツヤのあるのがおいしい証拠です。

大きさがあっても白っぽくて透き通るようなものは未熟な牡蠣。大きく見えても塩分水分が入ってふくらんでいるだけなので、加熱するなどしてそれが抜けるとぺちゃーっと小さく縮んでしまいます。


②貝つきは殻の高さを見よ!

貝つきのものは貝殻の形を見ます。殻が平らで大きいものより高さと厚みがあるものの方が、プリッとした丸い身がとれます。もちろん持った時に重みがあるものの方が良いです。


手早い動きで貝からはずしながら、大きさ、質を見分けてどんどん選別していきます。


沖の強い潮の流れに鍛えられ引き締まる牡蠣

この牡蠣はどんなところで育っているのでしょうか。3代目の隆文さんが養殖筏(いかだ)へと案内してくださいました。


もうひと方、ご一緒したのは伊勢市でも知る人ぞ知るという居酒屋『虎丸』のご主人。ご主人自ら船を所有し、自分で釣った魚を店で提供しているのだそうです。もちろん、はちろべ水産の牡蠣も提供しています。この日は牡蠣をあげる漁船に同乗して釣りをするということでご一緒することに。

筆者は漁船に乗るのは初体験。慣れた様子の虎丸のご主人に指導を受けながら、かなりのスピードで進む船でなんとか養殖筏までたどりつきました。


海の上には浜の方から沖まで何艘も浮かぶ筏。


中村さんの筏はかなりの沖にあります。

潮の流れがきつく、牡蠣を海中に吊るすロープが切れるリスクが高いこの場所取りも中村さんのこだわりのひとつ。潮流に揉まれることで牡蠣が鍛えられ引き締まった身に育つのだといいます。

船を筏に固定して準備をしている最中にも、牡蠣がびっしりとついたロープが揺れるように沖に向けて強く引っ張られているのが見えます。


隆文さんは太い竹で組まれた筏の上をひょいひょいと身軽に飛び移り、目当てのロープを引き上げます。


収穫するための機械の円盤状のものがグルグル回っています。海側の円盤の溝にロープの先端をかけて牡蠣ごと引き上げていきます。


ごっついローラーにぶつかる部分で牡蠣はロープからゴロゴロとはずされて機械の中へ。


噴出する海水で殻の表面の泥を落としてカゴに収まります。一本のロープでカゴの八分目くらいが埋まります。


おもむろに、虎丸のご主人がその泥を網にとって海に流し、釣りをしはじめました。泥の中に含まれる牡蠣の栄養分が魚たちの大好物で海の底から集まってくるのだそうです。あっという間に50㎝越えの真鯛を2尾も釣り上げていました。


1カゴにはおよそ35~40キロの牡蠣が入ります。大量の牡蠣を積んで、船は港に戻ります。


牡蠣は大好物!こだわりの料理はコレ!!

作業場に戻り、箱詰めの様子などを見せていただきながら、牡蠣のおいしい食べ方も教わりました。


牡蠣は大好物です!カキフライ最高です。自分で作りますよ。パン粉はしっかりもんでさらさらになるまで細かくします。そして、むき身を二つ合わせて揚げる!おいしいですよ。あとはアヒージョとか。

味噌汁もおいしいです。さっとむき身を煮てそこに味噌を溶かし入れます。牡蠣の出汁がしっかり出て好きですね


「まだ本物の味ではないですよ…」とおっしゃりながらも出してくださった蒸し牡蠣。確かにまだ小ぶりでしたが、先ほど教えていただいた通り、ぷっくりとふくらんだものにはじわっと旨味があります。違いが確かにわかります。


『変わってる』と書いて『中村楠良』と読む!こだわりにこだわるのはお客様のため

やっぱり、『おいしい』というお客様からの反応があるとうれしいですね。

20年くらい前までは、お歳暮の時期から最高の牡蠣を出荷できていたのだけれど、最近は1月から2月くらいが最盛期。それでも、その時に採れる中から厳選したものだけを出す。こっちは大変やわね。

それでも、『信用を育てる』っていうのが自分の持論。例えば今年はじめて注文くれたお客様には、採算が合わなくても自分が納得したものを送る。それだけはもう守っとるな。

お父さん牡蠣に対するこだわりが強いもんで、ねえ。余計にちょっとの違いでも敏感なんですよね。


と、ここで今日の分の牡蠣を引き取りに来た虎丸のご主人が再び登場。

「ここのうちは、商売が一番下手なんや。特に親父はな(笑)。二十数年前からの付き合いやけど、ほどほどのものでも、良いものはあるんだから出荷すればいいのにと思っても絶対出さない。商売っ気ないんやわ。辞書引いてみい。『変わってる』って書いて『中村楠良』って読むんやわ(笑)」

虎丸さんの言葉に、ご家族で大爆笑。


積極的にネット販売もしていてリピーターのお客様も多いのですが、安楽島の牡蠣をもっとたくさんの方に知ってもらいたくてポケットマルシェでの出品を始めたんです。これからが牡蠣の本番です


寒さが牡蠣の身を引き締め太らせていくのですね。


これからが本番!安楽島の牡蠣


安楽島を訪れたこの日はちょうど台風シーズン真っ只中。前の週にも台風21号が通過し、22号が今日明日にも…と迫ってきていました。

台風が来て、海の底をかき混ぜて水温を下げて…その繰り返しやと思う。身が入ったら貝つきで20グラムくらいになる

その頃になったらこのくらいの大きさになりますよ


持ってきてくれた貝殻にびっしり身が詰まっているのを想像したら、よだれが…(笑)。

海の旨味がふんだんに詰まった安楽島の牡蠣、本当に楽しみです。

お土産にいただいた牡蠣で酒蒸しと牡蠣ごはん


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Writer

わたなべひろみ

   

 1968年、北海道生まれ。設計デザイン、商品開発などに携わったのち、宣伝会議 編集・ライター養成講座 上級コース 米光クラス第7期受講。修了後ライターとして活動。現在、札幌国際芸術祭2017【大風呂敷プロジェクト】に運営サポートとして参加中。

 

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