生産者さんからみなさんへ 〜自然環境の変化と向き合う #カナリアの声〜 vol.4 ホタテ養殖を営む中野圭さんより


年々深刻化している気候変動。みなさんは、何か環境の変化を感じているでしょうか?

私たちの食べものをつくってくれている生産者さんたちは、自然と向き合う中で日々環境の変化を感じ、また、すでに生産活動において様々な影響を受けています。

そんな生産者さんたちの状況を、少しでもみなさんに知ってもらいたい。そして、私たちにできることを一緒に考えていきたい。

ポケマルでは、自然環境の変化に直面する生産者さんたちの声をお手紙の形にして、連載形式でご紹介していきます。自然からの警告を「炭鉱のカナリア」のように私たちに伝えてくれている生産者さんの声を、まずは知ることから、一緒にはじめませんか?



岩手県大船渡市でホタテの養殖をしている中野圭です。

この浜では4年前から、貝が毒を体に溜め込む「貝毒」が出るようになりました。僕の父がこの浜でホタテの養殖をはじめた50年ほど前から今まで、貝毒が出ることはほとんどありませんでした。まれに出ても、1ヶ月以内には毒量の数値が下がっていました。それが4年前からは、毎年、しかも4月後半から11月頃までの約半年という期間にわたって貝毒が出ています。

貝毒の原因は、毒素を持つプランクトンの大量発生です。貝が毒素を持つプランクトンを餌として食べることで起こります。

プランクトンが大量発生している理由はまだわかりませんが、近年は夏場の海水温が例年より平均2〜3℃は高くなっているので、海水温上昇が要因の一つではないかと考えています。貝毒の発生から4年も経ち、漁業者は大変な思いをしていますが、原因の調査すらされていない状況です。



以前は、貝毒が出ると出荷停止になっていましたが、半年もそのままでは経営が成り立たなくなってしまいます。貝が毒を蓄積する部位は決まっているので、4年前からはその部位を取り除いて出荷するようになりました。また、民間や行政では除毒や弱毒化の研究が進められています。

僕は、貝毒に対する世の中のイメージを変えたいと思って活動しています。「貝毒」と聞くと、病気のような悪いイメージを持たれる方もいるかと思います。ですが、そもそも貝は体に毒を蓄積する生き物であり、決まった部位を取り除けば食べられます。フグと同じようなものだと言われているんです。貝毒が出ても、適切に処理すれば安心安全に食べられるということを知ってもらいたいと思っています。



浜を取り巻く問題は、貝毒だけではありません。ここ2〜3年は、ホタテが死ぬ確率が高くなっています。ホタテは寒いところで育つので、海水温が上がると生き残れないんです。赤ちゃんである稚貝が育って最終出荷に至るまでの生存率は、もともとは60%ほどでしたが、最近では1〜2%です。数十年後には、この浜でホタテの養殖はできなくなるだろう、と予測する研究結果もあります。

養殖は、昔は安定していましたが、今はそうではなくなってきています。食べられることがあたりまえではないということも、伝えていきたいです。



私たちの食卓に並ぶ食べものは、どれも決してあたりまえのものではなく、自然や、自然の変化に適応しながら育ててくれる人がいて初めて成り立っています。

自然との接点が少ない私たちは、それを自分ごととして捉えることがなかなか難しいかもしれません。でも、生産者さんを通して、変化について知ること、理解すること、心を寄せることはできると思います。

生産現場の変化は、やがて私たちの食卓の変化にもつながります。生産者さんの「カナリアの声」が、みなさんの食に対するあり方や暮らしそのものについて、改めて考えるきっかけになれば何よりです。

まだまだ知られていない、生産現場の変化のお話。生産者さんの「カナリアの声」を、ぜひ周りの方にも届けてください。



今回お話をお聞きした生産者さん

Producer 

中野圭|中野えびす丸|岩手県大船渡市   


前回・次回の記事はこちらから

生産者さんからみなさんへ 〜自然環境の変化と向き合う #カナリアの声〜 vol.3 養鶏家の薄羽哲哉さんより


生産者さんからみなさんへ 〜自然環境の変化と向き合う #カナリアの声 〜 vol.5 柑橘農家の二宮昌基さんより


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