年々深刻化している気候変動。みなさんは、何か環境の変化を感じているでしょうか?
私たちの食べものをつくってくれている生産者さんたちは、自然と向き合う中で日々環境の変化を感じ、また、すでに生産活動において様々な影響を受けています。
そんな生産者さんたちの状況を、少しでもみなさんに知ってもらいたい。そして、私たちにできることを一緒に考えていきたい。
ポケマルでは、自然環境の変化に直面する生産者さんたちの声をお手紙の形にして、連載形式でご紹介していきます。自然からの警告を「炭鉱のカナリア」のように私たちに伝えてくれている生産者さんの声を、まずは知ることから、一緒にはじめませんか?
栃木県芳賀郡益子町で養鶏をしている薄羽哲哉です。養鶏業を始めて4年になります。
私たちが直面している一番の課題は、夏の暑さです。この地域の8月の最高気温について、過去30年分のデータを調べたところ、35℃以上の猛暑日を5日以上記録した年は、1990年代と2000年代ではそれぞれ2年だけでした。ですが、2010年代に入ってからは、そのような年が7年もあり、明らかに暑くなっています。
鶏は暑さにとても弱いです。2020年の夏は、飼っている鶏の5%にあたる500羽が、梅雨明けのわずか3日間で死んでしまいました。
また、暑いと産卵率が1〜2%下がってしまいます。わずかに思えるかもしれませんが、1万羽飼っていると、1日あたりに採れる卵が100個ほど少なくなるということです。1ヶ月あたりの売上に換算すると、月10万円ほど減少することになります。さらに、暑いと鶏がえさを食べなくなってしまうので、卵が小さくなり、価格もそれに伴って下がります。
経営を成り立たせるためにも、暑さに対応していかなければなりません。長期的な対策として、暑さに強い鶏舎を新しくつくろうとしています。その準備が整うまでは、今できる最大限の対処をしています。
たとえば、鶏は暑いと口を大きく開けて、体内に空気を取り込んで体を冷やすのですが、その際にビタミンを消費します。なので、ビタミン剤を与えるようにしました。
また、飼育方法を変えました。これまでは、朝の4時に鶏を起こして、夜の8時に消灯して育てていました。でも、そうすると暑くて鶏がえさを食べず、体力が落ちて死んでしまうんです。なので、夏場は深夜の2時半に電気をつけて鶏を起こして、まだ暑さが厳しくない夜のうちに、えさを食べさせるようにしました。
ひょっとしたら、アニマルウェルフェアの観点から「深夜に起こして無理矢理えさを食べさせるなんてひどい」と思う方がいるかもしれません。
ですが、自然の成り行きのままに育てていたら、鶏は体力が落ちて死んでしまいます。卵も小さいので売り物にならず、ビジネス自体の持続可能性が低くなってしまいます。
現場では、直面している状況に対して、その時考えられるベストな方法をとっています。それは時として、みなさんが思うやり方とは違ったものになるかもしれません。
ですが、表面的な情報だけをもとに、「これはアニマルウェルフェアじゃない」とか、「一般的な常識から考えるとおかしいから、ここで買うのはやめよう」とか、そう思われるのが生産者としては一番辛いのです。
食に興味を持ってくれる方が増えているのは嬉しいことです。食べもののことを知るときには、偏った情報に踊らされたり、すぐに否定的な意見をぶつけたりするのではなく、「どうしてこの生産者はこの方法をとっているのか?」という、根底のところまで理解してもらえたら嬉しいです。
生産者さんは、直面している自然環境の変化に対して、その時考えられる最良の方法で適応しています。
自然との接点が少ない私たちは、その変化を自分ごととして捉えることがなかなか難しいかもしれません。でも、生産者さんを通して、変化について知ること、理解すること、心を寄せることはできると思います。
生産現場の変化は、やがて私たちの食卓の変化にもつながります。生産者さんの「カナリアの声」が、みなさんの食に対するあり方や暮らしそのものについて、改めて考えるきっかけになれば何よりです。
まだまだ知られていない、生産現場の変化のお話。生産者さんの「カナリアの声」を、ぜひ周りの方にも届けてください。
今回お話をお聞きした生産者さん
Producer
前回・次回の記事はこちらから
生産者さんからみなさんへ 〜自然環境の変化と向き合う #カナリアの声〜 vol.2 米農家の内山幸一さんより
生産者さんからみなさんへ 〜自然環境の変化と向き合う #カナリアの声〜 vol.4 ホタテ養殖を営む中野圭さんより