スーパーなどの店頭の魚は、季節や地域による違いはあれど、種類も形も大きさもそろい、消費者が食べやすいように並べられています。
そのお魚たちは、漁師さんが海で獲ってきたり育てたりしたものだということは、ポケマルをご覧のみなさまならよくご存じのことでしょう。
一般的には、漁師さんが獲ったお魚は、漁協や市場などを通してスーパーや飲食店などに卸され、私たちの口まで届きます。
しかし、漁師さんが獲ったお魚がすべてその流通にのれるかというと、そうではないようなのです。
未利用魚とは?
聞き慣れない「未利用魚」について、青森県の漁師・高森優さんが教えてくれました。
漁業界には未利用魚、あるいは低利用魚と呼ばれるお魚たちがいるそうです。
未利用魚とは、市場に出荷する際に、数が足りなくて1箱にならないもの。そして最悪なのが、出荷しても箱代、氷、手数料を取られたらほとんど利益がない魚。誰も買う人がないからもう出さないでくれと言われる魚達です
高森優さんの記事:生きた証を持って命を終えるようにより
特定のお魚を指す言葉ではなく、地域や漁港やその日の漁の成果などのいろいろな理由で一般的な流通経路にのせることができないお魚のことなので、例えば「他の地域では普通に出荷されるのにこの地域では未利用魚」という場合もあります。
高森さんによると、お魚が未利用魚になってしまうのには次の4つの理由があるそうです。
①傷がついてしまった
②マイナーなお魚
③漁獲量が少なすぎた(1箱ぶんに満たない)
④漁獲量が多すぎた
味の問題ではなく「儲からないから」という理由で市場に引き取ってもらえず、未利用魚になってしまったお魚たち。その後どうなるかというと「自家用か廃棄処分となってしまう」のだそう。
高森さんは、そんな悲しい運命をたどるお魚を少しでも減らすために、【未利用魚セット】という魚介類の詰め合わせをつくって、理解してくれるお客さんに直接販売しています。
どんなお魚がどれくらい入っているかは、その日の漁の成果しだい。ですが、これまでに購入したお客さんの感想では、とっても充実した内容のようです。(関連記事:未利用魚セットのお料理アイデア〜みんなのコミュニティ投稿まとめ〜)
通常は市場に出回ることのないお魚たちは、どんなふうに私たちのもとにやってくるのでしょうか。そして、どうすればおいしく食べきることができるのでしょうか。
今回は高森さんの「未利用魚セット」に挑戦してみました。
未利用魚を見てみる
ずっしり。時化の合間に送られてきた魚たち
海の仕事は天候次第です。寒波到来で荒れる北の海のお天気を心配しながら待つこと、しばし。ようやく、魚たちがやってきました。
ずっしり、たっぷり。カニも貝もまだ生きています。
直筆の魚リストに従って、取り出してみましょう。
◎オニオコゼ
なかなかゴツイ面構え
◎水草ガレイ
◎メイタガレイ
◎マコカレイ オス・メス
かなりのビッグサイズです
◎マカレイ
◎トゲクリガニ オス・メス
動く動く!
◎エゾヒバリガイ
いわゆるムール貝ですね
◎アカザラ貝
貝の表面にフジツボがゴロゴロついてます
◎イタヤ貝
つるんときれいな形です
いざ、下ごしらえ!
まずは、7尾あるカレイ類からおろしていきます。
①カレイ類
包丁の刃を立ててしっぽから頭に向けてこするようにして、ウロコをとります。
頭を取ります。この時、頭をまっすぐ切り落とすのではなく、U字型に包丁を入れると、食べられる部分がたくさん残ります。
左:まっすぐ切り落とすと矢印部分がもったいない 右:U字型に包丁を入れる。一気に切れなかったら裏側からも切る
活きがいいので頭を引っ張るとはらわたがつるっと出てきます。
水草カレイ、メイタカレイ、マカレイ、マコカレイのオス1尾はそのまま干しました。1月の札幌のベランダで寒干しです。
②トゲクリガニ
トゲクリガニは甲羅を下にして、10分くらい塩茹でします。
暴れています。すまん
きれいな赤に茹であがりました。
③オニオコゼ
最後はオニオコゼ。背びれに毒があり、胸びれなども針のように鋭くとがっています。
インターネットで安全なさばき方をさがし、用意したのはキッチンばさみ。とがったところはひたすらはさみで切り落とします。これで安心。
背びれも
ほっぺたも
胸びれも
最後にエラと体がつながっている喉元の細い部分をはさみで切ってしまうと、頭をとりやすくなります。
頭をとったら二枚おろしにします。
実録! おいしく無駄なく食べ尽くす
それでは、いただきます。
- 1日目 -
オニオコゼの唐揚げ。
身を食べたあとの骨も素揚げして食べました
カレイのあら汁。
カレイの頭としっぽであら汁
- 2日目 -
アカザラ貝の焼き物。
醤油をひとたらしすると香ばしい
トゲクリガニのオスはそのままで。メスはカニ汁に。
メスは子が入っていました
- 3日目 -
さばいてすぐに干しておいた干物、いよいよ出来上がりです。案の定ガッチリ凍ってしまい、正真正銘の寒干しとなりました。
凍って反り返ってます
干し始める時に塩を振っているのでそのまま焼きます。
上:メイタカレイ 下:マカレイ 身がしまり、ヒレが香ばしくておいしい
- 4日目 -
マコカレイのメスの煮つけ。卵巣の大きさにびっくり! 身も厚く、煮魚の旨味をたっぷり楽しみました。
醤油、みりん、酒、水の煮汁を煮立てたところに魚を入れるのがコツ。味つけに迷ったらめんつゆと酒と水でも。
付け合わせには、ささがきにしたゴボウを煮汁でさっと煮たものを。大根をピーラーで薄くしたものでもおいしい
- 5日目 -
マコカレイと貝類で簡単アクアパッツア。今日は洋風の煮つけですね。
オリーブオイルにニンニクスライスと鷹の爪を加え弱火で香りが出るまで熱して
マコカレイ、エゾヒバリ貝、アカザラ貝、イタヤ貝を蒸し焼き
マコカレイがひたひたになるくらい水を入れ、ミニトマトもたっぷり
マコカレイと貝に火が通るまで煮て、塩で味を調えたら出来上がり
煮汁にマコカレイと貝の旨味がしっかり出て絶品です。パスタを添えて食べました。この組み合わせだとブイヤベースでもよいかも。
「命をいただく」を考えた五日間
たっぷり未利用魚を楽しませてもらうと同時に、生き物を食料として食べることについて考える機会をもらった五日間でした。
調理しながら思い出したのは、馬を育てている人の話。馬肉を食べるかどうかという質問に、その方はこう答えてくれました。
「すすんで食べようとは思わないが、目の前に肉になって出てきたものは感謝して食べる。すでに命を失っているものを『かわいそうだから』と、食べないのは申し訳ない。命を全うしてやらなければ」
人間の都合で未利用になってしまったお魚たちも同じだと思いました。
せっかくいただく命です。無駄なく活かすのが食べる者の責任だと思います。
鮮度のよい魚は、はらわたもキリっと締まっていますので、初心者でも比較的簡単におろせますよ。スーパーでは出会うことのできないおいしい海の幸を味わってみて下さい。
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わたなべひろみ
1968年、北海道生まれ。設計デザイン、商品開発などに携わったのち、宣伝会議 編集・ライター養成講座 上級コース 米光クラス第7期受講。修了後ライターとして活動。現在、札幌国際芸術祭2017【大風呂敷プロジェクト】に運営サポートとして参加中。