美味しいみかんはどう選ぶ?年間10万円をみかん調査に費やす農家に聞いてみた

年間10万円をつぎ込んで、全国のみかんを研究するーー。そんな珍しい”みかん通”の農家さんがいます。

みかん栽培の本場、和歌山県有田郡にある、まつさか農園の松坂進也さんです。

Producer

 

松坂進也(まつさか農園)|和歌山県有田郡有田川町

   

まつさか農園の信念は「思い出に残る果物を届ける事」です。味だけでなく作り方や産地、全部まとめて「まつさか農園」です。有田の自然の恵みに名人達から教わった技を加えて作る「美味しさ」。全ては食べくれた方に「忘れられない味」と思って貰うためです。ぜひ大事な人と一緒に食べて下さい。そうして頂いても間違いのない品を届けられるよう頑張っています。


農家になって今年で5年目。小さい頃から大好きだった祖父母がつくってくれるみかんの味を絶やすまいと、脱サラして畑を引き継ぎました。

1箱1万円を超えるものから、500円に満たないものまで。全国各地からみかんを取り寄せては日々、味をチェックしているそう。わざわざ他のみかんを買わなくても、自分の農園で育てたものを山ほど食べられるのに……。その研究精神は、一体どこから湧き上がってくるのでしょうか?

今回は、そんな松坂さんの研究方法や、研究の末たどりついた「おいしいみかん」の見分け方などを聞きました!


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目次

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プロみかん農家だからこそ、日本のみかんを食べつくす

一般的に競合する他社の商品・サービスの動向をチェックしたりすることは、決して珍しいことではありませんよね。でも、農家さんの場合はどうでしょうか?

自分の畑で山ほど採れるのに、果たして他の商品を積極的に購入するでしょうか……。しかもその額が、年間10万円にも達するとしたら……


ーーみかんについて日々、どんな風に研究しているんですか?

「楽天やメルカリなどの通販やスーパーなどの店頭で、全国から気になるみかんを取り寄せています。金額にすると、年間10万円ほどかかってますね。1箱1万円を超える商品から、訳アリ・安売りの500円に満たないようなものまで、価格帯は幅広いです。

金額がそれぞれ異なるので正確な計算は難しいですが、購入先は少なくとも50〜60社にはなるはず。安いものを多く購入した年は、100社くらいになると思います。」


ーー相当な量を研究してるんですね・・・

「ですから、贅沢食いなんですね。特別おいしいものは1箱分すべて食べちゃいますが、通常は2〜3個食べたら、あとは地域の人たちにおすそ分けしたりします。食べきれませんからね(笑)」


ーーその中で、アタリ・ハズレがあるというわけですか?

「基本的にはおいしいと感じますよ。

ただ、中には傷がついているなど粗悪なものや、味そのものがおいしくない商品もあります。こういう商品は、メルカリなどの「CtoC」でそもそも農家でない人が売っているケースが多いですね。

対照的に、驚くほどおいしいものも発見できます。僕も企画・運営に携わり9月に開催された「みかんサミット」でも、とびっきりおいしいみかんに出会いました。」

こちらは九州などから届いたみかん。2箱で8000円くらいだそうで、こんな風に購入していると「わりとすぐに10万円になる」と言います。


ーーしかし、なぜそこまでして熱心に研究を?

「ひとことで言うと、消費者目線を知るためのマーケティング調査が目的です。

みかん農家の場合、そもそも他人が育てたみかんを買うという概念がありません。しかも、有田郡は少なくとも「友達の友達はみかん農家」という土地柄なので、みかんは「タダで食べるもの」というのが常識です。

でも、プロの農家が自分たちの味しか知らないのは、なんか変だなと……。例えばケーキ職人であれば、東京で一番売れている店のケーキがどんなものか、きっと研究しますよね。」


ーー研究を栽培に活かすことは?

「残念ながら、それは難しくて。「おいしい味」をどう再現するかは別問題です。それは直接聞かないとわからないですね。しかも、その地域の気候や土壌に合わせる必要がありますから、同じ栽培方法を試したところで再現できるとは限りません。」


ーー研究にのめり込むきっかけはあったんでしょうか?

「有田郡には全国的にも有名な、みかん栽培の”三羽烏”と呼ばれる人たちがいます。ある日、そのうちの1人がつくったみかんを買って食べてみたんですよ。5kgで1万5000円を超えてたかな。

それがめちゃくちゃおいしくて、同じみかんでもこんなに違いがあるのかと驚きました。それからいろいろ試すようになって……。始めてみたら奥が深くて、どんどんのめり込んでいった感じですね。」


ーー松坂さんみたいな農家さんて、他にもいるんでしょうか?

「あまり聞いたことがないですね。値段が高くて、おいしいと評判のものを食べる人は多いと思います。ただ、僕のように「これはおそらくおいしくないだろう」とある程度予測がつくのに、それをわざわざ買う人は、少ないんじゃないでしょうか?(笑)」


ーー「おそらくおいしくないもの」をなぜあえて?

「当然ですが、やっぱり値段が高いものはその分、どれもおいしいんです。でも、お客さんはいつも高価なみかんばかり買えるわけではありませんよね。だからこそ、「いかに安い価格でおいしいみかんを食べてもらうか」が重要なのかな、と。

高い商品だけでなくいろんな価格の商品を試しながら、お客さんが求める味や価格を追求したいと思ってます。」


”松坂流”おいしいみかんの選びかた・出会いかた

年間に50〜60社、多いときは100社近くのみかんを消費しているという松坂さん。きっと、私たちが知りたい「おいしいみかん」の見分け方も知っているはず……と思い、そのポイントを尋ねてみました!

出てきたキーワードは、房の数と中心にある白い空間です。


①房の数

横から中央に切り込みを入れて、半分に切ったときの断面(写真)。中に詰まっている「房」の数が多いほど、甘みがあっておいしい味に仕上がっている可能性が高いそうです。

10〜11房のケースが多いようですが、中には12〜13房も詰まっているものがあるそうで、そうなると味はけっこう違う(松坂さん)とも。

中に詰まっている房の数が「おいしさ」のバロメーターの1つだそうです。


②中心にある白い空間

同じく断面図の中心にある「白い空間」。下の写真左のように空間が大きくスカスカなものは味がイマイチで、狭ければ狭いほど、甘みがギュッと凝縮されていておいしいというのが松坂さんの分析です。ちなみに、写真右はまつさか農園のみかん。空間が小さいですよね。

←イマイチなみかん  おいしいみかん→


松坂さん曰く、この判別は品種によって違っていたり、味にも好みがあるので断定しきれない面はあるそうですが、非常に参考になりますよね!

ただ考えてみれば、これは買ってみてからのお楽しみ!であって、購入する前にはわからないことでもありますよね……。


スーパーのみかんは「味ボケ」してる!?

では私たち消費者は、どうすれば”おいしいみかん”に辿り着けるのでしょうか?


ーーずばり”おいしいみかん”と出会う方法を教えてください!

「一番いいのは、農家から直接買うことですね。

例えば農協を通して一般流通されているものだと、1つの箱の中に複数の農家が育てたみかんが混ざっているケースがあります。すると、味にばらつきが生じてしまうんですね。

それと、おそらく都会で過ごす人が一般的に食べているものは、少し味ボケしているはずですよ。」


ーー「味ボケ」ですか……?

「例えば市場を通して1週間、スーパーに並べて1週間。収穫から2週間後のみかんを食べているとします。その間に、みかんの酸が分解されていきます。酸が失われるとフレッシュな香りも失われ、口の中で「おいしさ」が長続きしにくくなります。

だから、農家が「このタイミングがいい!」と判断した時にすぐに購入できる、みかん農家直販がおすすめです。」


みかん栽培の魅力に取り憑かれ、今日も研究に励む

研究熱心な松坂さんですが、実は当初は農家を継ぐつもりは一切なかったそうです。

しかし、京都にあるIT企業などで営業の仕事をしていたある日、松坂さんのもとに祖父が危篤との知らせが届きました。脳裏をよぎったのは、「このまま京都で暮らすか」、それとも「農家を継ぐか」。その選択でした。


——自分が継がなければ、ウチの美味しいみかんが食べられなくなる


子どものころ、祖父母が愛情を込めてつくってくれたみかん。その味を途絶えさせたくない。そう決意し、農家を継ぐことにしたそうです。

ただ、始めた当初は5年くらいしたら栽培のノウハウを後進に委ねて、自分はまた別の仕事をする計画だったとも言います。しかし、研究すればするほどその奥深さに取り憑かれ、今こうして大量のみかんを集めながら研究に励んでいるそうです。

そんなまつさか農園は……

・防腐剤未使用
・除草剤ほぼ未使用
・草生栽培*

といったように、自然の恵みをたっぷり活かした栽培にこだわっています。

*果樹園などで、地力を維持するため、牧草や雑草などを生えさせて地表面を被覆保護して行う栽培法(出典:小学館 デジタル大辞泉)

草生栽培は、みかんと相性のいい草で地面を覆う栽培方法。このため、畑には雑草が生い茂る珍しい光景が。収穫体験も受け付けているそうです。


ポケマルでは、市場にはなかなか出回らない小さなサイズのみかんを集めた「訳アリ!有田のお子様向けみかん」や、みかんジュースとのセット品なども販売します。

お子様向けみかんは、松坂さんによると、

「これは通販でめちゃめちゃ人気です。子どもはみかんの皮を剥くのが楽しいみたいで、多くの母親から『子どもに食べさせたい』という声をいただきます」

とのこと!


最後に、松坂さんはこう言いました。


みかんは文化です


寒い冬に、コタツを囲みながら家族でみかんを食べる。日本に古くから根付く心温まる光景です。

少しずつ冬の気配を感じる季節。年末に向けて、忙しい日々がやってきそう……。そんなときは、コタツでみかんを食べながらそっと心を温めてみませんか?

それも、松坂さんの”みかん愛”を思い浮かべながら……。


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Writer

近藤快

  化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。 

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