完熟堆肥って何?東京ど真ん中で美味しい野菜が育つワケを農家さんに聞いてきたよ

ここはとある農園。

この農園には不思議な力が働いているようで……

見ていてください。

\ ポキッ /

\ ギュッ/

✨️✨️✨️ ハンドパワー✨️✨️✨️


なんと、一回折ったキュウリがくっついちゃいました! 

それは農薬も化学肥料も使わないで育てた、新鮮なキュウリだからこそできることですね〜


興奮している私に笑顔でそう言ったのは、カモシダファームの鴨志田純さん。不思議な力が働いているのではなかったようです。


ここ、カモシダファームは「三鷹」という東京真っ只中の地にあります。

「え? 三鷹で、農業? 三鷹って、あの東京の? なんで?」

とお思いの方も多いでしょう。

宅地化が進む東京という地で農業をやっている面白さ、鴨志田さんご自身への興味に惹かれ、私たちポケマル編集部は鴨志田さんに会いに来たのでした。

\今回の取材班は私たちです/
  • 尾形:山梨市で地域づくりをしながらライター業もしている新卒1年生。
  • 大城:全国韋駄天ライター。自転車とともに全国各地を飛び回っている。
  • 日野原:最後の夏休みをアルバイトに明け暮れる大学4年生。匂いを嗅ぐときは欠かせない。
  • 中川:ポケマルマガジンの編集。取材では主に雑談と写真撮影を担当。

\この記事は3本立てです/
  1. 完熟堆肥って何?東京ど真ん中で美味しい野菜が育つワケを農家さんに聞いてきたよ(この記事です)
  2. 都市農業で社会貢献!"半農半教育"に目覚めた青年農家のサステナブルな生き方とは
  3. 近日公開!
 

目次

 
     ここに目次が表示されます。    

ここはジャングル…?いえ東京です。


え~どこにあるんですかぁ〜?

7月下旬。

東京都三鷹市にあるカモシダファームを訪れた私たち取材班は、鴨志田さんに誘われジャングルのように鬱蒼と茂る草木の中を探索していました。

鴨志田さんによると、これは「アグロフォレストリー(森林農法)」と呼ばれる、れっきとした農作手法のひとつ。木材となる背の高い樹木と、食材となり日陰でも育つ作物を混植することで、森づくりと農作を両立できる農法です。


あー、あそこにありますね

なになに、どこどこ?

薄暗いジャングルの地面を目を凝らしてサーチすると、たしかにあります。土と落ち葉と草の中に、小さな黄色い三角形のものが。


上の写真の中央にあるのは、みなさんもよくご存じのお野菜。青じそと一緒に刻んで冷奴にのせたり、甘酢漬けにしても美味しい、アイツです。

あ~、あったぁぁぁ!


まさしくミョウガ! こんなところに、こんな風に生えているとは……

ミョウガは地下茎で増えて、いわゆる「ミョウガ」の部分だけが地上に出てくるんです。土の中から頭をだしてから花を咲かせるので、頭が出たくらいで見つけて収穫するんですよ。タケノコみたいに。

ミョウガは花のつぼみで、黄色い部分は花びらなのですね。


東京都三鷹市上連雀にある、周囲を住宅に囲まれたコンパクトな畑。ここはまるで鴨志田さんの研究フィールドかのように、様々な生物であふれていました。


どうぞ


なんですかこれ、パセリの味がする

え、食べるんですか


それは人参の花です。種を採るために咲かせているんです


種とりですか~

これもそろそろ採らないといけないやつですね


ということは、種、買わなくていい……なんてエコ……

種まかずとも勝手に生えてくる作物もありますよ。この赤紫蘇は、そのへんに生えてきたものを移植したものです


雑草なのか作物なのか……赤紫蘇よ

この中にある作物、なんだかわかりますか?


これは以前に取材した農家さんのところでも見た気がします

ネギですな。ネギ鍋にすると最高なやつだ

コンパニオンプランツとして、作物の脇に植えているんです。よく見ると、いろんなところにありますよ

コンパニオン?

害虫や土の中の病原菌を寄せ付けないような働きがあるので、作物と一緒に植える相性がいい植物のことです

これもそうですか?


この組み合わせは、バジル……雑草

バジルの少し奥に……ゴボウです

あの裏が白い葉っぱがゴボウ!? 掘りたい!

これもコンパニオンプランツ用に育てているマリーゴールドです


これは食べないお花ですよね。どんな効果があるのですか?

土の中のセンチュウ※を抑制するといわれています

※植物の根に寄生する害虫。

それは何ですか?


もう終わりかけですが、ズッキーニです。うちではこうして立てて栽培しているんです

へえ……立ってるズッキーニ、はじめて見ました

はあああああ~それは!!


それはカブトムシです。


カブトムシが木に生っている……これはどんなコンパニオンで?

いえ、これはうちで作っている堆肥の中で孵化したみたいなんですよね

たいひ……見せてください!


堆肥の質=畑の水の質


これがうちの自家製の「完熟堆肥」です

ひととおり畑を見学した後、鴨志田さんが案内してくれたのは、鴨志田農園の自家製堆肥置き場でした。そこには、茶色い土のようなものが山盛りになっているように見えましたが、よく見ると少し様子が違うようです。


食べても大丈夫ですよ

(は? たいひを?)

ほぅ、ではいただきます

(まじか)……どうですか?

……ジョリジョリするけど……無味ですね。においもしないです。これはすごい


堆肥と言えばクサいもの、という先入観がある方も多いかもしれませんが、鴨志田さんの堆肥は違いました。その理由は、先ほどから気になっている「完熟」というキーワードにありそうです。

「完熟堆肥」って、いったい何なんだ!

そんな取材班の気持ちを見透かしていたかのように、鴨志田さんは「あるもの」を用意してくれていました。


畑から室内に入って、鴨志田さんは3つの瓶を取り出しながら、私たちに問いかけました。

おいしい野菜を作るために必要なものは何だと思いますか?

良い土と…栄養分と…

野菜はほとんどが水からできているので、おいしい野菜にはきれいな水が不可欠です

土から吸収する水がきれいである必要があるということですか?

そうです。そして、うちの畑の場合、畑の水質を決めるのは堆肥です

つまり、野菜の質=水の質=堆肥の質 ということなんですね


臭い?臭くない?3種の堆肥を嗅ぎ比べ

この3つの瓶は、3種の堆肥を水と混ぜて長期間そのままにしておいたものです。どうぞ、嗅ぎ比べてみてください


「完熟の意味は、嗅げばわかる」とでも言うかのような鴨志田さんに促され、3種の堆肥の嗅ぎ比べをすることに。


①土ボカシ堆肥(自家製)

まずは鴨志田謹製の「土ボカシ」堆肥から。


ん? なんのにおいもしませんね


②生ごみ堆肥(自家製)

覚悟して嗅いだわりに変なにおいはせず、拍子抜けした編集部員たちでしたが、次に嗅いだのは生ゴミから作った鴨志田謹製「生ごみ堆肥」です。


ん? ……あっなるほど

すぐにはわからなかったのですが、しばらくすると馴染みのある匂いが漂ってきました。先ほどの土ボカシ堆肥に比べれば、鼻につきます。

それはまさにゴミ箱を開けて、その瞬間は匂いずともしばらくすると漂ってくる、あの感じに似ている気がします。


③ごく一般的な堆肥

最後は、"とある場所で買ってきた、ごく一般的な堆肥"です。
とてもメジャーな所で売っているので、この堆肥を使っている人は多いと思います。かなり強烈なので、僕は隣の部屋にいってようかな……

ええっ、そんなに?


まさかそんな……


うわ、ダメだ!


これはほんとにやばいで……ゲホっ

は、はやく蓋を閉めて……

どんどんいや〜なにおいが部屋中に充満し、一瞬にして呼吸をしたくなくなるような空間になりました。夏場のゴミ捨て場のにおいというか、下水の匂いというか、とにかくすごい悪臭10倍になって襲ってくる感じです。


畑ではこの水分を野菜が吸って、僕たちはそれを日々食べているんですよ

3番目ヤバイ……

鴨志田さんの堆肥、とくに1番目に嗅いだ「土ぼかし肥」は、つくったのが一番古いのに何にもにおいがしないなんて不思議です

それが完熟堆肥です


堆肥が腐っていては、良い野菜は作れない

3番目に嗅いだ瓶の水は、明らかに腐敗していました。そして鴨志田さんは、その原因は堆肥自体が腐っているからだと言います。

3番目の水が腐っているのは、「腐熟(ふじゅく)」した堆肥を使っているからです。「堆肥は腐らせればいい」という意識の人が多いんですが、僕は、腐っているものからいいものは作れないと思うんです

「腐熟」は腐敗したもの。ということは、「完熟」は……

発酵です。完熟堆肥は、材料を発酵させて作ります


そう言って鴨志田さんが見せてくれたのは、落ち葉や籾殻が混ざった状態のものでした。

これはまだ43.3℃しかありませんが……


手を近づけると、ほのかに温かい気がします!


本格的に発酵が進むと、70度近くの高温になります。60度以上で病原菌や雑草の種子が死滅します

「食べても大丈夫」というのには、そういう訳があったんですね

高温で水分を飛ばすことができるので、堆肥の原料が生ゴミであっても、腐らせず発酵させることができます。この作り方は「橋本式」といって、どんな場所でもその土地にある素材だけで作ることができるんです。とても再現性が高く、日本だけでなく海外でもできるんですよ


三鷹へ、鴨志田さんに会いに行こう

東京のど真ん中にあるカモシダファームは、たくさんの植物や昆虫、目に見えない微生物たちがあつまるテーマパークのような場所でした。

畑に併設されたコインロッカー式の庭先直売所では、1袋100円で気軽に採れたての野菜を購入することができます。


この日は、付近で盆踊りが開催される日。取材中に、浴衣を着た小さな女の子が、ぱたぱたとロッカーを開け閉めする遊びをするために入ってきていました。気兼ねのないあまりにも自然な子供の様子を見て、この場所がすっかり地域に溶け込んでいることがわかりました。

ポケマルでは「地方の逸品を生産者直送で買える」ことが魅力としてクローズアップされがちです。でも、地方から遠い東京に住んでいたって、片道1時間の範囲内にだって、農業は存在しているのです。


カモシダファームは、JR中央線三鷹駅または京王線調布駅からバスと徒歩で30分もあれば訪れることのできる農家さん。直売所には駐車場もあります。

東京に住むみなさま、身近な農家、鴨志田さんに会いに行ってみませんか?


ただーし!

急に会いに行っても、そこに鴨志田純さんがいるとは限らないのです!!

その理由は、この記事の続編(9/23公開)にてご説明します。


鴨志田農園へのアクセスは、こちらをご覧ください。

※2019/9/11追記:現在、台風15号による被害の影響で庭先直売所での販売はお休みしているとのことです。

>>鴨志田農園facebookページ<<


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文=尾形希莉子・中川葵、編集・写真=中川葵

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