乳酸菌と納豆菌はどっちが強い?納豆ぬか漬けで確かめてみた。

〜これはぬか床に納豆を仕込むとどうなってしまうのだろうという、素朴な疑問から始まった壮絶な戦いの序曲である〜


「やっと納豆解禁日がやってきました。すごく嬉しいです」

それは夕方の人気ラジオ番組に寄せられたリスナーからのコメントだった。


「僕は酒蔵に勤めているんですが、仕込みの時期は納豆禁止令が発令されるんです。納豆菌はとにかく強い。万が一、仕込み蔵に納豆菌が侵入してしまうと・・・」

——ゴクリ。

「麹菌がみんな納豆菌にやられちゃうんです」


その瞬間、筆者は思い出した。数々の納豆菌最強伝説を。


〜〜〜ぽやややや〜ん(回想)〜〜〜

それは手作り納豆に挑戦した時のことだった。

わ、藁苞(わらづと)ごと煮ちゃうんですか!? こんなの雑菌おろか納豆菌も死滅しちゃうんじゃ…!

筆者↑

なぁに言ってるの。こんなんじゃ納豆菌は死なないわよ。

納豆ねえさん↑

死なないの!?

関連記事:オフィスで納豆づくり。成功の秘訣は納豆菌とのコミュニケーションだった


そう、−100℃から120℃の温度帯であれば納豆菌は死なない。しかもアルカリや酸にも強い。だからこそ、菌類を扱う学生や職人たちにとって、納豆菌とは一種の厄介者だというのだ。


そんなとき、とある女子大生が現れた。

「おーよしよし💕  ぬか子は可愛いなぁ。
今日も良い子ね〜😍

彼女はSNSを震撼させた(※)記事「女子大生、乳酸菌を飼う。」でお馴染みのインターン日野原だ。※当社比


やっぱりぬか子の乳酸菌も納豆菌には負けちゃうのかなァ……

ハァ? うちの子が負けるわけないじゃないですか。何でも漬けちゃうくらいスクスク育ってるんですよ!

(親バカだこの子)

納豆だってぬか子の手にかかれば、ちょちょいとぬか漬けになっちゃうに決まってます!

ほーう、納豆菌 vs 乳酸菌というワケか……。やってみちゃう? 納豆、漬けてみちゃう?

望むところですっ!!

\この企画は3本立てです/
  1. 女子大生、乳酸菌を飼う。ぬか床と私の1週間レポート
  2. ぬか床生活の魅力とは?ぬか床リレーしてみたよ
  3. 乳酸菌と納豆菌はどっちが強い?納豆ぬか漬けで確かめてみた。(この記事)
 

目次

 
     ここに目次が表示されます。    
今回の登場人物:
  • 体が資本のフリーライター。納豆は毎日の食卓に欠かせない。
  • アイドルぬか床、通称「ぬか子」の生みの親の女子大生。
  • 生物好きの編集長。自宅ではネコ草栽培に勤しんでいる。

「は? 負けるわけないっすよ」試合前記者会見



レディース・エーン・ジェントルメーン!

さあ始まりました、第1回 菌類最強決定戦!!

今回激突するのは「アナタも乳酸発酵させてみせる♡」こと乳酸菌と、「煮てみろ冷やしてみろ、俺は最強だ」こと納豆菌!

さて、乳酸菌ことぬか子さん。今回の自信はいかほどでしょうか?

うちのぬか子はそこらのぬか床とキャリアが違うんですよ。私の家に届いて以来、キュウリや長芋などオーソドックスな野菜から、お豆腐、お肉、お刺身までよろずに乳酸発酵*させてしまった強者なんです。

*乳酸発酵とは:乳酸菌が糖類を分解して乳酸を生産すること。乳酸には抗菌作用があるため保存性が高まる。(参考:発酵食品と乳酸菌 -発酵過程における役割と機能-

だからただのぬか床じゃありませんよ。だから納豆菌さんもどこまで耐えられるか……。まあ乳酸発酵しちゃうのも時間の問題なんじゃないですかね。


と、不敵な笑みを浮かべ自信満々の乳酸菌サイドですが……

対する納豆菌は多くのメディアでも報じられるほど、最強伝説が数多く残されています。人々の脳裏にも“最強”の二文字が残っているのか、世論も納豆菌の勝利に傾いているようです。

その証拠に、ご覧ください。

筆者のツイッターで開催した世論調査結果


およそ6割が納豆菌が勝つと予想したのに対して、乳酸菌が勝つと予想した人は3割にも達しませんでした! さらに追い打ちをかけるように、ポケマル生産者篠塚さんからもこんなリプライが!

やはり生産者サイドからも納豆菌への支持が厚いようだ


やはり乳酸菌にとっては厳しい戦いのように見えますが、どうですか、乳酸菌サイドのみなさん?

しょせん世論は世論。ご覧に入れて差し上げますよ、ぬか子の強さを……!


ここで改めて今回のルールを確認しておきましょう。

【ルール説明】
  1. 試合時間は24時間
  2. 保存場所は冷蔵庫(5℃)
  3. 勝敗の決め方:下記いずれかの条件に当てはまったものが勝利。両者がともに勝利条件を満たした場合は、引き分けとする。
    1. 納豆菌勝利:ぬか床が納豆臭くなる/糸を引く/納豆自身が全く微動だにしない
    2. 乳酸菌勝利:納豆が乳酸発酵する/納豆の匂いがなくなる/糸を引かなくなる

さあ、両者の準備も整いました。注目の一戦、ゴングがまもなく鳴り響きます!


そうして戦いの火蓋は落とされた

赤コーナー、市販の納豆〜! 

青コーナー、ぬか子ことぬか床〜!

さっそく両者はリングの上タッパーの中へ!

別容器にぬかを敷き詰め、

ガーゼを被せて、

いよいよ納豆を投入!

ガーゼで納豆を包み、周囲を取り巻くようにぬかを詰めていく

何とも言えない表情で見守るぬか子セコンド日野原の背中

これにて戦闘準備完了!


納豆を包むようにぬかを詰めているので、匂いはぬか床そのものです。納豆の匂いは封じ込められているようです。

\カーンッ!!/


とうとう決戦のゴングが鳴り響いた。これから冷蔵庫内では静かに菌たちの熾烈な闘いが繰り広げられることだろう。

さてみなさん、また24時間後にお会いしよう……。


たまらぬ悪臭!? 死闘の果てに……


こちら現場です。とうとう運命の時がやってきました。あれから1日、果たしてこのタッパーの内の状態はいかに!?

菌たちが闘いを繰り広げたリングことタッパー


まず気になるのが匂い!
昨日の時点では納豆が包み込まれていることもあり、ぬか臭だけが漂ってきましたが……。どうですか、日野原さん

真剣な眼差しでスメルチェックをする日野原


ぬか子の匂いです

お……おお、依然ぬかの匂いですか。私も嗅ぎましたが、確かに昨日から大きな変化はありません

ぬかの中から取りだした納豆


次に、納豆を取り出して、ぬかだけの様子を確認します。ここでぬかが糸を引いていたら納豆菌のリードですが……

う〜ん、ただのぬか。こちら、健全なぬか床です!

よし、ぬか子いいぞ…その調子だ……!


一方、納豆菌サイド。こちらはどんな状態なのでしょうか。ガーゼから納豆を取り出してみましょう

え……臭っ

ウヴッ、なんですかこの匂い!!

元々の納豆臭に酸っぱい匂いが足されて、おぞましい臭いを発する悪魔の塊が錬成されているんだけど

このにおい知ってます。お兄ちゃんが72時間履きっぱなしだった靴のにおいです……

それあかんやつやん

大丈夫です、その靴は臭すぎたため、旅先に捨ててきたみたいですから。

はい、じゃあ納豆を取り出してみましょうか

納豆を器へ


ここで再度、恐る恐る納豆の匂いを嗅いでみる……が!

あっれ〜、臭くない!普通の納豆

確かに納豆自体はそのままの匂いですね。つまり臭いのはガーゼということですか?


そう、ひどい悪臭を放っていたのはガーゼだったのだ。


ここまではぬか床、納豆の両者に変化なし、つまりイーブンという結果。

最終的なジャッジは納豆の味に託された!

それでは……いただきます!!

ポケマルロゴの前で納豆ぬか漬けを味見する筆者


あー……こちら、納豆のぬか漬けです

ホントですか!?

うむ、ぬか漬けらしい爽やかな酸味と塩味、そして納豆の風味が共存している

つまり両者とも健在? ええと、この場合は一体……


「——さて、私の出番ですかね」

突然現れたのは、ポケマルマガジンの編集・中川。大学時代には遺伝子とか細胞とかの方面の勉強をしていたらしい、心強い助っ人だ。

この戦が何を意味したのか、考察すべき時がやってきました

<注意!>以下考察は専門家が監修したものではありません。あくまでも読み物としてやんわりお楽しみください。間違ってもレポート等に引用なさいませんよう。


【結論】死闘か共闘か。奥深い菌たちの世界

まずはここまでの結果を整理してみましょう

  • ぬか→ におい、見た目ともに変化なし
  • 納豆→ におい、見た目ともに変化なし。粘り気も健在だが、味はぬか漬け風の酸味が付与された。だが納豆元来の味はする
  • ガーゼ→ 納豆と酸が濃厚に絡み合う、おぞましい物体へと変化する

まずはぬか24時間前と全く変化していないということは、目に見えるダメージはありません。一方で納豆は、見た目や粘り気は変化がなかったものの、味が変わってしまいました

つまり、納豆はぬか子の影響を受け、乳酸発酵許してしまった可能性があります。


先生、でも乳酸発酵したということの根拠は?

ずばり、あなたが「ぬか漬けだ」と感じた酸味。その酸っぱさこそ乳酸菌が生産した乳酸……つまり、納豆が乳酸発酵をしてしまったというです。しかし納豆は元来の味も保っています。すなわち、納豆は一部領地が敵陣(乳酸菌)に取られたところで講和条約に署名したような状態ですね

つ……つまり……?

当初のルールに基づいて、今回は実質乳酸菌の勝ちです

やったーー! ぬか子、私は信じてたよぉ……


けれど先生、納豆菌が勝つ可能性はなかったんでしょうか?

さまざまな仮説が考えられます。時にあなた、納豆を作ったことがありますね。その時に最も気をつけたことは何でしたか?

温度管理ですね。確か40℃をずっとキープしていたような……

画像:オフィスで納豆づくり。成功の秘訣は納豆菌とのコミュニケーションだった より

納豆作りのときは、夜通し40℃前後をキープしたのであった


そう、納豆菌が一番活動的になるのは40℃前後だと言われています。しかし決戦フィールドは冷蔵庫の中。彼らにとっては極寒です

まるでロシアの冬将軍*に敗北した軍のようだ

*世界史でたびたび登場するロシアの冬将軍は、圧倒的な寒さでナポレオン戦争や二次大戦などにおいて他国軍を大敗に追いやったことで有名

一方でぬか子は、生産者の西田さんが15年かけて育ててきた屈強な乳酸菌。15年間、ほとんどの時間を冷蔵庫で過ごしてきたこともあり、耐寒性もバッチリだったのでしょう。

つまり今回の勝敗を分かつ鍵は、決戦フィールドの温度だったと考えられます

暑さに強い納豆菌サイドにとってはとても不利な状況……アウェー戦だったということですね


ここでピッと指を突き立てる中川。注目してほしいのはガーゼだという。

二人が大騒ぎしたこの匂い。これが戦場のにおいなのでしょう。ガーゼを最前線とし、両方の菌は互いの本陣を巡る攻防戦を繰り広げていたのではないかと思うのです

つまり、ガーゼは西部戦線*のような状態だったのか

*第一次大戦時にドイツ軍と連合軍が対峙した激戦地区

ごめんなさい、世界史わかんない……


こうして、ポケマル編集部内での納豆菌vs乳酸菌の菌類最強決定戦乳酸菌の勝利という形で幕を閉じた。


* * *


が、菌考察会はまだまだ続く。

とはいえ納豆のぬか漬け、ちゃんとおいしかったですね。醤油をかけなくても塩味が効いてて美味でした!

あとなんだかめちゃくちゃ身体によさそう

ほんとねえ〜…ってあらやだ、ちょっとこのページ見て!

納豆菌それ自体も、血栓の溶解や美肌効果、骨粗鬆症予防といった様々な健康効果を持っている。また、(乳酸菌を)同時に摂取することで乳酸菌やビフィズス菌を増やす働きも持っており、相乗効果で非常に高い整腸作用を発揮する。

引用元:-納豆は乳酸菌やビフィズス菌の増殖に影響するのか- 筑波技術大学名誉教授 一幡良利


もしや納豆のぬか漬けってスーパーフードなのでは!?

そうかもしれないけど……あのガーゼのにおいはちょっと……


ああ〜……(苦笑)


と、奥深い菌の世界を垣間見たポケマル編集部でした。ちゃんちゃん

Special thanks to:『発酵の科学』,中島春紫,2018年,講談社 、 Skyrocket company, tokyoFM,

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Writer

大城実結/MIYU Oshiro

フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。twitter:@moshiroa1 Web: https://miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro

編集・写真=中川葵

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