オフィスで納豆づくり。成功の秘訣は納豆菌とのコミュニケーションだった

とある平日の深夜。ライター宅野は大荷物を抱えて大都会・新宿に降り立った。彼女がここにやってきた理由はただひとつ、納豆を作るためだ。

納豆づくりに必要な道具を抱え、コンクリートジャングルを歩く

去る2018年3月、『本格手づくり納豆キット』を購入し自宅での納豆作りを試みたものの、納豆ではなく“微妙に糸引く大豆”を生み出してしまった宅野はなげやりだ。

「どの工程がダメだったのか、もう私にはさっぱり……」

失敗の詳細はこちら:私の納豆づくり”失敗”体験を共有します~伝承が失われた今を生きる~

しかし諦めるにはまだ早い。何がいけなかったのか、どうすれば成功するのか。改善の余地はまだまだ残されているに違いない。

これは自暴自棄になった宅野が伝承の精霊・納豆ねえさんとともに納豆づくりの自信を取り戻していく感動(?)の奮闘記である。

登場人物

  • ライター宅野:東京生まれ東京育ちの都会っ子。ポケマルで料理修業中。
  • 納豆ねえさん:伝承を残すために舞い降りた精霊。基本的に温厚で粘り強い。

目次

ここに目次が表示されます。

段取り命! 基本的な手作り納豆レシピをおさらい

事の起こりは数日前だった。

納豆ねえさん、そろそろ納豆づくりの再チャレンジをしなきゃならないと思うんです。

あらまあ、やっちゃう?

やらせてください。せっかく生産者の伊勢崎さんが心を込めて送ってくださったのに、このままじゃ顔向けできません。確かに作れるということを証明したいんです!

いいよ、やろうやろう〜


前回宅野が挑戦し破れた手作り納豆キットはこちら。リベンジを心に誓った納豆ねえさんが密かに購入して保管していたものだ。

※このリンクは記事作成当時の出品です。最新の出品情報はこちらの伊勢崎さんの商品一覧をご覧ください。

手づくり納豆セットにはレシピが同封されている。今回はこの作り方を元に、さらに都会風にアレンジを加えてチャレンジする。

納豆の発酵には24時間、熟成には2・3日必要だから……じゃあ、明後日の夜から作り始めるのがちょうどいいねえ

つまり納豆ねえさんは、夜に発酵開始し、翌日晩に発酵完了させようというのである。すなわち、会社に一晩カンヅメということだ。

ええと……泊まりですか?

え〜、だって前回失敗した理由がよくわからないじゃん。やっぱり何事も徹底的にやらなきゃ、ねえ?

それもそうですけど……

思ったよりも体育会系のノリに怯みつつ、本番を迎えたのであった。


これぞ手作り納豆・鉄則三ヶ条!

前回の失敗から何がポイントだったのか改めて考えてみたよ。ずばり納豆づくり鉄則三ヶ条!


反省①:大豆の戻し方・蒸し方がわからない

1回目では電子レンジで蒸したけど……これが失敗の原因?

まず大豆を戻す方法から。大豆の全重量の2〜3倍の水に1晩(8時間)つけておきます。例えば大豆が100gとすると200~300gのお水が必要になるの

なるほど。戻す前の大豆の状態でまずは重さを計るんですね

蒸しは圧力鍋で。水で戻した大豆を、強火で加圧10分+弱火で加圧10分+火を止め10分、合計30分蒸す。そこからいったん取り出し、指で潰せる柔らかさになっているか確認して

【鉄則①】大豆を確実に指で潰せる柔らかさにせよ

・大豆:水=1:2〜3で8時間浸けおき

・圧力鍋で強火加圧10分+弱火加圧10分+火を止め10分蒸らす


反省②:藁づとの煮沸は十分だったのだろうか

自宅に深い鍋もないので、フライパンにお湯を張って藁づとを煮沸しちゃったんですよね……。あれもダメだったんだろうなぁ


フライパンでの煮沸は難しかった……?

今回は中まで確実に火を通すため、大きな茹で鍋を使います。あとはちゃんと熱が入るよう念入りに茹でる!

【鉄則②】藁づとは深い鍋+たっぷりのお湯で確実に煮沸せよ


反省③:発酵の温度管理が不十分だったのでは?

前回はレンジでチンするタイプのカイロで保温に挑むも、やはり都会でひとり暮らしでの徹底的な温度管理は難しかった

これが最大の肝。納豆菌がお目覚めになるか否かで、納豆作りの命運は大きく分かれるのです

むむ……納豆菌のお目覚めというと?

納豆菌が起床するには、最初の2時間を確実に温度管理せねばなりません。一度活動を始めてくれれば発酵は進むはず。納豆菌は熱に強いので、多少高めの温度でも大丈夫よ

つまり最初の2時間は付きっきりで面倒を見るべし、ということですね

【鉄則③】目覚めよ納豆菌! 最初の2時間はつきっきり


いざ実習。納豆菌と向き合うワンナイト

手作り納豆概論の座学を修了したところで、とうとう実習開始だ。

◎今回準備したもの

  • 圧力鍋(大豆を蒸す用)
  • 蒸し器用の目皿
  • 深鍋(藁づとを煮る用)
  • カイロ(今回は32枚用意)
  • 料理用温度計
  • タッパー
  • 保温バッグ
  • 発砲スチロール箱
  • ビニール袋

100円ショップが大活躍しました!


①大豆を水で戻す

蒸し始め時間から逆算し水に浸けおく。この日は午後10時から蒸しはじめることを想定し、当日午後2時から漬け始めた


②大豆を圧力鍋で蒸す

圧力鍋の底に水を張り、目皿を置き、吸水が終わった大豆をざるごと鍋に入れる。

吸水して3倍程度に膨らんだ大豆

あとは蓋をして加熱していく。

「圧力鍋の蓋ってこうなってるのね……」宅野、人生ではじめて圧力鍋とふれあう

蓋のピンが上がって重りが激しく動き出したら、まずは強火で10分

予定通り、強火で加圧10分→弱火で10分→火から下ろして10分蒸す。蓋のロックが下り、開けられるようになったら大豆の蒸らし加減を確認する。

宅野「あっ、指で挟んだら簡単に崩れる!」

そうそう、このくらいが「指で潰せる柔らかさ」って言うんだよ

そう考えると、以前かなり固めに蒸しちゃってました……


③藁づとを煮沸する

蒸し工程と同時並行して行おう。深鍋にお湯を張り、藁づとをぐいっと押し込む。

適宜、上下をひっくり返し均等に煮沸する

3分以上煮沸したら、キッチンペーパーの上に置いて軽く水気を切る。

ポイントは冷ましすぎないこと! 発酵に必要な熱を残しておきましょう

宅野「ぎゃあイケナイ! もうすぐで40度下回っちゃいそう……」

段取りは命! 手際よくできるように事前に戦略を立てるのも大切よ


④藁づとに大豆を詰める

蒸らし終えた豆を藁づとに詰めていく。

うまく入れるコツは、欲張って入れすぎないこと

今回は藁づとのほかに、タッパーin大豆&藁タッパーin大豆&納豆バージョンも作ってみたよ

左から藁づと、タッパーin藁&大豆、タッパーin納豆&大豆


⑤カイロを貼り付けて保温箱へ

さあここからが本番だ。藁づととタッパーの周りにカイロを貼り付けていく。カイロ以外にも湯たんぽや新聞紙で巻く方法などさまざまなものが提唱されているが、要は40~45度がキープできれば何でもいいのだ。

それぞれにカイロを貼り付ける

準備完了したものから保温箱に押し込んでいく。

ぎゅむぎゅむに詰まった保温箱。酸素不足が心配……?

納豆菌が活動するには酸素が必要なので、密閉しすぎるのもNG! カイロも酸素を消費するので、温度を見つつ途中で換気をしてあげてね


⑥発酵(約24時間)

ここからはひたすら辛抱タイムが続く。粘り強く戦っていこう(納豆だけに)

藁づとの中心部の温度を測れるように、発泡スチロールに温度計を差し込み先端を藁づとの中へ

タイマーと温度計をいつでも見られるようにセッティング!これにて準備完了

というわけでまずは初の2時間、ちゃんと納豆菌がお目覚めになるよう40℃付近を死守してね。今が23時半だから午前1時半までよろしくで〜す。私は寝るね

ええっ、そんなあ……

深夜オフィスにぽつねんと残された宅野

30分に1回検温をし、その都度グラフに記入する。温度が落ちてきたときには、カイロを揉む、追加投入するなど適宜対応を。

時々我が子のように藁づとを抱き上げる「納豆菌さん、起きて〜!」


〜〜〜〜発酵開始より16時間後〜〜〜〜

翌日16時半、ほぼ40℃付近を維持して、16時間が経過した。

納豆の様子を確認してみると……

納豆……っぽい! 

納豆だ!!

今回は夏場だったということもあり、発酵が思ったよりもスムーズに進んでいた。というわけで発酵完了*と判断し、熟成工程へ移行した。

*発酵環境によって発酵の進度は異なるため、大豆の様子を見て判断する。温度が低いようならば、発酵時間を長くするのも手だという。ちなみに発酵させすぎると、臭いや酸味が強くなりすぎ味が悪くなるため注意が必要だ。


⑦仕上げの熟成(2〜3日)

熟成後、冷蔵庫にて2~3日熟成させる。手作り納豆教本によっては熟成不要としているケースもあるが、今回は伊勢崎さんのレシピに習った。

納豆ねえさん「熟成前を一粒食べてみたけど、やっぱり旨みとコクがまだまだ。じっくり熟成させるのがいいね」

そして3日後、「手作り納豆ver.2」が完成した!

見た目はまさしく納豆だが、お味のほうはいかに?


果たして“糸引く大豆”から納豆に昇格なるか?

それでは念願の実食タイム!

藁づとから納豆を取り出す

混ぜてみると、お!粘り気が!

ふっくらつやつや! おいしそう

そのまま納豆かけご飯に。かなり大粒納豆だとわかる

さっそく一口食べてみる

あっ……知ってる味!納豆だ!!

ちゃんと納豆になってる! どことなく藁の香りもして、普段の納豆より高級な味がします。粒も大きくて、ご飯にかけずとも単品だけで重量感バツグンですね!!

「いや、ほんと失敗しなくてよかった…本当によかった……」と本音が漏れる宅野

藁づと・タッパーin大豆&藁・タッパーin大豆&納豆の味を比べたけど、やっぱり一番美味しかったのは藁づとだったね。欲を言えば、もう少し柔らかく煮るとより食べやすかったねえ

タッパーin大豆&藁バージョン。藁づとと比べて、少し発酵が足りなかったというのも今回の反省点。温度が低かったかな?

季節や住まいによって作り方は変化していきます。そんななかでも最も大切なのは納豆菌とのコミュニケーション!

どんな固さに蒸せば納豆菌が居心地いいのか、どんな温度であれば活動しやすいのか、よく考えてあげれば自ずと正解は見えてくるはずよ。

奥が深〜いのが納豆づくりの面白いところなの!


たまには自宅で、納豆菌と戯れる。

納豆菌の営みをダイレクトに感じられる「手づくり納豆」の世界は、思ったよりも果てなく広がっていた。大豆を抱きしめ温度計と格闘する一晩も、なかなか乙なものかもしれない。


納豆チャレンジ、あなたもいかがですか?

◎伊勢崎さんの出品はこちら

伊勢崎克彦さんの出品をもっとみる


2019年1月11日現在、こちらも販売中です。

Writer

おゝしろ実結

writer&editor&illustrator 自転車や地域文化、芸術を専門に執筆。東西奔走、自転車に荷物を積み離島へひっそり渡航するのが生きがい。2012年に短編小説『常套的ノスタルジック』が筑波学生文学賞 大賞を受賞。2016年執筆のルポルタージュ『ワニ族の棲む混浴温泉』が宣伝会議 編集ライター講座大賞を受賞。他、自転車雑誌やグルメ系Web媒体など幅広い分野で執筆を行っている。旅のイラストなども随時発表中。公式サイトmiyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro

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