延岡市島浦町 誌万田の恵みを受けて育ち 美味しさそのままに食卓へ 結城水産の「金寿カンパチ」/有限会社 結城水産 結城 嘉朗延岡市島浦町 誌万田の恵みを受けて育ち 美味しさそのままに食卓へ 結城水産の「金寿カンパチ」/有限会社 結城水産 結城 嘉朗延岡市島浦町 誌万田の恵みを受けて育ち 美味しさそのままに食卓へ 結城水産の「金寿カンパチ」/有限会社 結城水産 結城 嘉朗

宮崎県延岡市の浦城港から高速艇に10分ほど揺られると、県内最大の有人島、島浦島(しまうらしま)に到着します。島浦島のことを島の人は「しまんだ」と呼ぶそうですが、リアス式海岸に囲まれた美しい景観から「日豊海岸国定公園」や、国土交通省による「島の宝100景」にも選ばれている離島です。また古くから巻き網漁が盛んで、かつてはイワシがよくとれたことから「イワシの舞う島」と呼ばれていたともいいます。現在では、地形と潮の流れを生かした魚の養殖も盛ん。いくつもの生けすが並ぶ養殖漁場は壮観です。

その島浦島で、カンパチを中心に魚を養殖する人がいます。有限会社 結城水産の結城嘉朗さんです。スーパーの鮮魚コーナー勤務を経て、祖父の代から50年以上にわたり島浦島の海で事業を続ける結城水産の3代目となりました。

魚の養殖はもちろん、養殖した魚を新鮮なお刺身などに加工し、全国の消費者へ直接販売することにも力を入れている結城さん。結城水産の養殖や直接販売、養殖魚の美味しさの理由について結城さんにお聞きしました。

直接販売で養殖業の現状を打開

結城水産では近年、ポケットマルシェなどを通じて一般消費者に養殖魚を直接販売している。実は直販をしている養殖業者は少ないそう。1匹ずつ別の住所に出荷するのは、効率がいい方法とは言えないからだ。

それにも関わらず、結城さんが直販に取り組むのは「生産者に価格決定権がない現状に不満があるから」だという。結城さんはこれまでに、負債が重なって事業を畳むしかなくなった同業者の姿を目にしてきた。市場の価格に左右され、大変な作業に見合った報酬を得ているとは言い難い現状。その現状を打開するためには「自分たちで売る能力や、仕組みを持つことが必要」と考えたのだ。

第一歩として始めたのは、島の人向けに魚を販売することだった。漁協の加工施設を借りて魚をおろし、営業許可を取って販売したのだ。その後ポケットマルシェと縁があり、全国へ向けたネット直販にも踏み切ることに。現在では自社ECサイトも完成し、直販のルートは少しずつ拡大してきている。

今後、直販により結城水産の知名度がどこまで上がるか、お客様とのつながりがどこまで広がるか、結城さんは期待に胸を膨らませている。一方で、加工人員の増強は目下の課題だ。今は結城さんが魚の養殖をしながら加工も手掛けているが、今後は加工に専念するスタッフを増やして、お刺身に味を付ける、野菜とコラボするなど加工度を上げていきたいという。生産者による価格決定という大きな目標に向けて、結城さんは今、目の前の課題解決に一つずつ取り組んでいる。

島浦島までは、浦城港から高速艇で10分ほど

手間のかかるカンパチ養殖

結城水産が養殖する魚は、カンパチ、タイ、シマアジ、イサキ、メジナなど。中でも生産量が多いのはカンパチで、一般消費者に直販するものは「かねじゅう」という結城家代々の屋号と、縁起の良い漢字を組み合わせ「金寿(きんじゅ)カンパチ」と名付けられている。結城水産の船も金寿丸だ。

「カンパチの養殖は手間がかかります」と結城さん。出荷は3〜4kgになったころに行われるが、そこまで育つのに1年半〜2年半もの期間がかかる。当然その間、餌やりを続けなければならず、稚魚の時は毎日、大きくなってからも2、3日に1回は必要だという。

手間がかかるのは餌やりだけではない。カンパチは体表に寄生虫が付くため、定期的に淡水に入れて消毒しなければならない。水温の高い夏場には1〜2週間ごとに消毒することもあるという。

想像しただけで骨が折れるカンパチの養殖だが、島浦島周辺の養殖業者はカンパチをあえて養殖しているそう。大手では難しいきめ細やかな対応も、中小規模の養殖業者ならできる。カンパチの養殖は、島浦島周辺の養殖業者の生き残り戦略でもあるのだ。

島浦島で育つからこその美味しさ

「島浦島は魚の養殖に向いています」と結城さんは言う。リアス式海岸によってつくられた湾は外洋からの波が遮られ、荒れることが少なく魚の管理がしやすいそう。また潮の流れが速いことから餌や糞が滞留しづらく、綺麗な水質で育てることもできるという。

恵まれているのは地形と潮の流れだけではなく、餌も。島浦島では巻き網漁が盛んで、カンパチの餌は巻き網船がとってきたアジ、サバ、イワシなどの青魚に、ビタミンやミネラルが入った栄養剤などを加えてつくられる。新鮮で栄養たっぷりの餌が手に入れやすい環境だからこそ、カンパチも健康的に美味しく育つわけだ。

島野浦漁港で水揚げされた青魚などが養殖魚の餌に

美味しさをそのまま届ける技術

島浦島の恵を受けて、健康的に育った魚たち。その美味しさをそのまま食卓へ届けるために工夫しているのが、結城さんが独学で学んだ血抜きと神経締めだ。できるだけ早いタイミングで血抜きと神経締めを素早く行うと、臭みの発生を抑え、腐敗を遅らせることができる。また旨みも増すという。結城水産の直販で購入した魚は、生けすから揚げた魚をできるだけ素早く、ストレスをかけないよう、血抜きと神経締めを行っている。

そのかいあってか、直販の魚を食べた人からは「いつも食べている魚と全然違う」「臭みがない」と驚きの声が多く聞かれるという。離島から発送するため、お届けまでにはある程度の日にちがかかる。それにも関わらず、普段食べているものより美味しいという声が上がるのは「市場流通に比べて早い段階でしっかりと血抜きと神経締めをして、良い状態で送り出しているから」と結城さんは自信をのぞかせる。

2023年に完成した加工場は存在感のあるカラーリング

こだわりの魚をお取り寄せ

現在、結城水産では主にポケットマルシェを通じて「金寿カンパチ」をはじめとする複数の魚種を、刺身用ブロック、半身サク、下処理済み丸一尾などいくつかの形で販売している。カンパチについては時間と共に食感や旨みが変わるのも魅力。締めて1日目はコリコリとした食感が強く、フレッシュな旨みがあるそう。2、3日目は脂の甘みが濃くなり、食感も落ちにくいのでバランスのいい味わいに。5日目以降になると脂の甘みとはまた別の旨みが強くなるという。お取り寄せして、その美味しさを味わってみてほしい。

最後に、結城水産の魚を食べる方にメッセージは?と結城さんに聞いたところ「多くを望みすぎかもしれませんが、その魚が食卓に上るまでの背景についても考えていただけたら嬉しいです」という答えが返ってきた。

島浦島の美しい海で、手間暇かけて育てられる魚たち。その物語に思いを馳せながら食せば、より一層美味しく感じられるかもしれない。

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