臭みや癖が少ないイセエビ
豊漁丸の主力魚種の一つがイセエビ。漁期は9月〜4月半ばごろで、この時期になると河野さんは朝4時ごろに船を出して岩礁周辺に向い、帯状に仕掛けた網によりイセエビを絡めとっていく。いわゆる「刺し網」という漁法だ。「波が出た時などは大漁になります」と河野さん。荒波から逃れようと岩場から出てくるため獲りやすいそう。天候の見極めは、イセエビ漁の釣果を左右するポイントだという。
こうして水揚げされた豊漁丸のイセエビは「臭みや癖が少ない」と評判。その理由は黒潮の速い外海で獲れるからだと河野さんは言う。例えばブリなどの養殖場を備えた湾内で獲れるイセエビは、養殖場から落ちて溜まった餌などの影響により身に臭みや癖が出やすいという。一方、豊漁丸のイセエビは流れが速く水質の綺麗な外海で獲れるため、イセエビ本来の美味しさを存分に感じられるそう。
そんなイセエビのおすすめの食べ方は、お刺身と味噌汁だと河野さんは言う。尻尾はお刺身にしてプリプリの甘い身を、頭は味噌汁にして濃厚な味噌と出汁の味を楽しんでほしいそうだ。
独特な見た目と強い旨味のアサヒガニ
豊漁丸ではイセエビの他、アサヒガニ漁にも力を入れている。アサヒガニは宮崎、鹿児島、沖縄などの温暖な海域に分布するカニ。カニのような甲羅に、エビを思わせる尻尾がついた独特な姿をしている。
生育地帯は沿岸の砂地で、イセエビと同じく刺し網で漁獲される。漁期も10月〜5月とイセエビとほぼ同じだが、良く獲れるのは波の静かな天気のいい日でイセエビとは真逆。そのためアサヒガニとイセエビのどちらを獲るかは、主に天候を見て決めるという。
「条件が合わないと、何百個と網を落としても1匹しか獲れないこともあります」と河野さん。漁獲条件の見極めが難しいためアサヒガニ漁を行う漁師は少なく、市場に出回る量も多くはないそう。また独特な見た目をしていることもあり、イセエビに比べるとマイナーなのは否めない。しかしその味は「イセエビよりも美味しい」と評する漁師さんも多く、テレビ番組に取り上げられて以降はリピーターも獲得している。
河野さんがおすすめするアサヒガニの食べ方は、塩茹でと蒸し。カニのように甲羅をめくって食べる。また味噌汁にも入れてみてほしいそう。足にはほとんど身がないが、半分に割って味噌汁に入れると出汁が良くとれ、強い旨みを感じられるという。
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知る人ぞ知る、強い旨みが味わえるアサヒガニ
新鮮な状態でお届けする工夫
元々、豊漁丸では獲った鮮魚を全て市場に水揚げしていた。しかし7年ほど前からネットによる直販を始め、徐々に拡大。今では販路のほとんどが直販になっているという。直販を始めたのは自分たちで価格決定権を持ちたいと思ったから。大漁だった時など、どうしても市場では値段が落ちてしまう。そうした市場価格に左右されないよう、奥様の助言もあってネット直販に踏み切ったそうだ。
現在、市場に多く水揚げしていた時より売り上げは好調だという豊漁丸。背景にはコロナ禍の影響によるネット販売の利用者増もあるが、河野さんご夫婦のこだわりや工夫も挙げられる。その一つが鮮度。自宅に生けすや冷凍庫を設置し、海で獲ったイセエビはすぐに生けすに入れ、基本的には生きたままお届けしている。またアサヒガニはすぐに冷凍、そのほかの魚も朝獲ってすぐに血抜きをし、その日のうちに発送している。
鮮度へのこだわりは梱包にも見られる。給水シートを入れるなど、より良い状態でお届けできるよう工夫を重ねているという。「自分でいろいろなECサイトから魚を買って、梱包方法を勉強しています」と河野さん。魚を獲ることだけに甘んじず、お客様の手に届くまで責任を持つ。新鮮な魚を食べてほしいという強い思いも、豊漁丸の直販が成功した一因と言えそうだ。
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ご夫妻が中心となり、家族で切り盛りしている
さまざまな魚種から選ぶ楽しさも魅力
漁師としての確かな腕とお客様に寄り添う姿勢で、直販を拡大してきた豊漁丸。今後の展開については「より良い状態でお客様に鮮魚をお届けできるよう、さらに工夫を重ねていきたい」そう。また現在の直販は丸一尾のみだが、ゆくゆくはお客様の要望に応え、切り身にしてお届けすることも視野に入れているという。
豊漁丸の直販サイトではイセエビとアサヒガニ以外にも、ゾウリエビや季節ごとの鮮魚を販売している。ゾウリエビは収穫量が少なく、市場にあまり出回らない希少なエビの仲間。その名の通り草履を思わせる平たい姿から食べるのに躊躇してしまう人も多そうだが、味は絶品だという。イセエビと同じく、河野さんの自宅にある生けすから生きたまま届く。どんな味わいかぜひ試してみてほしい。
またその他の鮮魚はどれも朝獲れてすぐに血抜きをし、その日のうちに発送している。おすすめの食べ方はお刺身。新鮮な美味しさを感じられるはずだ。鮮魚は季節ごとにラインナップが変わるのもポイント。こまめに直販サイトをチェックして、お気に入りを見つけてみてはいかがだろうか。