もう「農業不適地」とは言わせない!「菌床きのこ栽培」で八丈島に新産業を興す農家さんの思いを聞きました。

舞台は東京都・伊豆諸島の八丈島。2年前にこの島出身の大沢竜児さんが栽培をはじめたシイタケとキクラゲが、今では地元だけではなく、島外からも注文が入る盛況ぶりなのだとか。

亜熱帯の八丈島で生きる大沢さんは、なぜキノコ栽培を生業に選んだのでしょうか?そこには、この島だからこそ実現できる味わいと、人口減少を食い止めたいという大沢さんの地元愛が詰まっていました。


- - producer - -

大竜ファーム・大沢竜児|東京都八丈島

東京都八丈島でうみかぜ椎茸・海風きくらげを栽培しています。『うみかぜ椎茸・海風きくらげ』は、 八丈島特有の海風と高い湿度、豊富に湧き出るおいしい水で育ちます。八丈島の自然の恵みを受けた肉厚でジューシーな茸です。


伊豆諸島・八丈島は菌床キノコ栽培にぴったりの環境だった!

八丈島は東京の南方海上287kmの海上に浮かぶ伊豆諸島の一島。年間平均気温18℃、年間降水量3000mm前後(東京都心の年間降水量はおおよそ1500mm)の亜熱帯気候に属するあたたかな島です。


ーー八丈島とキノコ……意外な選択に思えますが、実際はどうなんでしょうか?

周囲を海に囲まれている八丈島は、湿度が高く空気中に塩分が多く含まれているので、シイタケやキクラゲなどキノコ類の菌床栽培との相性がいいんですよ。

※菌床栽培とは…おがくずなどにキノコが育つための栄養源となる素材を増せた培地(菌床)にキノコの菌を植えて育てる栽培方法のこと。


ーー八丈島ならではの味と風味なんですか?

シイタケは歯ごたえがよく肉厚で、特有の癖のあるにおいやエグミが少ないのが特長です。シイタケが苦手な方やお子様にも「これなら食べられる」という方が多いですね。


ーーエグミが少ないのは嬉しいですね。食べ方の幅が広がりそう!

まさに料理のジャンルを選ばない万能な食材です。

一般的には和食中華料理のイメージが強いシイタケですが、意外にもニンニクやオリーブオイルとの相性抜群! ピザパスタなどイタリアンにもよく合います。薄くスライスして、カルパッチョにして召し上がる人も多いですね。肉詰め煮物カレーシチューなどもオススメです。


ーーキクラゲも珍しいですよね。

シイタケ同様に、肉厚でプリプリとした食感が特長です。サラダ刺身などで、生のまま召し上がる方も多いですよ。


ーーキクラゲって生で食べられるものなんですね。

一般的にキクラゲは虫がつきやすいのですが、ここでは安全性を考慮して室内で栽培しているので虫がつきにくいのです。出荷前には水道水で丁寧に洗っています。


クワガタとの出会いで始まった、食の基幹産業づくりへの挑戦

大沢さんがシイタケとキクラゲの菌床栽培に着手したきっかけ。それは息子さんにプレゼントしたクワガタの飼育でした。


ーーきっかけはクワガタ飼育……一体どういうことなんですか?

10年近く前に、息子が喜ぶだろうと思ってクワガタを一緒に飼い始めました。クワガタの幼虫を飼育するのに、食用キノコ(ヒラタケ)の菌を植え込んだ菌床ブロックを使用します。経過を見ていたら、意外にもヒラタケがよく育つんです。

そこから「島特有の気候が影響しているのではないか」と思いはじめ、シイタケの研究にハマってしまい……。気付けば八丈島の環境に適した菌種を4年間探し続けていました。


ーーそれで生まれたのが「うみかぜ椎茸」というわけですね。

一般的なシイタケの菌床栽培では中国からの輸入菌種を使っているケースも少なくありませんが、私は「やるからには菌床から国産・農薬不使用にこだわろう」と思い、菌床ブロックのメーカーを探し回りました。

同じ菌床を使っても、生産する地域によって味や形、食感などが若干変わってきます。八丈島の条件に合う国産・農薬不使用の菌床が見つかり、今は年間を通して安定的に栽培できるようになりました。


ーー「海風きくらげ」の栽培はいつ頃から始めたのでしょうか?

シイタケと同じ要領で、昨年6月から試験栽培を始めています。11月までは非常に順調に育ってくれました。ただ、キクラゲ特有の難しさもあります。

キクラゲは常に23度くらいで栽培しないとうまく生えてこないんです。冬は島でも朝晩は7〜8度まで下がるので、菌が活性化せず全く芽が出てきませんでした。今はストーブで室内を温めながら管理してます。


ーー温度管理が重要なんですね。

多くの農家が、気温が低くなる冬場のキクラゲの生産は行わないと聞きます。それほど育てるのが難しくて、手間がかかるんでしょうね。でもうちはシイタケとキクラゲの2枚看板を年間通してやっていきたいんです。

菌床ブロックがずらりと並ぶ工場内(左:しいたけ、右:きくらげ)。


ーーなぜ、困難な「2枚看板の年間生産」にこだわるんですか?

それはこの島を活性化させたいからです。

全国の地方と同じように、ここも人口減少の一途を辿っています。生まれ故郷ですから、このまま衰退してしまうのはどうしても寂しい。この仕事を通じて「島に人を呼びたい、島の役に立ちたい」という想いが一番強いのです。

そのためには雇用が必要。そこであえて「2枚看板の年間生産」に挑むことで、さらなる雇用も生み出し、より魅力的な仕事にしていきたいんです。

台風も多く天候が不安定な八丈島は農業に不向きと言われ、これといった「食」の生産品がありません。でも、シイタケやキクラゲは天候に左右されない施設栽培が可能です。それどころか、非常に相性がいいことがわかりました。

将来的には、島の基幹産業に近づけるところまでもっていきたいと思ってます。


海を越えて、都心にも。大竜ファームのこれから

クワガタの飼育からはじまったシイタケとキクラゲの栽培は、今では大沢さんの故郷愛を体現する存在になっています。実際に栽培を始めてわずか2年ほどの間に、随分と島内で認知が広がっているのだとか。


ーー販売は順調ですか?

生産量は増えてます。シイタケは島のスーパー全店で販売されていて、それまで主流だった本島のものから随分切り替わっています。島内のレストランやホテル、さらに学校給食でも扱ってもらってます。地元の認知はだいぶ浸透してきました。


ーーそれはすごい!

さらにシイタケ・キクラゲを原材料にした加工品も増やしています。

地元の乳業会社と開発したジェラートは非常に好評です。シイタケの粉を使って開発したんですが、あまりにも意外な組み合わせなので興味本位で購入する人が多く、食べてみると「きな粉やクルミのような味わい」などと地元で評判になっています。

最近はシイタケの粉を使った煎餅も人気で、「食べ始めたら止まらなくなる」なんて言われます。


ーー島外からの注文はどうですか?

大竜ファームのSNSを通じて注文してくださるお客様が多いですね。東京都心の居酒屋やレストランにも卸しています。

ユニークな卸し先としては、都内の昆虫ショップがありますね。「クワガタに詳しい農家がつくっている」というストーリーでぜひ売りたいと(笑)。おかげさまで、よく売れているそうです。


ーー大竜ファームではシイタケの収穫体験も行っていますね。

昨年から始めました。観光客など多くの方々に来ていただいています。収穫したものはその場で炭火で焼いて食べられますよ。クワガタの飼育室も併設しているのですが、海外の珍しい種類を飼っていることもあって特に子どもたちが興味津々で(笑)。

キノコとクワガタの二刀流で島の観光も盛り上げたいと思っています!

大人気のシイタケの収穫体験


子どもたちは珍しいクワガタに夢中


八丈島特有の環境が生み出した「うみかぜ椎茸」と「海風きくらげ」。ここ最近では大竜ファームを視察する食・流通関係者も増えているといい、ますます勢いは止まりません。

大竜ファームは創業3年目。大沢さんは今後の展望をこう語ります。

「島なので材料を取り寄せる際の運送費はかさみますし、まだ利益が出るところまではいかず、なんとか踏ん張っている状況です。まだまだ小さい会社ですが、これからも全国のお客様、島外の飲食店などにどんどん売り出していきたい。観光スポットとして多くの人に訪ねてもらえるように、栽培施設も広げていきたいですね」


大沢さんの出品はこちら

八丈島からは空路輸送なので、多くのエリアで翌日配達が可能とのこと。東京の亜熱帯・八丈島の味、ぜひ味わってみてください。

◎うみかぜ椎茸(生シイタケ)


◎いつでも使える乾燥品



- - writer - -

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。





Magazine

あわせて読みたい