ミシュランシェフが指名する最高のお魚とは。 築地仕入れとの違いを生む漁師の技

ライターの庄司です。


「ミシュランシェフがフライパンひとつでできる極上の魚料理を教えてくれます」


そんな話を聞いたのは、4月の終わりに近づいたある日のこと。


「とにかく、シェフが最高にユニークで、料理も絶品なんですよ!」

という言葉につられやってきたのは、目黒のイタリアン「L'asse」(ラッセ)。目黒駅から徒歩5分、権之助坂を下ったビルの地下1階にひっそりと佇む隠れ家レストランで、2012年から6年連続ミシュランガイド一つ星を獲得したという実力派イタリアンです。

 

 

この「L'asse」でオーナーシェフを務めるのが、村山太一さん(41歳)。16歳から料理人の世界に入り、京都の超一流店から沖縄・久米島の居酒屋まで振れ幅の広い和食修行ののちにイタリアへ。お金もコネもない状態から経験を積み、フィレンツェ、ミラノの有名店を経て三つ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」の副料理長を務めた後、帰国して2011年に「L'asse」をオープンします。

正直、村山さんの修行時代は本が書けるほど珠玉の(おもしろ)エピソードが満載なのですが、字数が足りないので詳細はまたの機会に!

 

これまでの魚の概念をくつがえすフワフワの食感

さて、そんな天才シェフ・村山さんがポケットマルシェの食材を使って作ってくれた料理がこちら。

 

淡路島・山崎さんのサワラのソテー、エディブルフラワー添え

 

村山「シンプルに、塩とオリーブオイルのみでソテーにしてみました」

 

「まずは食べてみてください」ということで、さっそく賞味することに。


……何これ。

超絶美味しいんですけど……?

身がふわふわ! フワッフワッッ!!!

 

庄司「これ、本当にオリーブオイルと塩だけなんですか!?」

村山「そうです」

庄司「何か、特別な調理器具を使ったんですか? 業務用のすごいスチームレンジとか……」

村山「いいえ。ニトリで買った500円のフライパンで焼きました」

庄司「ええええええええ!」

 

信じられない。なぜなら私、取材の数日前にサワラのソテーを作って盛大に失敗したばかりだからです。

サワラのような白身魚って、ふつうにソテーすると水分が抜けて身がボソボソになりませんか? 私の場合、いつも何やらゴムゴムした食感のソテーに仕上がってしまい、夫と息子を無口にしてしまうんですよね。。。

もちろんプロのシェフが厳選した食材で調理するのと、素人の中でもさらに料理下手の誉れ高い私がスーパーで買った切り身を焼くのでは条件が違いすぎる(というか失礼)なのですが、それにしたってこの差はなんだ。まるで違うメニューじゃないか。

 

庄司「自分で焼いたサワラとこのサワラが別物すぎるのですが、いったい何が起きたんですか?」

村山「まずは最高の鮮度の食材を使うこと。次に、ゆっくり時間をかけて火を通していくこと。この2つのポイントを押さえれば、家庭でも同じ味を再現できますよ」

 

産地で直接確かめた漁師の技

食材を選ぶ際は、自ら産地に赴いて生産者と対話し、信頼できる生産者からのみ買い付けるという村山さん。そんな村山さんが「最高の魚」と評するのが、兵庫県淡路市の漁師・山崎一馬さんが提供する瀬戸内海の旬魚たち。

村山さんが山崎さんの魚を仕入れるようになったのは、ちょうど3ヶ月前。


村山「岩屋漁港を訪れた際、山崎さんの自宅に招いてもらって、夕食をご馳走になったんです。太刀魚のお刺身やキモの煮付け、カワハギ鍋など、いわゆる漁師の家庭料理だったんですが、それが衝撃的な美味しさで。これまで食べてきた魚の味とは、何もかもが違う。」

 

 

身はふわっとどこまでも柔らかく、それでいて噛み締めたときの歯ごたえはしっかりと残る。魚特有の臭みもない。


村山「たとえるなら、焼いた餅と焼いていない餅ぐらい根本的に違ったんです」


そんな最上級の美味しさの秘密は、山崎さんならではの「魚の扱い方」にあるといいます。


村山「例えばサワラは鮮度維持がとても難しい魚ですが、水揚げ後すぐに氷の中に入れてしまうと、身がしまり硬くなって味が落ちる。山崎さんは、水揚げしたら船上ですぐに活け締め血抜き、神経締めをする。そして神経じめ以上に大切なのが、魚をベストな状態に保つ温度管理の技術です」

 

山崎さんは、水揚げ直後から梱包に至るまで繊細に温度管理をすることで、抜群の鮮度と身のやわらかさを実現しているそうです。鮮度維持に適した温度は魚ごとに異なるため、それらを逆算して氷の当て方や梱包方法を工夫しながら、発送するタイミングを見極めているのだとか。

 


村山「サワラ以外にも、それぞれの魚に応じた扱いの技術がすばらしいんです。例えばタイは、ウロコが親指だけでスーッと取れるんですよ。こんな魚は、これまで見たことがありません。とくにお刺身やカルパッチョにすると、築地とかで仕入れた魚との違いは歴然です」

 

低温でじっくり焼いた魚は七色に光る!

そんな“最高の素材”を活かしてソテーを美味しく仕上げるには、「火の通し方に秘訣がある」と村山さん。さっそく私たちの前で実演していただきました。

 

村山「魚のタンパク質は低温で変成しはじめ、45℃を超えると硬くなってきます。そのため、種火から離れた網の上などにフライパンを置いて、温度を40℃ぐらいにキープしながらじっくり火を通していきます」



・・・


・・・


20分経過) 

 

庄司「切り身の色が白っぽくなってきましたね」

村山「火が通っている証拠ですね。だんだん種火に近づけて、少しずつ温度を上げていきましょう」


・・・


(さらに10分経過)

 

庄司「ドリップ(水分)が出てきましたね」

村山「全体に火が通ったら、強火にします。ドリップは焦げるのでペーパーで拭き取りながら、皮目をパリッとさせれば完成です」

 

焼き上がったサワラに包丁を入れる村山さん。すると、断面が虹色にきらめいているではないですか!


 

庄司「なぜ虹色に光っているんですか!?」

村山「細胞の組織が壊されていないので、キラキラ光るんです」

庄司「ほえ〜」

 

思わず感嘆の声が漏れてしまうほど、サワラの表面は本当につやつやと七色に輝いていました。塩とオリーブオイルだけで(しかも500円のフライパンで)こんな美味なる一品を作れてしまうのか。すごい。プロの技すごい!

 

庄司「プロの生産者とプロのシェフの技が融合したとき、そこには感動的ともいえる美味しさが生まれるんですね」

村山「そうですね……。私たちの“食”は、さまざまな命の恩恵で成り立っています。だからこそ私は、命と真摯に向き合っている生産者の方々の食材を使いたいし、その思いを“最高の味”に換えてお客さまに届けたい。それがちゃんと伝われば、お客さまの『おいしい』の一言は、命への『ありがとう』にもなる。私はそれが料理人の役割だと思っているんです」

 

いつも生産者や食材へのリスペクトを忘れない村山さん。本日は取材へのご協力、本当にありがとうございました!

 

村山シェフを支える生産者・山崎一馬さん(兵庫県淡路市)の現在の出品はこちら


◎今回使用した淡路島のサワラ


◎生or焼き、用途に合わせたお魚セット

 

村山シェフのレストラン情報はこちら

 

『Restaurant L'asse』

営業時間:12:00-15:00 (L.O. 13:00)、18:00-23:00 (L.O. 21:00)
定休日:日曜、第1月曜
住所:東京都目黒区目黒1-4-15 ヴェローナ目黒B1
電話番号:03-6417-9250
ホームページ:http://lasse.jp/restaurant/

 


村山太一(むらやま・たいち)
1975年、新潟県生まれ。16歳より地元の旅館、京都の料亭などで腕を磨いた後、2000年に単身イタリアへ。各地で修行を重ね、2005年よりイタリアを代表する三つ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」に移り、副料理長を務める。帰国後の2011年、イタリアン・レストラン「L'asse」を東京・目黒の地にオープン。2012〜2017年まで6年連続でミシュランガイド一つ星を獲得。


取材・文:庄司里紗(しょうじ・りさ)
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、ライターとしてインタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で執筆。2012〜2015年の3年間、フィリピン・セブ島に滞在し、親子留学事業を立ち上げる。現在はライター業の傍ら、早期英語教育プログラムの開発・研究にも携わる。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。



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