赤い?赤くない?2種類のブラッドオレンジを観察して過ごした2020年春

「ブラッドオレンジ」という言葉の響きから、どんなイメージが浮かぶだろうか。

「ジュース」「柑橘」「赤」「おいしい」——それは人それぞれなのだろうけど、私の場合はとあるCDアルバムのタイトルを思い浮かべる。

具体的なことはここに書けないけれど、タイトルに「ブラッドオレンジ」が入っているので、調べればすぐにわかるだろう。そのアルバムが発売されたのは、東日本大震災の翌2012年。壮絶な出来事があった翌年、アーティスト本人を含む多くの人が迷い、立ち止まっていた時期だった。

それから7年半後の2020年春。私の手の中には「本物のブラッドオレンジ」があった。

目次

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タロッコとモロ
2種類のブラッドオレンジを見比べる

「ブラッドオレンジ」は最近まで日本には無かった柑橘だ。原産は地中海周辺と言われている。

今ここにあるのは、福岡県能古島の久保田農園さんが育てたブラッドオレンジ。詳しくは関連記事をお読みいただきたいが、40年程前からブラッドオレンジの栽培を始めた久保田農園は、日本の栽培農家の中でもかなりの古株の農家さんだ。

関連記事:国産ブラッドオレンジ歴40年。福岡県能古島・久保田農園に行ってきたよ!

ブラッドオレンジには日本のみかんと同じくたくさんの品種がある。日本では「タロッコ」「モロ」の2種類がメジャー。久保田さんもこの2種類を育てている。

2種の違いは、まず見た目でわかるだろう。

鮮やかなオレンジ色の果皮の中に、赤色のサシが入ったような果肉があるのが「タロッコ」

▲タロッコ

少しくすんだオレンジ色の果皮の中に"blood"(血)の名に恥じない真っ赤な果肉が詰まっているのが「モロ」

▲モロ

赤い色は「アントシアニン」という色素によるもの。ブルーベリーなどにも含まれるお馴染みの機能性成分だ。特にモロの方は、切ったそばからまな板や包丁が赤く染まる。


写真に現れない部分では、香りや味も違う。

「タロッコ」は「いわゆるオレンジ味」に近い。華やかな芳香を吸い込むだけで元気になる気がする。味はとても甘い。

「モロ」はちょっとした渋みというか、柑橘らしからぬ風味がある。大人の雰囲気だ。

久保田さんの話によると、ブラッドオレンジの栽培を始めたばかりの頃は、このクセのある味わいがなかなか受け容れられなかったそうだ。しかし、時代とともに人の感覚は変わるもの。現代人の私は、この独特な味わいこそがブラッドオレンジの醍醐味だと思う。

▲←タロッコ|モロ→

もしも、過去に真っ赤なブラッドオレンジジュースを飲んだことがあって、「ブラッドオレンジは独特の風味がして苦手」と思っている人がいたら、それはモロの味だったのではないだろうか。普通のオレンジジュースをおいしいと感じる人は、きっとタロッコなら違和感なく食べられると思う。

ブラッドオレンジのジュースを手搾り

そうだ、ブラッドオレンジと言えばジュースなのだった。

果汁を搾ったら、両者はどう異なるのだろう? せっかく本物のブラッドオレンジが目の前にあるのだから、搾ってみることにした。

我が家にはジュースを搾る道具が無い。買いに行こうかとも思ったが、今は外出自粛中だ。自分ひとりで飲むためであるなら、道具を使わずに手で搾れば十分ではないか。よし、手で搾ろう。


一切れずつ、グラスの上で搾っていく。タロッコの華やかな香りが部屋中に立ち籠める。

タロッコの果汁はオレンジ色。皮に残ってしまう果肉もスプーンでこそげ取って果汁の中に入れると、ところどころに赤い果肉が混ざって、花吹雪のよう。

一方モロの果汁はというと、

鮮やかなピンク色。ブラッドオレンジ同士でも果肉や果汁の色はかなり違うみたいだ。


比較しやすくするために、試験管に入れてみた。

左がタロッコ、右がモロ。こうして並べてみると、色の違いがいっそうよくわかる。

果汁がオレンジ色のタロッコ。

果汁が赤色のモロ。

2つのブラッドオレンジの違い、おわかりいただけただろうか。

家にいるから味わえる「本物」がある

さて、ブラッドオレンジジュースを味わいながら、冒頭のCDアルバムのエピソードに戻らせていただく。

東日本大震災を経た2012年。発売当時、それは特別な強いメッセージを持たない異質な作品として、根強いファンの間で評価が分かれた。正直に言うと、私はその意味を理解できず、もやっとした気持ちでいた側だ。

でも、当時よりも少しだけ大人になった今は、その作品に込められた思いがわかるようになった気がする。

世界が「百年に一度」と言われる未曾有の感染症との戦いの最中にある2020年春、世間の価値観は刻々と変化し、どんな言葉を綴ったところで、一瞬後にはそれが絵空事のように感じる。

そんな今の私ができることは、他者の立場を想像し、他者になったつもりで考えてみること。大切な人たちに魔の手が及ばないことを祈り、極限まで外に出ず、人に会わずに、自分の生活を送り、これからどう生きるかを考えること。

もしも迷うことがあったら、2011年から9年後の日本では、ずっと家にいても本物のブラッドオレンジを味わえるようになったという事実を、思い出そう。

9年間をかけて、社会はゆっくりと、着実に進化してきたのだ。きっとこれからも。

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文・写真=中川葵

※2020年4月22日:写真と一部の文章を修正しました

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