国産ブラッドオレンジ歴40年。福岡県能古島・久保田農園に行ってきたよ!

\どこだ!/


\どこなんだ!!/


\ねこだ!/……じゃなくて、


\国産ブラッドオレンジは、一体どこにあるんだ!/


濃厚な甘味と、血(ブラッド)のような真っ赤な果肉がトレードマークのブラッドオレンジ

原産国はイタリアで、最近は日本でも栽培されるようになりました。とはいえ、ブラッドオレンジジュースを飲んだことはあっても、生の果実を見かけることはまだまだ少ない。はたまた国産ブラッドオレンジともなればかなり認知度が低いのが現状です。

そんななか、ブラッドオレンジを作っている農家さんが日本の”とある島”にいらっしゃると聞き、家を飛び出し飛行機と船を乗り継ぎやってきました。今回はポケマル編集部インターンの尾形がお届けします。

 

目次

 
     ここに目次が表示されます。    

ブラッドオレンジって?

改めまして、やってきたのは福岡県・能古島(のこのしま)。福岡市内の港からフェリーで約10分の距離にある、周囲12kmの小さな離島です。季節ごとに花々が咲き誇り気軽に都会の喧噪から離れられると、福岡市民の癒やしスポットにもなっているのだとか。

今回は能古島の真ん中で柑橘農家を営む久保田勝揮さんを突撃しました!

Producer

久保田勝揮(久保田農園)|福岡県福岡市

能古島は暖かい気候と、水はけのよい土地で、柑橘栽培に最適です。久保田農園では能古島の特産品である、樹で完熟させる「樹成り甘夏」をはじめ、10種類以上の柑橘を作っています。特にオススメしたいのが、祖父の代から30年以上栽培している「ブラッドオレンジ」です。甘くて豊かな香りが特徴で、国産はとても希少です。


登場人物
  • 久保田勝揮さん:久保田農園の3代目。
  • 久保田夕夏さん:勝揮さんの奥様。


柑橘マニアの尾形さんが来ると聞いて、喜んでくださるかと思い準備しました。これどうぞ!

到着するやいなや渡されたのは、一枚の紙。そこには大量の柑橘類の名前が!

28種類の柑橘の名前が並ぶ栽培カレンダー(後日撮影)


久保田農園オリジナルの柑橘カレンダーです。うちの農園で栽培されている品種の収穫時期を一覧にしたものなんですよ。

──ええ、すごい!ブラッドオレンジ一本というわけではなく、こんなにたくさんの品種を作ってるんですか?


ブラッドオレンジだけでなく、他の柑橘もたくさん作っているとなっては、筆者の興味は深まるばかり……。しかしまずは当初の目的「国産ブラッドオレンジと会う」を果たすために、ブラッドオレンジの農場へと案内してもらいました。


ブラッドオレンジはハウスで育てています。

ビニールハウスの入り口からちらりと見えたのは真っ赤な果実。見慣れない色に驚きながらもハウスの中に足を踏み入れると……

ブラッドオレンジさん、ようやく出会えましたね。


──こんなにたわわに実っている姿を見られるなんて……! それにしても、んー、いいにおい!

まるでバニラビーンズのような芳香。それにしても、近くで見るとより赤色が際立って見えます。


これは「モロ」という名前で、ブラッドオレンジの原種に近い品種です。赤色がバツグンに映えますね。ただし酸味が強めなので、そのまま食べるよりも加工用として使われることが多いです。

でもうちのモロはハウス栽培しているからかしら、そのまま食べても結構おいしいんですよ。

次に見る「タロッコ」という品種は、生食向きの味に改良されたものです。


というわけで、お次はタロッコの畑へ。

これがタロッコです。


タロッコは先ほどのモロに比べ、「ん?これがブラッドオレンジ……?」という印象。確かにほんのり赤い気もしますが、言われなければわからなさそうです。大きさはモロよりもひとまわり大きいくらいでした。


──ところで、ハウスで栽培することの意義はなんなのでしょうか?

ハウスだと徹底した水管理ができます。このタロッコも、10月頃からほとんど水をあげずに育てているので糖度が高く、濃い味に仕上がります。病害虫対策にも有効で、農薬の使用も抑えられるんですよ。

──へええ〜、ハウス栽培にはいろんなメリットがあるんですね!


赤い果実は、どんな味?

やはり気になるのが、そのお味。普通のオレンジとは味が違うのでしょうか。まだ収穫には少し早かったのですが、モロとタロッコをそれぞれ味見させてもらいました。

左がタロッコ、右の赤い方がモロ。果皮だけでなく、中身まで赤くなるんですね。


──いただきます!

切ってもらうやいなや、飛びつく筆者

筆者インプレッション

モロ:一口食べて「すっぱ!」となる酸っぱさではなく、まろやかな酸味を堪能できる。

タロッコ:モロがまろやかな酸味であれば、こちらはまろやかな甘味。


う~ん、あま~い……と言いたいところですが、取材当時は収穫期1ヶ月前だったのでまだまだ酸味を強く感じる時期。収穫期になればこの酸味は和らぎ、甘味が増しているはずです。

しかしながら、ブラッドオレンジならではの独特な風味はきちんと感じました。口の中だけで完結せず、鼻の奥底にまで突き抜けるような芳香があります。

外国産のものよりも、風味はいいと思いますよ。ただし、あまり長く貯蔵しすぎるとブラッドオレンジ独特のえぐみが出てしまう事があります。そのえぐみが出たジュースを飲んで、「ブラッドオレンジはおいしくない」と思われてしまう事もあるんです。


久保田農園とブラッドオレンジの物語〜40年の時を経て〜

ある日ひょいと現れて以来、久保田農園で飼われているネコさん


ブラッドオレンジは、本当のおいしさをわかってもらえるまでが大変だよね。

作り始めた頃は、市場に持って行っても門前払いだったんです。


──えっ、そうなんですか! それは一体、どうしてでしょう?

赤い見た目から、「腐ってる」と言われてしまって。


──確かに見慣れない見た目ですが、それだけで買い取ってもらえないなんて……。

どこにも売り場がなくて配り歩いていたら、たまたま国産ブラッドオレンジを探しているシェフに出会いまして。結果的にそのシェフに、うちでつくったブラッドオレンジを全部買い取ってもらえることになりました。


おいしいのにも関わらず、魅力をわかってもらえない……歯がゆい思いをしながらも、今まで作り続けてきた久保田さん。ブラッドオレンジへの愛情が伝わってきます。


──ところで、久保田農園ではいつ頃からブラッドオレンジを育て始めたのでしょうか?

40年ほど前、祖父の時代から栽培を始めました。たまたま苗屋さんに「面白いのがあるよ」って教えてもらったんです。でも、国内で作っているところはまだまだ少なく、栽培マニュアルもない段階でした。


──マニュアルがないって……どうされたのですか?

自分で研究を重ねるしかありません。翻訳された英文資料を自分なりに解釈して学びました。


前例の少ない日本でのブラッドオレンジ栽培にチャレンジした久保田農園。初めのうちは木の上で完熟させたら実がポロポロと落ちてしまったり、5月を越えて収穫したら食味が格段に落ちてしまったり、失敗の連続だったのだとか。

試行錯誤の末、ようやく適切な収穫時期や実が赤く色づく条件をまとめていくことができたそうです。ここにあるブラッドオレンジたちは、久保田さんの研究のたまものなんですね。


──今は愛媛県がブラッドオレンジの産地化に努めているようですが、愛媛県からの情報はなかったのでしょうか?

愛媛県での栽培の歴史は、うちの半分くらいしかないと思います。というのも、実は僕が愛媛県の人に自分の研究成果を全部教えちゃったんですよね。


──えっ

ええっ、なんで教えちゃったのー!

だって、愛媛の人がうちに視察に来たからさあ……。その時に、自分が作ったマニュアルを惜しみなく渡しちゃったんだよ……。

なんてことしたのーっ! 今や愛媛の生産量の方が多くなって、価格でも負けちゃってるっていうのに……! 向こうの人、うちが教えたって絶対覚えてないじゃん!

うん、覚えてないだろうね……ははは。


今でこそ若い女性やオシャレな飲食店に引っ張りだこのブラッドオレンジですが、その波の発端には、ここ久保田農園もあったということなんですね。

※愛媛県で本格的な研究が始まったのは2006年からだと記されている。また、平成21年から「全国初のブラッドオレンジ産地化を目指した普及活動」と題し、生産量の拡大や加工技術の向上、PR活動の推進などを行っている。参考:①愛媛県「地中海のフルーツ・ブラッドオレンジ」資料 ②農林水産省「全国初のブラッドオレンジ産地化を目指した普及活動」資料 


合言葉は「とことんやる」。久保田農園の変わらぬマインド

勝揮さんは久保田農園の3代目。おじいさまが戦後すぐに福岡県久留米市から移住し、山を開墾してみかん畑をつくったそうです。

畑は緩やかな傾斜のついた山の上にある。「これ以上キツい傾斜だったら、農家を継いでなかったかも」とのこと。


──勝揮さんは、最初から農家を継ぐ予定だったんですか?

そうですね、あんまり深く考えていたわけではなかったけど、親が農業やってるし、僕もやるかな〜くらいの軽い気持ちで。


と、勝揮さん、わりとあっさりとした様子。

しかし私は思い出しました。着いたときにもらったあの柑橘カレンダーを。あんなにたくさんの柑橘を栽培している久保田さんからは、マニアの片鱗を感じずにはいられません。


──今はかなりの品種をつくられているようですが、全部で何品種あるのでしょう?

趣味で作っているのも合わせれば、30品種はあると思いますよ。

──(心の声)それは……見たい。ゴクリ。


ということで、農場を案内してもらうことに。まず向かった先は、斜面に立ち並ぶ甘夏の畑。

ここ一帯が甘夏です。シーズン中は大体20トンくらい出荷しています。

甘夏は能古島の特産品でもあって、木の上で完熟させてから収穫するのが特徴なんです。

たわわに実る甘夏


次に案内されたのはビニールハウスの中。

そしてこれはせとか、あれは紅まどかです。フィンガーライムもあります。

せとか

紅まどか

フィンガーライム


──おおおお、すごい! ここは柑橘博物館ですね!マニアにはたまりません!

元々は10品種くらいしかなかったんだけど、研修先だった長崎の試験場から色々持って帰ってきて、気づいたらこんなに増えていました。

男の人って、集めるの好きよね〜。


最初は軽い気持ちで始めたにも関わらず、どっぷり柑橘の魅力にハマってしまったご様子です。

あとうちは、自分たちでやれることは自分たちでやっています。ビニールハウスも全部自分たちで建てたので、設備費の節約になりました。祖父は石積みも自分で作っちゃったんですよ。ここは当時の石をリサイクルして、今年自分たちで積み直した箇所です。

さまざまな技術が開発された今となっても、自分たちで積んでいるということだ。


30種類もの多品種栽培にDIY農園、両者に共通しているのは”やるならとことんやる”精神です。これこそが久保田家に受け継がれるDNAなのかもしれません。


島×農業を盛り上げたい。島に嫁いだ妻の野望

久保田さんのブラッドオレンジ、そして柑橘への愛を知ったポケマル編集部一行。なにか私たちにもできることはないか、お手伝いさせてもらうことにしました。

それでは「枯れ枝落とし」をやってもらいましょうか。


これは読んで字のごとく、枯れ枝を落とす作業です。来年の実が黒点病という病気になるのを防ぐために、元気な葉っぱがついていないかどうかに注意して、枯れている枝を切り落としていきます。

※「黒点病」とは:葉や果実、枝に黒い斑点が表れる病気。果実につくと見た目が悪くなるので商品価値が下がる。黒点病菌は枯れ枝に生存し、そこが伝染源となっている。参考:農林水産省「第19回 農作物病害虫防除フォーラム」資料愛知県 カンキツ黒点病HP


ひととおり作業の説明をすると、勝揮さんは他のハウスでの作業に向かいました。

残されたのは夕夏さんと取材班(女性3名)。気付けばビニールハウス内には女性しかいない……つまり農作業女子会です!! 気兼ねなく奥様の夕夏さんに色々聞いちゃいましょう。


──さっきいただいたブラッドオレンジ、とってもおいしかったです〜。あのおいしさの裏には、こんな努力があったんですね……! 作業していても、とてもいい匂いがして幸せな気持ちになります。

ブラッドオレンジはこれから加工品にも力を入れたいと思っています。今あるのはジュースとピール菓子なんですけど、ピールもただ砂糖漬けにするだけじゃなくて、チョコレートがけにしてみるとか……


──出荷時期の2月3月はちょうど、バレンタインやホワイトデーの時期に重なりますしね! ステキ〜!  ところで、ブラッドオレンジジュースを飲んでみたいのですが、販売しないのですか?

ブラッドオレンジジュースは赤色が飛んじゃうので、冷凍便じゃないと発送できなくて。本当はいろんな人に楽しんでもらいたいんですけど……島の宅配便は冷凍を取り扱ってないので、なかなかお届けできないんですよね。

島と本土をつなぐのは可愛らしいサイズのフェリー


──そういう島の事情があるんですね。そういえば、夕夏さんはご結婚されてから島にやってきたんですか?

そうですよ。生まれ育ちは福岡だったので、近くの田舎に嫁いだイメージですね〜(笑)。同じ福岡とはいっても、やっぱり能古島は離島なんだなと思うことがたくさんあります。濃密なご近所付き合いや島ならではの風習とか……


──島に嫁いで驚いたことは?

ありますあります。久保田家には必ず親族全員が集まらないとならない日があるんです。その日に鶏を絞めてみんなでお参りして宴会をするだけなんですけどね。けれどその代々受け継がれてきた伝統行事をないがしろにすると、良くないことが起きるとかなんとか……


──それはびっくり! そういうのって、実際に住んでみないとわからないことでもありますよね。

能古島のことってまだまだ発信が足りていなくて。つい後回しになっていますが、農園のホームページをもっと充実させて、オススメの観光スポットなど、能古島自体の発信ももっとしていきたいと思っています。


──夕夏さんはすでに、「ノウカノタネ」というラジオ番組で発信されていますよね。農園でありながら島を盛り上げる、とても興味深いです!

ポケマル豆知識:「ノウカノタネ」とは

夕夏さん含む若手農家3人が、農業に関することを面白く発信している農業トークバラエティ。最近はYouTubeで動画配信も始めた。農家でも非農家でも楽しめる。Youtubeチャンネル:ノウカノタネTV


と、ガールズトークに花を咲かせていたところ、作業を終えた勝揮さんが戻ってきました。


──農園を営みながら島を盛り上げるなんて、ステキですね! 夕夏さんから聞きましたよ。

実は昔、うちの農園は温州みかんの観光農園で、観光客向けにみかん狩りをしてたんですよ。でも、温州みかんの価格が暴落したのを機にやめちゃったんです。

※1970年代、グレープフルーツの輸入自由化や温州みかんの生産過剰により、価格が大暴落した。これを機に、新たな柑橘類へと品種転換をした農家が多い。参考:清水徹朗 2002. みかんの需給動向とみかん農業の課題. 農林金融55(8)(678),2-23.


──そうだったんですね……。今後も観光農園をやる予定はないのでしょうか?

やるとなると、そこに必ず1人はいなきゃいけないですが、今はそんな人手がなくて……。

私はやりたいんだけどな! 能古島に来た人がみんな訪れるような観光農園にしたい。せっかく能古島で生きていくなら、元気な島であってほしい。

そうだねえ…えへへ。


栽培を始めて40年経った今でも、まだまだ国産ブラッドオレンジは認知度が高いとは言えません。

しかし久保田さんは、ブラッドオレンジ栽培の先駆者として”本物の味”を追求し、能古島から声を上げ続けています。小さな声だとしてもそれが反響し、いつしか大きな声になる。

能古島ブラッドオレンジという名が全国に響き渡る日も、そう遠くはないかもしれません。


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文=尾形希莉子、編集=大城実結・中川葵、写真=中川葵

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