元プログラマーが語る「これが僕の新規就農」

山梨県市川三郷町でトウモロコシを中心に多品目栽培をする農家:佐藤信也さんは、10年前にプログラマーから農業に新規参入しました。

日本の新規就農者数は近年は増加傾向にあるものの、5年以内の離農率は3割に及ぶといいます。厳しい新規就農の世界を、今年で就農10年目の佐藤さんは、どのようにして生き抜いてきたのでしょうか。

畑の真ん中で、とことん聞いてきました。

\この記事は3本立てです/

  1. ベビーコーンとトウモロコシは何が違う?畑で謎を暴いてきたよ。
  2. 元プログラマーが語る「これが僕の新規就農」(この記事です)
  3. ベビーコーンを買ってたしなんでみた

目次

ここに目次が表示されます。

こだわってるの? こだわってないの? 佐藤さん!?

いやぁ〜、僕そんなにこだわりないんですよね

と、少し照れながら語るのは、山梨県の農家:佐藤信也さん。


「え、こだわりが……ない? 何を言ってるの……?」

筆者は腑に落ちません。

なぜなら先ほど

私、ベビーコーンは生で食べるのが好きなんですよ!

えー……ホントすか。いや、僕はチンした方がおいしいと……

畑で収穫したての生ベビーコーンをぼりぼり頂く取材班


生だと青臭くないですか絶対レンジで蒸した方がおいしいのに…。お出ししますよ、蒸したヤツ。

ラップをかけて電子レンジで4分ほどチンするのがベストなのだとか


わー甘味が増した! おいし〜〜

ポリポリ……やっぱりこれだ。レンチンが一番おいしいです!


「って、佐藤さんめちゃくちゃこだわっているじゃないですか!!」

と筆者はひっそり心でツッコミを入れていました。


ベビーコーンの食べ方のみならず、農家としての生き方、そして農業への向き合い方にも、佐藤さんはめちゃくちゃこだわっているんです。


前職から180度転身。道なき道への挑戦


現在、奥様と2人で山梨県市川三郷町で農業を営む佐藤さん。

生まれもこの近辺だと思いきや、全く山梨とは関係ない人生を歩んできていました。

僕の生まれは新潟です。実家が農家というわけでもなく、普通の会社員でした。大学進学を機に上京し、卒業後も都内でプログラマーとして働いていました

今とは180度異なる生活を送っていたんですね

通勤も片道1時間半と、ハードな生活を送っていました。働きはじめて2年経ったときに「自分はこの職に向いていないんじゃないか」と思い、農業に目を向けたのが就農のキッカケです

ちなみに就農されてから今年で何年目ですか?

研修時代を含めると今年でおおよそ10年になります。


佐藤さんのように、全くの新規で農業に従事することを「新規就農」と呼びます。新規就農は農業法人などへの就職か、自営業として独立かの2パターンに分けられ、佐藤さんは後者となります。

農林水産省が行った調査*によると、平成29年度(2017年度)の新規就農者数は5万5,670人、うち49歳以下は2万760人と、若年層の就農人数が4年連続で2万人を超えたそうです。

*参考:農林水産省 新規就農者 平成29年度確報


しかし、光もあれば影もあります。

総務省が全国18都道府県に調査したところ、2014年度に農の雇用事業による研修を受けた1,591人のうち、35.4%にあたる564人が離農していたそうです。

さらに、就農10年以内の新規参入者2,265人に所得状況を調査したところ、「生計が成り立っていない」と答えた人が75.5%にのぼることが明らかに**なりました。

国は2023年に40代以下の農業従事者を40万人に拡大することを目標に掲げていますが、一筋縄ではいかない現状が横たわっています。

**参考:農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として- 研修生の35%が4年以内に離農 総務省が農水省に改善勧告(マイナビ農業)


今年農家として10年目を迎える佐藤さんは、自営農家としてどう歩んできたのでしょうか。

「いやいや、こだわっていませんよ〜」という笑顔の裏には、とことん考え尽くされた佐藤さんの農業経営術が隠されていました。


これが佐藤流の新規就農だ!


プログラマーから農家へ。畑違いの業種からやってきた佐藤さんは、どのようにして今日まで農家として生き抜いて来たのでしょうか。お話を聞くうちに3つのポイントが浮かび上がってきました。

1.年中収穫をしたい。目指す農業のカタチから就農場所を選択

まずどこで農業をしようかと、あまりこだわりなく北関東三県や甲信地方で農業研修所を探しました

畑からはのんびりと走る身延線が見える


なぜその地域で探したのでしょうか?

理由はふたつあります。

ひとつ目は、大消費地東京に近いということ。当初はまだ「どうやって売るのか」というビジョンは見えてなかったんですが、のちのち自分で売ることを考えると、大消費地に近い方が物流コスト的にも助かります

なるほど、当初から農産物を消費者に届けたいという思いがあったんですね

ふたつ目に、雪が降らない地域限定で探しました。僕の実家である新潟はご存じの通り豪雪地帯。冬に何かを栽培することは不可能で、稼ぎ時は夏しかありません。冬に出稼ぎするのも嫌だし、ひと夏でどこまで頑張れるかも分からないため、地元で農業をするのはなかなか厳しいな、と

なるほど、雪国出身だからこそわかる事情だったのかもしれません

そうです、よく「なんで新潟で就農しなかったの?」って聞かれるんですが、理由はこのふたつですね。あと新潟だと米か施設栽培しかできないので、もっと幅広く育てたいな……と


<佐藤さん流農業〜土地選択編〜>
  1. 大消費地に近い場所で農業を!
  2. 目指す農業のスタイルから導き出した「雪の降らない地域」


この2点に留意しながら、新規就農情報をまとめた行政のサイトなどをサーチしたのだそうです。

当時は今日ほど多くの情報が出ていなかったため苦労したものの、農家としてどんな生活を送りたいか、そして、作ったものをいかにして消費者へ届けるかを考慮した上で最終的に選んだのが、ここ山梨県市川三郷町でした。


2.多品目栽培で徹底的なリスクヘッジを

トウモロコシのシーズンは6月いっぱいで終わります。すべて収穫し終えたら、ここを水田にして米を育てるんです


佐藤さんは基幹作物としてトウモロコシを育てているものの、他にも米や茄子、ほうれん草や野沢菜など多くの農産物を手がけています。

となると、ほぼお休みがないんじゃないですか?

休む暇はないですね。一日の労働時間自体も会社員時代よりも長くなりましたし。年間を通じて3月以外は何かしらを収穫しています

それは大変だ! そもそもなぜこんなに多くの作物を作ろうと?

リスクヘッジです。さまざまな種類の作物をできるだけ多く作ることで、不作にも耐えられるようにしています。中でもトウモロコシは基幹作物として全体の売り上げの6割を占めています。1月から7月にかけて半年間、じっくり丁寧に育てているんですよ

新規就農だからこそ慎重に、ちゃんと農業で食べていけるように多品目栽培を選択したということですか。その中でメインの作物としてのトウモロコシだったんですね


<佐藤さん流農業〜栽培計画編〜>
  • リスクヘッジのために年間を通じて多品目栽培を


3.早期栽培で差別化を!

トウモロコシといえば夏のイメージがありますが、佐藤さんのトウモロコシは7月頭で収穫を終えてしまうそうです。


もっと南の地域では、広域に渡ってトウモロコシの栽培が行われていますが、それに比べて農地面積が狭いのが山梨です。だからこそ手間をかけて一つひとつの単価を上げていくのが戦略ですね

佐藤さんはベビーコーンもトウモロコシも、ポケマル一番のりと言って良いくらい早くに販売を開始されましたね

全国的に最も早くベビーコーンが出てくるエリアがここなんですよ。


トウモロコシの産地としては宮崎県なども有名ですが、ベビーコーンは除房(じょぼう)***と呼ばれる摘果作業をしている農家からしか出荷されません。

大産地だからといって、必ずしもベビーコーンも大量に早く出てくるとは限らないのです。

***除房とは:収穫予定の房のみ残し、それ以外の房を取り除く作業のこと。詳しくは前編の記事にて


僕は農協や市場などに卸すほかにも、自分でホームページを作ったりブログを書いたりして直接販売していたのですが、なかなかうまくいかず。ポケマルへは「ほんとに売れたらいいなあ」半信半疑で出品したところ、びっくりするくらい反響があって

食べ手さんからの反響が反響を呼び、ポケマル内でブームが巻き起こりましたよね。やはり一番のりという点が他との差別化となり、結果的に功を奏したのではないでしょうか

いやぁ、嬉しかったですね。その一方で、早期栽培をするためにうちでも栽培方法を工夫しているのですが、うまくいかないことも多く、早出しのための栽培方法をやめようかとも思っていたんです

早く出すことか、確実に作ることか。どちらも正しいけれど、何が結果に繋がるかわからない……。偶然とはいえ「早出し戦略」が実を結んだのが、今回のブームだったんですね


<佐藤さん流農業〜差別化編〜>
  • 収穫の早さやおいしさなど、ほかの農家さんにはない強みを追求! 今回は「早さ」が実を結んだ。


”黙々”と、山を登るように。


あっちが八ヶ岳連峰で、その右手が金峰山、日本百名山のひとつです

360度を山々に囲まれた佐藤さんの畑は、甲信地方らしい美しい景色が広がっています。

実は佐藤さん、プログラマー時代から山登りが趣味だったのだとか。なるほど、山の名前にお詳しいわけです。


当時はとにかく外に出たくなっちゃって、気付けば登山をしていました。農業研修時代もすごく登っていましたね。逆に農業をはじめてからは忙しくて全然行けてませんけど

プログラマーさんやエンジニアさんで登山が趣味の方って多くいらっしゃいますよね。私の知り合いでもなぜかたくさんいて、不思議に思っていたのですが……

それぞれがどこか似ているのかもしれませんね


プログラミング・登山・農業――この3つに共通するのは「”黙々”と作業をし続けること」と佐藤さんは言いました。

それぞれの道中に派手なことはないけれど、最初に決めた山頂に向かって、淡々と足を前へ進める。その忍耐力精神力の強さこそ、佐藤さんの農業の根底にあるパワーの源だと感じるのです。

今後は「どうやって自分の作ったものを消費者に伝えていくか」が自身への課題ですね

新たな頂(いただき)を目指す佐藤さん。この畑を営むのは、就農10年を生き抜いた、ひとりの農業経営者でした。

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Writer

大城実結/MIYU Oshiro

フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。twitter:@moshiroa1 Web: https://miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro

編集・写真=中川葵

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