旬は一瞬:「農作物の旬はとても短く、あっというまに終わってしまう。旬を見逃さず、旬が来たらすぐ食べなさい」という意味が込められるポケマル編集部の合い言葉。
周囲に畑のない場所で暮らしていると、旬の灯火に気づく機会がとても少ない。できることなら日本の全ての旬を味わいたいとの思いは虚しく、旬の灯火は、どこかの畑でいつの間にか点り、知らぬ間に消えていくのである。
この記事に登場する食材の旬も、その中のひとつ。
ベビーコーン、来たる。
山梨県・佐藤信也さんのベビーコーン出品を発見したのは5月初めのこと。考えるより先にスマホの液晶画面を人差し指がすべり、気付いた時には購入完了していた。そして届いた。
実は、筆者は昨年2019年に佐藤さんの元を取材のため訪問していた。栽培から出荷まで1人で行っている佐藤さん。数時間の訪問だったけれど、きっとたくさんの仕事の都合をやりくりして迎えてくれたのだろうと思う。
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作業部屋で今も大量の箱とベビーコーンに囲まれている佐藤さんの姿を思い浮かべながら開封すると、ベビーたちはきちきちに四角くなって納まっていた。
1年前のあの日と同じ薄い段ボール箱。「この箱に約30本(2kg)のベビーコーンを詰めるの、結構大変なんだよな」などと蘇る思い出。
ベビーコーンを数えつつ箱から出していくと、自室がトウモロコシ畑の香りに包まれた。
昨日山梨を発ち、今ここで箱から出て羽を伸ばしているベビーは総勢33本だった。
ベビーコーン、観察。
ベビーコーンの大きさは収穫タイミングによりまちまちだ。
市場に出荷される野菜には「規格」というものがあり大体の大きさが決められているものだが、このベビーコーンは農家直送だから規格とは無縁。つまり自由、フリーダム。
穂の先までの長さは、長いものだと25cmくらい、短い物だと18cmくらい。
太さは、太いもので3.5cm、
細いもので2.5cm。
穂の先からは、通称「ヒゲ」が出ている。黄色くツヤがありしなやかで、いつ見てもリカちゃん人形を連想する。
ぐーっと近寄ってみると——
枝毛だ。太い毛からごくごく細い毛がチクチクと生えていた。
人間が「ヒゲ」と呼んでいるこの黄色い繊維状の部位は、トウモロコシにとってはめしべであり、「絹糸」と書いて「けんし」と呼ばれている。
絹糸の一本いっぽんは、皮の中にあるトウモロコシの一粒ひとつぶにつながっていて、絹糸の先に花粉が付くと絹糸の中を花粉管が伸び、粒の予定地にある卵細胞が受精すればトウモロコシの実が膨らみ始める。
トウモロコシを食べる時、たまに粒が膨らんでいない部分があるのは、何らかの理由で受精できなかったということだ。
絹糸がチクチクとした形状をしているのは、絹糸が少しでも多くの花粉を掴みやすくするためのトウモロコシの工夫なのだろう。
ベビーコーン、散らかさない。
ここで、ベビーコーンを調理するときに多くの人が面倒に感じるであろう、"あること"を解決する小技を紹介させていただく。
それは、これ。
ヒゲや皮……の、片付けだ。
普通に皮を剥くとヒゲがぼろぼろと落ちてしまい作業台の上や床が大変な惨状になるが、これから紹介する方法で下ごしらえすると、このとおり。
作業台をほとんど散らかすことなく、とてもスマートに片付けを終えることができるのである。
技と言っても、端的に言えば「皮を剥く前に穂の両端を切り落とす」というだけのこと。
ポイントは、"Don't think. feel!"。皮を剥いて中身を見ずとも、穂の先端を触ればどのあたりまで本体が伸びているかがわかる。「穂の中にある本体の形を指先でとらえる」のだ。
「ここだ!」と決めたら、躊躇無く切る!
断面にはぎっしりと詰まったヒゲ。
穂の付け根側を切り落とすときは、先端を切った時よりも少し慎重に位置を決める。
すーっと触ると、本体の太さがカクッと急に変わる部分があるのがわかる。上写真の人差し指の先あたり。ここで切る。
外側の緑の皮は軸から切り離され、内側の薄黄色の皮は軸に付いているくらいの塩梅がベストだ。
この方法だと、ご覧の通り、ヒゲが散らからない。
ヒゲを長く残したいなら穂の先端ギリギリのところでカットすると良いし、ヒゲだけを素揚げしておやつにしたり乾燥させてお茶にしたりしたいなら、なるべく本体ギリギリのところでカットすれば良い。
続いて、皮の剥き方はこうだ。
包丁の先端が本体に触れるくらいの深さで、すーっと縦に一本の線をひく。
多少本体が切れても、気にすることはない。
そして、穂の根元側をかぱっと開き、薄皮つきの本体をやさしく取り外す。
皮を"一枚ずつ剥く"のでは無く、外側の皮を"まとめて外す"ような感覚で。
下の写真は、6本のベビーコーンの下ごしらえが終わったところ。皮やヒゲは散らばること無くまとまっている。
片付ける際は、コンビニ袋をかぶせた手で皮の山をがっと掴み、
袋をひっくり返すようにすると、
ほら、スマート。
ベビーコーン、バター醤油焼き。
ベビーコーンは、新鮮なものは生で食べても美味しい。
軽く蒸しても、皮が焦げるくらいまで焼いても、ヒゲがパリパリになるように揚げても、どうしたって美味しいのだから、難しいことは考えず気の向くままに料理するのが正解だ。
ちなみに、佐藤さんのおすすめは塩茹でか電子レンジでチン。一方、筆者の毎年の楽しみはバター醤油焼きだ。
180度に予熱したオーブンでまず10分焼いて、
焼き目がつき始めたくらいの段階でいちどオーブンから出し、
皮の切れ目を少し広げたところにバターと醤油をオンしたら、
もう一度オーブンに戻して、焦げ目の様子を見ながら仕上げ焼き。
だいたい5分くらいで完成する。
ベビーコーン、旬は一瞬。
ベビーコーンの美味しいところは、本体だけではない。
バターと醤油がクリーミーに混ざり合ったリッチなソースが絡まったヒゲ。
パスタのように本体に巻き付けて上品に食べても良いし、
もうフォークなんてかなぐり捨てて、
欲望に身を委ね、手づかみで皮ごとかぶりついたって良い。
ここは自分の家だから、他人の目など気にせず薄皮も食べてしまえばいい。
バター醤油ソースが染みしみの薄皮は、味はもちろんのこと、軽快な歯触りが楽しいのだ。
ごちそうさま。
ベビーコーンの旬は、地域や作型によって異なるものの、だいたい5〜6月くらいの間。せっかちなベビーコーンの旬は、もう少しだけここに居てくれるようだ。
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文・写真=中川葵