ライターのわたなべです。
新しい食材に挑戦するのが好きです。地方へ出張に行くと、必ず地場のスーパーをのぞき、その土地ならではの食材を物色します。特に鮮魚売り場は大好き。
「こんな魚が主流なんだ!」と、どうやって食べたら美味しいのか想像したり、売場に担当者がいれば聞いてみたりします。
ところが、何ということでしょう。まだまだ北海道でも知らない魚があったのです。その名はナガヅカ。
長い柄(ツカ)のように見えることからこう呼ばれるようになったのだそう。
通常は水深200~300m辺りの深海に住み、産卵期には2~10mの岩場に上がってくるそうで、北海道の全沿岸で獲れるというのに、私は初めてその名を知りました。
それもそのはず。ナガヅカは卵巣に毒があるため、札幌中央卸売市場では「食不適魚」と区分され、指定業者以外は購入することができないようになっているのです……!
※自治体により販売に関する規則は異なります。 ※ナガヅカの卵巣毒による食中毒は、腹痛、嘔吐、下痢などの胃腸障害であり、フグ毒のように死亡することはありません。 ※参考:北海道|水産経営課 北海道のお魚図鑑、札幌市ホームページ内 有毒魚ハンドブック、厚生労働省ホームページ内 自然毒のリスクプロファイル:魚類:卵巣毒
一般の人は目にすることすらできず、しかも有毒魚。有毒とは言うものの、きちんと扱えば害はなく、かなり美味というウワサ……これは魚コレクターの血が騒ぎます。
そんな貴重なナガヅカが、なんと北海道八雲町の舘岡勇樹さんから出品されました。商品紹介には、とあるミッションが書かれていました。
「味は抜群なのに、知名度も低く、店頭に並ぶことも少ないナガヅカを多くの人に味わってもらいたい。そのためにはどんな食べ方ができるか考えてほしい!」
今回は、舘岡さんからの挑戦を受けて立ちたいと思います!
衝撃のご対面
いよいよ、ナガヅカの到着です。おお! 想像以上に大きい!!
顔が青いのは、梱包材のせいです。念のため。
ぬるん。つるん。ウナギがもっと太く大きくなったような形状です。率直に申し上げますと、あまり積極的に買ってみようと思わないタイプかも。
どアップ。第一印象は不気味。でも、よくよく見ると愛嬌があります。
「これ、本当におろせるんだろうか……」と初歩的な不安がよぎります。とは言え、やってみなけりゃはじまりません。挑戦しましょう。
トゲトゲ、ぬるぬるとの闘い
我が家のまな板(横35㎝×縦22㎝)からはみ出さんばかりの大きさ……。手で押さえようとするとぬるんとすべり、逃げます。
まずは、鱗を取るところから始めましょう。
尾から頭に向けてゴリゴリ。鱗自体はごくごく小さいです。ここでしっかりゴリゴリすることで、ぬるぬるがかなり減りました。
次なる壁はこのトゲトゲ背びれです。
これは「以前おろしたオニオコゼのやり方を応用すればいいのでは!」と思いつき、キッチンばさみを取り出しました。(関連記事:23の命が詰まった「未利用魚セット」を買っておいしく食べ尽くしました! )
これで、ひと安心です。
頭を落とすと内臓はごろりと取れてきます。
魚体とお腹の中を洗い、頭側から骨に包丁の刃先を当てるようにして、身をはずしていきます。
包丁の刃がいったん入ってしまうと、思いのほか素直に進みます。ひっくり返して、もう一方の身もはずして、3枚おろしに。
3尾の内、1尾がメスでした。前述の通り、ナガヅカの卵巣には毒があって、食べると頭痛や吐き気を起こすことがあります。美味しそうでも食べてはいけません。きれいに取り除きます。
何品できるかナガヅカチャレンジ! ベーシック編
3尾とも3枚におろし、2尾は皮も剥きました。1尾は皮つきのまま。さて、ここからはどういたしましょう?
ナガヅカは、お魚屋さんの店頭で見かけることはほとんどありませんが、すり身となって高級かまぼこの材料になることが多いのだそうです。
と、いうことは、この白身、かなり旨みがあるに違いありません。やはり、やってみなけりゃわからない! ということで、筆者が思いつく限りの調理法をいくつか試してみましょう。
①刺身
まずは、ナガヅカの魚となりを知るために、刺身で食べてみました。しかし、この日、わたなべは刺身がうまく引けませんでした(大汗)。なので、写真は割愛させていただきます。
身は柔らかく、加熱していなくてもホロホロ崩れるくらい。淡泊な味わいです。
②昆布〆
刺身でいただいた身は、かなり柔らかめでした。そこで、昆布〆で身をキュッと引き締めてみることにします。
広げた昆布の上に、身を1枚のせて
その上から昆布でサンド。これを身の枚数分繰り返してミルフィーユ状にしたら、冷蔵庫へ。
翌日から食べられます。
2日目以降はさらに引き締まります。
昆布の旨みと塩気を吸って、醤油がほとんどなくても味わいがあります。日を追うごとに身が引き締まり、ねっちり、もっちリとした歯ごたえに。
③つみれ蒸し
高級かまぼこの材料になるということは、すり身にしたら、美味しいに決まってる!
皮を剥いた身を包丁で細かく切ります。
身が米粒くらいの大きさになるまで、叩いて叩いて……。
すり鉢に叩いた身を移し、卵白、片栗粉、塩少々を入れてあたります。フードプロセッサーでもOK。
2/3尾分に対して卵白1個、片栗粉小さじ1弱程度です。
なめらかになったら、食べやすい大きさに丸めて
10~12分くらい蒸します。
わさび醤油で食べると、つるっとした食感ともちもちした食べ応え。旨みが凝縮されて「最高!!」としか声が出ません。
この味に一番近いのは、たちかまでしょうか。たちかまというのは、たち(タラの白子)で作ったかまぼこ、かなりの珍味です。それに匹敵するようなウマさです。
④揚げだし
さて、ここからは皮をそのままにした方の食べ方を探っていきましょう。
まず片栗粉をまんべんなくまぶしておきます。
多めのごま油で揚げ焼きにします。表面がカリッとするくらいで。
大根おろしを添えて出汁をはって、出来上がり。
外はカリッと、中はふわっと。衣が出汁を吸うと、とろっと。
⑤ちり蒸し
ちり蒸しとは、白身のお魚やカキなどと豆腐をひとつの器に入れて蒸したもの。
器の底に小さく切った昆布を敷いて、絹ごし豆腐、しいたけ、片栗粉をまぶしたナガヅカを入れます。
15分ほど蒸して。
こちらも大根おろしにポン酢醤油でいただきます。
片栗粉で身がつるっとし、豆腐にナガヅカの旨みが移ってしみじみ美味しい! もう少し寒くなってからの時季にぴったりかも。暖まりそうです。
⑥ アラ汁
頭や骨などのアラももちろん使います。
ぬめりが強いので、さすがに頭を小さく切る自信がありません。そこで、大胆にそのまま鍋に投入。
酒を入れて、アクを取りながら煮る
塩味であっさり……と思いましたが、淡泊すぎたため、刻み揚げを追加。味が締まりました。
お顔がこっち見てる……
翌日食べると、作りたてよりもコクが増していました。
ナガヅカチャレンジ!アレンジ編
①刺身と、②昆布〆のアレンジレシピも作ってみました。
⑦漬け丼
少し残った刺身を醤油、みりん少々、酒少々で漬けこんで、ヅケ丼に。
⑧お茶漬け
昆布〆はお茶漬けに。醤油を混ぜたもみ海苔の上に昆布〆をのせて、昆布を細かく刻んだものとわさびを添えます。
熱いほうじ茶をナガヅカに直接かけるようにして注ぎます。
4日目になった昆布〆はかなり水分が抜けて身がかっちりと引き締まっていましたが、お茶をかけると、口の中でホロホロと崩れました。
昆布〆に使用した昆布もナガヅカのエキスをたっぷり吸っているので、これも利用します。
⑨おまけ
昆布〆の昆布を刻んだものとエノキダケで、つくだ煮となめたけの中間のようなものを。
みりんと、昆布の塩味があるので醤油は香りづけ程度にたらして、さっと煮ます。
ごはんに添えても、キュウリや葉物野菜と和えてもイケます!
ナガヅカの食べ方、結論!
淡泊でありながらも旨みのある身は、素材そのものを楽しむ料理にはもちろん、ひと手間かける料理にも素直に美味しさを発揮する……。
ナガヅカに惚れました。不気味なんて言ってごめんなさい。
わたなべのおすすめの食べ方ベスト3は……
- 昆布〆
- つみれ蒸し
- 揚げだし
です!
旨みがありながら、クセのない味わいのナガヅカは、そのものの味を活かす食べ方でもよいですし、他の強い素材……オイルやトマト、クミンなどの香辛料を合わせて調理しても、素直に受け入れて美味しいものになると思います。
お魚をおろすのはちょっと……という初心者は、これからの季節、鍋の具材にしてもよいかもしれません。
内臓は簡単に取れますので、鱗を落として、そのまま、ボツボツと食べやすい大きさに切るだけ。あとは、たらちりや水炊きを作る要領で。
味わい深いナガヅカ鍋ができますよ。
一度調理して味わってみたら、次は自分なりの食べ方が見つけられるかも。他にもどんな食べ方があるか……ぜひ、チャレンジして教えてください!
今回登場した食材はこちら!
1968年、北海道生まれ。設計デザイン、商品開発などに携わったのち、宣伝会議 編集・ライター養成講座 上級コース 米光クラス第7期受講。修了後ライターとして活動。現在、札幌国際芸術祭2017【大風呂敷プロジェクト】に運営サポートとして参加中。