真夏の夜のポケマル劇場「僕とキミと時々お米 〜ありのままのキミでいて〜」

あなたのそーゆー優柔不断なところが嫌いなのよ!


で、でも、キミのことは大切にしたいんだ……


2018年8月、新宿某所。最高気温40℃を超えるほどの厳しい暑さの中、僕は彼女を見つめていた。


どうするの? 一体私をどうしたいっていうのよ!


そりゃぁ……独り占めしたい。キミの魅力を引き出せるのは僕しかいないよ!!


だったらやってみなさいよ、私を満足させてよ!!


この夏、ようやく就活にひと区切りがついた僕。辛かった数ヶ月の反動か、僕の脳は彼女への想いで占拠されていた。彼女が望むなら、どんなことでもやってあげたい。彼女に気に入られたい。


もぉしょぉがないなぁー。キミはワガママなんだからぁ♡


ホント、頼んだわよ!


ああ、お伝えし忘れていましたが、僕の大好きな彼女は「キミ」。小柄で、ぷっくりと張りのあるつや肌が彼女の魅力。さすが、血統の良さは隠せない。

キミ……綺麗だよ、キミ。。。


後で知ったのだけど、キミのことを見ている僕がこんなにデレデレしていたなんて、僕自身がびっくりだ。


こうして、僕とキミのヨダレが出てしまいそうなくらい濃厚で甘いやりとりが始まった。


登場人物

  • 僕:大学4年生のカネザワ。キミのことで頭がいっぱい
  • キミ:ポケマルで出会った烏骨鶏卵の黄身
  • ごはん師匠:圧力鍋で炊いたもっちりごはん


キミを熱々にしてあげよう…


割って焼くだけ、なのにうまい!! 日本の朝を支えるこの料理こそ、キミにピッタリ……なはず。


「はず」って、自信ないんじゃない!


いや、ダイジョブ、ダイジョブ。


な、なにすんのよ……キャーーーーー!


パカッ


あ、あつい! 熱いじゃないのよ!


いいからいいから……悪いようにはしないから……。


水を入れて


ジュワ〜


かけるのは醤油かソースか、永遠の謎である。


黄色と白のコントラスト、目玉焼き……です!!


あなた全然わかってないのね、私の何を見てきたの?


え、ええ……。


自信のなさが出てるわよ。


……ハッ! な、なら次だ!!


キミを包み込んであげよう…


味付け、アレンジは無限大。お弁当を開けて目が合った時の感動は、初めてキミを見た時の気持ちを思い出させてくれるんだ……。


こ、こんどはなんなのよ……キャーー🌀🌀🌀


かき混ぜて


素早く流し込み


折りたたむ


砂糖の有無に正解はあるのだろうか……


老若男女から愛される母の味、卵焼き……です!!


言いたいことはわかるわ。でも、もっとこう、そうじゃないの!


ぐぬぬう。(いったいどうしたらいいんだ、もう、あれしかないのか…)


……はあ。やっぱり、あなたじゃダメなのね。


つ、次!! 次こそはきっと満足させるよ。


キミを…あたためてあげよう…


ゆで加減は人それぞれ、殻をむくのもまた一興。僕は知っている、キミが好きなのは半熟……だ!!


ま、まさか……イヤァァァァァァ!


水の状態から中火で7分


うまくゆであがったら1日ハッピー


僕の心もゆであがってます。ゆで卵……です!!


さっきよりはマシになったわよ。しっかり半熟で私好み。でもね、もっと素直になって、もっと私をさらけだして欲しいの!!


ええ!? そ、そんな、ゆで卵でもないなんて……。

私をさらけだして? 一体、何を言っているんだ。焼いたしゆでたし、あと何をすればいいんだ! わからない、キミがわからない!!


結局、あなたも私のことを分かってくれないのね……。


あわわわ! いったい、いったいどうすればいいんだ。誰か、誰か教えてくれええええええ!!!


私に任せなさい。


……え?


誰?


ババーーン!!!


……。


……。


あ、あなたは……ご、ごはん!?


いかにも、我が輩はごはんである。私がキミの魅力を最大限に引き出す手助けをしてあげよう。


ああ……あなたは僕の救世主……師匠と呼ばせてください……。


おう。


いやいや、師匠って!(そもそも、何の師匠……?)


え……あ……はい。わかりました。


わかるんかいっ!


ありのままのキミでいて…

卵をご飯にのせるだけじゃない。これから教えるのは究極の卵ご飯「TKG」だ。心してかかれ。


T……KG……だと?


……フッ、やるわね。


必要な食材・道具(1人前)

ボウル・・・
2個
泡立て器・・・
1個
卵・・・
1個
ホカホカのごはん(師匠)・・・
1膳
醤油・・・
適量


ステップ1:キミと卵白を分ける

まずはキミと卵白を分けよう。キミを潰さないように慎重に分けてくれ。君とキミの絆が試されるぞ。


気をつけてよね!


キミのことは、絶対に傷つけない……!


パカッ


なかなか上手いじゃないか!


あ、ありがとうございます……。


フフッ。


ステップ2:卵白でメレンゲを作る

分けた卵白をかき混ぜてメレンゲを作ろう。メレンゲはツノができるまで混ぜるのが目安だ。ふわふのメレンゲにできるかどうかは、君のキミへの愛の強さが運命を分けるぞ。


ホントですか! やるしかない、やるしかないぞー!!


シャカシャカシャカッ


この作業、一見簡単そうに見えるがキツいぞ! 腕が力尽きそうだ……。


君のキミへの愛の強さは伝わった!! 裏技を教えよう。ボウルに氷水、そして泡立て器を用意するんだ!!


なぜ?


大きめのボウルに氷水を入れて、その上に小さめのボウルを重ねる。そこに卵白を入れてかき混ぜることで泡立ちやすくなるんだ。


それを最初に言ってください!


ガシャガシャガシャッ! ごはん師匠が見守っている


いいぞ、その調子だ。駆け抜けろ!!


ウオー!!



す、すごい!! さっきまでの苦労がウソのように泡立っていく。待っててね……キミ!!


ツンッ


ツノが立ったな……。完璧だ。


できた、できたぞー!


ス、ステキ……♡


ステップ3:ご飯にメレンゲをかける

メレンゲができたらご飯と合わせよう。メレンゲとかき混ぜてふわっふわの食感になったご飯が、キミの魅力を最大限に引き出してくれるんだ。


へー!


……別れの時が来たようだな。さあ、私を使いなさい……


そ、そんな! ここまで頑張ることができたのはあなたのおかげなのに。あなたを食べるなんてそんな恩知らずなこと、私にはできません!!


フッ、何事にも犠牲はつきものだ……。師匠は君とキミの幸せを願っているよ。


ご、ごは…いや、師匠ーーーー!!!


ごはん師匠の一部を別のお茶碗に移し替えます


メレンゲを丁寧にかけて


混ぜる!!


ふわふわご飯の完成だ!


ああ、なんてフワフワで気持ちよさそうなごはん……私が求めていたのはこれよ!!! さあ、そのベットに私を運んで!!


わかったよ……さあ、こっちだ……



ありがとおお、ありがとおお。醤油もかけてええええ


ズア——



できた!


きれいだよ……。


ここまでしてくれた人……はじめてだわ……。カネザワ、いいわよ! 私を食べて!!


プツ



ツイ——


ゆっくりと優しく混ぜたら……


いただきまーす!


!?

う、うまい。うますぎるよ〜。

濃厚なのに後味はスッキリしている。ふわふわなご飯がキミの魅力を最大限に引き出している!!キミが求めていたのは焼くでもゆでるでもない、

ありのままの黄身だったんだね!!! 

 

休日の昼下がり。僕とキミはひとつになった。

ーFINー


今回のヒロインはこちら


文=金澤善空・宅野美穂

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