まるで緑色のところてん? 沖縄の特産品の「雲南百薬」(別名おかわかめ)をぎゅっと詰め込んだオリジナル食品「くくるてん」の生みの親、天願さんを訪ね沖縄へ。
雲南百薬の畑や、くくるてん製造工程、さらには開発秘話までとことんお聞きしました。栄養価抜群&つるっと美味しい沖縄の味の裏側には、南国らしい温かなお話が隠されていました!
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すみれ食品 天願貴|沖縄県沖縄市
すみれ食品の天願です。沖縄でコザ(沖縄市)と呼ばれている場所で生まれ育ちました。事業名の「すみれ」は両親が好きな花の名前から頂きました。両親、親戚と一緒にやーにんじゅー(沖縄方言=「家族」)で「6次産業」にチャレンジしています。
お父さんが自ら開墾! 手製の畑で育つ雲南百薬
沖縄県沖縄市は、那覇から車でおよそ50分。11月下旬、気温は24℃(!)の汗ばむ陽気の亜熱帯の島でお会いしたのは、くくるてんの生産者の天願貴(てんがんたかね)さんです。
貴さん「こちらがくくるてんの原材料、雲南百薬の畑です」
そういって案内してくれたのは、加工場から車で5分ほどに位置する畑。青々と生い茂った植物が太陽光に映えています。
雲南百薬とは、「おかわかめ」とも呼ばれるツル性の植物。「百薬」と名付けられたように栄養価も抜群です。ミネラル類やビタミンAが多く含まれており、沖縄では昔から民間薬や食用として用いられてきました*。
貴さん「一枚一枚、葉の様子を確認してから手作業で収穫しています。病気や小さな虫食いも見逃さず、高品質なものだけを使用するようにしています」
生食も可能とのことで、収穫したての葉を1枚食べてみました。苦味もアクもなく非常に食べやすい上に、噛むことで粘り気が出てきます。
――この食感、なかなかハマりますね!
貴さん「サラダや和え物にしても美味しいです。さっと湯通しすることで粘り気を生かした食べ方もできますし、炒めることで逆に粘り気がなくなるのでチャンプルーにも使いますよ」
貴さんのお母さん、繁子さんもレクチャーしてくださいました。
くくるてんの他にも、南の島らしい植物がスクスクと葉を広げていました。
オレンジ色の実がスターフルーツ。
どっしりとしたザボンがたくさん!
ザボンは見た目も味もまるでピンクグレープフルーツのようでした。
貴さん「実はこの畑、父がひとりで開墾したものなんです」
――えっ!? そうなんですか。
貴さん「病気で倒れた父がリハビリを兼ねて拓いたのがこの畑でした。植物の中でもとりわけスミレが好きな父が、手間暇かけて作り上げたんです。ひとりでここまで開墾することができるなんて、息子としても驚きです」
畑には作業用の物置や休憩スペースも設置されており、まさにお父さんの植物への愛が溢れていました。
くくるてん製造現場へ潜入
収穫したての葉が次にやってくるのは、くくるてんを製造する厨房です。さっそく工程を見学させていただきました。
①葉を洗う
葉を一枚一枚、洗っていきます。虫食いがないか、病気はないか、蛍光灯の下で再度丁寧に葉の品質をチェックするのがこだわりです。
②ミキサーで混ぜる
計量した水と葉をミキサーで混ぜます。
③煮る
ミキサーにかけた液を鍋で煮ます。そのときに葉の残りカスなどを取り除きます。丁寧に何度も濾すことで、くくるてんならでは「モチッ」と食感が生まれるのだとか。
④凝固剤を入れてひたすら混ぜる!
一般的なところてんは天草から溶け出した寒天質で凝固させています。
一方、くくるてんは何度も試作を重ね辿り着いた、特別な凝固剤(企業秘密)を使用しています。
ところてんのもろく崩れるような歯ざわりとは違い、弾力のあるぷるんとした食感になるヒミツはここに隠されているのだそうです。
凝固剤を加えた後はとにかく混ぜる! 素早く撹拌することで、均一に滑らかなのどこしになります。
目にもとまらぬ速さの右手!なかなかの重労働ですね。。
とろみとツヤが出るまで泡立て器で混ぜ込みます。
ある程度固まったら火から下ろしてさらに混ぜます。
⑤冷やし固める
十分に混ぜ込んだ液を型に出します。
表面の気泡を整え、氷水で冷却。気泡を取り除くと、美しい光沢が!
その後、冷凍庫に入れて十分に冷やし固めます。
⑥押し出して完成!
凝固したくくるてんを切り出し、ところてん用の突き器で麺状にします。
にゅる〜んと出るくくるてんは美しい深緑色。
そうして完成したくくるてん。さっそく作りたてをいただきました。
お出しいただいたくくるてん盆/左:ハイビスカスティー、右:くくるてん
繁子さん「くくるてんにはシークワーサーぽん酢をかけてあります」
まずはつるんと一口。期待していたツルツル食感と同時に、モチッとした歯ごたえがなんともたまらぬ清涼感を生み出します。
シークワーサーぽん酢のスッキリとした味わいが、久々の暑さに疲弊した体に沁みわたっていきます。
貴さん「暑い日や運動後にもツルッと美味しくいただけますよ」
繁子さん「ほかにもわさび醤油やドレッシングをかけても良いですよ。この間お客さんから『鯖缶と玉ねぎスライスを和えて食べてます』って教えてもらいました」
――それは絶対美味しい! ツナ缶で代用しても良さそうですね。
繁子さん「食べやすいし栄養価も抜群ということで、県内外でもリピートして買ってくださるお客さんもいます。ご高齢の親御さんが気に入ったといって、娘さんが買ってくださったり」
つるりと美味しくいただける上に栄養価も抜群。ちょっとしたひと手間で1品おかずが完成してしまうくくるてんは、夏場に重宝することまちがいなしです。
保存料は使用していないので、到着後はできるだけ早く食べてほしい、と天願さん。
おかずとしての食べ方開拓が広がる一方で、黒蜜&きな粉などスイーツとしての可能性も秘めたくくるてん。自分だけの新たな食べ方を開発するという楽しみ方も…!
桜餅風の甘味アレンジ(ポケマル編集中川のコミュニティ投稿より)
くくるてん誕生秘話 〜絆が生んだうちなーフード〜
くくるてんの生みの親である貴さんの母、繁子さん。雲南百薬との出会いは、勤め先だった役場の農林水産課でのことだったそうです。
繁子さん「知り合いのひとりが『珍しい野菜がある』と雲南百薬を紹介してくれました。そのときまで私も知らなかったのですが、栄養価も味も良いお野菜なので何かできないかと考案しました」
当時、全国農漁村生活研究会という組織で地元の特産品開発に携わっていた繁子さん。ところてんを改良し、新たな食品を作り出そうと試行錯誤を重ねた先に生まれたのがくくるてんだったのだとか。
繁子さん「退職後、本格的にくくるてんを作りたいと思い、親戚に相談しました。結果、皆が『いいね』と背中を押してくれたことで、自宅を改装し製造用の厨房を設置。本格的に製造体制を整えていきました。
はじめは退職するまで勤めていた役場の売店にくくるてんを置いてもらいました。次にちゃんぷる〜市場(沖縄県中部にあるファーマーズマーケット)へ……少しずつですが販路を拡大していきました」
「こんなものもいただきました」と見せてくださったのは、全国生活研究グループの『手づくり加工推奨品認定証』と、沖縄市からの『コザチョイス認定書』。
繁子さん「地元の食材を加工したお菓子や調味料などを作っている人は既にいましたが、くくるてんのようなものは今までになかったので、市場にも並べていただいたり、認定証をいただくこともできました」
地道にくくるてんを広めていった繁子さんの姿を見て、息子の貴さんも大きな影響を受けたといいます。
貴さん「母がくくるてんを作りはじめて5年経ったときに合流しました。
それまで私も企業で沖縄に携わる仕事をしてきましたが、両親が頑張っている姿を目の当たりにし、自分自身でも何か出来ないかと思ったのです。
私が合流するまで母は趣味の範囲内でくくるてんを作っていましたが、そこから商業ベースへと切り替えました」
その話を聞いてお母さんも「うふふ」と微笑みます。
繁子さん「男の子は気難しいですよ。……でも一緒にやるとは思っていなかったので、これはもうありがたいですね」
貴さん「どうにか頑張ってます。喧嘩は絶えないですけどね(笑)」
ライバルは「もずく」。 二人三脚で呼び込む新しい風
盆や正月の他にも、親戚が集まる独自の年中行事が多い沖縄。その土地柄を踏まえ、貴さんはくくるてんの普及を図っているそうです。
貴さん「親戚が集まる年中行事に出されるお料理の定番として『くくるてん』の定着を図っています」
――確かに、懐石料理の小鉢で出てきそうな一品ですよね。しかも子どもからご高齢の方まで、誰でも食べやすいですし。
貴さん「しかしながら、現在そのポジションには”もずく”という強敵がいまして……。くくるてんも負けじと頑張っていきたいです」
他にも今後のくくるてん普及へのビジョンや、開発当時の秘話などたくさんお話してくださった天願さん親子。
会話の中で何度もお母さんの口からこぼれたのは、この言葉でした。
「仲間や家族に恵まれて、くくるてんが生まれたんです」
仲間や親戚と手を携えながら、沖縄の農業に新たな風を呼び込もうと二人三脚で挑む親子の姿がありました。
最後にブーゲンビリアが美しく咲き誇る玄関で、少しはにかむ2人の写真をパチリ。
絆が生み出した新しいうちなーフードは、こんな素敵な親子が作っています。天願さん、ありがとうございました!
* 熊本大学薬学部>今月の薬用植物>2014年10月、みんなの趣味の園芸 > 育て方がわかる植物図鑑 > オカワカメ
天願さんのくくるてんの出品はこちら
関連記事:【試食してみた】万能でヘルシーな謎の食材!くくるてんって、いったい何?
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おゝしろ実結
writer&editor&illustrator 自転車や地域文化、芸術を専門に執筆。東西奔走、自転車に荷物を積み離島へひっそり渡航するのが生きがい。2012年に短編小説『常套的ノスタルジック』が筑波学生文学賞 大賞を受賞。2016年執筆のルポルタージュ『ワニ族の棲む混浴温泉』が宣伝会議 編集ライター講座大賞を受賞。他、自転車雑誌やグルメ系Web媒体など幅広い分野で執筆を行っている。旅のイラストなども随時発表中。公式サイトmiyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro