「食」の多様性が日本の美学だーーユーグレナ福本拓元さん×ポケマル社長対談

みなさん、「ミドリムシ」をご存知でしょうか?

小学生や中学生のとき、理科の実験で耳にしたことのある人も多いはず。微細藻類の一種で、59種もの豊富な栄養素を含んでいることから”未来の食品”なんて言われるほど、健康分野などで注目されている素材なんです。


今から12年前、2005年にその大量培養に世界で初めて成功した企業があります。東京大学農学部発のベンチャー企業、株式会社ユーグレナ(本社=東京)です。

ユーグレナとは、ミドリムシの学名。同社はミドリムシの研究開発や、それを使った健康飲料やサプリメント、化粧品の販売などを手がけています。

ユーグレナ竹富エビ養殖株式会社


有名なバイオテクノロジー企業ですが、一次産業や消費者とのコミュニケーションも大切にしていて、実は子会社のユーグレナ竹富エビ養殖株式会社(沖縄・竹富島)がポケットマルシェに車海老を出品しています。

さらに2017年9月、ポケットマルシェへの出資と資本提携を決断してくれました(詳細はこちら)。

ポケマルにとって、強力なパートナーの誕生です。


でも、そもそもなぜそんな有名企業が、まだまだ小さなポケマルの成長性やサービスに注目してくれたんでしょうか……?


そんなわけで、今回はポケットマルシェ代表の高橋博之がユーグレナ取締役でヘルスケア事業担当・福本拓元さんを直撃!

出資の狙いやポケマルへの期待、さらに実家が兼業農家という福本さんご自身の「食」に対する熱意やこだわりも聞いてきました!


出資は一次産業の課題克服のため。ポケマルにはそれができる



高橋

今回の出資について、改めて狙いを教えてください。ポケマルのどんなところを評価してくれたんですか?


福本

人と地球を健康にする

僕たちはこれを経営理念に、ミドリムシの研究開発や関連商品の販売などを行っています。2005年の設立以来、順調に成長してきました。

一方で、これからさらに成長し続けるためには、新しい事業にチャレンジすることも必要です。

健康食品だけにとらわれず、あらゆる側面から人々の健康を守るためのお手伝いをする。そう考えたとき、何よりも大きな影響を与えるのは、日々の食生活です。

「食」は絶対に外せないテーマだと、以前から考えていました。


高橋

ユーグレナさんは資金力もありますし、「食」という大きな概念に対して取り得るアプローチは他にもたくさんあったはずです。そんな中で、なぜポケマルという産まれたてのベンチャー企業に着目したんでしょうか?


福本

主に2つの目的があります。私たち自身の企業としての成長、そして一次産業の課題克服です。

「食」の分野にも積極的に切り込んでいこう。そう考えていた中で、JAや大企業など既存のプレイヤーと比べて、ポケットマルシェのような中小規模の生産者とのネットワークが広く、消費者に直接商品を届けるCtoCのビジネスモデルは魅力的でした。

私たちが食のテーマでビジネスを広げていくにあたって、単なる販売ではなくそこで生産者が育っていく「プラットフォーム」であるポケットマルシェとは取り組みの可能性が広がると考えたんです。

同時に、全国にいる中小規模の農家を中心とする、日本の一次産業が抱える課題を解決していきたい。ポケマルの成功の先にはそれがあると思ったんです。

この2点において、ポケットマルシェと協力することはとても価値があると判断しました。


僕たちはどうやって人生100年時代を健康に過ごすのか?


高橋

日本はこれから平均寿命がどんどん延びて「人生100年時代*」が到来します。僕たちはどうやって100年間、健康に過ごすのか。これはとても重要な問いです。

今の状態のままで100年時代に突入したら、きっと最後の30年は多くの人が”介護施設暮らし”になってしまうでしょう。それは本人にとっても家族にとっても大変なことだし、そもそも社会保障コストの増加に国家財政が耐えられません。


福本

その通りです。私たちが掲げる「人と地球を健康にする」という理念は、日本の場合「医療費の削減」と言い換えることもできると思います。

高齢者の人口比率が年々高まるいびつな人口ピラミッドがこのまま進めば、若者にかかる負荷は大きくなる一方ですし、財務的にも破綻しかねません。

健康寿命を伸ばすためには、病気にかかる前、30〜50代のときの工夫や努力次第で解決できることも少なくないはずです。

私たちはポケットマルシェのほかにも、例えば先月には遺伝子検査サービスを手がけるジーンクエスト社をグループ会社化しました。


高橋

病気になってから医者に診てもらう。体調を崩してから薬を買う。こうした事後対処の「ネガティブコスト」ではなく、日常から健康を意識した食生活にお金をかける「ポジティブコスト」こそ、本当の意味で多くの人を健康にするということですね。


福本

しかも、その対象はなにも日本人に限定しているわけではありません。

例えば、私たちはバングラディッシュで栄養失調に苦しむ子どもたちに、ミドリムシを使った栄養価の高いクッキーを提供しています。

先進国と途上国における健康問題は、全く種類が違います。日本を含む先進国は”恵まれた栄養失調”なんです。好きなものだけ食べられる環境にあるから、栄養が偏ってしまう。一方、途上国の場合は経済的な理由で必要な食料が手に入らない。

先進国の人たちにはいかにして健康の重要性に気付いてもらうか、途上国の人たちにはどうやって必要な栄養を届けるか。それぞれの事情に合わせて、人々を健康にするための仕組みづくりに取り組んでいます。


「食」はエンターテイメント。その多様性が日本の美学だ


高橋

僕たちは1日3度の食事を365日、つまり1年に換算すると約1100回も食事をするんです。80歳の人なら、およそ8万8000回です。まさに「食べることは生きること」そのものなんですね。

福本さんは「食」について、どんなお考えを?


福本

食はエンターテイメント。私はそう考えています。いろんなお店を訪ね、こだわりの食材や工夫を凝らした調理方法に触れる。これは、僕にとっての趣味で、大きな喜びです。

食材と調理の合わせ技でエンターテイメント性を高める。この点において、日本は世界的にも優れていると思います。日本人の美学といえるでしょう。

僕は大好きなアメリカに対して、どうしても1つだけ好きになれないことがあります。それが「食」への考え方なんです。

彼らにとって食事は、単に口の中に食料を放り込むだけの「工業的な食事」に見えてしまうからです。


高橋

人工知能(AI)の権威と呼ばれるアメリカ人のレイ・カーツワイルは、こんなことを言っています。

「文明人はいつまで煩わしい『食』を続けているのか」

彼にとって「食」は、例えば家に帰ったらロボットがその日に合う食事を自動的に提供してくれるような、まさに「工業的な食事」です。

多くのアメリカ人にとって、食事は「単なる栄養補給」なんでしょうか?


福本

特に郊外の町では、そういう考えの人が多いのではないでしょうか。学生の頃に中南部にあるオクラホマ州に留学したんですが、そこで過ごした1年間で痛感しました。

ホームステイ先の食事が、朝はパンと卵、昼はハムとチーズを挟んだパンにリンゴ丸ごと1つ、夜はマッシュポテトとスクランブルエッグ、レンジで温めた豆。冗談ではなく、ほぼ365日同じメニューなんです。

外食の場合もステーキか、ハンバーグか、あるいはパスタか。レストランのメニューは種類が非常に少ないんですよ。

あまりにも疑問に感じたので、ホストファミリーに尋ねたことがあります。「毎日同じ献立で飽きないの?」と。

返ってきたのは、「なぜ?食事は空腹を満たすためものでしょ」という反応でした。


高橋

福本さんと同じように、僕にとっても「食」はエンターテイメントであり、文化です。そういう世界を将来にわたって残していきたいと思っています。


福本

私は兼業農家の生まれです。

今でも父親がつくる椎茸はサイズが大きくて肉厚で、焼いて食べるとジューシーで非常においしいんですよ。大量生産された椎茸とは、まるで違います。

私自身は、食材は個性的であるべきだと思うんです。

ただ、残念ながら今の日本の農業の仕組みでは、そういう個性的な食材や中小規模の農家が生き残っていくのがなかなか難しいですよね。若い農家も夢を描きにくい。

ポケットマルシェは、食材にこだわる小さな農家に光を当てています。そうやって農家が育っていき、若い農家もどんどん生まれていく。

私は、この延長線上に一次産業の復活があるのではないか。

そう信じています。


* * *


ビジネスマンとして、消費者として。それぞれの立場から、ポケマルへの期待や一次産業への強い思いを語ってくれた福本さん。その期待に応えるためにも、ポケマルはユーグレナさんとともに今後もサービス強化に励んでいきます!


*「人生100年時代」:健康寿命が延び、100歳前後まで生存することが可能になるような時代のこと。ベストセラー書籍「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略(リンダ グラットン,アンドリュー スコット (著),‎ 池村 千秋 (翻訳)/東洋経済新報社/2016年)」 で認知が広がった。


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- - writer - -

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。


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