現役鉄道マンが生産者!? JR西日本の新ジャンル牡蠣「オイスターぼんぼん」への情熱がすごい

少し小ぶりだが、きれいな楕円形の殻に入ったカキ。


まるで我が子を見守る親のようなやさしい眼差しでじっくりと眺めている。


そして次の瞬間、にこやかに笑みを浮かべた。

「透明感があって、つるっとした食感、キュンとくる強い甘味。生で食べるのがオススメです」


ギンガムチェックのシャツがさわやかなスーツ姿のその男性は、料理研究家でもシェフでもない。鉄道会社・JR西日本の社員、石川裕章さん。

石川さんは入社16年目の中堅社員で、長く駅前開発や商業施設のマーケティング・調査を担当してきました。現在は、創造本部ビジネスプロデュースグループに所属し、新規事業の1つとしてサバやカキの養殖事業を手がけています。そして、自らを「一次生産者」と名乗ります。

……いったいこの人、何者?そして、カキを見つめながら浮かべたあの笑みには、どんな思いが隠されているのでしょうか?

そんなナゾを解き明かすため、本人を直撃しました!


一次産業の活性化はJR西日本の成長につながる

石川さんが手に握りしめていたカキの名は、「オイスターぼんぼん」。

内陸にある塩田の跡地を活用し、地下から汲み上げた「地下海水」を溜めて作った池で養殖しているんだそうです。陸上でのカキの養殖は、日本では他に例がないそう。生育過程でノロウイルスに感染するリスクが極めて低く、生でも安心して食べられるとか。

これが曲線がきれいに伸びる楕円形をした「オイスターぼんぼん」です。


「ぼんぼん」は「お坊っちゃま」の意味で、外海にさらされない恵まれた環境で育つことから名付けたそうです。まさに、新しいジャンルのカキで、その養殖を手がけているのが、JR西日本です。

陸で鉄道を走らせる会社が、海へ出たワケを聞いてみましょう。


ーーなぜ鉄道会社が漁業に?

沿線地域を活性化させるため、かつ新規ビジネスとしても可能性があると考えたからです。

私たちは都市部だけでなくローカル線も数多く走らせています。でも、そうした地域は人口減少で衰退し、利用客も減少傾向にあるのが実態です。


ーー鉄道会社と地域は切っても切れない関係ですよね

地域を元気にすることは鉄道会社の宿命ですし、地域にプラスになるような新しいビジネスを起こすことは、長い目でみれば会社にとってもメリットが大きいんです。新しい産業によって地域が活気づけば、鉄道の利用客が増えるかもしれませんからね。



オイスターぼんぼんは広島県の大崎上島で養殖している


ーーそのアイデアの1つが、漁業だったと

多くの地方において、一次産業はとても重要な地域産業です。ですが、どうでしょう?市場で安く買い叩かれ、なかなか儲からない……。

一次産業はプロダクトアウトの側面が強いですよね。でも私は、まずは消費者が求めるものをつくって売るためのマーケティングが必要だと思ったんです。


ーーカキの前にサバの養殖事業を手がけましたね。なぜそれを選んだのですか?

地下海水を使うサバの養殖研究に関する新聞記事を目にしたんです。寄生虫がつきにくく、生で食べやすいというんです。

新しい価値として市場で売れ、儲かる養殖が実現できるのではないか。そう思ったのが始まりで、今「お嬢サバ」という商品名で販売しています。


ーーいきなり漁業とはハードルが高かったのでは?

「リスキーだ」「売れるのか」。社内でもそういった声は根強くあり、当初は賛成してくれた社員はいませんでしたよ(笑)。

でもあきらめず、徹底的にマーケティング調査をして、経営幹部を説得しました。今は幹部たちも「胸張ってやれよ」と後押ししてくれています。


ーーそれにしても、なぜそこまでして押し通そうと?

生でも安心して食べられるサバ。つまり、食べたい人がきっとたくさんいて、市場にニーズがあるにもかかわらず、今までにつくれなかったものです。それをつくれるようになる。これは画期的で「売れる」と直感が働いたからですね。


一番大変なのは生産現場。だからこそ、私も生産者でありたい

確かに、最近はJR西日本のほかにも異業種の有名企業が一次産業に参入するような話を耳にするようになりました。でも、石川さんの場合はマーケティングや販売だけでなく、自ら養殖現場にどっぷり入り込んでいます。「私は生産者です」とキッパリ言い切るその思いは、どこから湧き上がっているのでしょうか?

「私は一次生産者、そう胸を張って言えます」と語る石川さん。小さい頃は実家で育てた米や野菜を食べていて、農業は「生活の中に当たり前にあるもの」だったそうです。


ーー「私は一次生産者」とおっしゃってますね

そこは胸を張って言ってますね。それだけリスクと覚悟を背負って、本気で向き合ってるからです。

正直、最初は養殖は協力業者に任せて、販売に徹しようかと思ってたんです。

でも、実際に携わってみて感じたのは、「生産」は一番大変な立場だなと。漁は命がけですし、野菜や米も台風などの自然災害でダメになってしまうことがある。失敗のリスクと常に隣り合わせです。それを現場に任せっきりにしてはいけないと思ったんです。

こう思うのは、実家が農家だったことも影響しているのかもしれません。


ーーどういうことですか?

愛知県の田舎町にある実家は農家で、小さい頃から米やほうれん草、きゅうり、トマト、ナス、ジャガイモなど…ほぼ自給自足のような生活をしてきました。祖父の畑作業もよく手伝ってましたよ。農業は、私の生活の中に当たり前にあるものだったんです。

でも四六時中、汗水垂らしながら働いているのに、例えばほうれん草を市場に持っていくと1束数円にしかならなかったりする。それって酷というか、なんでそんな仕組みになっているんだろうと、改めて疑問に思うようになりました。


ーー適正な価格で売るためにどうしたらいいのか、と?

実家を離れた今でも野菜などを送ってもらってますが、やっぱりスーパーなどで買うどんなものよりもおいしく感じるんです。つくっている人の顔が見えるから、その分愛着が増すんですよね。それが価値になって、旨味が増すというか。

だから、売るためには生産者の思いや商品のストーリー、背景を伝えないといけない。


ーー「お嬢サバ」や「オイスターぼんぼん」でもそこを意識している?

養殖のプロセスやそれに込めた思いを、できるだけリアルに伝えることは大事にしています。

一般的な市場流通だと、結局どこで売られて、誰に食べてもらっているのかわからないですよね。それって、生産者のモチベーションを下げてると思うんです。中には厳しい評価もあるかもしれないけど、だからこそ「改善しよう」「努力しよう」と思えるはずなんです。


小ぶりでつるっと。オイスターぼんぼんで狙う新市場とは

そんな石川さんが手がけた、「お嬢サバ」に続く第2弾商品「オイスターぼんぼん」。カキは日本でも大人気の食材で競争激化の市場です。そこにあえて参入したのは、石川さんの「新しいマーケットを切り拓きたい」という期待と自信からでした。ここからは「オイスターぼんぼん」の魅力と可能性にさらに迫っていきます!


ーー生食でも”アタる”可能性が極めて低いというのが驚きですね

その秘密は、陸上養殖にあります。自然ろ過された地下海水を使って地上で養殖する。つまり、一度も海水に触れることがないため、ノロウイルスを蓄積するリスクが非常に少ないんですよ。

もちろん「リスクはゼロ」と言い切るのは難しい面もありますが、物理的にはウイルスは”入らない”はずです。過去にアタって苦い経験をしたことのある人も、安心して食べらるのではないでしょうか。

地下海水を汲み上げて陸上につくった池で養殖。そのため、ノロウイルスなどが入り込むリスクがないといいます。


ーー見た目や味はどうですか?

地下海水を自然ろ過したピュアな水がつくり出すカキです。身の透明感や、瑞々しい味わいは日本のマーケットにはなかったようなものです。

一般的な海上養殖では2〜3年かけて身を大きくしますが、「オイスターぼんぼん」は7カ月ほどの状態で出荷します。小ぶりですが、その分瑞々しくて透明感があるんです。


ーー食べやすそう……

食べやすさは全然違いますよ。小ぶりでつるっとした食感ですから、一気に10〜20個も食べられます。キュンとくる強い甘味、カキ特有の磯臭さやエグミが少ないのも特長ですね。

石川さんに某有名百貨店で購入したカキを試食してもらうことに……。「オイスターぼんぼん」の身の透明度は「2倍くらいはあるかな」のことです。


さて、いざ実食です。果たして感想は……?


やはり、食感や香りが全然違うそう。試食したカキの食感が”シャキシャキ”なら、「オイスターぼんぼん」は”つるっ”。さらに、カキ特有の磯臭さやエグミも少ないといいます。


ーーまさに”新ジャンル”のカキですね

この「オイスターぼんぼん」で、新しいマーケットへ切り込みたいと思ってます。これは、大きなチャレンジなんです。

日本の市場では身が大きくて、濃厚でクリーミーな味わいが主流です。でも、欧米では小ぶりなカキを生で食べるのがスタンダードになっています。

もちろん人それぞれ好みはありますが、そもそもそういうカキがこれまで日本には出回ってなかったわけです。


ポケマルで買えるオイスターぼんぼん!オススメの食べ方は?

カキのマーケットに旋風を巻き起こそうという「オイスターぼんぼん」。その販売が、なんとポケマルでも始まりました!

JR西日本にとって、直接消費者に届けるCtoCでの販売はポケマルが初なんです。まずは定期購入からスタートです。

「オイスターぼんぼん」について話す石川さんの表情は終始にこやかで、言葉にも熱が入ります。お聞きしているこちらは、もう火傷寸前⁉︎です。


ーー遂に販売開始です。2018年3月まで毎月1回届く定期販売のみの出品ですね。なぜ定期販売にしたのですか?

時期によって微妙に変わる味や見た目、食感の変化を味わってもらいたいからです。

最初の12月分は小ぶりで、とにかく透明感が高い。まるでブドウのようなイメージです。それが1〜2月になると身の白い部分が増え、貝柱がしっかりしてくる。3月はより濃厚な味とシャキシャキとした歯ごたえを感じてもらえるでしょう。

※編集部注:2017年11月30日現在は12月発送の注文受付は終了し、1月発送開始の注文を受け付けています。


ーーやっぱり”生”で食べるのがオススメですか?

生で食べるのが断然オススメです。レモンをサッとかけて食べるのもまた抜群においしい。あとはタバスコとの相性もいいですよ。ウイスキーを垂らすのもいいかもしれません。

大崎上島産のレモンをサッとかけて生で食べるのが最もオススメだそうです!


軽い口当たりと食感なので、一気に10〜20個くらいをぺろっといただくこともできるのだそう!


ーーポケマルユーザーへメッセージを

「オイスターぼんぼん」のファンを増やしたい。そのためには「どのカキでもいい」ではなく、「このカキがいい」。むやみやたらに販路を広げるのではなく、そう言ってくれるお客様に直接お届けしたかったんです。だからポケマルでの出品を決めました。

ぜひ私たちの思いを知って、共感していただけると嬉しいです。


冬本番の足音が迫ってきました。カキのシーズンの到来です。そこに突如現れた「オイスターぼんぼん」。アタるのが怖くて食べづらかった人には吉報です。そして、カキ好きのあなたにも今までになかった新ジャンルのカキを味わうチャンス!この冬は一味違ったカキにぜひ挑戦してみてください。


オイスターボンボンの出品はこちら



- - writer - -

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。


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