8月限定!10年ぶりに蘇った梨園の味。亡き祖父との約束を果たした21歳の梨農家さんのお話。

みなさん、「夏の果物」といえば何を思い浮かべますか?日本が誇る、夏を代表する果物の1つ。それがです。そんな梨が今、まさに収穫のピークを迎えています。最も美味しく味わえる旬の期間はとても短く、8月限定の品種も。

今回紹介するのは、山から流れる新鮮な水とたっぷりの太陽の光を浴びて育った、収穫したばかりの梨です。育てているのは、岩村果樹園(栃木県芳賀町)の岩村利弘さん。

岩村さんは就農2年目の新米農家。なんと、まだ21歳。でも、梨への情熱は人一倍強いんです!それは、大好きだった亡きお祖父様への恩返しの思い、そしてお祖父様の味を超えたいという大きな目標があるからなんです。

今年は「瑞々しい口当たり」に太鼓判

岩村さんによると、今年の収穫のピークは8月22〜23日。まさに!最大の収穫期を終えた直後だそうです。今年の仕上がり・出来栄えはどうだったんでしょうか・・・


ー収穫真っ盛りですが、今年の梨の調子はどうですか?

今年は雨が多かったこともあり、瑞々(みずみず)しい味わいに仕上がっています。収穫量も、去年の倍くらいあります。


ー倍ですか⁉︎

実は、去年は梨の代表的な病害である「黒星病」が発生してしまい、品質・量とも芳しくなかったんです。就農してから初めての収穫だったのに、とても悔しい思いをしました・・・。その分、今年はとても感慨深いですね。


ー「8月限定」と聞きましたが?

いま収穫期を迎えている品種「幸水」は旬の期間が短く、8月いっぱいが最も美味しく食べられる時期なんです。幸水は甘みが強く、さっぱりとした味わいが特長です。美味しいうちに、ぜひ食べてもらいたいですね。


ー岩村果樹園の梨が、他のものと違う点は?

畑のある場所は山を切り開いた緩やかな傾斜になっていて、新鮮な山の水が豊富に流れ込んできます。さらに、周囲には何も遮るものがないので、日当たりもすごくいいんです。きれいな水と、たっぷりの太陽の日差し。そのおかげで、瑞々しい口当たりを感じられるのが最大のアピールポイントです。


「絶対に引き継ぐから」。祖父と交わした約束

「梨園を絶対に引き継ぐから」。岩村さんは、農園を経営していた祖父が息を引き取る前日に、そう約束したそうです。当時、まだ11歳だった少年の大きな決断、一途な思い、強い意思ーー。それは、どこから生まれたのでしょうか?


ーお祖父様との約束の裏には、どんな思いがあったんですか?

いま僕がここにいられるのは、祖父のおかげと言っても過言ではありません。幼い頃に両親が離婚し、母親はシングルマザーとして僕たち2人の子供を育ててくれました。同時に、父親の代わりのように面倒を見てくれたのが、祖父だったのです


ー特別な思いがあるわけですね・・・

正月や夏休みは祖父の家でよく遊んでいましたし、少年野球の試合にもよく足を運んでくれました。高校に進学できたのも、卒業後に果樹研究所(国立研究開発法人農研機構)で勉強できたのも、祖父が生前、進学費用などを蓄えてくれていたからです。


ーお祖父様の梨の味は、岩村さんにとって?

まだ幼いながらも、あの梨の味は鮮明に覚えています。瑞々しさに加えて、濃厚な味、強い甘み、香りがありました。もちろん、どこの梨よりも美味しく感じましたよ。祖父が亡くなったとき、「このままじゃ終われない。自分がやってやろう」と。ようやく昨年、約10年ぶりに復活させることができました。


10年ぶりに復活。畑に家族の姿が戻った

祖父の背中を追い続けて約10年。遂に就農、そして収穫と大きな一歩を踏み出した岩村さん。でも、目指す頂はまだまだ先・・・。「祖父を超えるのが夢です」。そうきっぱり答えてくれた岩村さんに、今後のビジョンも尋ねてみました。


ー目指す先は、やはりお祖父様の存在ですか?

祖父に追いつき、そして追い越すのが夢です。そうじゃないと、僕が天国に行ったときに「こんなんじゃダメだ」と言って追い返されそう(笑) 祖父が奏でた味に比べれば、まだ足元にも及びませんが。


ーそれほど美味しかったんですね

祖父が育てた梨は、市場に出したら仲買人が指名買いするほど、地域でもすごい評判だったようです。周りの農家からも「お祖父さんはすごかった」とよく言われます。


ーまさに、秘伝の味・・・

作り方・・・教えてほしかったですよ(笑) 毎年墓参りに行く度に「どうやってつくってたの?」と聞いてるんですが。これから自分で探していきます!


ーお祖父様の畑は今の3倍あったと聞きましたが?

そうなんです。祖父の土地で唯一残っているのは、他の人に管理してもらっていた小さな畑だけです。僕が就農後、その人の厚意で返してもらうことができました。あとは、借りた土地で栽培しています。当時のように、畑も広げていきたいですね。

ーまだ就農2年目・・・ゴールは遠そうですか?

いえ、できるだけ勢いよく追いつきたいですね。まだ味で追いつけないなら、まずは売り方を模索しながら道を切り開いていきたい。ポケマルへの出品や直売所など、新しいことにどんどんチャレンジしています。


ー実際に食べた人の反応は?

やはり瑞々しいと好評です。昔、祖父の梨を食べていたお客さんや親戚からは、「お祖父さんの味に似てるんじゃない?」と言われました。その瞬間は、とても嬉しかったです。


ー岩村さんの姿を、お祖父様はどう感じているでしょう?

梨園が復活したことに、喜んでくれていると思います。今年から、母や父方の叔父、僕の婚約者と一緒に畑で作業するようになりました。家族が揃う果樹園の光景は、祖父が現役だったときと同じ。僕にとって理想の絵です。10年ぶりに、やっとこの光景が蘇った。祖父も喜んでくれているでしょう。


2年目にして初めて本格的な収穫シーズンを迎え、「今年は大きな転機」と意気込む岩村さん。「今期の収穫でしっかり稼いで、結婚式も挙げられたらいいなあ」と語っていたことも印象的でした。


ここのところ長雨が続き、なんだか気分がすっきりしないーー。そんなモヤモヤした気持ちを、瑞々しさ満点のフレッシュな梨を食べて吹き飛ばし、夏気分を味わってみませんか?最も美味しく味わえるのは8月いっぱいです!岩村さんの結婚を後押ししたい!そう思った方も、ぜひ購入してみてください。


■ライタープロフィール

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。

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