スーパーに売られているしいたけ、実は2種類あるのをご存知ですか?

「菌床(きんしょう)」または「原木(げんぼく)」。
現在は、そのしいたけがどのような栽培方法で育てられたのか、パッケージに表記されていることが多いそうです。
ちなみに今現在市場で売られる大半のしいたけは「菌床栽培」で育てられたもの。
一方で、かつては主流だったものの今は衰退の一途をたどる栽培方法が、「原木栽培」です。
※林野庁によれば、平成26年時点で国産生しいたけのうち菌床栽培の割合が89%を占めるといいます。また現在中国産の輸入しいたけも多く売られていますが、中国産についてもその多くが菌床栽培だそうです。
ぜひ皆さんもスーパーで椎茸を手に取る際、どちらの表記がされているか見てみてください。
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菌床栽培と原木栽培
ではその二つの栽培方法、どんな違いがあるのでしょうか。
まず原木栽培は、その名の通り、山から切り出した原木に植菌しキノコを生やしていく栽培方法。

菌床栽培は、おがくずなどを固めた人工の培地で、キノコを育てていく栽培方法です。
しいたけは少しわかりづらいですが、しめじなどの場合、料理時に切り落とす「おがくず」の部分のイメージがつくでしょうか?(しいたけの場合は、おがくずの部分を切り落としたものがお店に並んでいます)
詳しくは後ほど出てきますが、菌床栽培は、原木栽培と比べるとその効率の良さからシェアを広げていると言えるでしょう。原木栽培は時間がかかるうえに重労働で、生産の担い手が減少しているという現実もあるのです。
そんな中、先祖の代から長きにわたり原木栽培を続けている家族に会いに行ってきました。
限界集落で、60年以上の原木栽培の歴史をつなぐ、高島家
佐賀駅から車を走らせること1時間弱、市街地からそう遠くは離れていない山の中ほどに、ぽつりと2軒の家が現れました。
そう、ここは限界集落。たった2軒の家を取り囲むのは、小川の流れる豊かな森です。

目的地の高島家に到着すると、たくさんの柿が干された軒先を冷たい風が通り抜け、柿がゆらゆらと揺れていました。

佐賀県の生椎茸のコンクールで最優秀賞を受賞したこともあるという高島さん(高島農園)は、3~4代にわたって続く椎茸の原木栽培を継承し、その道を極めています。

「原木椎茸のことならなんでも聞いてよ!ハハハ!」
フレンドリーで笑顔が素敵な高島さんに出迎えていただき、居間のこたつで温まりながら話を聞かせてもらうことになりました。
1年半でようやく収穫。時間も手間も体力も必要な原木栽培
編集部ぬのい「早速なのですが、原木栽培はどのような工程になっているのでしょうか?」
高島さん「まず最初、11月頃に、山で原木を伐採するところから始まるんですね。『根倒す』と言うんですけど。
それから1~2か月間、「葉枯らし」といって原木を乾燥させます。

↑葉枯らし。原木の水分を抜く。
翌年1~2月になったら、乾燥させた原木を短く切っていきます。」
ぬのい「ええと、山の中の木を切るところから自分たちでやっていらっしゃるんですか?」
高島さん「そう。木を切るところから一貫して私たちのところはやっています。
木を切って運んで、というのは本当に重労働で大変。だから原木栽培は高齢化でやめていく人が本当に多いですよ。」
ぬのい「それは大変ですね・・」
高島さん「それで、3~4月には、原木に穴を開けて植菌をします。

↑白くなっているところが植菌されているところ
その後、「仮伏せ」といって、原木を山の中の直射日光に当たらない風通しの良いところで管理します。これは原木に菌をまわす工程で、原木が椎茸を出す準備をしているような段階。
翌年「本伏せ」といって、林の中かハウスに、原木を建てていきます。


そしてその秋、つまり植菌した翌年の秋からようやく、椎茸が発生しはじめ、発生から2週間〜20日間ほどで収穫の時期になるんです。」

↑発生しはじめの椎茸
ぬのい「思った以上に、すっっごく時間のかかるものなんですね・・!!」

菌床栽培の3倍時間がかかる
高島さん「そうですね、原木栽培は、1サイクルまわるのに約1年半。そして毎年毎年このサイクルをやっていくわけです。
原木は、だいたい3年くらいは椎茸が発生するもので、大抵1年目が一番多く発生するんですが、3年経つと原木がボロボロになります。だから毎年新しい木を伐採して、投入していく必要があるんです。

↑新旧の原木が並ぶ
対して菌床栽培の場合は3~4か月間で椎茸を発生させることができます。つまり1年に数回というサイクルが可能な栽培方法なのです。」
しいたけの栽培に必要な3つの要素
高島さん「しいたけの栽培に必要なのは、光と温度と湿度、この3つがとっても大事です。」
ぬのい「光と、温度と、湿度ですか。」
高島さん「そう。もともと自然発生していたキノコというのは、この3つの条件が揃っているところに発生していたわけです。

だからその状態をうまく作ってやる必要があるんです。
例えば、直射日光に当たれば菌は死んでしまうから、林の中の『木漏れ日程度の光』がちょうど良いんです。あんまり暗くてもいけんし、あんまり明るくてもいかん。」

↑木漏れ日が射す林の中
ぬのい「へえ。直射日光はダメなんですね。確かにキノコって、薄暗いじめっとしたところで育つイメージがありますね。」
高島さん「雨も大事。雨が降らないと、しいたけは発生しないんです。ハウスの場合は逆に雨がかからないから、人工的に水をかけます。」
ぬのい「温度というのは?」
高島さん「温度も、暖かいと早く育つんだけど、寒い方がじわり・じわりと育つので、味とか風味がよりしっかり出て美味しくなるんです。」
美味しいものを届けるために、続けていきたい
ぬのい「聞いていればいるほど、原木栽培って本当に大変そうですし、実際、今はより効率の良い菌床栽培の椎茸が主流になっているんですよね。」
高島さん「そうね。確かに菌床栽培の場合は、一定の温度、湿度、光を保って栽培するので、味も一定で、形も常に綺麗なものができます。設備投資は必要だけど、一年通して出荷することも可能ですし。
原木栽培はそうはいかない。自然に合わせた栽培方法だから、いきなり明日欲しいと言われても収穫できるとは限らないですし、大きさが不揃いだったり、形がきれいでなかったり。。そして何より手間がかかって力仕事も多く大変です。

でもやっぱり、しいたけ本来の味の濃さだったり豊かな香りだったり、自然の中で育むからこそできる美味しさが原木栽培の良さだと思っています。

消費者に美味しく食べてもらえるように、そういう気持ちで続けています。」
大きいものは子供の顔の大きさほどまでに!
さて、そんな原木椎茸、実際のお味は?ということで、生産現場を見させていただいた後に、試食もさせていただきました(試食と言いつつたっくさん!)。
何より衝撃だったのが、椎茸の大きさ!!です。
いまだかつて、こんなに大きい椎茸を見たことがあるでしょうか・・・・。

私、結構手の大きさには自信があるのですが、その手が隠れてしまうくらい、巨大なんです。

高島さんのガラケーよりも、余裕で、大きいです。
そしてもう一つ注目すべきは、厚みです。この厚みこそが、原木しいたけならではの特徴だそうです。

いつもどうやって食べているんですか?と聞くと、バター焼き、塩焼き、天ぷらが美味しいとのこと!
実際に焼いて食べてみました

バターをひいて、ジュワー。

じゅわー。

ここにシンプルに、お塩またはお醤油、ポン酢など、お好みの調味料を垂らして食べます。

な、なんて美味しいんだあ〜〜〜〜〜!
こんなに肉厚で、風味のあるしいたけは食べたことがありません・・・・。
私がしいたけに鈍感すぎただけでしょうか。もともと私自身、しいたけに対してそんなに好印象を持っていなかったのですが、一気に印象が変わりました。
原木しいたけを意識して食べたことのない方は、ぜひその大きさ、厚み、風味を試していただきたいと思います。
と、宣伝はさておき。
原木しいたけの行方やいかに?
皆さんは椎茸の原木栽培についてどう思われましたか?
全く知識のなかった私は、大変に失礼ながら
「勝手に生えてくるキノコを採取しているんだろう」(本当に失礼ですが)
くらいに思っていたので、その手間とパワーのかかる大変さに心底びっくりしました。
光・温度・湿度、それから菌床、すべて人工的にコントロールして育てる菌床栽培と、自然の風土を活かしつつその中でしいたけが育ちやすい環境をつくっていく原木栽培。
どちらも人間の知恵と努力が結集されていて良いところと欠点があり、もちろんどちらが優位であるということではありません。
ですが世の中の流れ的にはやっぱり、効率の良い菌床栽培なのかもしれません。
それでも・・・衰退しつつある原木しいたけにも残っていって欲しい!私は今回そう強く思いました。
だってこんなに美味しいのですから。そして少し原始的にも思えるこの栽培方法には、人間の歴史も感じられます。
何より、原木からポコポコと生えているしいたけ、可愛いでしょう?

多くの人に原木しいたけの美味しさを知ってもらえたらいいなあと思います。
そして10年後もこの味を食べられますように。
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文 / 撮影: ぬのい(ポケットマルシェ)