「牛肉に負けないブランド豚を作る」27歳養豚経営者の決意

養豚の専業農家として常にトップを目指し、デュロック純粋肉豚の生産を極め続けた方波見勝久さんと、その背中をみて育ち、後を継ぐことを決めた次男・真人さん。

前編では勝久さんのお話を中心にお届けしました。後編では、方波見牧場の若き経営者・方波見真人さんに、若くして養豚家を継ぐということや、これからの方波見牧場について、お話を聞いていきます。

写真左から母の三四子さん、父の勝久さん、次男・真人(まさと)さん。

※取材は2020年2月3日に行われました

\この記事は2本立てです/

  1. 豚肉が霜降りに!?知る人ぞ知る「デュロック純粋肉豚」をつくる方波見親子に会ってきました
  2. 「牛肉に負けないブランド豚を作る」27歳養豚経営者の決意(この記事です)

目次

     ここに目次が表示されます。    

家業を継ぐということ

真人さんは幼い頃からいつかは家業を継ごうと思っていたのですか?

いえ、養豚業を継ごうとは正直考えていませんでした
高校の頃に父の会社でいろいろありまして、いちど廃業したんです。でも、父がデュロックを育てる姿をずっと見て育ちましたし、子供会のバーベキューとかでうちの肉を出すと、周りのみんなが 「こんな豚肉食べたことない」と言ってくれていたんです。
だから無くすのは嫌だなと……。
大学進学よりも「自分が父の豚を残したい」という気持ちの方が大きくて、自分から「後継ぐよ」と言いました

高校卒業後、真人さんは神奈川県の畜産会社で2年、鹿児島県で麹菌を取り扱う研究所で豚の餌となる麹飼料の勉強を1年8ヶ月、兵庫県の精肉加工食品製造会社で約7ヶ月、約5年間の研修期間で豚の飼育方法や豚肉加工技術を習得し、2016年に方波見牧場に戻ったそうです。

なぜいちど外部で研修をすることにしたのですか?

高校卒業してすぐ父の牧場に入ってしまうと、親子なので甘い評価になってしまうこともあるでしょうし、違う農場で研修することで、新しい視点から養豚業への学びを得たい気持ちもありました

やっぱり「スタートするときは他人の飯」ちゅうかね。私自身が、神奈川に研修に行って研修記念に豚1頭もらったところから養豚を始めたという経緯もあります

これまで1人で牧場を立ち上げデュロックを守ってきた父・勝久さん。今度は息子・真人さんのために最善の形でチャレンジを後押ししたいという気持ちが伝わってきました。


豚の社会は人間と似ている

勝久さんの農場以外の養豚場で研修をされて、新たな学びや発見はありましたか?

豚はすごく繊細な生き物だということです。幼い頃から豚と触れ合って生活してきたので、豚がとても感受性豊かな生き物であるということは知っていましたが、大きな牧場に行ってみて改めて気付かされました

例えばどのようなところが?

 "学校と一緒だ" と思いました

学校??

一般の数千頭規模の畜舎では別々の母豚から生まれた豚同士がひとつの区画に混ざり合って生活しています。
例えばその中に病気の豚がいると他の豚にすぐに感染が広がってしまいます。体温が高い豚が他の豚たちに鼻で小突かれたりして、ひどいときには死んでしまうこともあるんですよ。"こいつなんだかおかしいな"と感じるんでしょうね

中学生くらいの大きい豚同士だと殺し合いがはじまることもあるくらいで

そうなると手つけられないですよ

人間でも、知らない人と一緒に生活するとストレスを感じることありますもんね。一方、デュロックの場合は穏やかと聞きましたが、どうなんですか?

同じ母豚から同時に生まれた兄弟数匹だけをひと区画に入れて、他の兄弟を混ぜないで育てれば、ほとんどストレスはなくて、じゃれ合いくらいです

いちど研修先でお世話になった方にうちの牧場を見に来てもらったことがあるのですが、すごくびっくりしてました「こんなに大人しいの?」って

うちで育てているデュロック種は穏やかな性格の豚なので尻尾を切る必要がないんです

え、普通は尻尾を切るんですか?

尻尾がくるくる巻いてると、豚同士が尻尾を囓るんです。そこから雑菌が入り病気に感染してしまうんですよ。
うちの豚はみんな尻尾があります。元気な豚は尻尾が長く、くるくるっとしているんです

尻尾で健康状態がわかるのってなんだか犬みたいですね。あ、確かに方波見牧場のイラストの豚ちゃんたち、ちゃんと尻尾がある!! そういうことか!!

ところで勝手なイメージなのですが、養豚家の方は豚の気持ちがわかるものなんですか

豚はとても繊細で臆病なので、少しのことでも機嫌を損ねてしまいます。
例えば、誘導させようと思った道の方に段差があったりするとそれだけでも機嫌が悪くなったりしますし、坂道があると降りて行かないこともあります

なんだか人間みたいですね。確かに私も階段よりスロープの方が好きです(笑)

「常に豚の気持ちを考えて、豚に接しなさい」と、研修先の当時の農場長から教わりました。その方は従業員が豚を鳴かせようものなら怒ってしまうほど豚に対して愛情深く接している方でした。そこで豚の扱い方を学びましたね


命を食べることは、自分の命を大切にすることでもある

豚をみるとその農場主の性格がよくわかるんですよ。豚を殴っちゃう飼い主の豚は目つきが違って、出荷するとき大変なんです

親父も人のこと言えないけどね(笑)。親父に手伝ってもらうときはうちでも豚が「ぎゃー」て鳴いてますよ。
豚にストレスがかかればかかるほど、その分肉質に影響が出ます
人間側の都合で接しても、豚は思うように動いてくれません。それを知ることができたのも父が勧めてくれた研修期間があったからなんですけどね

親子でありつつも師弟関係でもあるおふたり。互いを尊重する姿勢が感じられました。


ところで、今回取材するにあたって方波見さんのコミュニティ投稿などを拝見している時に、不思議に思ったことがありました。

方波見さんのコミュニティ投稿より

方波見さんの日々の投稿からは豚たちに対する愛情が伝わってきます。ただ同時に、ペットではない家畜動物に対し、養豚家の方はどう向き合っているのだろうか……。

豚の気持ちに寄り添いつつ、名前をつけて……でも、大切に育てた子たちを最終的に出荷することを思うと、私では耐えられないなあと思ってしまうんです

そこは、命をいただいて自分たちは生きてるんだと思ってやってます。悲しい気持ちもあるんですが、この豚たちに自分は育ててもらってる生かされているという感謝の思いの方が強いんですよね

生かされている……ですか

これは豚が動物だからというだけじゃないと思います。
野菜も果物も魚介もみんな生き物で、それを食べることで自分たちの命をつないでいる。もちろん商売だから、収入を得ることで生かされているという面もあるけれど、本来ものを食べるということは命を食べるということで、自分たちが生きていることをすごく大切にすることでもある

普段の生活の中で"生き物"というと、動物や魚介類などわかりやすく分類できるものだけを考えがちですが、野菜などの植物も生物であってひとつの命であることには変わりないということ。真人さんのお話を聞いてハッとしました。


「3歳までに本能を育てる」方波見家流の子育て

でもこれだけ幼い頃から豚と触れ合い、方波見牧場の豚を食べて育ったら味付けにはかなり厳しそうですね

特に何かを教え込んだわけではないんですけど、幼い頃から長男と真人は異常なほど味に厳しかったですね

新しくハムを作った時は、まずはじめに長崎に住む長男に味を確認してもらいます。
彼は家族で1番鼻と舌がきくんですけど、「これはどの雄と雌を掛け合わせたの?」とか「親父、今回のハムは出来が悪いね」なんてダメ出しをくらうこともあります

あぁそれは泣かせますねぇ。まさか家族の中に一番厳しい批評家がいるとは。というか、お父様、お母様、ぜひ教えてください。どうしたらこんなに素晴らしいお子様が育つのでしょうか!!

いやいや本当に特別なことはさせていないんです。ただ幼い頃から、特別子ども扱いはせず、"大人と同じ"にしていました。鮎の串焼きをそのまま与えたりとか、カレーライスも大人と同じ辛さとか(笑)

私は甘口しか食べれなかったなぁ

「三つ子の魂百まで」 とか、「3歳までに全て決まる」というからね。幼稚園の頃から豚舎を裸足で走り回っていたし、豚の出荷などを手伝ってくれていました。 そこで危ないからといって靴を履かせてしまったら、本能がなくなっちゃうんですよ

そういう風に育ってたのは今知ったんですけどね(笑)。
僕自身も特に何も意識せず自由に生活していましたけど、幼い頃から食に対してはすごくこだわりがありました。そのせいか、牛肉の独特な臭みは未だに苦手で、食べることができないんですよね

学生時代、ラグビー部の寮に入っているときも、寮のご飯を食べずに自分で材料を買って作っていたよね

体育会系の寮のご飯ってカレーど〜ん! 肉ば〜ん! 筋肉つけるぞ〜って感じのイメージですよね

自分はかなりこだわりが強いので、ハムを作る際にも常に味は均一を目指しています。お客さんにも自分が納得したものを届けたいという思いが強いですね

今日もみなさんにうちのハムを食べてもらおうと思っていたのですが、真人に「親父、今回作ったハムを食べてもらおうと思ったけど、納得いかないから止める」って言われましたよ(笑)


牛肉に負けないオーダーメイドのブランド豚:常陸野栗豚を作りたい

方波見牧場では、育種から加工・販売まで一貫して家族力を合わせて取り組むことで、これまでデュロックという希少な品種を守ってきました。

方波見牧場の今後の目標は?

牛肉に負けないブランド豚をつくることが1番の目標です。
年間40頭しか出荷できませんし、放牧したり、餌もいいものを食べさせて育てたり手間とコストをかけた豚です。だからこそ牛肉に負けない価値のある豚です

おぉ………牛肉に負けないブランド豚。牛肉が苦手な真人さんだからこそ作れるこだわりの味というわけですね

将来的には豚肉を卸している飲食店様に対して"オーダーメイド"で豚肉を提供できるところまでこだわれたらと考えています

ハムの加工は完全に真人に任せていますし、育種の方も少しずつ引き継いでもらっています。なので私はもう「親父、もう手を出すな」なんて言われたいです


* * *


トップを目指し、デュロック純粋種を極め続けてきた父。父が握りしめてきたバトンを受け取り、さらに発展させていこうとする息子。

どちらも欠けることもなく、親子二人三脚で挑戦を続けたからこそ、方波見牧場は今もなおトップを走り続けることができているのではないでしょうか。

今後も方波見親子から目が離せません。方波見さん、ありがとうございました!


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文=日野原有紗・中川葵、写真・編集=中川葵

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