生まれも育ちも北海道のライターわたなべです。
最近、アイヌ語を勉強しはじめました。単語を覚えていく中で、アイヌ語が語源となっている日本語がたくさんあるのがわかってきました。
貝をお腹の上でコンコンする「ラッコ」は、「rakko(ラッコ)」
北海道特有の果実「ハスカップ」は「haskap(ハシカプ)」。
そして、なんと昆布もアイヌ語の「komp(コンプ)」が語源なのです!
一方、昆布は北海道から遠く遠く離れた沖縄料理にも使われているし、昆布のまったく採れない富山県が昆布消費量が日本国内トップクラスであるというのは有名です。
深い味わいの出汁がとれるばかりでなく、歴史的にも奥深いものがある昆布の魅力に今回は迫ってみようと思います。
昆布にだって種類がある!
昆布の生産量は、北海道が全国の9割以上を占めます。
そして、北海道沿岸で採れる昆布の種類は10種類以上にのぼるそうです。
中でも、
- 道南・函館方面で採れる「マコンブ」
- サラブレッドの産地としても有名な日高沿岸で採れる「ミツイシコンブ(別名:日高コンブ)」
- マコンブと同じく函館沿岸で採れ、ねばねばのフコイダンが多く含まれることで有名になった「ガゴメコンブ」
- 利尻・礼文・稚内近海で採れる、日本最北の「リシリコンブ」
が主な種類となります。
今回は、そんな数ある昆布の中から、北海道最北端の離島である利尻島の神成誠さんの昆布を選びました。
利尻昆布は澄んだ出汁がとれ、会席料理などにも使われることが多いそう。と、いうことは、前々からやってみたかった「とある実験」に適しているかも……。
最北の島から利尻昆布がやってきた
海を越えて利尻昆布が到着!!(※我が家は札幌。利尻は道内ですが離島なので)
待って、この箱、何? 親戚でも何でもないけど泣けるじゃないですか。
「これでも食べて 元気出汁(だし)」って……
お父さーん、お母さーん(涙)
箱を開けると、さらにうれしいことが。
おまけがついているのがうれしいのではなく(いや、それもうれしいけれど)この心遣いがうれしい。
こちらの商品は昆布〆用として使いやすいように長さ15㎝にカットされています。
さらに、昆布でサンドできるように2枚ずつの個包装になっているので、昆布〆をつくるのに扱いやすいのはもちろんですが、出汁を取るのに使って、残りの昆布を保存しておくのにも都合がよいです。
カゴで守られてくるから、乾燥した昆布が割れないのもいいなあ。
この包みを見ながら思うのは、昔はどんな風に昆布を運んでいたのだろうかということ。
北海道に住んでいたアイヌが収穫した「kompu」は、まずは中国に渡り、中国から日本へ「昆布」として輸入される形で伝わった……という説が有力だそうで、気が遠くなるほど古くから昆布が貴重品として取り引きされていたというのが推しはかれます。
昆布にまつわる日本の歴史
アイヌ語には「woromare kompu sikopayar(訳:水に漬けておいたコンブのようだ)」という、日本語のことわざでいう「青菜に塩」と同様の表現もあり、海に近い場所に住むアイヌにとっては、なじみの深いものだったのでしょう。
※「青菜に塩」とは、塩を振った青菜のように、元気を無くしてしょげている様子を示す。
一方、日本での昆布の歴史も古く、奈良時代の書物「続日本記」に昆布らしき海藻が登場するのだとか。
その後、北海道の松前と本州の間を昆布を乗せた船が頻繁に行き来するようになったのは、鎌倉時代中期から。
そして、江戸時代になって登場するのが「北前船(きたまえぶね)」と呼ばれる商船です。
北海道と大阪の間を、日本海・下関廻りで商品を売り買いしながら行き来する船で、さらには薩摩(九州)、琉球王国(沖縄)そして、清(中国)までその航路は伸びました。この航路は「昆布ロード」と呼ばれています。
このように「昆布ロード」が伸びていった背景には、富山藩と薩摩藩の結びつきによるものがあったのでした。
富山藩(現在の富山県)には北前船の寄港地が多くありました。昆布やニシンなどの荷がたくさん降ろされ、それはそれは、にぎわっていたそうです。方や、北海道から遠い薩摩藩(現在の鹿児島県)にとっては、昆布を手に入れるのは大変なことでした。
そこで、富山藩と手を結ぼうとした薩摩藩が目をつけたのが、「富山の薬売り」。薩摩の領内で「富山の薬売り」が商売をするのを特別に許可する代わりに、昆布を薩摩にもたらすよう手を組んだのです。
こうして昆布は北海道から富山を経て薩摩へ、そして琉球王国へ渡り、さらには清へ……。ああ、壮大!!
「昆布ロード」の成り立ちをひも解くと、富山でたくさん昆布が食べられているのも、沖縄で昆布と豚肉を炒めた美味しい料理があるのも、納得です。
※「富山の薬売り」とは富山で盛んに作られていた薬を家々に売り歩く行商人のこと。
※参考:昆布ロードがもたらした明治維新と食文化│54号 和船が運んだ文化:機関誌『水の文化』│ミツカン 水の文化センタ―
上等の利尻昆布で正しい出汁に挑戦
昆布の謎が1つ解けたところで、”正しい”昆布出汁に挑戦してみましょう。
なぜ、あえて”正しい”とつけるのか。
それは、普段の私の出汁の取り方がいい加減だから。
適当な量の水に、適当な大きさの昆布を入れて、「こんなもんかなー」というところで昆布を取り出す……それでも、昆布はちゃんと良い仕事をしてくれます。
でも。
せっかくなので、これまでのいい加減な出汁と正しい出汁の違いを知りたい!
澄んだ出汁が取れる利尻昆布で味や色を比べてみます。
まずは正しい分量から。
料理の基本の本、インターネットのレシピを数多くあたってみた結果
というのがスタンダードのようです。要するに、水に対して2%程度の昆布ということですね。
「いつ取り出すか」が勝負を分ける
昆布出汁を取るときに気になるのが、鍋から昆布を取り出すタイミングです。
取り出しタイミングによる味の違いを実験するため、条件を同じくして、2パターンの方法で出汁を取ってみることにします。
今回の分量は水500mLと昆布10gで
2つの鍋に昆布と水を入れて30分ほど置いてから、それぞれの鍋を中火程度の火にかけます。ここまでは、両方とも条件は一緒。
パターンAの鍋は、沸騰する直前に昆布を取り出します。
鍋や昆布にぷくぷくと泡が付いてきたくらいで取り出す!
パターンBの鍋は、沸騰したら少し火を弱めて3分ほどそのまま加熱した後に取り出します。
グツグツ……
A・Bそれぞれの出汁を見比べてみましょう。
取り出さなかったBの方は、昆布にぬるっとぬめりが出てきています。
出汁の色が違う!
沸騰寸前に取り出したAの出汁。
ほんのりとした色味。そのまま飲むと、昆布の味がするというよりも、香りが口の中に広がります。
沸騰しても取り出さなかったBの出汁。
黄色みが濃く出ています。
味は昆布水! というくらい主張が強い。
美味しくないわけではないのですが、これはこの味に負けないくらい強い素材と合わせないと、料理が「昆布の味のもの」になってしまいそう。
同じ条件でも、取り出すか取り出さないかでこれだけの差が出るのですね。
では、この差はどうして出るのでしょう。
昆布だって生きている
昆布の旨味の正体には主に2つの成分があります。
1つはマンニット。これは昆布の表面にうっすらついている白い粉です。もう1つはグルタミン酸です。
昆布には細胞や組織を守るためのセルロースやペクチンが他の植物より少なく、そのせいで、水につけただけでも細胞膜が壊れ、旨み成分であるグルタミン酸が外に出てくるのだそうです。
加熱をするとさらに細胞が崩れていき、アルギン酸などのぬめりや黄色み、雑味の元となる成分も出てきてしまいます。
左がB、右がA
なので、加熱しすぎないうちに昆布を取り出して、雑味が出る前にグルタミン酸の旨みだけをゲットするパターンAの方が、出汁の取り方として”正しい”というわけです。
グルタミン酸が先に細胞の外に出て、アルギン酸がその後に出てくるのは分子の大きさの違いだそう。グルタミン酸の方が分子構造が小さいから、細胞が少し壊れたすき間からでもするっと出てこれるのですね。
ここで、もうひとつの疑問が。そんなに表面がか弱い昆布。海の中で出汁が出てしまうことはないの?
答えは、昆布が生きているから海の中では出汁は出ません。昆布が海中で生きているうちは、生きるために大切な成分を細胞の外に出さないような仕組みが備わっているのです。
※参考:こんぶネット>昆布Q&A>「どうして昆布の旨味成分は海に流れ出ないの?」,一般社団法人日本昆布協会ホームページ
昆布の大事な命の元を、私たちは出汁としていただいているのですね。
乾燥昆布には、出汁以外にも美味しい利用法がたくさんあります。
昆布で食材を挟んでつくる「昆布〆」や、
出汁と昆布と塩だけの「フルコンブ炊き込みごはん」で、
今回も余すことなくいただきました。
レシピはこちらのページ→出汁だけじゃない!簡単”昆布じめ”、絶品”昆布ご飯”…7つの昆布レシピをご紹介にてご紹介しています。
深い歴史と旨みをたっぷり味わえる昆布でふだんのごはんにアクセントをつけてみてはいかがでしょうか。
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北海道生まれ北海道育ちのライター。宣伝会議 編集・ライター養成講座米光クラス第7期受講。Think School企画コース2期卒。クルマ・教育関連・北海道ネタなど多岐に渡り執筆中。たまにアート企画などにもたずさわる。各地で地元スーパー巡りをするのが好き。魚を捌くコツは祖母ゆずり。