農薬を作物に散布しない「無農薬(むのうやく)」、「農薬不使用」という言葉は聞き覚えのある言葉。
しかし「無肥料(むひりょう)」は耳馴染みがないという方も多いかもしれません。
それもそのはず、そもそも「無肥料」栽培を行う農家さんは全国にもコンマ数%しかいないのですから。
ではその「無肥料栽培」とはどういうものなのでしょうか。
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無肥料栽培とは?生産者の清岡さんに聞きました
みなさん「無肥料」と聞いてどんなイメージを持つでしょうか?
私はこんな風に思っていました。
「肥料っていうのは、きっと、作物に栄養を与えるために、使っているんだよなあ?肥料で栄養を与えない場合、作物はどうやって育つんだろうか??」
そんな疑問を持ちながら、栽培期間中、農薬不使用でかつ無肥料で栽培を行う、えがおファーム(埼玉県坂戸市)の清岡賢さんにいろいろと聞いてみました。
編集部ぬのい(以下、ぬのい):
「清岡さんが行っている、無農薬・無肥料栽培って、どんな栽培方法なのでしょうか?」
清岡さん:
「まずイメージしやすい「無農薬」の方からお話ししますね。
これは、作物を育てるのに薬は使わないということです。虫を殺したり、雑草が生ないようにしたりする薬ですね。
農薬には化学農薬と、そうではない農薬(無農薬農薬とも言われる。代表的なものに、木酢液、お酢など)がありますが、そのどちらも使用しません。虫がついた場合は、手でとります。
次に「無肥料」ですが、これは外から肥料を持ち込まないということです。化学肥料はもちろん、発酵肥料と呼ばれるような有機質肥料、家畜の糞などを使った堆肥も使いません。」
ぬのい:
「そうなんですか!肥料は作物の栄養というイメージがあったのですが、それをしなくても作物は育つということなんですか?」
清岡さん:
「はい。畑で見ていただいた通り、実際にそのやり方で十分に作物は育っていますよ。」
ぬのい:
「そうですね、立派に育っているのを拝見しました。というのは、つまりどういうことなんでしょう?」
清岡さん:
「土が本来持っている力を発揮させると育つということです。
作物はどこから栄養をとるでしょうか?根っこからとりますよね。根っこからたくさんの栄養を吸収して、作物は育ちます。肥料を与えたとして、そのうちのどれだけを作物は吸収することができるんでしょうか。それは実はそれほど多くないんじゃないかと私は思います。
土の中でしっかりと微生物が働いて自然の生態系が循環する状態、つまり森の循環と同じような状態を作れば、作物は育つという考えなのです。
私の仕事はその循環の状態をつくる手助けをすることだと思っています。」
清岡さんが有機農業ではなく無肥料を選んだ理由
ぬのい:
「ちなみに清岡さんは、最初から無肥料での栽培を行っていたんですか?」
清岡さん:
「本格的に農業を始める前に週末農業をやっている期間があったのですが、その頃は有機・無農薬栽培を行っていました。
やっていくうちに、「肥料はいらないのではないか」と思いはじめ、2012年に本格的に農業を始めてからは、無肥料での栽培を行っています。」
ぬのい:
「なぜ肥料を使わなくても良いと思い至ったのでしょうか。」
清岡さん:
「もともと身体をこわしたきっかけで農業を始めたので、「農薬は使いたくない」という思いはありました。『クスリはリスク』とも言いますし・・・(苦笑)
ある時「奇跡のリンゴ」を読んでいて、森の循環をりんご畑でも作れば肥料を使わずにりんごは育ったという内容から、きっとお野菜でも一緒で、外から栄養を持ち込まなくても作物は育つんだということが腑に落ち、実践してみることにしました」
とにもかくにも土づくりが大事!
ぬのい:
「無肥料栽培はとにかく土づくりが大変ということで、ちゃんといい土の状態が作れるまでには時間がかかるんですよね?」
清岡さん:
「はい。理想的な状態になるまでには10年はかかると覚悟しています。
土づくりだけに専念して取り組むなら3年ほどでいけると思うのですが、私の場合は野菜作りをしながら同時に土づくりに取り組んでいるので。」
ぬのい:
「今は4年目ということで、うまく育ちづらい野菜などもあるのでしょうか。」
清岡さん:
「はじめのうちは、例えば大根が二股になったなど失敗もありましたが、今は安定してきました。
今まだ少し難しいと感じているのは、玉ねぎとにんにくですね。
時間をかけて土を良くしていくのとともに、自分の技術も磨いてしっかりと育つ状態を作っていきたいと思います。」
無肥料栽培で育ったお野菜は身体にいい?
ぬのい:
「無肥料で育てられた、安心・安全ということがあると思いますが、清岡さんご自身はどのように捉えていらっしゃいますか。」
清岡さん:
「化学肥料も使い方次第では安全に食べられるものもあるし、逆に有機肥料でも使い方を間違えれば化学肥料以上に毒になることもあります。
用法と容量を守って正しく使えば・・・(笑)というお話です。
そういう意味で、無肥料の場合は何も与えないので、そのようなリスクが肥料を使う方法よりも低いと、皆さんにお話しています。」
ぬのい:
「味にはどういう特徴がありますか?」
清岡さん:
「混じりけのない、お野菜本来の自然な味を感じていただくことができます。
現代的な「すごく甘い」といった特徴を求められる方にはもしかすると合わないかもしれませんが、苦味なども含めより自然な味を楽しんでいただきたいと思います。
そこには、栽培方法以外に種にも秘密はありますが、その話は違う機会に・・・
無肥料無農薬のお野菜を食べたことのない方がほとんどだと思うので、まずは試していただきたいと思っています。」
無肥料栽培は、虫がつきにくい?
清岡さん:
「お野菜に虫が付くのって、美味しいお野菜だから虫が付くって思う方も多いんですけど・・・」
ぬのい:
「そうですね。」
清岡さん:
「無肥料栽培を行う農家の考えは、虫が付くお野菜というのは人間にとってベストではないお野菜なのではないか、ということなんです。
お野菜は、地上に出ている葉っぱで呼吸をしていますよね。その時に虫にわかる匂いを出しているから虫が付くのではと考えられています。
無肥料栽培を4年続けてきて、虫が付く割合が減ってきたような実感があります。もちろん付くには付くんですけれど・・・。」
ぬのい:
「つまり、肥料を与えているお野菜の方が虫はつきやすい可能性があるということですか?」
清岡さん:
「はい、肥料を与えたとき、野菜たちは呼吸を通じて余計な栄養を出している、そこに虫が寄ってきやすくなるという考えですね。
ただ今の所は科学的に証明されているわけではないようなのですが。
私だけでなく、無肥料栽培を行う農家は実感として、そのようなことを思っていたりします。」
10年前に身体を壊したときに、農業に触れ始め、それまで必要だった薬がまったく要らなくなるまで元気になったという清岡さん。
農の魅力を知り、自分の納得のいくスタイルで野菜作りを続けています。
そんな清岡さんのメインは、都市生活者に向けた農業体験。週末は、小さいお子さんを連れたご家族や、若い女性グループなど様々な方が体験に訪れます。
お客さんとリアルに接し、笑顔が見られることが何よりの楽しみだと清岡さんは言います。
清岡さんが現在栽培中のお野菜は、大根、小松菜、わさび菜、菊芋、ヤーコン、ビーツ、ターサイ、にんじん、小松菜、のらぼう菜、そら豆など。
固定種・在来種の種にこだわり、一般的なお野菜と、珍しいお野菜をバランス良くつくっているそうです。
野菜セットでは、その時期に合わせて旬のものを詰め合わせて送ってくださいます。
ちなみに清岡さんのオススメは、冬にとくに美味しくなる、自然の甘さが特徴のヤーコンだそう。
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