「甘いだけじゃもの足らん」トマト名人の水耕栽培ハウスに潜入成功!あの味の秘密を探ってきた

それは、5月のこと。ポケマル編集部・中川は、とんでもないトマトに出会ってしまった。

周りに散らばっているのはおまけでついてくる「中玉トマト」。タイミングによって届く数も変わるのだとか。


まんまるで、皮が薄くて、水分たっぷりのモチモチの食感。「ぎゅっ」と濃いうま味が凝縮されているだけのトマトとは一味違う、酸味も含んだやさしい甘さ。まさに、「箱入り娘トマト」だ。

「これは、何か秘密があるに違いない。取材に行こう!」中川の号令によって、今回の産地訪問ツアーは実現しました。


トマトの秘密に迫ろうと、向かった先は山梨県中央市

四方を南アルプスの山々に囲まれた盆地に位置し、日本トップクラスの日照量、山から流れ出る天然水に恵まれた自然豊かな場所です。

ここで約50年間、トマト栽培に励むヨダファームの依田克己さんに会いに行き、今最盛期を迎えているという収穫作業を手伝うことに。あの味の正体は果たして——。

Producer

依田克己(ヨダファーム)|山梨県中央市

山梨県中央市で約50年前先代の一二からハウス桃太郎トマト農家として始まりました。この先、あと何年続けていけるかわかりませんが、より多くの方にヨダファームの美味しいトマトを食べていただきたいと思っております。是非、一度お召し上がりください。


 

目次

 
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「甘いだけじゃもの足らん」水耕栽培歴30年の経験が生む味とは


朝晩の冷え込みが増してきた11月中旬の朝7時、私たちはJR新宿駅発の特急スーパーあずさに乗り込み、山梨を目指しました。

登山客らで賑わう満員の車内で過ごすこと約1時間半。JR甲府駅に到着すると、遠くにうっすら雪化粧した山々が見え、上空には秋晴れが広がっていました。駅前には、戦国武将・武田信玄の銅像も。

そこから、さらに車を走らせること約30分。いよいよ、目的地のヨダファームに到着です。

山に囲まれた自然豊かな場所にヨダファームはある。


そこにはすでに朝から収穫作業に汗を流す依田夫妻の姿が。「ようこそ」と、主人の克己さんがやさしい笑顔で迎えてくれました。

笑顔で出迎えてくれた依田克己さん


例年、春と秋の2度にわたって収穫するヨダファームですが、今夏は猛暑や天候不順に見舞われ生育条件が悪かったそうです。このため、今秋の収穫の出だしは生育が良くなかったのだとか。

しかし、取材日の時点では晴天が続き、一気にトマトが生育。今、食べ頃を迎えているそうです。

広いハウス一面に育つトマト。天井からやさしい日差しが差し込む。


約50年前、父と始めた当時は土で栽培していましたが、約30年前に水耕栽培にシフトしたんです。今では、良質なトマトを栽培できるようになりました。


ハウス内を案内しながら、依田さんがおもむろに話し始めました。そうなんです。ヨダファーム最大の特徴の1つ、それが水耕栽培にあります。

ポケマル豆知識①:水耕栽培とは?

水耕栽培とは、土を使わず水と液体肥料(養液)で植物を育てる方法のこと。植物の根の部分を肥料が入った水(培養液)に浸し、必要な水、養分と酸素を根から吸収させる。天候や季節に左右されづらく、土壌の病害リスクも減るため、安定した品質・収量を確保しやすいと言われる。日射量などに応じて水や養液の量などを適正に管理する必要があり、熟練の技が求められる。


——なぜ土耕から水耕栽培に切り替えたんですか。

土の場合は土壌の菌によって病気になりやすく、天候にも左右されるので品質や収穫量が不安定になりがちです。また、消毒や害虫を駆除しないといかんから、農薬を多く使う必要もあります。美味しいトマトを安定的に、安心して食べてもらいたいじゃん。それが水耕にシフトした大きな理由です。

水耕栽培では「ロックウール」と呼ばれるスポンジ状の培地にトマトを植え、そこにトマトの生育に必要な栄養を含んだ水を流して栽培する


——水や養液をどれくらい補給するかなど、調整が大変そうです……。

そこは機械と熟練の目で、徹底管理しています。この機械(下記写真参照)を使って、毎日一定の時刻に決められた養液を苗に与えたり、日射量に合わせて養液の量を自動で調整したりしてね。それ以上の細かい調整は、天候などに合わせながら、長年の栽培経験をもとにやっていますね。


——水耕栽培を始めて30年。苦労も多かったのでは?

水耕栽培は新しい技術でしたから、なんだって最初は苦労の連続でした。根っこがしおれてしまって、うまく育たなかったりね。試行錯誤を続けて、安定した栽培方法を確立するまでには10年ほどかかりましたね。


——10年ですか……。長い道のりですが、どうやって克服してきたんですか。

この近辺にいる農家たちと研究会を立ち上げて、問題が起こる度にみんなで情報交換したり、話し合いながら少しずつ品質を上げてきました。1人だけでは無理だったろうね。仲間たちとの助け合いの結果、今があるってことさね。


——そうした苦労の積み重ねが、このトマトの味を実現させたんですね。

うちのはなるべく少ない養分で、かつちょうどいい水分。そのバランスを大事にしています。

一般的には、水を控えて養分を多く与えれば、果肉そのものの美味しさがぎゅっと凝縮されたフルーツのような甘さの小さなトマトに仕上がります。一方で、水分を多く含ませれば、酸味が強めの大きなトマトができます。

真っ赤に色づき、ツヤツヤに光ったトマト


——なるほど……。

でも、水を控えすぎるとみずみずしさが奪われて、酸味も減ってしまいがちです。個人的には、甘いだけじゃ物足らんから。かといって、水分をたっぷり含ませると、今度は甘みやうま味が足らなんくなってしまいます。“甘みも酸味もある”のがおれの理想なんです。ですから、そのギリギリのラインにこだわってつくっています。


——ギリギリのラインですか……。

ただ、正直言うと最初から必ずしも味にこだわって栽培していたわけじゃありません。いろいろと研究する中で、お客さんから「おいしいね」と言われるようになり、段々と今の味に行き着いたというのが実感ですね。


おいしさの秘密は国内随一の日射量と天然水と、この品種!


ヨダファームのおいしい味を引き出す理由は、それだけではありません。山梨県特有の恵まれた栽培環境や、品種にも秘密が隠されているとのこと。どういうことなのでしょうか……。


——この土地はトマト栽培に適した場所なんですか。

山に囲まれた盆地なもんで、日照時間は国内でもトップクラスで、南アルプスのミネラル分を多く含んだ地下水も豊富に湧き出る場所です。山梨県は桃やぶどうの栽培で有名ですが、トマトづくりにも適したところなんです。おれらは近所の農家と協力して井戸を掘り、そこから地下水をくみ上げています。


——品種(ハウス桃太郎 はるか)には、何か強いこだわりがあるんですか。

一言で言えば、ですね。かつては「ファーストトマト」や「ハウス桃太郎」などを栽培していましたが、「ハウス桃太郎 はるか」が気に入っています。今は、トマト特有のウイルスに抵抗できる新しい品種も出てきてるんです。でも、個人的には味は「桃太郎はるか」の方が好きなもんで。ウイルス対策に多少手間はかかりますが、それを選んで育てています。


依田さんの話に聞き入るポケマル編集部員たちですが、収穫の手伝いを忘れているわけでは決してありません。依田さんのレクチャーを受けながら、必死に収穫作業に励む部員も。

天井から日差しが差し込み、作業をしているとじんわりと汗が滲んできます。


消費者が手にするタイミングで一番の食べ頃を迎えられるよう、トマト全体がピンク色になるまで待ってから収穫するのだそうです

へたの少し上にある節の部分に指を添えてひねると、ぽろっと外れます。


へたの上に残った茎は選別・梱包作業のときにキズがつかないように、なるべく短くカットするのがポイント


この日、依田さんは私たちに話を聞かせてくれながら収穫作業を行っていましたが、普段は奥さまと2人で黙々と作業をしているそうです。秋は1日置きに(春はほぼ毎日)、朝7時から午前中一杯かけて収穫し、その日のうちに選別・梱包作業を行うそうです。


“採れたての味”は自分の手で届ける。


依田さんの自宅に隣接する倉庫に到着すると、なにやら「ガタン、ゴトン」と機械音が聞こえてきました……。どうやらこの倉庫の中で、選別作業が行われている模様。

トマトを1つずつ機械に乗せると、重さによって自動的に選別してくれる。


収穫したトマトをA/B/Cの規格に分ける作業です。規格は大きさや形、キズの有無によって分けられます。

AとBは同じような形に見えますが、Aになるのはきれいなまんまるのトマトのみ。少しでも形がいびつだとBになるのだとか。

左がAで、右がB。右の方が、お尻の部分が少し凹んでいます。これだけでBになってしまうなんて……。


素人の目では違いが分かりません。依田さんの目でAかBかを判断します。


一方、Cはキズが目立ったり、形が少しいびつであるため、市場出荷はしないそう。ただ、多少のキズがあっても味が落ちるわけではありません。近所の人に配るなど、有効活用しているそうです。

そして意外なことに、依田さんに教えてもらった特に美味しいトマトはなんとC品の中にありました。その写真がこちら。


形はすこし細長く、お尻側に茶色い筋があります。そこから白い放射線状の線がくっきりと伸びています。

この線は、皮が薄くうま味や甘みが多いトマトに出る現象といわれ、農家の間で“スターマーク”と呼ばれているそう。青臭さが少なく、「トマト嫌いの子供も食べられる」と好評のようです。


梱包作業を担当するのは、奥さま。


各規格に選別されたトマトのうち、A品とB品についてそれぞれ箱に入れるトマトの熟度が同じ程度になるように見分け、さらに配送中にトマトが動かないように隙間なくびっしり詰める作業を行っています。

箱いっぱいにぎっしり敷き詰められたトマト。色鮮やかで、うっすら光り輝く“一級品”です。


ちなみに、ヨダファームでは「個選」と呼ばれる出荷方法をとっています。

ポケマル豆知識②:個選とは?

「個選」とは、自ら選別・梱包した箱を農協に持ち込む出荷方法のこと。それに対して、収穫したトマトをそのまま持ち込んで農協に選別してもらうのが「共選」。


味にこだわる依田さんは、手間をかけてでも「個選」にこだわっているそうです。

個選では生産者名を書いた箱で出荷することができる。


「新鮮で、採れたての味を体感してもらいたいじゃん」

梱包作業をしながら、奥様が笑顔で話しかけてきました。そうなんです。ヨダファームは、鮮度にもこだわっているんです。

ポケットマルシェに出品されているトマトは、朝収穫したものをその日に発送し、翌日にお客さんの元へ届くようにしているのだそうです。

なるほど!トマト全体がピンク色になるまで待ってから収穫するのは、お客さんの元に届いたときにちょうど食べ頃にするためだったんですね。

完成したA品の箱入り娘の「ハウス桃太郎はるか」に大満足の金澤。ちなみに、ポケマルではA品を送るようにしているそうです!


奥さまによると、秋の収穫シーズンは休憩も挟みながら、連日夜8〜9時頃までこの選別・梱包作業を夫婦2人で行っているそう。まさに、朝から晩まで休むことなく体を動かし続ける日々

私たち編集部員は、この日1日の作業についていくだけで精一杯なのに……。

依田家のお祖母ちゃん(90歳)も選別場の横で箱を組み立てていました。まさに家族総出ですね。


「つくるなら手を抜かずに、ベストのものをつくりたいじゃん」

これがトマトの種。毎年11月17日に種まきをする。苗から自分で育てるのが依田流。


日射量に応じた水分・養液の調整から、手作業での梱包、さらには素早い配送まで。何から何までこだわる依田さんですが、その原動力はどこからきているのでしょうか。


つくるなら手を抜かずに、ベストのものをつくりたいじゃん。この地域でトップレベルのトマトをつくりたいですね。

あっさりと、でも力強く、そうシンプルに依田さんは語ります。


聞けば、小さい頃からサボテンを集めて育てたりと、「昔から(植物などを)育てるのが好きだった」といいます。

依田さんが中学生の頃(!)から育てているサボテンたち。「お父さん、どんな植物でも上手に作っちゃうんで庭がこんなことに…笑」と家族がぽろっと口にする場面も。


ビニールハウスや近接する畑では、趣味でパイナップルやメロン、パプリカなどいろんな作物を栽培している


もちろんトマトにもその探究心は活きています。苗を買って育てるのではなく、依田さん自身が種からじっくり育てて、接ぎ木も全て自分でしているのです。

ロックウールに一粒ずつピンセットで植え込んだトマトの種に、はじめての水やりをする依田さん。


まさに根っからの“職人気質”の持ち主。あのやさしい笑顔の裏側に、「ベストのものをつくりたい」という強い信念が隠されていたんですね。


さて、そんなヨダファームが育てたトマトの食べ頃も、少しずつ今シーズンのリミットが近づいてきました。

今季の収穫は12月中旬ごろまでとのこと。

夏野菜のイメージが強いトマトですが、ヨダファームのトマトは春と秋が旬。寒くなるこの時期でも美味しくいただけるのはうれしいです!

最後は家族揃って記念撮影(左から娘さん、奥さま、依田さん、娘婿の功刀さん)。


貴重な体験をありがとうございました!


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おまけ

翌日、ポケマル編集部インターンの金澤家に、取材日に収穫したヨダファームのトマトが届きました。

まんまるのつやっつや!そして、赤い!


中には、トマトを美味しくいただけるようにお塩とオリーブオイルが同封されていました。


生でも、お料理にしても、何をしても美味しい依田さんのトマト。金澤はもちろん、取材に同行したポケマル編集部スタッフは皆、依田さんのトマトの虜になりました!

ピーマンの肉詰めならぬトマトの肉詰め。見た目もイタリアン風でオシャレです。


Writer

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。

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