北海道はでっかいどー!新婚玉ねぎ農家さんに玉ねぎと馴れ初めのアレコレを聞いてきました。

北海道栗山町。札幌市内から車で1時間あまり。北海道日本ハムファイターズの監督栗山英樹さんが造った少年野球場【栗の樹ファーム】がある町です。2017年秋、この地で農家を営み四代目、井澤孝宏さん、綾香さん夫妻を訪ねました。

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井澤農園 井澤孝宏・綾香|北海道夕張郡栗山町

井澤農園の井澤孝宏です。北海道夕張郡栗山町で農業を営んでいます。農家の4代目で玉ねぎを中心に花壇用花苗、かぼちゃ、スイートコーンなど色々な野菜を栽培しています。

17ヘクタールに渡る畑には年間通してたくさんの作物が


農園への入り口から大きく広がる畑。住宅、作業場などをはさんで、その向こうにも畑は見渡す限りです。ビニールハウスは100m、70mといった長さ。遠近感覚がおかしいのかなと感じるほどです。

奥行100mのビニールハウスで玉ねぎの苗を育てる


——畑の広さはどのくらいですか?


孝宏さん全部で17ヘクタール(東京ドーム約3.6個分)くらいです。そのうちメインの玉ねぎは12ヘクタール、かぼちゃが80アール、他はじゃがいも、さつまいも、とうきび、ズッキーニ、花苗など少量多品目の作物を作っています。作物でいくと40種類くらい、品種でいえば100近くのものを作っていることになりますね。

井澤家は畑やビニールハウスを空けたままにしない主義。野菜だけでなく、レモンやアボカド、アーモンドまで、様々な野菜の栽培を試しています。


空知地方で最古参の玉ねぎ農家として

——井澤農園で玉ねぎを作りはじめたのはいつからですか?


孝宏さん祖父の代からになりますので先々代からですね。北海道で玉ねぎの栽培が始まったのは札幌からですが、その後、こちら空知地方に入ってきました。玉ねぎ作りの始まりがこの辺りの地域からだったんです。土質的に玉ねぎが合っていたのだろうと思います。

コンテナいっぱいのタマネギ


——生産量はどのくらいですか?


孝宏さん鉄コンテナ1基につき玉ねぎは1.3トン入ります。その年によりますが、その鉄コンテナで550~600基分、だいたい750~800トンくらいの生産量となります。

オホーツク222を風乾中。玉ねぎの茶色が濃くなるほど、味が濃くなるという


——今、栽培しているのは何品種ですか?


孝宏さん全部で9種類です。

玉ねぎには、皮の色によって黃玉ねぎ、白玉ねぎ、赤玉ねぎがあります。また、それぞれの甘み、辛み、苦み、旨みの4つの食味、そして水分が多いか少ないかのバランスで品種の特徴が出てきます。辛みが強いものは玉ねぎ自体の味が濃いということになります。


品種によってまったく違う!使いわければもっと料理上手に

——ひとくちに「タマネギ」と言ってもいろいろな種類があるんですね。


孝宏さんスーパーや八百屋の店頭では『玉ねぎ』としてしか売られていない場合が多いですが、玉ねぎの品種は何十種類とあるんです。各農家も需要などによってどれを作ろうかと考え、作付けをしています。


綾香さん生食に向くサラダ用のものはやわらかくて水分が多く、辛みが薄いんです。水分が多い分、傷みやすいという欠点もあります。反対に、水分が少ないものは煮くずれしにくく日持ちもするので、冬の間も貯蔵して長く利用できます。

品種の違いが料理の出来を左右する!


綾香さんスーパーなどで玉ねぎを買っても、買うタイミングで「今日の玉ねぎいつもと違うかも?」ということがあったらそれは品種が違っているってことなんです。だから、お料理が好きな人には、玉ねぎを品種で選んで買っていただけると、よりお料理を楽しんでもらえると思います。

※井澤農園で栽培しているタマネギの品種9種類をこの記事の最後に記載しました。気になる方はぜひ最後までお読みください。


安心でおいしい玉ねぎを作るために


——玉ねぎ栽培の面白さは何ですか?


孝宏さんひと口に玉ねぎと言ってもいろいろな品種がありますし、作り方によって、味が微妙に違ってきます。

例えば、土の中の有機物が多いほど、味が濃く、甘味の強いものができます。以前、何軒かの農家で玉ねぎを持ち寄って糖度や食味の調査をしたところ、糖度の差が1度近くあったこともあります。それはそれぞれの土づくりの違いによるものかと思います。どう手をかけて作っていくか…そういうところに面白さがあります。


——土作りが大事なんですね。


孝宏さんうちでは特別栽培*という栽培方法をとっていますので、特にそうですね。

*特別栽培とは…その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物のこと。(農林水産省:特別栽培農産物に係る表示ガイドライン より)


——玉ねぎは特に農薬を減らしての栽培は難しいと聞きますが……


孝宏さんはい、病気がつきやすかったりしますので……病気にならないための栽培方法をいろいろ考えています。

まず畑に有機物が豊富に入っている状態にするため、収穫後の秋に、畑にたい肥を入れます。場所によっては、様子を見て春になってから再度たい肥を入れることもあります。


綾香さんあと、強い苗を育てるのも大切です。


孝宏さん畑に植える時には、ひょろひょろ細い苗より、がっちりした太くて緑の濃い苗の方がいいんです。

麦踏みってありますよね。そういう感じで、1シーズンに3~4回、苗の頭を切ります。わざとストレスを与えてやることで、生命力が高まって太く強い苗になっていくんです。

玉ねぎの苗。この先の部分をカットする。切った先端部はこの作業がある時だけの超期間限定の味。(孝宏さん撮影)


なりたいものは農家だけ&憧れの農家さん


——孝宏さんはいつ頃から農家になりたいと思っていましたか?


孝宏さん物心ついた頃…3歳くらいからでしょうか。高校3年生頃、1〜2ヶ月だけ建築士もいいなと思ったことはありますが、やっぱり農家が良かった。作るのが好きなんだと思います。


——綾香さんはなぜ栗山町に?


綾香さん札幌の会社員の家庭に育ったのですが、両親の影響で小さい頃から畑仕事や料理をすることが好きで。ある時、ファームステイで出会った農家さんをみて「食べ物を作ってる人ってかっこいい!」「農家のカッコよさを伝えられる人になりたい!」と思いました。それで大学卒業とともに、一般財団法人栗山町農業振興公社に地域おこし協力隊として入り、栗山町に移住しました。


——農業大好きなお二人。出会いは運命だったんですね。


孝宏さん僕は、栗山町の若手の農業青年団体の会長をやっていまして、綾香が、その団体にすごく興味を持って、入りたいという話があって。それまで農業者以外のメンバーは入れていなかったのですが、新しい風を吹かせるために入ってもらおうということになりました。

そうして、一緒に活動をしていくうちに、お互い気づいたら、付きあっていたというか…気づいたら結婚してました(笑)


綾香さん私にとっては農家さんはみんな輝いて見えるんですよね。誇りをもって、自分の生産に向き合っている人はかっこいい!孝宏君も誇りをもってやっているなっていうのをひしひしと感じるところがあって。素敵だなと思って(笑)。


——お料理上手な綾香さんは最強の農家の嫁なのでは……?


孝宏さんはい、ミラクルです!

実は、僕は生まれてから27年間(取材当時)、野菜が大っきらいだったんです。でも、綾香と付き合うようになって、作ってくれた料理を食べないわけにいかなくて……。


綾香さんお母さんもお料理上手なのに野菜を食べないから……悲しんでたんですよ。


孝宏さんまあ(笑)。それで、食べているうちに、野菜のおいしさに気づいてしまったんです。それも10日間くらいの間に。

野菜の味の違いがわかるようになって、どうするとよりおいしいものを作れるようになるかと、作ることがさらに面白くなり、チャレンジの幅が広がりました。

結婚記念に植樹した杏の苗と一緒に。温室には孝宏さんのご両親が新婚旅行の時に買ってきたという巨大なサボテンも。


——綾香さんが新しい風を吹かせたと!


孝宏さんあ、そういうことになりますね。新しい考え方、いろんな考え方ができるようになってきた。今では6次化も視野に入っています。


綾香さんまだ小規模ですが、野菜のお菓子を作ってイベントなどで販売しています。ただ、これは第一段階で、最終的にはファームレストランを開きたいと思っています。

また、レストランのシェフなどに、玉ねぎの品種の違いによる使い方を農家側から提案していくような、今までにない売り方をしていきたいとも思っています。


孝宏さん僕のような野菜ぎらいの人こそが食べられるような野菜を作っていきたいですね。野菜ぎらいの人の気持ちは僕がよくわかっていますから。こんなふうに食べたら食べやすいよっていうのも併せて伝えていけたらと思います。

食べられる野菜が増えたら、食べられる料理の幅も広がる。そうしたら、ますます、食べることを楽しいなって思えるようになると思いますので。


井澤さんのタマネギの出品はこちら




おまけ:井澤農園が作る厳選玉ねぎ9品種

井澤さんが作る玉ねぎは全部で9種類。その中には日本の栽培品種1位の北もみじ2000、2位のオホーツク222も含まれます。どんな品種を作っているのか、出荷時期と特長を併せてご紹介します。


雪景色(7月中旬):白玉ねぎ・皮も白い・辛みが少なく生食向き

サマーレッド(7月中旬・雪景色の少しあと):赤玉ねぎ・サラダ用

TTA746(8月上旬~9月上旬):黄玉ねぎ

コディアック(9月上旬~12月上旬):苦み強い・加工用・ラーメンのタレやレトルト食品に

さらさらレッド:赤玉ねぎ・栗山町限定・機能性野菜・ケルセチンが普通の玉ねぎの1.5~3倍

レッドアイアーリー(9月下旬~11月上旬):赤玉ねぎ・辛味が少なく水々しい食感

北もみじ2000(10月下旬~3月下旬):水分少なく、辛み強い・日持ちするので越冬用・煮くずれしにくい・玉ねぎの存在を残したい!人にはぴったり・玉ねぎのしっかり残るカレー、ハヤシライス、肉じゃが、魚の煮つけに入れるとくさみ消しにも。

オホーツク222(8月中旬~11月上旬):スーパーで一番見かける種類・水分多めで辛みも少ない・サラダ、マリネなど生食でもおいしい。煮くずれしやすい。煮汁にとろっと溶け込みやすく、玉ねぎの繊維が口に残らなくなるのでスープなどに。

ブラウンベア(9月上旬~12月上旬):甘みが強い、辛みはそこそこ。ポケマル取り扱い予定の3種の中では糖度が一番高い・生食もOK。カレー、炒め玉ねぎ、オニオンリング、天ぷら、グリルなど玉ねぎがメインになる料理で甘みが引き立つ。



Writer

わたなべひろみ

1968年、北海道生まれ。設計デザイン、商品開発などに携わったのち、宣伝会議 編集・ライター養成講座 上級コース 米光クラス第7期受講。修了後ライターとして活動。現在、札幌国際芸術祭2017【大風呂敷プロジェクト】に運営サポートとして参加中。



この記事は2018年2月12日に公開した記事を加筆修正したものです。

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