りんご農家のお仕事を会社員に例えてみたら、普通にハードすぎだった件

”早朝から満員電車に揺られながら今日も向かう都心のオフィス。電車の遅延に巻き込まれたり、痴漢の冤罪に怯えたり…。何が「働き方改革」だ、ブラック労働とまではいかなくとも、所定労働時間を計算しながら震える日々が続くだけだ……”

「ハァ〜〜俺も農家みたいに大自然の中でスローライフしてぇwww」とtwitterで呟く自称社畜の皆さん!


……ほんとうに? それじゃあ農家さんの「働き方」を聞いてみる?


というわけで、私おおしろ(筆者)が、皆さんを代表して農家さんの「働き方」を突撃取材してきました。さらにイメージしやすいように、りんご作りの1年を会社員の仕事に例えてみましたよ。


今回インタビューにお答えいただいたのは信州でりんご農家を営む峯村和哉さんです。


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目次

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突撃! 23歳ナイスガイ農家さん

ーーこんにちは、ヴェールに包まれたりんご農家さんの働き方を教えてください。…って、峯村さん、とってもお若いですね。失礼ですがご年齢は?

平成6年生まれなので、今年23歳になりました。


ーーおおお、ピッチピチですね!!早速、率直に質問します。りんご農家さんって収穫時期以外に何をしてるんですか?

うーん、とりあえず年間スケジュールを見てみますか。


ーーあれ……ちょっと待って下さい、おやすみってあります?

ほぼないですね。”完全に休み”という括りはないんですが、ちょうど収穫を終えて積雪の影響で畑に入れなくなったタイミングでゆっくりできますね。ちょうど12月から1月の間くらいです。それでも、次のシーズンに向けて室内で作業を行っていますが。


ーーということは、いわゆる週休◯日という働き方じゃないんですね。(出だしからアヤシイ方向に進んでるぞ…?)ちなみに農園は何人で何本ほどの樹木を管理しているんですか?

本数は…わからないです。とりあえずたくさん生えてます(笑)農園の広さはおおよそ1.2〜1.3ヘクタール(≒丸ビルの敷地面積)なんですが、実は僕ひとりで切り盛りしてるんです。


ーーンンン?!?!(おおしろ、あまりのハードワークレベルに言葉を失う)

実は一昨年、今年と一緒に農作業をしていた祖父母が農作業中に怪我をしてしまって、それ以来僕ひとりでの作業となっているんですよね。


ーーつまり一般的な会社員のような、『会社を辞めても私の代わりはいるもの』といった状況とは異なるわけですね。

そうですね、メインで動けるのは僕しかいないので。しかも祖母の怪我は、この後説明する『摘果(てきか・てっか)』という作業中に発生してしまった事件なんです。


りんご作り、思わぬ方向にキケンなかおりがしてきたぞ?


見よ! これが峯村さんの1年だ

①2月中旬〜3月:剪定 〜雪に埋まる身体でリンゴの木たちと面談〜


除雪が進み畑に入れるようになったら、まずは剪定作業です。とにかく寒い! 加えてどんどん雪の中に身体が沈んでいくのでつらい作業ですね。樹木によってコンディションが異なるので、昨年収穫したりんごや樹の様子を見て、一本一本適切な剪定を行っていきます。とはいえ、正解がないのが剪定。いつも悩みながらやってますね。


つまりエアコンが壊れた寒い面接室で、社員全員と個人面談を行うようなものですね。


②4月:接木・苗木つくり 〜10年後のビジョンを思い描く〜

4月は主に苗木を作っています。作業工程自体は至ってシンプルなものですが、今後の果樹園の運営に関わる大切な作業のひとつです。りんごの木は植樹してから、販売できるクオリティーのりんごができるまで約10年かかります。
昨シーズンの果樹の様子をみて、計画的に老齢の木から新しいものに植え替えていく。10年後、20年後、もっとその先の農園を守る大切な作業になってきます。


「早く金曜日にならないかな」ばかり考えている会社員に聞かせたい言葉ですね!(ブーメラン)


③5月中旬〜7月:摘花・摘果 〜デスマーチで極限状態〜


5月になると次々りんごの花が咲き始めます。りんごの花は、ひとつの中心花を真ん中に、側花と呼ばれる4つの花が囲む構造になっています。


側花を急いで摘み取る作業を繰り返しているうちに、次はどんどん実を結んでいくので同時並行に摘果作業も行います。まさにどんどん成長していくりんごとの格闘。ちなみに3回行う摘果の作業で、当初なった果実の総数の9割以上は摘果しちゃいますね。


ーー摘果後の果実って、そのまま地面に転がしておくんですか?

本当は拾ったほうがいいんですが、それどころじゃないんですよ。『拾っている時間があれば、美味しい実のためにどんどん摘果!』と考えて作業を進めています。…とはいえ祖父が怪我した原因は、この転がっている実にありまして…。この実を誤って三脚で踏んでしまい、怪我をしてしまったんです。


これが噂のデンジャラス事案。踏まぬように気をつけつつも、否応なく時間が迫ってくる。まるでクライアントからの無理難題な納期が迫ってくる極限状態のようです。


④7月末〜10月:夏季管理&着色管理 〜リンゴひとつひとつと向き合い潜在能力を解放〜


7月から8月は夏季管理といって、どんどん大きくなる果実に枝が折れないように支柱を入れたり、それぞれの実に日光が良く当たるよう農園を見回りながら作業を行います。9月から10月は着色管理。均一にりんごが赤く色づくように、ひとつひとつ実をくるっと回す作業を行っています。


「最近どうだ? どうだ一杯」と部下を気遣う上司のようですね。


⑤11月:収穫 〜納品前の大詰め、意識さえ飛ぶ総力戦がここに〜


早いものは9月から収穫が始まるのですが、いちばん人気な『ふじ』の収穫期は11月上旬から始まります。収穫時期は多忙のあまり、正直、意識がありません。嵐を乗り越えたらいつの間にか12月が来ていた、みたいな。


どんどん実る果実を収穫、その場ですぐ第1選果を行いざっくり選別。さらに帰宅し第2選果を行い、4つのランクに分けて箱詰めします。ここでも時間は待ってくれないので、まさに勝負ですね。


クライアントからの無理難題な案件、がパワーアップして再来したようなもんですね。終電帰宅からの残タスク、からの始発出社を彷彿させる状況です。


⑥12月〜1月:冬支度 〜有給大消化大会〜



ゆっくりできるのがこの時期ですね。12月から2月中旬まで雪の影響で畑に入ることはできないので、その間家の中でできる作業を行います。受粉作業をお願いするマメコバチ(ハチの一種)の巣箱を作ったり、あとは年間の事務的な作業を行ったり…。ゆっくりできるとはいえ、”おやすみ”ではないので何かしら仕事をしています。


おやすみを取ろうと思わなければ取れない状況、まるで有給の消化に苦しむ会社員のようです。とはいっても、ゆっくり休んでほしい気持ちでいっぱいです…。


祖父の姿に導かれ 〜若手農家の挑戦は続く〜

いわゆる”社畜”の皆さんもゲッソリのりんご作りの1年。ここまでハードな仕事にも関わらず、若干23歳の峯村さんはなぜりんご作りを職業として選んだのでしょうか?


ーー年間を通じてきつい作業の連続ですが、ずばりモチベーションは?

やはり自分のりんごを待ってくれている人が大勢いるということでしょうか。農園を始めて1年目の出荷後、お客様から「美味しかった」と手紙や電話をたくさん頂きました。予想外な出来事だったと同時に、努力が報われたと実感する瞬間でもありました。


峯村さんのりんご作りを熱く語る口調は、まさに真剣そのものだ。


幼いころからすぐ隣りにあった農業。「農家になりたい」と思ったきっかけに、祖父の存在がありました。多くのお客様から信頼され、時には友達のように会話をする祖父の姿に、いつしか大きな尊敬と憧れの念を抱いていました。同時に祖父の大きい背中が、ここまで導いてくれたのかな、なんて。まずはそんな祖父のような農家になれるよう、りんご作りに向き合っていきます。


23歳の青年がひとり、広大な農園で向き合うりんご作り。ハードワークの根底には、情熱と信念が貫かれていた。


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Writer

大城実結/MIYU Oshiro

フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。

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