【私はこうして農家(漁師)になった】シリーズでは、私たちの食生活を根底で支えつつも、産業全体としては衰退の一途をたどる一次産業の現場で奮闘する農家さん(漁師さん)に、その背景や想いを聞いていきます。
シリーズについて:連載シリーズ【私はこうして農家・漁師になった】始まります
生産者さんにお話を聞けば聞くほどに、本当に「人生いろいろだな」と感じる今日この頃です。
聞き手である私も、「都会が好きで嫌い」そんな矛盾した気持ちを抱えている一人ですが、都会を離れて一次産業に関わるようになった人の話を聞くと、「もっと自由に考えてもいいのかもしれない」そんな気持ちも湧いてきます。
今回お話を伺ったのは、奈良県桜井市のゆるり畑さんこと、弓手(ゆんで)ご夫妻。
ご主人の洋一郎さん(73)と、奥様のひろみさん(60)はともに、元コピーライターの仕事をされていたという、異色の経歴を持っています。お二人の馴れ初めや農家になられたきっかけまで・・いろんなお話を伺いました。
二人の出会い、そして結婚
お二人の出会いは30年以上前に遡ります。
糸井重里さんが全盛期だったという当時、洋一郎さんはコピーライターとして前線で活躍されていました。
ひろみさんもコピーライターを夢見て、洋一郎さんが所属していた会社に入社。それが二人の出会いでした。
やがて二人は結婚。洋一郎さんは40歳、ひろみさんは27歳の頃でした。
農業との出会い
二人は休日の夕方たまたまテレビを見ていたそうです。
奈良県明日香村役場が耕作放棄地を利用した「棚田オーナー制度」の募集を呼び掛けていて、テレビに映る風景が素晴らしく「やってみようか」と応募したのが農業との出会いだったそうです。
そして1997年から、農業の経験のあったひろみさんのお母さんも一緒に、奈良県明日香村の棚田オーナー制度に参加することになった二人。
ひろみさん:
「そしたら、その明日香村に惚れ込んでしまって。農業というよりも明日香村の自然の豊かさ、風景の美しさですね。
移り住みたいと思いました。」
奈良県桜井市・ゆるり畑さんの畑
当時は二人とも大阪で仕事をしていたので、まだ農業に精を出せる状況ではなかったそうです。
しかし、明日香村の魅力が忘れられず、本格的に移住に向けて動き出すことになります。
まだ、移住という選択自体珍しく、移り住みたいと思っても風潮的にもなかなか動ける人はいなかったという当時。
二人をそこまで突き動かしたものは何だったのでしょうか。
ひろみさん:
「農村の雰囲気、農家の人たちの暮らしぶりがいいなと思って。自分のペースで仕事ができること、農的な暮らしへの憧れはあったと思います。」
洋一郎さん:
「彼女が病気をしていたこともあって、ゆったりとした暮らしを送りたい気持ちが強まっていったのかもしれません。」
移住へ
ひろみさん:
「でも、明日香村に住みたかったけれど、なかなか貸してもらえる家は見つかりませんでした。
そこで桜井市まで範囲をひろげて住まいを探し、とりあえずは戸建て団地を借りて住むことにしました。
フリーランスで仕事も続けながら、農的な暮らしもできる家を探しました。
そしたら3年後に、ちょうどいい家(現在も住んでいる家)が同じ桜井市に見つかって。
できれば「納屋」と「はなれ」があって、農的な暮らしも仕事もできるような家が良かったので、理想の家でした。」
そうして一気に理想の暮らしに近づいた弓手夫妻。次第に農的暮らしへと歩みを進めていくことになります。
農家へ
ひろみさん:
「畑は借りていましたが、最初は基本的には母が畑仕事をしていて、私たちはまだ部屋にこもって仕事のためにパソコンと向き合っていました。
ただ次第に、母が農作業をできなくなってきたので、少しずつ手伝うようになって。」
洋一郎:
「でも最初は、種を蒔くタイミングも何もわからないような状態だったんですよ(笑)。」
ひろみさん:
「1年ほど前に、私が職業訓練校で農業を学びました。その時に農業の大先輩たちの話を聞いて、有機農法やその生き方、いろいろと刺激を受けました。」
それを機に農業にどんどんとのめり込み、今は夫婦で学びながら実践、の繰り返しだそうです。
洋一郎さんも毎日畑と向き合うのが楽しくて仕方がないという様子です。
若いお母さんや子どもさんたちに一回でも多く食べてもらいたい
農薬を使わずに、畑づくりから大切にして野菜を育てている弓手夫妻。願いは「若いお母さんや子どもさんたちに食べてもらうこと」なんだそうです。
ひろみさん:
「野菜嫌いの子どもも増えていると聞きますが、若いお母さんやお子さんに一回でも多くお野菜を食べてもらって、その本来の美味しさを知ってほしいなと思います。
だからお母さんたちに買ってもらえたらと思って、子育て支援センターなどのイベントに自分たちで育てた野菜を持っていって、その時に食べ方のレシピや試食などもつけるようにしています。
お料理担当は洋さんの方なんですけどね。」
私が伺った際も、ちょうどお昼どきだったこともあって、洋一郎さん作のお料理をいただきました。
畑で採れた旬のお野菜をたっぷりつかったご飯とスープ。とても寒さの厳しい日だったけれど、優しい味がからだ全体に染み渡るようでした。
洋一郎さんはお料理好きが高じて、週に1度農家シェフとして、料理を振る舞う場も持つことになったんだそう。
「もっと料理研究しなきゃ」と意気込んでいました。
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二人にお話しを聞いていると、何より嬉しそうで、暮らしを楽しんでいる様子が伝わってきます。
帰りにはお土産として菊芋や、自家製切干大根をいただきました。
お昼もご馳走になって、至れり尽くせり申し訳ないなと思いながら・・・
そしてきっと、都会で疲れている人も、こんな暮らしに憧れるんじゃないかなと思ったり。
シリーズはつづく・・・
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