9月のある日、とあるりんご農家さんの元を訪問した編集と筆者の(嬉しい)悲鳴が、北の空にこだましました。
それはりんご王国──青森県・弘前市でのことでした。酸っぱいりんごに、おいしさのあまりに食べる手が止まらなくなるりんご。岩木山が見下ろす広大なりんご畑には、奥深い世界が広がっていました。
ここはりんごの品種博物館?
弘前駅に到着した途端、目に入るのはりんごのオブジェ、街を歩いて気づくのはりんご柄のマンホール、公園で流れる音楽は「りんごのふるさと」……。
そんな本気なりんごの町・弘前で、代々りんごを作り続けている農家さんがいらっしゃいます。それが「まさひろ林檎園」の3代目園主、工藤昌弘さんです。
Producer
工藤昌弘(まさひろ林檎園)|青森県弘前市
まさひろ林檎園は「津軽富士」とばれる岩木山の東側、津軽地域の狭い範囲にりんご園が密集したりんごの一大産地である弘前市にあります。「りんごを通して人に感動を伝えたい!」また、「周りの人たちも幸せな気持ちで笑顔になってもらいたい。」と言う思いをお届けする為に日々頑張ってます。
事務所に訪問し、まず手渡されたのが「まさひろ林檎園」のパンフレット。そこに載るのはずらりと並ぶ多種多様なりんごの数々……。
日本のお茶の間に欠かせないフルーツ、りんご。スーパーで意識して見てみれば、「ふじ」や「紅玉」など数種類の品種と出会うことができます。
が、35種類……いや35種類? りんごってそんなに種類があったのですね!?
実は昌弘さん、林檎園を継ぐ前はトラックの運ちゃんだったという経歴の持ち主。筋肉質で強そうな体格ですが、終始ニコニコしつつ独特のゆる〜い口調でお話ししてくださります。う〜ん、キュート!
キュートな愛猫を愛でるキュートな工藤さん
『うちの敷地は東京ドーム2つ分なんだよね』という言葉のかっこよさは噛み締めずにはいられません。じゃあそもそもなんで昌弘さんはこんなに沢山の種類のりんごを作っているの? と聞こうとしたそのとき!
取材開始後、わずか数分。りんごの品種博物館さながらのまさひろ林檎園に、ポケマル随一の農業オタクは大満足の様子なのでした。品種マニアが楽しそうで、筆者もなんだか嬉しかったです。
この酸っぱさ、レモン級! りんご品種ワールドへようこそ
そう言って持ってきてくださったのは、「グラニースミス」と「あおり25」、「ブラムリー」、「はつ恋ぐりん」のジュースの試作品。
そういう層にはたまらない(?)ニッチなジュースから、まだ見ぬ奥深いりんごの世界を覗いてきちゃいました。以下、取材現場の声をそのままお届けします。
・あおり25
・はつ恋ぐりん
楽しくなってきてしまったため、唐突に寸劇がはじまりました。
ナチュラルハイならぬリンゴハイに毒されつつ一口。
・グラニースミス
・ブラムリー
( 注:筆者クエン酸をそのままお水に溶かして飲むほど酸っぱいものが好き)
“りんご”ひとつで、ここまで幅広い感想が浮かび上がってくるとは。
ちなみに今回いただいたのは変化球のようなりんごジュースたち。誰もがおなじみのフジや紅玉から、甘いりんごまで豊富に取り揃えているのが「まさひろ林檎園」の最大の特徴なのです。
召しませ、あどはだりんご!津軽プライドいざ語らん
昌弘さんに、ずばり聞いてみました。
と、ここで出た“津軽りんご”という単語。
確かに冒頭でもあった通り、弘前をはじめとする青森の津軽地方はりんごの一大生産地です。しかし一方で有数の産地として、長野の“信州りんご”も忘れてはなりません。
昌弘さんの畑にももちろん貯蔵庫が。気温は1.6℃!
つまり関西で信州りんごが人気な理由は、
・流通は出荷期間の短い長野のりんごから先に売る
・青森産が店頭に並ぶ頃には採りたてではなく貯蔵品のことが多い
・関西圏には青森よりも長野から送った方が効率が良く鮮度も良い
というわけだったんです。
と昌弘さんより力強い一言。りんごを冠に持つ地域同士の(ビミョーな?)関係を、わかりやすく解説していただけました。
「食えねえ」から始まった“まさひろレボリューション”
さあ、とうとう待ちに待った林檎園へ潜入です!
目の前に広がるのは一面のりんご畑。「でもまだまだこれだけじゃないんです〜」と昌弘さん。
圧倒的な品種数を誇るまさひろ林檎園ですが、実は毎年新たな品種の苗木を植えているそう。今後もりんごの品種博物園化が止まらないとのことですが……。
こちらは「おいらせ」という品種
品種を間違わないように木には札が
そんなまさひろ林檎園ですが、昌弘さんが先代から引き継いだときは、まだ10品種程度しかなかったといいます。
昌弘さんいわく、当時りんごの価格はりんご箱ひとつ(約20kg/60球程度)で2,000円、つまり市場価格ではひとつ約33円の値段で取引されていたそうなのです。
現在では当時の2〜2.5倍に上がったものの、当時の昌弘さんはかなり悪戦苦闘したといいます。
りんごの樹の下にはクローバーがフサフサと茂っている
市場が求めるのは安定供給です。
どんなにおいしくても、大量流通に適していなければ話になりません。必然的に、栽培がしやすく均一な品質で日持ちのしやすいものが推奨されてきました。
一方、食べ手側には「おいしいりんごを食べたい!」というニーズが存在します。
たくさん作れるかとか長期保存ができるかなどの流通の都合など、食べ手にはあまり興味の無いことなのです。
「じゃあ自分はその食べ手の声に応えていこう」、それが“まさひろレボリューション“の始まりでした。
すべては食べ手が「おいしい!」と感じてくれるりんごづくりのため。昌弘さんは栽培方法にもこだわっているといいます。
美味しいりんごは、写真のように表面が少しボコボコしていることが多いのだとか!
ひたむきにりんごを愛でる昌弘さん。筆者の「やっぱり息子さんには継いでもらいたいものですか?」という質問に、ほんわかした口調ながらも「いやあねえ……やっぱ、背中で見せてかなきゃ」とピリリと筋の通った言葉が印象的でした。
これから続々と増え続けるまさひろ林檎園のりんごたちは、この日も岩木山が見守る広大な畑でスクスク育っていました。昌弘さん、これからも“あどはだりりんご“を沢山食べさせてください!
りんご園の警備猫さんも取材に付き添ってくれました
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フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表。公式Webサイトhttps://miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro