私の納豆づくり”失敗”体験を共有します~伝承が失われた今を生きる~

ライターの宅野です。突然ですが、私、

初めての納豆作り、失敗したんです…


こんなはずではなかったんです。

「ヨーグルトメーカーを使うと簡単だよ!」というのは知りつつも、せっかくのポケマル体験なので、どうしても昔ながらの方法で納豆を作ってみたくなった私。

3月上旬に伊勢崎さんの『本格手作り納豆キット』を購入し、意気揚々と、納豆づくりに挑戦しました。


藁の中から、ネバネバと糸を引く大粒の納豆たちが顔を出すイメージを膨らませ、胸を弾ませていたものの、完成したのは”軽く糸を引く大豆”でした。


宅野、失敗したみたいです。


伊勢崎さんの納豆手作りセットには、直伝のレシピが付いています。ポケマルマガジンでもご覧いただけます。(詳しくはこちら:[農家の冬仕事] 納豆づくりへのお誘い

準備は万端、楽勝だと思っていました。しかし現実は違いました。

大失敗……です。


なぜ失敗したか「わからない」

失意の中、失敗の要因を宅野なりに分析してみました。


1. 大豆の戻し加減がわからない

納豆づくりは、乾燥大豆を一晩水につけてふやかすことから始めます。私は水に浸して冷蔵庫で「一晩」寝かせました。いえ、一晩寝かせたつもりでした……。

大失敗をした今となっては、こんな簡単な工程ですら、正しくできていたのか不安で仕方ありません。もしかしたら、ここで戻し時間が足りなかったのかも……。

「一晩」って、いったい何時間なんでしょう。


2. 大豆の蒸し加減がわからない

次に大豆を蒸すのですが、自宅に圧力鍋はありません。「要は大豆が柔らかくなれば良いんだよね」と思い、電子レンジで蒸すことにしました。

600Wで5分、固かったので追加で5分熱を通し、なんとか指で潰せるくらいになりました。でも、大失敗をした今となっては、もしかしたらもっと柔らかくしないといけなかったのかも……と不安がつのります。

「指で潰せる」の力加減がわからない…。


3. 藁の茹で加減がわからない

藁を茹でる工程では大苦戦しました。これは納豆菌以外の菌を殺すために必要な作業になります。

大事なことなので何度も言いますが、私は圧力鍋を持っていません。私の育った家庭でも、圧力鍋を使用することはなかったので、そもそも馴染みがありませんでした。藁が全部入るほどの大きさの鍋も、自宅にありません。

考えた末、大きめのフライパンでパスタを茹でるようなイメージで、片方ずつ藁を熱湯に浸しました。もちろん、パスタのようにぐにゃぐにゃにはならないので、両手でグッと抑え込みます。

灰汁っぽいのは出てきましたが、大失敗をした今となっては、これで正しかったのかどうか……自信がありません。


4. 発酵の温度管理の上手な方法がわからない

レシピには発泡スチロールに入れて湯たんぽで温めるとありましたが、どちらも持っていませんでした。発泡スチロールは某スーパーの保冷バッグで代用できたものの、湯たんぽはどうしよう……。

「カイロなら手に入るかも」と薬局に行ったところ、レンジでチンするタイプの湯たんぽを発見し、即購入するも試練は続きます。

温度管理が必須というのは重々承知しつつも、日中会社員として働いているため、どうしても目の行き届かない時間が生まれてしまいます。

帰宅後に湯たんぽを確認すると冷めており、急いで温め直し保冷バッグに入れますが、常に40度以上をキープするのは不可能でした。

この時ほど、文明の利器:ヨーグルトメーカーが欲しくなったことはありません……。


圧力鍋や湯たんぽって、皆さん当たり前に持っているものなのでしょうか……。私の住む東京のワンルームの自宅には、置く場所もありません。

発酵の肝となる温度管理も、都会のひとり暮らしだと日中の不在は当たり前です。家に誰かしらがいるという環境は、そう簡単に実現しないのです。


なぜ、私は昔ながらの納豆づくりを大失敗したのか

私の経験不足といえばそれまでですが、そうはいっても、私みたいな都会育ちの人って、他にもたくさんいるように思うんです。

ぐるぐると自問自答した結果、たどり着いたのはこのポイント。


「昔は当たり前だったことが、今はそうではない」


エアコンやヒーターですぐに暖をとれる今では、湯たんぽを使う人は少ないし、家にいつも誰かがいるような家庭も少ない。

昔は当たり前にあった環境が、今はない。そこに「今回の失敗の根本にたどり着くヒントがあるのでは?」と考えたのです。


納豆づくり失敗の根本について、本気出して考えてみた

昔ながらの納豆づくりを通じて直面した昔と今の違い。ここに失敗の原因にたどり着くヒントが隠されているのではないかーー。


ひとりで考えても堂々巡りを繰り返すだけだと思った私は、某日ポケマルオフィスに出かけました。

「あの…かくかくしかじかこういうことがあり、ちょっと話を聞いてくれませんか?」

この呼びかけに応じてくれたのは、スタッフのAさんとBさん。

  • Aさん…地方から上京、現在は都内で一人暮らし。ご両親が歳を重ねてから生まれたとのことで、お母様からさまざまな「生活の知恵」を教わる。
  • Bさん…都内出身、ご両親が地方出身のため、いわゆる「都会っ子」である同級生とは少し違った子ども時代を過ごしたのだそう。
  • 宅野…生まれも育ちも東京、筋金入りの都会人。都内で一人暮らし中。


生まれも育ちも違う3人で、昔ながらの納豆づくり失敗の根本的原因について本気出して考える座談会がスタートしました。


——昔は当たり前にあった道具や環境、今ではなかなか見られない?


宅野(以下宅):本日はお集まりいただき、ありがとうございます。それではただ今より、私の納豆作り失敗の根本的原因を本気出して考える会を開催いたします。いきなりなのですが、皆さん、湯たんぽや圧力鍋って自宅にありますか?


スタッフA(以下A):湯たんぽ、私は持っています! やっぱり温かいし、何より電気代の節約にもなりますから。実家でも使っていましたよ。


スタッフB(以下B):圧力鍋は持っていますよ。


:私は、どちらも、実家にも今の家にもないです。うーん、よくよく考えてみると、圧力鍋って最近出てきた印象なのですが違いますか?


A:いや、結構昔からあるみたいですよ。。70年代には、国内でも販売が始まっています。


:へー!知りませんでした。


A:温度管理にしても、家で温度計を見る機会ってないですよね? そのあたりはどうしていたんですか?


:たまたま温度計を持っていたのでそれを使用しました。けれど日中は会社で家を空けるので、ずっと一定温度を保つのは無理でしたね。


B:昔みたいに大家族であれば誰かしら家にいるはずだから、湯たんぽが冷めないように「ちょっとみておいて」ってお願いできるんですよね。核家族化や単身世帯化が進む今では、そんな環境はむしろ貴重ですよねえ……。


——家庭環境により異なる「食経験」


A:私は実家で暮らしていた時、家の裏でつくしを採って佃煮にしたり、お出汁も鰹節から取ったりしていました。比較的、昔ながらの食べ方をしていた家庭だと思います。そう考えると、時代の変化だけが問題なのではなくて、家庭環境も一要因になっている気がします。


B:へー!


B:家庭環境といえば、私は東京育ちなのですが、両親は地方出身なんです。だから、出てくるご飯も両親の地元の伝統料理。それが当たり前だと思っていましたが、小学校に入ってから友だちの話を聞いて、「あの料理は一般的には食べられていないんだ。伝統料理だったんだ!」と驚くことがありましたね。


:私はむしろ、親も私も東京生まれ東京育ちなので、お二人のような経験はありません。時代の変化だけでなく、家庭環境の違いで食に関する経験値が異なることも、今回の失敗につながっているかもしれませんね。


——レシピ通りに料理を作れば必ず成功する?

A:今はネットですぐにレシピを検索できますけど、そのレシピが100%正解というわけじゃないんですよね。

例えば、レシピ考案者が使用している鍋。それなりにちゃんとした鍋だったら煮込み時間は10分で済むかもしれません。だけど、100円均一で買ってきた鍋なら、同じ時間で良いとは限りません。それぞれが使用する鍋は形も違えば厚さも違う。それを一概に「10分煮込む」とまとめてしまうのも変な話ですよね。


:確かに。家庭によって使う道具は違いますからね。自宅にない道具は別のもので代用するとか、加熱の時間を調整するとか、機転を利かせて調理しないとだめなんですよ!


B:いま私たちが目にしているレシピは、レシピの作り手が試行錯誤して標準化した結果なのかもしれません。でも、「どんな人でも正確に再現できるレシピ」というのは作りようがないのでしょう……。


A:それでも私たちは、ネット上に転がっているさまざまなレシピを、正解だと思って実践しがちなんですよね。


——「おばあちゃんの知恵」消滅の危機!?

A:レシピサイトもレシピ本もなかった時代の人はどうやって料理をしていたんですかね? やはりおばあちゃんや母親から「家庭の味」や「知恵」を教えてもらうというのが主流だったんでしょうか。


B:きっとそうでしょうね。その家の台所道具や気候に合わせて先祖代々磨かれてきたものが、家庭の味であり知恵だったのではないでしょうか。


:なるほど、家庭内での「口頭伝承」ですね。


B:現代では情報化が進む一方で、そういう家庭での伝承が失われつつあるように思います。遠くに住んでいる母親よりも、ネットに転がっている無料のレシピ情報に頼りがちです。


A:誰かと一緒に台所に立つ機会も減っていますよね。核家族の共働き世帯が増える中で、子供が母親と台所に立つ機会さえ減っているのかもしれない……。


:核家族化の始まりといえば、高度経済成長期ほどからでしょうか。自分の親世代がちょうどその世代にあたりますね。

*高度経済成長期(昭和29年〜昭和48年)の統計調査より。昭和30年の国勢調査によると1世帯数あたりの人数は4.97人/世帯だが、昭和50年には3.45人/世帯に減少している。最新の平成27年調べによると2.38人/世帯とのこと。参考:政府統計の総合窓口 t-Stat


A:その世代から現在働き盛りの私たちの世代にかけて、男性ばかりでなく女性も進学・就職を機に田舎を離れ、だんだんと2世代、3世代が一緒に台所に立つ機会が失われていったと……。


B:も、もしや、高度経済成長期が、家庭内での「食の伝承」を断ち切る発端となってしまった?


:え、ということは、私が納豆作りを失敗したのは、まさか高度経済成長のせい……?


B:おお……なんて過激な……。


A:お二方、ちょっと冷静に……。そうとも限りませんよ。現代にも、おばあちゃんの知恵的な伝承が遺っている家庭だってあるんですから。


B:そうか……親から全く何も教わらなかったなんてことはないですよね。。つまり、今回の「昔ながらの納豆づくり」を宅野さんが失敗した根本的原因は、核家族化が進んだ社会における伝承量の減少にあるのではないでしょうか。


——伝承を後世に遺すことがポケマルの使命

:確かに、自分は親から何かを受け継ぐ機会は少なかったかもしれません。これまでも、自分で失敗から学んで改善しながらポケマルの企画を進めてきました。


A:今回の失敗から得た学びを宅野さんがポケマルを通して伝えることで、昔ながらの納豆づくりにチャレンジする人、成功する人が増えるかもしれませんよ。


B:それに、ポケマルでは生産者さんと直接やり取りできるから、自分も親も知らないことは生産者さんに直接聞くことができます。……分かった!


:?


B:ポケマルは、現代版「食の伝承者」になるんです! なくなってしまった世代間の伝承を補完する「伝承コミュニティ」をつくること、それが私の宿命なんです。


A伝承を取り戻す、そして次の世代に繋げてゆく。横のつながり、縦のつながりを「食」を通して築いていく、それがポケマルの目指す世界なのかもしれませんね。


納豆作りから見えたこと

というわけで、今回の私の「昔ながらの納豆づくり」は、失敗はしてしまったけれど、意外な、そして大切な着眼点を手に入れることができました。


農家の伊勢崎さんが用意してくれたステキな商品。失敗してしまったことには、未だにすごく罪悪感を感じており、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

「昔ながらの納豆を作ってみたい」

そう思う人はたくさんいらっしゃると思います。私の失敗経験をお読みいただくことで、次のあなたの納豆づくりが成功したら、こんなにうれしいことはありません。

私も今のお仕事が落ち着いたら「納豆休暇」をとって、必ずリベンジします! 


伊勢崎さんの納豆手づくりセットはこちら

あなたもチャレンジしてみませんか?



Writer

宅野美穂

東京都生まれ。宣伝会議 編集・ライター養成講座32期受講。都内を中心にライターとして活動中。主な執筆ジャンルはグルメ、インテリアなど。趣味は読書と音楽鑑賞。ポルノグラフィティと推理小説があれば生きていける30代。飲食関連の仕事に関わったことがきっかけで興味がわき、今は料理や食材について勉強中。公式ブログ:「読書が趣味でもいいじゃない」


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