日本の漁業に異変が…。不漁が相次いだ2017年のニュースを調べてみました

「ニホンウナギが絶滅危惧種であることを知らない人が約40%」

国際環境NGOのグリーンピース・ジャパンが実施した、ウナギの消費に関する意識調査の結果*です。

今、日本人の大好物であるウナギが危機的状況にあることを知らない人が、少なからずいることを示す内容です。しかし、アンケートでは、その事実を知った人の約半数は、消費を控えるなど再考するとの結果も明らかになっています。

詳細:ウナギ消費、事実を知れば2人に1人が行動を変える|Yahoo!ニュース|2018年1月16日


このニュースを見て思いました。私たちは「海の資源」について、果たしてどれほどのことを知っているのだろうか……。ウナギ以外にも、こうした危機を迎えている生き物がいるのではないだろうか。

調べてみると、既に日本各地で「ギョ」っとするような「海の異変」が報告されていることがわかってきました。


目次

ここに目次が表示されます。

各地で相次ぐ記録的不漁と関係者の嘆き


まずは2017年以降の「海の異変」のニュースをおさらいしていきましょう。



ホタテ大量死

「モノ(水揚げ)が例年の30%程度しかなく、早くても(次の出荷は)夏ぐらいかと。メシが食えないかも……」

岩手県大船渡市のホタテ漁師・佐々木淳さんから、ポケマルに届けられた悲痛な叫びです。今、佐々木さんの名物商品「恋し浜ホタテ」は出品停止中。一体、ホタテに何が起きているのでしょうか。


”宮城県沿岸のホタテ養殖で、成貝となる前の半成貝のへい死や変形が続出し、今年の水揚げは昨年の5割程度にとどまる見通しとなった。”

出典:<宮城産ホタテ>大量死や変形で水揚げ半減|河北新報|2017年11月21日

東北の地元紙・河北新報は、2017年11月21日付の記事で、宮城県沿岸部の養殖ホタテの水揚げが2016年と比較して5割程度に急減している事態を伝えています。

さらには、養殖業者の「史上最悪の状況。このままでは廃業だ」という切迫した声も。

貝の突然死や変形が続出したのが理由のようですが、なぜそうした現象が起こっているのかは不明とのこと……。



サンマの記録的不漁

ホタテ同様に記録的不漁が伝えられているのが、サンマです。


飛び込んできたのは、こんなニュースでした。

“東北も大不漁に見舞われた。2位の大船渡漁港は1万226トン(25%減)。3位の女川漁港は8873トン(34%減)、4位の気仙沼漁港8548トン(35%減)といずれも大きく落ち込んだ。宮古漁港は1342トンで、減少率(78%減)が全国で最も高かった。”

出典:今秋のサンマ「歴史的大不漁」|河北新報|2017年12月12日


サンマの不漁は数年前から続いているようです。

全国さんま棒受網漁業協同組合が2018年1月5日付で公開した資料によると、2017年のサンマの水揚数量は7万7169トンで、前年比30%減でした。

出典:平成28年・29年 対比さんま水揚状況 (12月31日現在)(最終)|全国さんま棒受網漁協


サンマは秋の代表的な味覚。私たちの食卓にも、影響は及んでいます。

”スーパーでは1匹200円以上になることも多く、旬の秋でも冷凍物が並んだ。宮城県気仙沼市の「気仙沼『海の市』サンマまつり」が中止されるなど、各地のイベントにも影響が出た。”

出典:サンマ、48年ぶり不漁|朝日新聞|2018年1月10日



サケの異変からイクラへの影響も

同じく秋の味覚といえば、サケです。


サンマはダメでも、せめてサケは……そんな淡い期待は、見事にかき消されてしまいました。どうやらサケにも異変が起きているようです。

”北海道水産林務部が2018年1月9日付で公開した資料によると、2017年の道内の漁獲尾数は前年の約30%減。”

出典:平成29年 秋さけ沿岸漁獲速報(12月31日現在)|北海道水産林務部


さらに、サケの不漁によってイクラの価格も高騰。北海道では盗難事件が相次いで起きてしまったようです。

出典:岩内ふ化場、雌ザケ無残 170匹殺されイクラ盗まれる|北海道新聞|2017年10月25日



馴染みのお魚まで次々と…

さらに、スルメイカ、シラス、そしてメバチマグロも……。


国内で漁獲されるイカの80%ほどを占めると言われるスルメイカは……

”スルメイカ漁の道内最大の拠点となっている渡島管内で、2017年の水揚げ量(生鮮と冷凍)が前年比2・5%減の8901トンとなり、過去10年で最低を記録した。”

出典:スルメイカ不漁、渡島10年で最低|北海道新聞|2018年1月24日

 

シラスも”ある現象”の影響で記録的な不漁に。現場の悲鳴が聞こえてきます……

“今年の漁獲量を過去5年の平均と比較すると、9月は半減、10、11月は2カ月連続で8割減。年間では2004年に次ぐ低調となる見通し”

出典:シラス漁壊滅的 黒潮大蛇行で|神奈川新聞|2017年12月24日


赤身のマグロとしてお馴染みのメバチマグロはというと……

”これまでは世界中で漁獲され国内在庫も豊富だったが、ここ1~2年で状況が悪化。太平洋沖での不漁やインド洋での漁獲規制などにより、漁獲量が急減している。”

出典:赤身マグロが品薄高=回転ずし、スーパーに打撃|nippon.com|2017年10月8日


国内で流通するマグロの30%以上を占める”庶民の味”にも、異変は忍び寄っていました。



驚きの豊漁も

記録的不漁が相次ぐ異例の事態の一方で、驚きの豊漁も起きていました。


そのひとつが、タコです。

”マダコが名産の南三陸町では、地元漁協が夏から志津川湾に大量のマダコを確認し、通常は11月解禁の籠漁を1カ月前倒しする異例の措置を取った。”

出典:三陸マダコ豊漁 昨年比8倍も|河北新報|2017年11月10日

記事中では、漁師さんの「こんなに捕れたのは初めてだ」という声が紹介されています。



温暖化の影響? それとも…


さて、たくさんの異変のニュースを見てきましたが、その原因についてはどのくらいわかっているのでしょうか?

魚種や海域、漁業の方法によって違いはあるというのはもちろんですが、この章では一般的な知識として、いくつかの議論をご紹介します。



地球温暖化?

岩手日報(2017年12月28日)は、秋サケやサンマの低迷について、こんな漁師さんの推測を伝えています。

”「一時的なものじゃない。明らかに地球温暖化というスケールの大きな変化が起きている」”

出典:サケの乱 第2部 ⑤南限を襲う温暖化|岩手日報|2017年12月28日

具体的には、温暖化に伴う海水温の上昇です。秋がシーズンのサケやサンマですが、秋になっても夏のような高い水温を保っているせいで漁場にやってこない。つまり、生息域が変化しているため、不漁になっているのではないか、と考えているそうです。



黒潮の大蛇行?

昨年は、「黒潮の大蛇行」という現象も注目されました。

黒潮は、赤道近くの暖かい海水を日本に運ぶ暖流で、九州から房総半島までの沖合を帯状に流れています。

昨年は8月下旬から流路が大きくU字形に曲がる「大蛇行」が発生。気象庁によると、12年ぶりの現象とのこと。

出典:平成29年報道発表資料 >  黒潮が12年ぶりに大蛇行|気象庁|2017年9月29日


これにより水温が変化し、魚の生息域が変わる可能性があると言われています。

シラスの不漁は、これが一因ではないかとされているんです。ただ、大蛇行が起きる正確な原因は分かっていない模様……

出典:12年ぶりに「黒潮大蛇行」 漁業に影響出る可能性|朝日新聞|2017年9月29日



レジーム・シフト?

「レジーム・シフト」と呼ばれる現象の影響を指摘する専門家もいるようです。

レジームシフトとは、「気候ジャンプ」とも言われ、気候の型(レジーム)があたかもジャンプ(シフト)するかのように地球規模で急激に変化し、その影響で海の環境や生態系が大きく変化する自然現象のことです。


地球温暖化、黒潮の大蛇行、レジームシフト……。それぞれの考え方には、地球環境の変化という共通点がありますね。

しかしながら、その因果関係を明確に肯定するような研究データは未だ充分ではない……。それが現状なのかもしれません。



くすぶる”人災説”。今私たちにできること


”「ちまたでは高水温のせいとか水流が悪いからって言われているけど……。僕は『人災』だと思っています」”

青森県の漁師・高森優さんはかつて、ホタテのへい死(突然死)について尋ねたポケマルの取材に対して、こう答えています。


高森さんは、こう続けます。

”「高値の年は『もっと生産すれば儲かるぞ』と増産。安値だったら『もっと作らなければ生活が成り立たない』と増産。そうやって多くの漁師が増産と密植を重ねた結果だと思う」”

関連記事:【今年はホタテの危機】それでも最高レベルのものを届けたい


資源管理については今、日本を含む世界各国でマグロやカツオ、ウナギなどを筆頭に、国際的な規制・枠組みづくりの議論が行われています。成果・進捗がある一方で、各国の利害が絡むことから一筋縄ではいかないケースも……。



漁師さんたちの取り組み

一方で、現場の漁師さんたちも黙って見ているわけではありません。

持続可能な漁法で獲られた水産物を対象にしたMSC(Marine Stewardship Council)認証や、同様にサステナブルな養殖業を認証するASC(Aquaculture Stewardship Council)の取得に乗り出す動きがあります。


例えば、カキの養殖が盛んな宮城県南三陸町では、県漁業協同組合志津川支所の戸倉出張所が2016年に国内初のASCを取得

認証取得には多大なコストがかかることなどからまだ取得例は少ないものの、こうした動きが加速することを期待したいところです。

出典:日本初! ASC国際認証を取得した南三陸町戸倉のカキ養殖|東北復興新聞|2016年6月28



流通・小売業の取り組み

流通・小売業でも、変化が起きはじめています。

流通大手のイオンは2018年2月1日、日本で初めてMSC認証の赤魚(あかうお)を発売。この赤魚をはじめ、イオンはMSCとASC認証を取得した商品数を29魚種53品目に増やしています。

出典:


ちなみに、ヨーロッパではMSC認証を証明する専用ラベルのついた水産物が、スーパーでずらりと並んでいるそうです。

出典:水産物に必要な「啓発されたマーケット」|WEBRONZA(朝日新聞)|2017年6月2日



私たちにできることとは?

さて、私たち消費者にできることはあるのでしょうか。


NHKのニュース番組「ニュースウオッチ9」(2017年11月8日)に出演した際の、さかなクン先生(東京海洋大学客員准教授)のコメントを紹介します。

”「違うお魚がとれたり、違う作物がとれたり、そういう変化があってこそ食卓の変化もあると思う。『ちょっと違う献立になっているな』これもちょっと味わってみよう』という変化を楽しむというのも、もしかしたら今後必要なのかなと」”

出典:日本の海に“異変”|NHK「ニュースウオッチ9」 特集ダイジェスト|2017年11月8日(水)


大好きなあの魚が食べられないーー。これから、そんな場面が増えてしまうことは想像に難くありません。

「高くて買えない」と嘆くばかりではなく、地球や海の異変にも目を向けて、少しでも資源を守れるような消費を心がける。私たちには、そういう視点と努力が求められています。




- - writer - -

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。




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