育てるだけではブランドは作れない。31歳若手パッションフルーツ農家の挑戦~千葉県館山市 梁寛樹さん~

元気いっぱい太陽の味、パッションフルーツ。ジュースやお菓子などで馴染みのある一方、実際の果実を見たことはあるだろうか? ぷりぷりの種と鮮やかな黄色の果汁を包み込んだ紅の果実は、“森のルビー”と称されるほどの美しさ。

7月下旬、千葉県館山市でパッションフルーツ農家を営む梁寛樹(りょうひろき)さん、ポケマルメンバー、ポケマルユーザーが集う“オフ会”を開催した。農園へ行って実際に収穫体験、梁さんご自宅にてポケットマルシェの厳選食材でBBQを行い、生産者と消費者が交流するイベントとなった。


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目次

 
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生産者プロフィール

梁寛樹(りょうひろき)|RYO'S FARM

千葉県館山市の温暖な気候を生かし、約15アールのビニールハウスで、250本のパッションフルーツを栽培しています。樹上完熟栽培により甘みの強いパッションフルーツを生産し、現在ではほぼすべての実を農園からお客様に直接お届けしています。


場所

東京から電車やバスで3時間。JR内房線「九重駅」から徒歩15分ほど。



いざ! パッションフルーツ収穫体験

まず向かったのはパッションフルーツ農園。梁さんのご自宅から車ですぐの農園は、もともとカーネーションを栽培していたビニールハウスを再利用したもの。約15アールという南房総最大規模のパッションフルーツ農園を、現在ひとりで切り盛りしている。

真夏の14時。青空からはギラギラの日差しが降り注いでいた


この日の気温は32℃。ビニールハウスへ到着したのが午後2時という、一日で一番暑い時間帯に梁さんは苦笑い。「普段はこの時間、ハウスの中には入らないんですけどね…」。焼けた健康的な肌と白い歯が爽やかな梁さんに導かれ、ビニールハウスの中に足を踏み入れた。

これがパッションフルーツか!


――おお、やはり暑い。蒸しますね…! それにしてもパッションフルーツの実がなっているところを初めてみました。こんなふうに、根本部分から徐々に色づいていくんですね。それにしても立派な実です。


根本に近い上のほうの実から順に色づいていく。


「見て分かる通りパッションフルーツは果樹ではなく、つる性の植物なんです。なので普通に育てると、キュウリやヘチマのように縦横無尽にツルを伸ばしてしまうので、こまめに剪定し、枝同士が絡まないように育てています。苗も、もちろん自分で挿し木で作っていますよ。

実も根本から順に生るのですが、やはり根本に近い果実の方がサイズは大きくなりますね。味は大きさには関係なくどれも抜群です」

これがパッション1個体


――あれ、実の付け根に洗濯バサミのようなものがついているのですが、これって一体なんですか?


「これはおっしゃる通り、100円ショップの洗濯バサミです(笑)。実はパッションフルーツの実って、未熟な青いうちに自然に落下しちゃうんです。

実の熟成の方法は農家によって様々で、落ちたのを拾ってしばらく置いておくことで追熟させる人もいれば、傷がつかないようにネットに落下させ熟成させる人もいます。僕は最後の最後までしっかり栄養が行き渡るように育てたくて試行錯誤の末、現在の方法に辿り着きました。

洗濯ばさみの差し入れは間に合っているそうです。


固定のために色々な道具を使ったのですが、この100円ショップの洗濯バサミがベストで。締め付ける力が強すぎもなく、ある程度ゆるっとしているのでそこがパッションフルーツ栽培には最適でした。たぶん1万個は洗濯バサミを持っているんじゃないかな?(笑)

それじゃあさっそく、収穫体験をやってみましょう」


――よーしっ、やってみます! 収穫するときのポイントなどありますか?


「そんなに難しいことはなく、まず熟れた実を見つけたら、実のお尻を片手で支えながら、ハサミで根本をパチンと切るだけです。

梁さんによる収穫実演


あとは実のお尻部分にめしべの跡が残っているので、それを切ってあげてください。硬いめしべが残っていると、梱包したときに他の実を傷つける恐れがあるので」


――はい、やってみます。(実を選んで収穫)できました! 確かに手に持ってみるとひとつひとつ中が詰まっていて重いですね。表面もツヤツヤしていてとってもキレイ。収穫はこんなかんじで大丈夫ですか?

めしべの名残をパチン


「バッチリです。実は、収穫後2~3日熟成させた方が美味しくなるので、今日はカゴに入れたまま持ち帰ります。後日、頃合いを見て梱包から発送作業を行っています」


「これがいいんじゃない?」「うわ、おいしそう!」ワイワイと賑やかにスタッフとユーザー全員が収穫を体験し終えた頃には、滝のような汗が全身を覆っていた。

それでは家に戻り、お待ちかねの実食タイムだ。

半分に切ってスプーンですくって食べる。緑色の種はプチプチの食感。


――(スプーン一口ぱくり)わ、甘酸っぱい! おいしい〜!! ぎゅーっと元気が詰まった味です。ああ、たまりません!


「そのまま食べても美味しいですが、僕は時々バニラアイスや杏仁豆腐に乗せて食べたりしていますよ。酸味が加わってちょっと高級な味になるんです。ちょっとやってみましょうか」

近くのスーパーで買ってきた杏仁豆腐とバニラアイスが一瞬でスイーツ化した


――(オススメアレンジをぱくり)おお、これは…大発見です…! 素晴らしい出会い。パッションフルーツの酸味と甘味にまろやかさが加わって、なんとも贅沢なお味です。これはぜひパッションフルーツを手に入れたら、試してほしいアレンジですね。


大自然と農業に魅せられて 波乱万丈がここに

梁さんのご自宅は、心地よい風の吹き抜ける古民家だ。そこに猫2匹と暮らしている。趣味だというサーフィングッズが真夏の太陽のもと、眩しく輝いていた。青々と茂る夏の庭で冷たいビールとBBQを頂きながら、会話に華を咲かせるオフ会メンバーたち。

ALLポケマル食材のBBQ


――たくさんサーフィングッズがありますね。ご趣味でサーフィンをやられているんですか?


「そうですね、サーフィンは社会人になりたての時期から始めたのですが、完全にのめりこんでしまって…。館山との出会いもはじめはサーフィンだったんですよ。今は、朝と夕方に畑へ行って作業を行い、昼は海へ出てサーフィンをしていたりしています」


――農作業とサーフィンを両立されているんですね。…と、先程“社会人になりたて”とおっしゃっていたのですが、もともと会社で働いてらしたんですか?


「大学を出たあとメーカーに就職し、そこで4年ほど商品のマーケティングや広報PRに携わっていました。その一方、会社員時代から小さな畑を借りて農作物を育てたりしていたんです。とはいえ当時、こんなふうにパッションフルーツ農家になるとはまったく思っていませんでしたが(笑)」

収穫体験が終わってほっと一息の梁さん。お酒もお好きなんだそうです。


――そうなんですか! そしたら全くゼロの状態からはじまったということですよね。そこからどのような経緯で、現在のパッションフルーツ農家に辿り着いたのか気になります。


「もっと本格的に農業に携わってみたいと思い退社を決意、はじめにWWOOF*で小笠原諸島父島へ1ヶ月ほど農業修行をしてきました。そこで農業を教えてくれる“ホスト”と共に過ごしましたね。僕を受け入れてくれたホストの方は、まるで容姿も生き方も仙人のような方で、オーガニックな暮らしを実践していました。なかなかストイックな生活でしたが、とても貴重な体験でした。

*WWOOFとは:World Wide Opportunities on Organic Farms「世界に広がる有機農場での機会」の頭文字です。WWOOFは、有機農場を核とするホストと、そこで手伝いたい・学びたいと思っている人とを繋いでいます。(WWOOF JAPANのHPより引用)

ゆるゆるとした雰囲気でBBQは続く。


そこから地域おこし協力隊で館山にやってきました。会社員時代からサーフィンで度々訪れた地ということもあり、もともと親しみがあった土地なんですね。

協力隊を通して農作物作りに携わる中で、マンゴー農家さんにお世話になりました。とても厳しい農家さんで、少しでも中途半端な仕事をすると「こんな生半可な思いだったら農家は務まらねぇ、やめちまえ」と叱咤されましたね。でもそこで、農作業に携わっていく心構えや決意を固めることができました。


農家として独立するにあたって、パッションフルーツを選んだ理由はいくつかありました。ひとつは気候条件。パッションフルーツは最低気温が6℃以上であれば枯れず、気温が20℃になると開花するため、ハウスで少し加温をすれば館山でも栽培が可能なんです。

花が十字架に似ていることから「キリストの受難」を表すpassionの名がついた。和名は「クダモノトケイソウ」


さらに果樹ではない、という点が大きかったですね。果樹の果物は、木の苗を植えてから収穫まで数年の時を要します。一方パッションフルーツは野菜を作る感覚と似ており、春に苗を植えて、その年の夏に収穫ができます。その点私のような新規就農者には適している作物だと思います。あとは僕自身、パッションフルーツも好きですし。

そんなことから、3年間の農業研修を経て2015年にパッションフルーツ農家として独立したというわけです」


――メーカーの企画職から一転、農家にとは正に波乱万丈。今の生活は会社員時代と比べていかがですか?


「会社員時代も充実していましたが、あの頃よりもやりがいがあります。天候に左右されて悩むことや、体力・肉体的にはきつくなりましたが、ゼロからフルーツを育て、お客様に直接販売し、「美味しい」と喜んでもらうというプロセスにとてもやりがいを感じています。あとは何より、毎日海へ行けるのが大きいですかね。海に魅せられてしまったので、やっぱりそれが幸せです」


口に運ぶまで“責任を持つ”ということ

梁さん自慢の商品は、パッションフルーツの果実だけではない。 “リリコイバター”は梁さん自身で研究・開発した絶品のバタージャムだ。リリコイとはハワイ語でパッションフルーツを意味し、現地ではメジャーなスプレッド(塗って食べるもの)である。

リリコイバターをクラッカーに塗って。甘酸っぱい味に女子たちはメロメロだ。


――おいしい…! こちらもびっくりです。バターと卵のまろやかな甘みとプチプチしたパッションフルーツの食感が相まって、とびきりのスイーツを頂いているようです。これはかなり女性受けも良いんじゃないでしょうか?


「実は僕自身、あまり加工品開発に対して乗り気ではありませんでした。青果の生産はそれぞれの農家が特化して行う部分である一方、加工品に関しては大手食品メーカーに経験値や製造技術で敵うはずがないと考えていたんです。

リリコイバターもはじめは人に勧められて作り始めたのですが、そこで嬉しい誤算が起きまして。東京で週末に行われるマルシェイベントに参加したときにリリコイバターも一緒に出品したところ、果実と買い合わせが良いようで、とても評判がよかったんです。またギフトセットとして売り出す際も、パッションフルーツ単体だけではなくリリコイバターとセットの方が喜んでいただいけるんですよね」

パッション出荷時期は青山ファーマーズマーケットにも出店している


――商品開発からはじまり今は製造、瓶詰めに至るまですべてご自身でやっていらっしゃるんですよね。よくみたら、ビンのシールのデザインも可愛らしい。もしかしてこちらもご自身で?


「恥ずかしながら僕が作りました。これはデザイナーである父親に結構ダメ出しを食らいかなり修正しましたが(笑)。他にもパンフレットやWebサイトなど、父や友人の力を借りながら作成しています。もともとマーケティングやPRの分野の知識は会社員時代に蓄積していたので、それを活かしつつ手探りでやっています」

自作のリリコイバターラベルデザイン


――わ、それはマルチタスクですね。基本的に農家さんって梁さんのように自身の手で農作物をブランディングすることは、あまり行われていないように思っていました。


「そうですね、これまでは生産に特化した農家がほとんどでした。作った農作物を市場や卸業者に出して、そこから消費者の手に渡るような仕組みが一般的でした。そのため消費者には生産者の顔もわからず、○○県産といったような大まかな括りで野菜や果物を見ることになってしまう。けれど実際は農家一軒一軒、それぞれ異なったこだわりを持って作物を作っており、従来のやり方に疑問がありました。

手塩にかけたパッションだからこそ、自分自身の手でお客さんに届けたい


そんな中、僕は最後に消費者が作物を口に運ぶまで生産者が責任を負うことが大切だと思い、現在のように直接消費者に届くような仕組みを採用しています。

こだわりを持って作ったからこそ、しっかりと想いを伝えていきたい。だからこそ自分でデザインや販売、情報発信をし、「RYO’S FARM」というブランドを作っていきたいと思っています」

これから先もパッションフルーツ農家の道を突き進んでいくという決意も語ってくれました。


"パッション"を胸に、今日も自然と向き合う

他にも現在試作中の商品のお話や現物などを見せてくれた梁さん。「ここがあまり上手くいかないんだよね…」そう言いながらも、常にパッションフルーツを語る言葉には情熱がこもっていた。

農作物の収穫体験から、BBQを通して消費者と生産者が“オフ会”という形で出会った今回のイベント。直接想いが通じ合う場として、とても有意義な時間が流れていた。

あのパッションフルーツの濃縮された美味しさは、太陽の恵みはもちろん、梁さんの情熱がつまったからこその味なのだろう。


RYO'S FARMのパッションフルーツご購入はこちらから

パッションフルーツの販売期間は9月末ごろまでの予定。

Writer

大城実結/MIYU Oshiro

フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術が専門。紙雑誌やWeb媒体問わず執筆中。ポケマルでは農業初心者を生かし、わかりやすく愉快な記事の執筆を目指す。イラストや漫画も発表中。

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