【つながるポケ○(マル)日記】農村の開国に挑む脱サラ農家ー賀川元史さんー(執筆:高橋博之)

※こちらではポケットマルシェ公式noteにて2023年1月に公開した記事を再掲載しています。



生産者を取り巻く環境が年々、厳しさを増している。担い手不足、耕作放棄地の拡大、野生動物の進攻、集落の維持管理の負担増、気候変動に伴うリスクの肥大化、、、このような状況の中で、生産者は生産だけをしている訳にもいかず、生産を取り巻く様々な課題解決に挑んでいるが、生産者個人や生産地だけで解決するのは難しい。

そこで我々消費者の出番である。そうした生産者の取り組みを知り、理解を深め、課題を「他人事」ではなく「自分ごと」とし、「買って応援」や「スキルやノウハウを提供して応援」する消費者の存在が欠かせない。まずは消費者に知ってもらうことが必要だと思い、ポケットマルシェでは昨年度から「ポケマルチャレンジアワード2021~課題に立ち向かう生産者たち~」というアワードを始めた。

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2022年3月に都内で行われた「ポケマルチャレンジャーアワード2021」の受賞式にて

9都道府県から10名の生産者が受賞した。そのひとり、特別賞を受賞した栃木県真岡市の農家、賀川元史さん(44)の取り組みを紹介したい。

親元就農し、ナスの通年栽培を軸に、約4haを経営する賀川さんだが、子供のころは農家になるのが嫌で仕方がなかった。両親が朝から晩まで休みなく土まみれになって働く姿を見ながら育った賀川さんは、農家にだけはなりたくないと子供心に誓ったという。栃木県の片田舎の農家で生まれ育った少年は、漠然と世界をスーツで格好よく飛び回る大人に憧れた。

東北大学卒業後は大手プラントエンジニアリング会社に就職し、プロジェクトエンジニアとして世界各国の辺境の地を飛び回る生活を送るという、少年の頃の夢を叶えた。ところが40歳を迎えるころ、会社で上の役職への昇進を打診されたが、組織に守られて先が見える人生に疑問を感じた。そのまま会社員として生涯を終えるか、組織を飛び出して自立して生きていく力を身に着けるかを自問し、会社の看板を捨てた自分に挑戦することの方が面白そうだと、栃木のふるさとにUターン就農した。


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現在は、実家の経営を受け継ぎ、JA市場出荷だけではなく新たな販路の開拓とともに、消費者と農業者の間に立ちはだかる見えない壁を取り除こうと奮闘している。壁がなくなれば、消費者が農業をもっと「自分ごと」として捉えられるようになると考えているからだ。そのひとつの取り組みが「ナスの苗里親プログラム」だ。

※6~9月の限定商品のため、現在この商品は注文停止中です。

まず、都会で暮らす消費者にナスの苗を自宅のベランダにあるプランターで約1ヶ月間育ててもらう。その後、苗を送り返してもらい、預かる。日々の生育過程を消費者に報告しながら農園で育て、収穫後にはそのナスを送って食べてもらう。実際に自分で苗を育て、やがて収穫された野菜を食べるという体験をしてもらうことで、野菜に愛着を持ってもらい、農業の大変さや面白さを知ってもらうことが目的だ。 

そうしたリアルな体験を通して、「農業関係人口」を増やしながら消費者の農業に対する壁を取り除いていきたい。最終的には、農業への一歩を踏み出しやすい環境を醸成することで、「就農人口の減少」という課題の解決を目指している。江戸時代まで国民の大多数の人々が携わっていた農業は現代社会において、一部の人が雲の上でやる特別な仕事になってしまっているが、自分の体をつくる食べものを自らつくることほど、生きることに直結する身近な行為はないのではないだろうか。その意味で、賀川さんがやろうとしていることは、農村の開国、農業の民主化にも見える。


Producer


賀川元史 | Heartich Farm ハーティッチ|栃木県真岡市

2018年11月に17年勤めた大手エンジニアリング会社を退職し、実家の農業を継ぎました。会社員時代、様々な海外の建設現場の地で感じていた乾いた風の代わりに、今は作物の葉を揺らすそよ風を感じながら汗を流す、充実した日々を送っています。


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