鶏が教えてくれた、本当の「いただきます」

あなたは今まで、何回「いただきます」と言ったでしょうか。

その中で、本当に「いただく」という意識を持ってその言葉を発したことは、何回あるでしょうか。


物心ついた時からずっと言い続けてきたこの言葉。

しかし今思うと、食べ物の命をいただいていたのではなく、奪っていたのではないか、と思うのです。

 

目次

 
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大野村農園の農家民泊に行ってきた

福島県南相馬市の大野村農園(代表:菊地将兵さん)では、農家民泊の受け入れをしています。そして、それはポケマルの出品にもなっています。


ただ泊まるだけではなく、野菜や卵の収穫・鶏のお世話など、大野村農園の日常である「農」の営みに触れることができ、自分でさばいた鶏を食べることもできます。


4月の終わり頃、筆者はこの民泊出品を購入し、実際に1週間滞在してきました。滞在の最終日に、大野村農園での日々を一言で表したものがこちらです。

大野村農園では、訪れた人全員、習字を書いて帰るのがお決まり


大野村農園で、私は気づかぬうちに食べ物への感謝が表面的になっていたことを覚りました。


知らない方が楽だったこともありました。目をつぶりたくなったこともありました。

ましてやそれを書き著わし、読者の方にも同じような気持ちを感じさせることなど、果たして許されるのだろうか? 理由をつけて書かない方が楽では無いか――そんな迷いもあります。

しかし一方で、私はこれを伝えなければいけないとも思いました。

食べ物をいただくということは、本当はこういうことなのだ、と。なによりも、命をいただいた、あの鶏たちの為に。

【編集部注】

この記事には、鶏の屠殺シーンが写真とともに掲載されています。衝撃的なシーンと感じる方も多いと思います。生き物の命をいただくとはどういうことか、それを伝えたいという生産者さんや筆者の意図を重視し、あえて簡単な画像処理のみで掲載することにしました。私たちの食卓にあがる全ての鶏肉が、方法は違えど、この記事で写された鶏と同じように命を失う瞬間を迎えています。できれば読み進めていただきたいですが、心身の不調をきたす方はこれ以降の閲覧はご遠慮ください。


鶏の命と向き合う

鶏を捕まえるのも一苦労

大野村農園に来て2日目の朝のことでした。

今日は宴会だから、鶏をさばくよ


その言葉は、まるで「さてお米を炊こうかね」と言うくらい当たり前のことのように、将兵さんの口から発せられました。

民泊プログラムの中に「鶏を締めて食べる」があったのは知っていたし、やってみたい気持ちがあったからこそ、ここに来たのです。

なのに、その時の私はなんともいえない気持ちを感じていました。覚悟をしていたつもりでも、本当にその時がやって来ると、何か言い訳をして逃げたくなる……そんな気落ちです。


しかし、鶏をさばくという経験はおそらくこの先ありません。

意を決して鶏小屋へ向かいます。鶏が産んだ卵を収穫したときとは真逆の、重い足取りでした。


好きなやつ、捕まえて来て


将兵さんはそう言って、いとも簡単そうに素手で鶏を捕まえます。

素人の私が捕まえようと近づいても逃げられるばかり。鶏の威力に圧倒され続けていました。

怖気付くことなく鶏を捕獲しようとする菊地家長男の松陰くん


網を借りて、鶏が密集しているところに「えいっ」とやっても1回目は外し、2回目でようやく1羽捕えることに成功しました。


鶏を捕獲したら、

松陰くんは一発で捕まえていました


羽をクロスして黒い紐で結びます。

1人でクロスして結ぶのはなかなか大変


そして一旦袋に入れるのですが……


ギャーギャーガーガーア゛ーア゛ー


これから殺されることがわかるのか、とてもとても大きな声で鳴きわめく鶏がいます。ごめん、と思わず縛った紐をほどいて逃したくなるほどです。

死に抗う鶏の叫び声は、一生忘れません。


袋に入れられた後も、鶏はなんとか脱走しようと暴れます。固くしめておいたはずの袋の口を開け、飛び跳ねて出てくる鶏もいました。

15羽ほどの鶏をつかまえ、ついに鶏をしめる時。袋を持って鶏舎を後にします。


鶏をナタでしめる

しめる手順はいたって簡単。ナタをおろして、鶏のを切る。たったこれだけです。しかし言うまでもなく、言うのとやるのとではまったく違います。


太めの木の枝に頸をおしつけ、ナタをおろすところを定めます。静かに伸ばす鶏もいれば、ひっこめる鶏も。抵抗する鶏は、何回も何回も鶏の決心がつくまで頸を伸ばしてやります。


今だ! と自分自身の決心もついたとき、ナタを振り下ろします。1回で命中するといいのですが、場所が違ったり力が弱かったりで、なかなかうまくいきません。

その度に「ア゛ー」と苦しそうな声をあげるので、できるだけ早く……と思うのですが、こちらも恐る恐るやっているのでどうしても力が緩んだりしてしまいます。


命中すると暴れますが、ナタを放すと返り血を浴びてしまうのでぎゅっと押さえつけておきます。この時の鶏の力がかなり強いんです。

最後の最後の力を振り絞り、まだ死にたくなかったと言わんばかりの生命力。


だんだんと閉じていく、鶏の目。30秒ほどして、やっと静かになります。

ゆっくりナタをあげて、まだ切れていない首を、完全に体から切り離します。


羽を縛っていた黒い紐をとり、今度は足を結び、吊るしてその場で血抜きです。


私は、全ての感情をどこかへ追いやり、無になっていました。少しでも感情移入したら、嫌がる鶏にナタをおろすことなどできそうになかったからです。

作業量に対しての疲労感がすごく、こんなに心が疲れる思いをしたのは初めてだったかもしれません。

しかし、それはこれまで私が軽率な「いただきます」をしていたことの証拠でもあるでしょう。「いただく」には、本当はこれくらいエネルギーを使わなければならないのかもしれません。


ちなみに、菊地家長男の松陰くんと長女の花ちゃんは、自ら「やる!」と言ってナタを持っていました。赤ちゃんのときからこの環境にいる彼らにとっては、「いただく」ことが当たり前なのだと思いました。


鶏を茹でて羽をむしる

血抜きが終わったら、10秒ほど茹でます。これは毛穴を広げて羽をむしりやすくするための工程です。


体毛は、力を入れることなく簡単にむしれます。最初は抵抗があったものの、だんだんとクリスマスチキンのような見慣れた形が浮き上がってきました。


いわゆる手羽先の羽は結構固く、力をいれないと抜けません。


鶏肉を食べているだけでは、もともと羽が生えていたことさえ忘れがちです。

しかし人間同様、鶏も個体によって毛深さが異なることに気づきました。

寒い時やぞっとしたとき、肌に表れるぶつぶつを「鳥肌」と表現しますが、鳥の肌がぶつぶつしているのは、そこに毛が生えていたからに他ならないのです。

とてもふわふわな毛の山


なぜぶつぶつしているのかなんて、今まで考えたこともありませんでしたが、むしっていたら自然と「鳥肌ってこういうことだったのか」と考えている自分がいました。


これが本当の「いただきます」

自分でしめた鶏を、自分でさばく

毛をむしりおえたら、その日のうちにさばくところまでをやります。講師は将兵さんの奥様の菊地陽子さん。


陽子さんも最初はネット動画などを見てやり方を覚えたそうですが、動画と決定的に違ったのが、鶏の年齢です。

大野村農園の鶏は1.5〜2歳ですが、一般に流通しているのはたった生後60日くらいの若鶏です。

動画ではいとも簡単そうにさばいているところも、筋肉質で骨と身がしっかりくっついた大野村農園の鶏は一筋縄ではいかず、苦戦したのだとか。


ここでは簡易バージョンでお送りしますので、詳しく知りたい方、さばいてみたいかたは農園へ行き、陽子さんに教わってみてください。

①足をとる

包丁を入れると切れる部分があるのでそこを探す

②もも肉をとる

パカっと開いて

背中側の肉もちゃんととって

切り離す

フライドチキンを食べる時、骨をもってかぶりついている部位ですね

③手をとる

居酒屋でおなじみの手羽先。しかしこんなに立派な手羽先はみたことがない

④胸肉をとる

お腹側から骨に沿って肉を切り離す

骨の向きが複雑なのでなかなか大変

ささみが胸肉にくっついているの、知ってましたか?

⑤内臓を出す

キッチンバサミで膜を切り、上半身と下半身にわけます

手でパカっと

骨と内臓を切り離す

茶色いのがレバー

オレンジの玉が、一生分に産む卵。俗にいう「きんかん」

次産むはずだった卵。殻が未完成で柔らかく、ぷにぷにしていることも

膜をあけて取り出す。これは本当に殻が未完成でした

最後に黄色い脂の中に入った砂肝を取り出します

その名の通り、砂が入っているので開けて捨てます


「鶏のあの部位って、こんなところにあったんだ!」

「一羽からこれしかとれないのに、居酒屋ではすごい安く提供されてるの、不思議だなあ」

「まだ身が生温かい……さっきまで生きてたんだもんね」

など、さばきながらたくさんの発見や驚きがありました。


鶏の体がどんな風になっているかも知らず、おいしいおいしいと食べていた自分が少し恥ずかしくなりました。


この鶏は、格別な味

宴会で目の前に並ぶ、鶏料理。

いつもなら「おいしそう」という感想に終わったでしょう。

しかし、私はこの時、さまざまな光景が頭に浮かびました。


逃げる鶏。

必死に鳴いて抵抗する鶏。

首をのばして覚悟を決める鶏。

ナタをおろしたときの、苦しそうな鶏。


「いただきます」

この言葉を、いつもより丁寧に、慎重に発しました。

私の口に入るまでの過程すべてを含めた「おいしさ」は、今まで味わったことのないものでした。


唐揚げ。


食べたことのある鶏肉よりも、弾力があります。もちろん、長生きした鶏だからです。

なぜ若鶏の唐揚げは「柔らかくてジューシー」なのか、すぅっと納得できました。

こちらは砂肝とキンカン炒め


昔はお客さんがきた時に、自分の家の鶏をさばいて出すというのがご馳走だった。でも、今はさばいて食べさせてくれるところなんてほとんどないよ


平飼いの養鶏農家さん自体が少ない今の世の中、こんな経験ができるところはめったにありません。菊地さんによると、鶏舎の中に入れてくれるところも少ないのだそうです。

命と向き合い、「いただく」ことは簡単なことではないのだということを、教わりました。


大野村農園へ、行ってみたい方へ

ここまで厳しい現場のリアルをお届けしてきましたが、「命と向き合いにいくんだ!」と気負っていく必要はないかと思います。


うちよりも農業の技術が優れているところはあるけど、うち以上に交流を大事にしているところはないんじゃないかな。自分も農家に住み込みで研修いったりしてたからわかるけど、やっぱり楽しいのが一番じゃん!

というわけで、大野村農園での生活は総じて楽しいものです。一週間なんてあっという間でした。


「慌ただしい生活に疲れた」「相馬に行ってみたい」「おいしいお料理が食べたい」「菊地さん一家にお会いしたい」などなど、訪れる理由は人それぞれ。

想像以上に色々な価値観が揺さぶられる場所への扉を、開けてみてはいかがでしょうか。


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文=尾形希莉子、編集=中川葵

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