高山村有機農業者座談会 土と人と、この村と。
5人の有機農業者で語る高山村での暮らしとこれから

高山村有機農業者座談会 土と人と、この村と。
5人の有機農業者で語る高山村での暮らしとこれから

Roundtable Discussion

群馬県の北西部、中山盆地に位置する高山村。
豊かな自然に囲まれたこの小さな村で、有機農業に取り組む5人の農業者がいます。
それぞれの考え方や生き方は違っていても、共通しているのは、「この村で農業を続けていく」という意志と、「誰かにちゃんと届いてほしい」という思い。
この座談会では、「なぜ高山村で農業をするのか」「有機という選択に何を託しているのか」「つくる野菜にどんな思いを込めているのか」などを通して、日々の暮らしと、これからのことを語り合いました。
個々の営みを超えて交わされた言葉から、高山村という場所に根づく「人と農と未来」の輪郭が、少しずつ浮かび上がってきます。

Member

座談会参加者

  • 銀河高原ファーム

    後藤 明宏

  • 上州高山農園

    中澤 浩明

  • Kimidori farm&kitchen

    平形 清人

  • 農園花笑み

    渡辺 藍

  • 農園わとわ

    渡辺 聖光

高山村で耕す、ゆうきの人

Theme:1

高山村の魅力
高山村の暮らし

後藤:
一度、東京で暮らしてから高山村に戻ってきたんですが、そのとき改めてこの村の良さを強く感じました。空気の味や香り、透明感がまるで違うんです。朝早く起きて外に出ると、葉っぱに朝露がキラキラと光っていて、「ああ、都会とは全然違うな」と思いましたね。山の木々も本当に綺麗で、それが原木マイタケの栽培を始めるきっかけにもなりました。あの木々が宝の山に見えたんですよ。
暮らしそのものはのんびりしています。農作業は忙しいけれど、心は落ち着いていられる。そういう居心地の良さが、この村にはあると思います。
中澤:
空気が違うっていうのは、私もすごく感じます。東京方面から車で帰ってくるときに窓を開けて走っていると、だんだん空気が変わってくるのが分かって、それがいつも楽しみなんですよね。全国的に夏の猛暑が話題になっていますけど、高山村は夜になるとちゃんと涼しさを感じられるのがありがたいです。
私は高山村にほど近い東吾妻町の出身なんですが、そこよりも高山村の方が涼しいと感じます。標高が高い分、体感で2度ぐらい違うんじゃないかな。暮らしはのんびりしています。一人で農業をやっているので、のんびりしすぎて作業が遅れそうになることもありますけど(笑)。
平形:
でも中澤さん、ちゃんとやることはやってるじゃないですか。のんびりしすぎとは思いませんよ。私は食べ物が美味しいのが、この村の大きな魅力だと思っています。昼夜の寒暖差があるから、野菜の甘みが増すと言われているんですよ。それに、季節がしっかりしていて、四季の移ろいを肌で感じられるのもいいところですね。夏は暑いけど、お盆を過ぎるとスッと涼しくなって、冬は雪が降って寒くなる。春は気候が穏やかで農作業がしやすいんです。そういう季節のメリハリがあるから、旬の野菜を次々育てられて、少量多品種の有機農業にも向いていると思います。
あと、うちには小学生の子どもが3人いるんですが、通学中も村の誰かが声をかけてくれて、見守ってくれる感じがある。子育ての面でも安心して暮らせる場所だと思います。
渡辺(藍):
平形さんが言う通り、春夏秋冬の季節をはっきり感じられるのは、この村の大きな魅力だと思います。夏には蛍が出たり、冬はものすごく寒かったり、そういう自然の変化が暮らしの中にしっかりあるんですよね。あと、ちょっと不便なところも、私にとってはむしろ魅力的。そういう暮らしがしたくてここに来たのもあるので。
農業を通じて、お客様や販売してくださる方など、いろいろな方と出会えて、そこから輪が広がっていくのがすごく楽しいです。毎日が充実していて、ここに来て本当に良かったなと感じています。
渡辺(聖):
みんなが話しているように、自然の美しさに日々感動しながら暮らせるのが、高山村の魅力だと思います。都会では感じられなかった「自分は自然の一部なんだ」という感覚を、ここでは当たり前のように味わえるんです。移住してから10年近くになりますけど、今でも季節の移ろいや自然の変化に気づくたびに、「こんな景色があったんだ」と新鮮な感動があります。
それから、人の結びつきが強いのも、この村の特徴です。そういう空気の中で暮らしていると、自然と人との距離が近くなっていくような気がします。高山村には、人のあたたかさがあります。

Theme:2

高山村で紡ぐ、
有機農業の道

後藤:
東京から高山村に戻ってきたのは、自然豊かな環境で子育てがしたかったからです。最初は慣行農法で野菜を育てていましたが、豊かな森林資源を生かしたいと思って、原木マイタケの栽培を始めました。そのマイタケを、有機野菜や自然食品を扱う会社に卸すようになって、有機野菜も頼まれるようになったんです。余計なものを極力使わずに、野菜が育つのを手助けして、できたものをお客様が「美味しい」と言ってくれる。そんな有機農業の魅力にハマっていって、今では趣味みたいな感覚で続けています。
こうして続けてこられたのは、高山村の環境も大きいと思います。山に囲まれた盆地で、小さな農地が点在しているから、ほかの農地の農薬が飛んでくる心配が少ないんですよ。有機農業に向いている土地だと思います。
中澤:
高山村に来る前に、少しだけ農業をやっていたことがあるんですけど、そのころから「どうせやるなら、なるべく化学的なものに頼らず、自然に近い形で野菜を育てたい」と思っていました。自然の豊かさに惹かれて高山村に来て、後藤さんに教えてもらいながら、本格的に有機農業を始めました。
慣行農業に比べて、有機農業は大変だと言われることが多いですよね。でも、化学合成農薬や化学肥料を使わない分、作業がシンプルになる面もあって、意外と続けやすいと思います。もちろん、雑草対策など、有機農業ならではの苦労はありますけどね。
平形:
大学で環境学や文化人類学を学ぶなかで、日本文化と深く結びつき、環境にも優しく育てられる「麻」に興味を持つようになり、麻産業が盛んなカナダへ渡りました。そこで、日本の有機・自然農法が高く評価されていることを知って、自分の原点である高山村からその魅力を広めたいと思い、帰ってきたんです。帰郷後、地域資源を活用して高山村の活性化を目指すNPO法人で活動するなかで、当時の理事でもあった後藤さんと出会い、育てている野菜の美味しさに惹かれて、有機農家になりました。
化学的なものを使わずにどう育てるか、たとえば除草剤を使わずにどう草を退治するかなど、毎日がチャレンジで、頭をフル回転させながらやっています。後藤さんのように「趣味みたい」と言えるほどではないですけど(笑)、その試行錯誤の楽しさが、続けている理由の一つになっています。
渡辺(藍):
夫の仕事の都合で高山村に移住。間もなく農業体験のイベントがあって、そこで村の農家さんたちが持ち寄った野菜の美味しさに感動しました。特に後藤さんの野菜の味は衝撃的で、「こんなに違うんだ」と驚いたのを覚えています。それが有機・自然農法で育てられたものだと知って、興味を持つようになりました。
その後、後藤さんのところで2年間研修を受けて、自分も有機農家に。研修は本当に濃密で、毎日が学びの連続でしたが、そういう積み重ねがあってこそ美味しい野菜ができるんだと実感しました。今ではその経験が宝物になっていますし、後藤さんには本当に感謝しています。
今、私が育てている野菜は、すべて自分でも食べたいと思えるものばかり。農作業を終えて家に帰り、「今日は自分の野菜でどんな夕飯をつくろうかな」と考える時間がすごく楽しいんです。農家という仕事を心から楽しんでいます。
渡辺(聖):
自然農法に関する本を読んだことがきっかけで、日々の食べ物が体や暮らしの基盤になることを知り、化学的なものにできるだけ頼らない農業に興味を持つようになりました。そんななか、テレビで後藤さんが有機・自然農法で野菜を育てている姿を見て「こんな生き方があるんだ」と感動。高山村への移住を決意しました。
移住後は後藤さんのもとで2年間研修を受けて、今は独立して有機農業を続けています。最近では、自然と向き合いながら野菜を育てるという営みに、少しずつ手応えを感じるようになりました。自分の手で育てた野菜が誰かの食卓に届くことに、やりがいを感じています。

Theme:3

高山村で育まれた、
それぞれの「らしさ」

後藤:
枝豆などは自然農法にこだわって育てています。肥料も農薬も使わず、自然の土の力だけで育てた枝豆は、渋みやえぐみが少なく、甘みと旨みが際立ちます。「自然農法なんてできるわけない」と言う人もいますけど、実際にできているんです。枝豆だけでなく、ほかの野菜も余計なものを入れないことで、本来の美味しさが出ると感じています。
最近始めたマコモダケも、甘みが増して美味しいですよ。自信作なので、多くの方に食べてみてほしいですね。生でそのまま食べるのがおすすめです。
中澤:
今は有機農法が中心ですけど、後藤さんのような自然農法にも興味があって、少しずつ肥料を減らしたり、入れない栽培にも挑戦しています。農地ごと、年ごとにやり方を変えて試行錯誤しているところです。うちの農園のイチオシはお米ですね。「ミルキークイーン」という品種で、お米の安全性や味を評価するコンクールで、賞もいただきました。自分でも納得のいく出来になったと思います。あとはにんじん。特に、加工したにんじんジュースは甘くて美味しいと好評です。
平形:
高山村で農業を始めて12年以上になります。何年もかけて試行錯誤してきた結果、ようやく「らしさ」が出てきたと感じています。ビーツ、にんじん、かぶ、さつまいもなどの根菜は、最初のころは自分で食べてもあまり美味しいとは思えませんでした。でも、つくり方を変えて、今では肥料を入れずに育てるようになり、すっきりとした美味しい味になりました。この味は、積み重ねてきた時間がつくってくれたものだと思います。特にビーツは長くつくっていて、最初と比べると格段に美味しくなりました。高山きゅうりも、自分でも毎日食べるほどお気に入りです。
渡辺(藍):
高山村では、気候のおかげで、味も見た目もバランスの良い葉物野菜が育ちます。たとえば、からし菜は少しピリッとした辛みがありつつも甘みがあって、色合いも鮮やかで美しいんです。実際に畑を見に来た飲食店の方からも「すごく美しい」と言っていただけることが多いんですよ。暖かい地域とは違う、冷涼な気候だからこそ出せる味わいや美しさがある。それが高山村の大きな強みだと思います。その強みをもっと生かしていきたいので、今は葉物野菜の栽培に力を入れているところです。
渡辺(聖):
中澤さんのお米が受賞したコンクールで、私が育てた「ゆうだい21」という品種も賞をいただきました。なので、お米はイチオシなんですが、でも、ほかの野菜も全部おすすめしたいんですよね。うちの農園では、季節ごとに2〜3種類の野菜を育てています。一つの野菜に絞るのも良いですが、いろいろな作物を育ててこそ畑が生き生きとして、自分もわくわくします。冬の段階から勉強して、毎年試行錯誤しながら育てるのは本当に楽しくて、そうやって手がけた野菜は全部「自分らしい」と思えます。

Theme:4

高山村で紡ぐ、
これからの時間

後藤:
高山村だけではないでしょうが、高齢化が加速していて、農業をやめる人も増えています。これから農地がますます空いていくことが予想されるので、村に定住して農業に取り組んでくれる人をもっと増やしたいと思っています。今は地域おこし協力隊の制度を活用して有機農業の研修生を受け入れていますが、そのなかから毎年2〜3人でも村に根を下ろしてくれたら嬉しいですね。徳長さん登坂さんのように、その制度を活用して新しく仲間になってくれる人もいて、良い流れを感じています。
高山村は農地が小さく分散しているから、大規模農業には向いていない。でも、だからこそ有機農業に特化して、付加価値をつけて販売していく道があると思っています。
中澤:
後藤さんの言うように、有機農業に取り組む人が増えてきているのは、すごく心強いですよね。ただ、慣行農業を否定するつもりはまったくありません。どんな形であれ、農業に興味を持ってくれる人が増えるのが一番大事だと思うんです。日本は食料自給率が低いという課題もあるし、農業って本当になくてはならないもの。だから「食をつくるって、実は楽しいんだよ」ということを、もっといろいろな人に伝えていきたい。有機・慣行を問わず、農業への関心を高めていくことが、これからの大事な一歩になると思っています。
平形:
私も中澤さんと同じで、慣行農業を否定する気はありません。むしろ、これまで村で慣行農業を続けてきた人たちがいたからこそ、今の美しい里山の風景があると思うんです。だから、そうした人たちが「有機農業ってどんなものなんだろう」と少しでも興味を持ってくれたら嬉しいです。無理に変えてほしいということではなく、選択肢の一つとして広がっていけばいいなと思います。近年は、環境への配慮や食に対する意識の高まりから、有機農業の必要性も認識されるようになってきました。実際に取り組む人も増えてきていると感じます。
でも、有機農業は大規模でやるのが難しいから、少量多品種でどう生計を立てるかを考える必要があります。そのためには、生産者同士はもちろん、行政や流通に関わる人たちとも協力して、どう売っていくか、どう届けていくかを考えることが大事。高山村では共同出荷の体制も整い始めているので、これからもっと推進していきたいです。
渡辺(藍):
近年のお米の買い占めや価格高騰の影響もあってか、私の周りのお母さんたちの間で、食に興味を持つ人が増えてきた気がします。「野菜がどう育つのか見てみたい」とか、「うちの田んぼが余っているから、自分でお米を育ててみようかな」なんて声もあって。そういう人たちにアドバイスをしたり、逆に「こうやったら上手くいったよ」と教えてもらったりして、お互いに学び合える関係ができてきているんです。こういうつながりを大事にしながら、食や農業に関心を持つ人が少しずつ増えていくことで、いつか次の世代にも自然とバトンが渡っていくような、そんな流れができたらいいなと思っています。
渡辺(聖):
私は、食べ物が体や暮らしの土台になると知ったことがきっかけで、有機農業の道に進みました。だから、高山村の学校給食に有機野菜を使って、子どもたちの成長を支えられたらいいなと思っています。すでに提供は始まっていますが、まだ年に数回程度。もっと頻度を増やすには、私たち生産者が安定して届けられるように、技術を磨いていくことも大事だと感じています。
子どもたちに安心して食べてもらえる野菜を届けることが、地域の未来につながるはず。小さなことかもしれないけれど、そういう一歩を、これからも積み重ねていきたいです。

土に触れ、空を見上げ、季節の変化を肌で感じながら営まれている、高山村の有機農業。
それは、ただ作物を育てることではなく、この土地に生き、この土地をつないでいくという意志の表れでもあります。語られた言葉のひとつひとつから伝わってくるのは、「農業をする」という行為の中に込められた、それぞれの思いと覚悟。そして、農という営みが、個々の人生を支え、村という共同体を支え、やがて次の世代へと受け継がれていくものだということ。
「有機」を選んだ5人の農業者たちが、高山村で耕しているのは、野菜だけではありません。この村の未来そのものを、丁寧に、誠実に、手のひらで耕し続けているのです。

その歩みをひとりずつ
じっくりと辿ってみてください。

始まりは一人仲間と重ねて村の「ゆうき」に

銀河高原ファーム

後藤 明宏

ルーツを辿り見つけた価値を地元・高山村から

Kimidori farm&kitchen

平形 清人

自然に寄り添う農と編集のほどよい暮らし

上州高山農園

中澤 浩明

美味しくて美しい野菜を笑顔の畑から

農園花笑み

渡辺 藍

輪と輪が広がる食への思いが導いた土地で

農園わとわ

渡辺 聖光

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