高山村が歩む、ゆうきの道
高山村は今、
「有機」という生き方を
耕しはじめている
高山村は今、
「有機」という生き方を
耕しはじめている
群馬県の北西部に位置する高山村は、山々に囲まれた中山盆地に広がる、自然と水に恵まれた農の村です。長い間、この土地では農業が暮らしの中心にあり、季節の営みとともに人々の手で土が耕されてきました。
けれど今、高山村の農業は大きな転機を迎えています。農家の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など、地域が直面する課題は年々深刻さを増しています。
この状況に向き合い、村が選んだのが有機農業という道でした。農薬や化学肥料に頼らず、土の力を信じ、自然の流れに寄り添いながら作物を育てること。それは環境や健康への配慮にとどまらず、地域の暮らしや文化と調和しながら、この土地に「農業が生きるかたち」をもう一度つくっていくという挑戦でもあります。
令和6年、高山村は「オーガニックビレッジ」としての宣言を行いました。これは、村ぐるみで有機農業を推進していくという意志の表れです。生産から消費までをひとつの流れと捉え、人と自然のつながりを見つめ直す取り組みが、今まさに動き始めています。
高山村の有機農業は、はじめから理想を追いかけて始まったわけではありません。むしろその背景には、現実の課題がありました。少子高齢化、後継者不足、耕作放棄地の拡大。この村に限らず、多くの地域が抱えるこうした問題が、確実に農の風景を変えつつありました。それでもこの土地で、農業を続けていくにはどうしたらいいのか。どんなかたちであれば、この村に農が「生きる」未来を描けるのか。
そう問い続けた先に、高山村が選んだのが、有機農業という選択でした。自然に寄り添い、土地の力を生かし、農薬や化学肥料に頼らずに作物を育てる。それは、簡単な道ではありません。けれどこの方法だからこそ、持続可能な農業のあり方を、この村らしく築いていけると考えたのです。
令和6年、高山村は国の 「オーガニックビレッジ」宣言(宣言PDFリンク)を行いました。
これは、一部の農業者だけの挑戦ではなく、地域ぐるみで取り組むという決意の表れでもあります。「有機」は単なる農法ではなく、この村がこれからの暮らしを見つめ直すための問いかけ。土や作物と向き合いながら、地域の文化やつながり、人の営みを次世代へとつなげていくための選択です。
高山村では現在、7人の農業者が有機農業に取り組んでいます。村内で実践されている有機農地はあわせて約8.8ヘクタール。農薬や化学肥料を使わずに育てられた米や野菜は、直売所やECサイト、契約出荷などを通じて、村の内外へと届けられています。
伝統野菜「高山きゅうり」、米、さつまいも、にんじんなど。
いずれもこの土地で生きる農作物であり、それを育てる人々の営みそのものです。けれど、この「有機の風景」を未来につなげていくためには、さらに力が必要です。
高山村の目標は、令和10年度までに有機農地を10ヘクタール、有機農業者を10人へと増やすこと。
これは、単に面積や人数を拡大するという話ではありません。有機農業を通じて、村に農が生き続ける仕組みを根づかせること、そして、つくる人、食べる人、支える人、すべてが関わりながら育てていく「土のある未来」を描こうという挑戦です。
一歩ずつ、丁寧に。
高山村の有機農業は、これからも少しずつ耕されていきます。
高山村の有機農業には、現在7人の農業者が関わっています。年齢も、経歴も、作っている作物も、それぞれ違う彼らに共通しているのは、「この土地で、農業を続けていきたい」というまっすぐな気持ちです。
新たに農業をはじめた移住者もいれば、代々続く家業を引き継いだ人もいます。慣れ親しんだ田畑に新しい挑戦を持ち込む人もいれば、ゼロから土をつくり、有機農業という未知の世界に飛び込んだ人もいます。
土に触れ、作物と向き合い、日々の営みの中で考え続けていること。それぞれの現場に立つからこそ見えること、感じること。そんな7人が、それぞれの思いを胸に、有機農業という道を歩んでいます。
# 高山ベジトリートとは
高山ベジトリート 代表木暮 隆
高山村で新たに生まれた任意団体「高山ベジトリート」は、地域の農家たちによる野菜の共同出荷を支える新しい取り組みです。
代表を務める木暮さんは、もともとスーパーで青果バイヤーをしていた経験を持ち、村に移住してから「生産者の力をきちんと届けたい」という思いからこの活動を立ち上げました。中心となるのは有機農家ですが、活動の対象は有機に限定していません。小規模でも丁寧に野菜を育てている農家、こだわりの品種を少量だけ栽培している人など、さまざまなスタイルの生産者が参加しています。
出荷調整や取引先との窓口業務など、個々の農家では担いきれない業務を集約することで、販路の開拓や継続的な出荷が可能になります。現在は、地元特産の高山きゅうりをはじめとする野菜を、都内の店舗や漬物加工施設などに向けて出荷。役場近くの施設を拠点に、注文のとりまとめ・仕分け・発送までを一括で担っています。
将来的には、有機・慣行に関わらず、季節の野菜や個性豊かな少量品目の詰め合わせセットなど、より多様な形での出荷も検討中。生産量が少なくても販路につなげたいという農家の声に応える場として、村全体の農業の選択肢を広げていく存在です。
生産者の努力を、ひとつに束ねて、きちんと届ける。
地域の多様な農業が持続していくための「つなぎ手」として、村の農と食の未来を支えています。
有機農業に決まったかたちはありません。気候や土地、作物ごとに方法は異なり、正解はひとつではないからです。高山村の農業者たちは、それぞれのやり方で日々畑と向き合っています。
共通しているのは、 手をかけることを惜しまない姿勢です。土づくりに時間をかけ、農薬や化学肥料に頼らず、草を取り、害虫に気を配り、自然の変化に寄り添いながら作物を見守る日々が続いています。
収穫された作物は、村の直売所をはじめ、都市部の飲食店や個人の注文者へと届けられます。生産者自らが言葉を添え、背景を伝えながら届けるその姿勢は、「誰が、どのような思いで育てたのか」という価値までを運ぶことにもつながっています。
一見すると効率のよい方法ではないかもしれません。けれど、その非効率の中にこそ、手のぬくもりや土地の個性、食べる人への誠実さが生きています。
畑から食卓へ。
高山村では、つくることと届けることの両方が「農業」の一部とされています。
有機農業を通して高山村が目指しているのは、農を次の世代へと手渡すことです。それは、作物の育て方や技術だけでなく、この土地で農業とともに生きるという暮らしの姿勢をつなぐことでもあります。
若い世代が安心して畑に立てる環境をつくること。移住者や新規就農者がこの村の一員として根づいていける風土を育てること。そして、つくる人と食べる人、地域と地域がつながっていける仕組みを耕していくこと。
未来の誰かがこの村で「農業をしたい」と思ったとき、それを「できる」と言える場所であるために。高山村では、学びの機会や支援の体制、販路の整備を少しずつ整えながら、有機農業の根を、土の中でゆっくりと深く広げている最中です。
続けていくこと。変わりながら、守っていくこと。
そのどちらもが、未来に向けた「選択」です。畑を耕す手とともに、この村の思いもまた、次の世代へと受け継がれていきます。
高山村では、令和10年度までに、有機農業に取り組む農業者10人(令和4年度5人)、有機農地10ha(同8.8ha)、販売量39t(同34t)を目指す「3つの数値目標」を掲げています。これらは単なる規模の拡大ではなく、有機農業を地域に根づかせ、持続可能な「農のしくみ」を築いていくための指標です。その実現に向けて、高山村は「人」「土」「流通」の3つを柱に、具体的な取り組みを展開しています。
若い世代や移住希望者が安心して就農できるよう、学びの機会と技 術の継承体制を整備しています。
「つくる」だけでなく「届ける」までを農業の一部ととらえ、地域内外への販路拡大とブランド価値の向上を図っています。
有機農業を生活の一部として身近に感じてもらうため、消費者との接点と情報発信を広げています。