【つながるポケ○(マル)日記】”パーマカルチャー”で持続可能な農業を目指す—自然農園「ウレシパモシリ」—(執筆:高橋博之)

※こちらではポケットマルシェ公式noteにて2023年4月に公開した記事を再掲載しています。


岩手県花巻市東和町の山間の谷間にある自然農園「ウレシパモシリ」。
代表の酒匂徹さん(55)は、今から26年前にこの地に移住してきた。日本のパーマカルチャー界の第一人者でもある。

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   研修生と行った稲刈り作業

パーマカルチャーとは、オーストラリアのビル・モリソンとデビット・ホルムグレンが構築した人間にとっての恒久的持続可能な環境を作り出すためのデザイン体系のことを言う。
自分の農園で作物を自給することに加え、周囲の自然環境や地域社会とも調和を図るという思想に惹かれた酒匂さんは、パーマカルチャーの本場、ニュージーランドで1年間農業研修に身を投じた。
帰国後、実家のある岩手県北上市に戻り、ご縁があった花巻市東和町に移住した。

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   なるべくストレスがかからないよう放牧で飼育される豚たち

移住当時、休耕田として放置されていたこの土地は、背丈より高いササやススキだけでなく、いろんな樹木がかなりのびてしまっているような状況だった。その場所を一から開墾した。
今では、美しい自然農園に生まれ変わっている。自然との調和を大切にしながら、無農薬・無科学肥料・有機栽培のお米・雑穀・野菜育て、豚や鶏なども飼っている。
農園の名の由来は、アイヌ語で「この自然界そのもの」。多くの命の『つながり』が感じられるこの自然農園に、県内外から若い研修生が途切れることなく学びにやってくる。

パーマカルチャーを実践していく際のキーワードとして、酒匂さんは「問題は解決の糸口」と何度も口にした。
何か不都合な問題に直面したときは、それを嘆くのではなく、むしろその「問題」を逆手にとって利用する、あるいは視点を変えて何かしら前向きに関わっていける方向性を見出そうという姿勢を大事にしている。例えば、この土地がとても荒れていたことを逆手にとり、雑木をそのまま活かし、豊かな土壌をつくっている。

普通であれば、邪魔物扱いされて切り倒されてしまうようなネムノキ、ハンノキなどの樹木をそのまま土手や農道の脇に残す。
自らが成長することでどんどん土を肥やしてくれるこれらの樹木は、根に根瘤菌が共生して、空中窒素を固定したり、すぐに成長して日陰をつくりそこに養分に富む葉を堆積することで、土壌を豊かにしてくれる。実際、ネムノキの下の草は周辺の草より青々と育っていた。

酒匂さんは言う。
すべての存在には意味がある。土手に自然に自生しているネムノキも意味があってそこに自生している。あそこにネムノキがあるお陰で、周辺の土壌が豊かになる。ひとつでは意味がないが、周囲のものとの関わりの中で意味が生まれる。互いに役割を果たし合い、弱みを補い合う。そんな協力関係で成り立っている。そして、余剰を生み出し、惜しみなく分け合う」。

酒匂さんはまた、「共生することで生産性は上がる。これからの社会は、競争ではなく、共生することが最も大事になる」と語った。
そこで重要なのは全体感。理想の農園のビジョンを描き、そこからそれぞれの動植物の配置や役割を設計していく。すべては相互に関連しているのだから切り分けて考えるのではなく、それらの集合体である生態系「全体」から各動植物の「部分」がどうあるべきかを考える。
それが個々の力を引き出すことになり、結果として全体としての力をも引き出し、最大化させる。

合歓木(ネムノキ)から名前をもらった長男の合歓(ネム)さんは5年前に親元就農し、昨年はポケマルおやこ地方留学の受け入れを担当してくれた。

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   2022年夏、水遊びを楽しむ子ども達

小豆を収穫して選別したり、裏山の竹林から伐採してきた竹で流しそうめんをしたり、池に飛び込んで泳いだりといったアクテビティを提供してくれ、小学生の子どもたちはみな一様に「ネムくん、ネムくん」と慕い、大人気の受け入れ先だった。

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   ひまわり小豆の収穫体験プログラムも

日ごろ、都会の学校や塾で競争に明け暮れる子どもたちは終始笑顔で伸び伸びと楽しんでいるのが印象的だった。

◆生産者ページ
酒勾合歓 | 自然農園ウレシパモシリ
◆Instagram
@ureshipa_moshiri
◆Facebook
自然農園ウレシパモシリ


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